第五十三話 イメージ
ごきげんよう。レティシア・ビアードです。
最近の悩みはリオに付き纏われていることです。
魔法の訓練を一緒にしてから毎朝、魔石を見せに訪ねられます。評価して欲しいと頼まれて快諾しましたが毎日は目立ちます。まとめて見せてくださいとお願いしても聞いてもらえませんでした。クラスメイトの視線を集めてます。
「レティシア、これ」
「マール様、十分ですわ。これ以上は私から言えることもありません」
「これはあげるよ。またな」
リオは魔力の操作が上手いのかエイベルよりも純度の高い魔石を作れるようになりました。
強引に魔石を置いて去っていく姿は見慣れたものですが視線を集めております。リオは魔石を好きにしてほしいと言っていました。リオの魔石を羨ましそうに見ている令嬢もいます。リオの魔石を渡してもいいんですが、先に渡さないといけない令嬢達がいますわ。
リオとの関係を誤解されないように放課後に会いにいきましょう。
放課後まずは侯爵令嬢を訪ねました。彼女はリオのファンクラブの幹部で恋人の一人です。
「ビアード様、ご用とは?」
最近は頼まれませんが、以前はよくリオへの贈り物を頼まれていました。
「マール様よりお預かりしました。これを」
リオからもらった魔石を渡すと、令嬢の目が輝きました。
「まぁ!!ありがとうございます」
「いえ、失礼します」
学園では殿方から令嬢に贈る魔石は特別な意味とされています。リオの魔石は恋人の皆様にお返ししました。私も友人達から魔石をもらいますが特別な意味などありません。友人や知人は令嬢に人気がないため、魔石を贈る相手もいません。また彼らの婚約者からも是非受け取ってほしいと頼まれます。彼女達は中途半端な魔石ではなく純度最大の魔石を贈られたいそうです。婚約者のやる気を引き出す令嬢は武門貴族令嬢の鏡ですわ。彼らは必死に婚約者が認める魔石を作るために努力しています。
ただリオは事情が違います。リオの恋人は魔石を贈ると喜びます。それなら、私が代わりに届けましょう。リオは女心がわかりませんのね。私が口を出すのは無粋なのでこっそり手を回しましょう。これなら目をつけられたりしませんわ。その後も何人か会いに行き魔石を配り終わったので、エイミー様に招待されたお茶会に向かいました。
***
「レティシア様!!」
以前魔石の作り方を教えたベリー・ストレイン伯爵令嬢の声に足を止めました。ストレイン伯爵家はもともとマートン侯爵家の傘下でしたが最近はルーン公爵家の傘下にはいりました。
「見てください」
差し出された魔石を見ると、小さいですが純度が高いです。
「すばらしいですわ」
「ありがとうございます。私は将来ビアード家門の方と婚姻してみせますので、治癒魔法を教えてください」
「エイベルですか?」
「違います。治癒魔導士になりたいんです」
「そこまでしなくても教えますよ」
「いえ、ビアード公爵家のお役に立ちたいんです。両親も納得しております」
ベリーのやる気に満ちた顔を見て笑みが零れます。
よくわかりませんが、ビアード家門を希望されるなら歓迎します。
「ビアードとしては歓迎いたします。」
手を差し出すと両手を握られました。
「精一杯お仕えしますわ」
目を輝かすベリーをどうするか悩みました。お仕えします?
「レティシア、ここにいたのか。見回りは一人でするなと言われただろう」
リオに苦笑されて単独での見回りは控えるという殿下の命令を思い出しました。
「忘れてましたわ。私は負けたりしませんのに。ベリー、また予定を合わせましょう。今日はこれで」
「はい」
お仕えしますは聞き間違いですよね・・・。
満面の笑みを浮かべるベリーと別れました。リオがベリーを見つめています。まさかベリーも恋人の一人に加えたいんでしょうか・・。うちの家門の令嬢に手出しは許しませんよ。
「リオ様!!」と聞きなれた声に視線を向けるとルメラ様がリオの腕に抱きついて私をうるんだ瞳で見つめています。
「私のリオ様に用ですか?」
「私はお邪魔する気はありません。失礼します。マール様、私は生徒会室に戻りますのでご心配なく」
「待って、俺も行くから」
「殿下には私用と伝えておきますので、ごゆっくりどうぞ。お幸せに」
慌てる声に邪魔するつもりがないことを伝えるためにニッコリと笑います。ルメラ様の恋は応援しませんが邪魔をするつもりもありません。
ルメラ様はハク様との恋は終わり新しい恋に目覚めたんですね。切り替えが早くて羨ましいですわ。
私は二人に礼をして生徒会室に行くことにしました。見回りを二人でするのは面倒ですわ。生徒会は令嬢に人気な殿方ばかりです。エイベルは殿下の傍に控えていることが多いので駄目ですよね。令嬢同士ならいいんでしょうか・・。
「レティシア、待って、誤解してないか?」
リオに腕を掴まれました。ルメラ様は置いてきたんでしょうか・・・。
「俺は彼女と何もない」
ルメラ様を置いて私に弁明されても困ります。エイベルにルメラ様に関わるなと言われてるので関わる気はありません。リオの顔を見つめてゆっくりと言葉をかけます。
「相手を間違えないでください。マール様が気に掛けるのは私ではありません」
「俺は君にだけは」
「マール様、態度に気をつけてください。純真な令嬢達は誤解しますわ」
「え?」
リオに関わる気はありませんが見境なしは公害です。
「誰にでも思わせぶりな態度はお控えください。貴方が誰と仲を深めようと構いませんが、本気にされる令嬢もいます。自分を好きな令嬢を大事にするのは悪いことだとは思いません。たださじ加減を間違えないでください。私への気遣いは不要です。そのお心は貴方が本当に心を傾けたいお相手に向けてください。では」
リオの腕を解いて生徒会室に行きましょう。早くルメラ様のもとに戻ってくださいませ。
「俺が心を傾けたいのはレティシアだけだ」
「私で遊ぶのはやめてください。」
「レティシアだけだよ。俺は特別になりたい」
肩を掴まれ真剣な瞳を向けられ、私のリオと重なり思わず下を向きます。違うのに間違えそうになります。
「シア、好きだよ」
頬に手を添えられ、ゆっくりと顎を持ち上げられ瞳を覗かれます。愛しい色にそっくりで間違えそうになります。私のリオの幻聴まで聞こえてきました。目を閉じると、私のリオの笑顔が浮かびました。大丈夫です。きっとまた会いに来てくれます。目を開けると、顔が間近にあり、唇を重ねられました。驚いて胸を強く押すと不満そうな顔で見つめられました。
「そういうことは恋人としてください」
誰もがリオに口づけされて喜ぶなんて勘違いです。戸惑う顔にずっと我慢していたため息を我慢できませんでした。
「え?」
私は令嬢として相応しくない呆れた表情をしていたので切り替えて笑顔を浮かべて圧力をかけます。貴族は心の中を安易に見せてはいけません。
「間違いは誰にでもありますので、今回だけは見逃します。アナ達に同じことをしたら沈めますので覚えておいてください。失礼します」
私は足早に立ち去りました。やはり今世のリオは見境なく令嬢に手を出すようです。追いかけてくるリオは無視します。リオが誰とどうなろうと、どうでもいいです。あれを私のリオと間違えるなどありえません。
リオ兄様、ごめんなさい。私はたくさんの令嬢に愛をささやくリオよりも私のリオ兄様が一番素敵だとわかっていますから怒らないでください。




