第四十八話 マートン侯爵家
最近の日課はロキとフィルとステラとお昼を食べることです。今日もマナの料理は美味しいです。
フィルが食堂に行かないのはマナの料理の虜になったんでしょうか。
「ビアード公爵家は人手不足ですの?」
マートン様の声に顔をあげます。楽しい食事の時間が台無しです。
「いいえ。」
「子供を働かせてるのに?」
ロキを見て非難の視線をマートン様に向けられました。
ロキには私も遊んでてほしいんですが・・・。
不満があっても本人の前でする話ではありません。マートン様には配慮を覚えていただきたいですわ。社交デビューしたら貴族の一員です。子供という理由で全てを見逃してあげるほど優しい社会ではありませんのに・・。
「お嬢様、ごめんなさい」
ロキの声が震えて悲しい顔をしています。
「僕がお嬢様達と一緒にいたくて、お願いして」
ロキの頭を撫でて優しく微笑みかけます。ロキは何も悪くありません。悪いのは決めたエイベルです。
それでも実際はロキは執事としてよく働いてます。執事として学園への同行が許されるだけの実力もあります。ロキが私達の執事としてあるのをなら、認めて守るのは主の私達の役目です。
「ロキは迫害されていたのをレティシア様とエイベル様が保護しました。お二人の傍にいるために一生懸命仕事を覚えて、執事として一人前と認められました。ロキが一番安心するお二人について来たことを部外者が口を挟むのはどうかと」
「使用人に年齢制限はない。正しい手続きを取っている」
ステラとフィルが何か言ってます。
マートン様に睨まれてますが優雅に笑いかけます。貴族は睨むものではありません。
きちんとお相手しましょう。子供ではなく貴族の一人の令嬢として。
「私もロキには遊んで子供らしく過ごしてほしいですわ。でもロキが望みませんでした。ですから私達のためにした努力に報いる主であるようにします。ロキは立派な執事です。うちの使用人に口を出すなど不愉快です。平等の学園にあるまじき行為をしたのはマートン様です。マートン侯爵家に抗議させていただきます。私の使用人への無礼は許しません」
「抗議ですって!?」
「うちの執事の誇りを傷つけましたわ。ビアード公爵家の制服を着ている執事に能力もない何もできない子供と。不満があるならいつでもお相手しますわ。ビアードは使用人への手出しは許しません。ただし遠慮も手加減も致しませんので覚悟なさってくださいませ。クラスメイトとして序列のお勉強をお勧めしますわ。」
言葉を失ってるマートン様は放っておきましょう。ここまでしっかりお相手したのは初めてなので驚いているんでしょう。
私のことは気にしませんが、譲れないことには容赦致しません。うちより家格の低いマートン侯爵家がうちに不服を漏らすなど許されません。下のものは上のものに絶対服従は社交界の常識ですわ。物申したいなら王家に正式に異議申し立てが必要ですわ。
「ロキ、行きますよ。では失礼します」
礼をしてロキを連れて、私の部屋に移動しました。教室の食事はマナが片付けてくれます。
「ロキ、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい」
「怖がって当然です。家臣を守るのは私の役目です。ロキのお茶が飲みたいです。貴方のおかげで助かってます。最近は差し入れやおやつをロキが用意してくれるおかげで時間に余裕ができましたわ」
ロキが笑ってお茶の用意を始めました。
ロキの顔を曇らせる方は排除しますわ。絶対に許しません。
私はビアード公爵夫妻に手紙を書き、マートン侯爵家への抗議の手紙も同封しました。あとはビアード公爵夫人に任せればきっと動いてくれますわ。
初犯なので、ここまでにしましょう。次があればビアード公爵令嬢として責任もって地獄にご案内しますわ。ビアードの好む物理ではなく、マートン侯爵家の土俵の社交で潰してさしあげます。文官一族が見下す武門一族に社交で負けるのは屈辱でしょう。侯爵令嬢失格と言われても仕方ありませんわ。
ロキのお茶を飲んで、手紙を託して教室に戻ることにしました。
フィルがニヤリと笑って迎えてくれました。
「終わったのか?」
「抗議の文をお母様に送りました。ビアード公爵家から抗議させてもらいます。私が夜会でお話してもいいですが初犯ですから。ロキにあんな顔をさせたこと許しません。次があれば・・・」
「ビアード公爵令嬢の本領発揮だな。敵は徹底的に排除しないとな」
「幼子の努力を踏みにじるなんて、非情なことをされますわ」
視線を集め。真っ青な顔で見ている方もいますが気にしません。
しばらくするとマートン侯爵家から謝罪がありました。これでロキがマートン様に絡まれることはなくなるでしょう。次があれば許しませんけど、反省するならこれ以上は手出しはしませんわ。まだ子供相手なので。
***
アリス様が飛びこんできて私の前で頭を下げました。
「レティシア様、申しわけありません。ビアード公爵家への無礼をお許しください」
本人の姉でなく妹が謝罪するんですね。
「頭をあげてください。反省していただければ構いません」
「ありがとうございます」
「アリス、何してますの!?」
咎める声で睨むマートン様に呆れます。謝罪すべきは貴方です。
「お姉様、マートン侯爵令嬢として当然です。」
「ビアード様、妹に謝罪させて満足ですか?うちから謝罪をしたのに、まだ足りませんの」
まだ懲りないんでしょうか。これが侯爵令嬢なんて嘆かわしい・・。アリス様に免じて目を瞑りましょう。
「反省していただければ構いません。同じ貴族として同じ過ちがないように願っておりますわ。アリス様、授業が始まりますよ。貴方の謝罪は受け取りました。」
「失礼します」
アリス様が急ぎ足で出て行きました。先生が来たので、マートン様は席に戻りました。マートン様の派閥が荒れますかね。うまく派閥の統率をしていただかないと困るんですが。
次がないことを祈りましょう。次はこんな甘くはすませませんよ。私、マートン侯爵家を潰すくらいできますので覚悟してかかってきてくださいませ。影で家を取りつぶすのはルーン公爵家が得意ですが、しっかり方法は教わっていますわ。生前のお父様より穏便な方法とお母様による過激な方法も・・。
***
学園内はどうして荒事が多いのでしょうか・・。
一人の令嬢が令嬢達に囲まれ役立たず、恥さらしなど酷い言葉を浴びせられています。
学園では手を取り合って学びを深めお互いに高みを目指していただきたいのに・・。
マートン様の派閥の令嬢達ですが見過ごせません。
マートン様、私に喧嘩を仕掛ける暇があるなら派閥の統制をしっかりしてくださいませ。統制できない侯爵令嬢はどんどん自分の首を絞めますよ。高めるべき価値がどんどん落ちて取り返しのつかないことになっても自業自得です。
「どうされました?」
「ビアード様!?いえ、なんでもありません。失礼します」
驚いた顔をして、立ち去ろうとする令嬢に笑いかけます。
「彼女は私にお貸しくださいませ。」
「え!?」
「それは・・」
顔を見合わせて嫌がる令嬢達に笑顔で圧力をかけます。
「よろしいですか?」
「わかりました」
不満そうな顔をした令嬢達が去っていきました。
平等の学園でも身分の差はあります。家格の高い私に彼女達は逆らえません。本当は最初の私のお願いに躊躇う時点でマナー違反で厳しい指導が必要ですがうちの派閥ではないので見逃しましょう。でもマートン様よりは良識があることにほっとしました。
平等精神の学園ではよくない方法ですが一番穏便にことがおさまります。権力は上手に使う物です。両親の許可もありますので、今世は必要ならためらいなく使いますよ。
顔色の悪い伯爵令嬢の顔を覗き込みます。
「お茶にお付き合いください」
彼女の手を取り、私の部屋でロキにお茶を用意させました。
「うちの執事のお茶とお菓子は絶品です。どうぞ」
「どうしてですか?うちは敵なのに」
困惑した顔をする彼女もマートン侯爵家の傘下です。いじめられている後輩は放っておけませんし・・。
「後輩が困っていたら、放っておけません。平等の学園に派閥は関係ありません」
「ビアード公爵家はマートン侯爵家を」
ロキの件で抗議したことを言ってるんですよね。マートン様は不服そうで反省した様子は一切ありませんでした。不満で私の横暴と広めています。自分の醜態を広げるなんて愚かなことをしている自覚がないんですが教えてあげる優しさはありません。
それにロキに手を出せば、私の怒りを買うことが周知されるならいいと思い放っておいてます。クロード殿下も何も言いませんので。貴族の社会、特に上位貴族が駆け引きするのは当然で利用されるのが悪いと言われる世界ですから罪悪感もありません。
「学園で家として動いたことは好ましくありませんが後悔はしてませんが、同派閥でも同じことをしました。どなたが相手でもビアードの家臣を傷つける者は許しません。貴方を気にかける理由が必要なら私は生徒会役員です。」
怖がらせないように優しい笑みで見つめると、令嬢の瞳が潤みました。
「私、魔法がうまく使えないんです。クラスで一人だけ。伯爵家なのに遅れを」
令嬢の言葉に私が怖がらせてないことに安堵しました。
貴族は下位のものに遅れをとることはよくないと教えられます。
私も成績を落とせばお咎めがあります。
エイベルにも武術以外の成績は優秀以外は認めないと言われてます。
特に魔法は誰にも負けてはいけないと厳しく言われています。
私のクラスで家格が一番高いのは私なので、仕方ありません。上位貴族は優秀であることが求められます。平等の学園も家を背負っています。表向きは平等と言っていますが実際は違います。
「大事なのは最終的な成績ですわ。でもそれでは許されませんよね。私が教えますわ。」
「え?」
不思議そうな顔で見ますがきっと私の悪名を知っているんでしょう。
「私はまがいものと言われてますが魔法の成績は常に最優秀ですわ。水魔法が一番得意ですが他の魔法も勉強してます。ビアードの騎士達が魔導士に遅れをとらないように、魔法の勉強は怠りません。内緒ですわよ」
部屋を結界で覆います。本来は訓練と授業以外の魔法の使用は禁止ですが知られなければいいのです。
「魔石は作れますか?」
首を振る令嬢の手を取ります。
「目を閉じて、楽にしてください。体の中の魔力を探しましょう」
魔力の流れを探ると保有量は少なそうです。
魔力の量が少ないと魔力を感じて魔石を作るのは大変です。
微量な魔力をそっと流すと気付いてないので拒絶反応はないですね。彼女の魔力を誘導していきます。
集中さえすれば体に巡る魔力を他人が操ることもできます。ただあくまでも補助で、主導権は彼女に持たせます。
「少しずつ魔力を手に集めるイメージを。ゆっくり、少しずつ、丁寧に。小さいカケラを集めてください。上手です。そのまま続けてください集めたカケラを纏めて固めてください。頑張ってください。楽にしてください」
額に汗をかいた令嬢が目を見開いて驚いてます。
「お疲れ様です」
「できた!?」
「はい。お上手でしたわ。他の方よりも魔法の行使に時間がかかるでしょう。その分繊細な魔法のコントロールが身につきますわ」
令嬢の目から涙が溢れだしました。
「良かった。魔法使えた。無属性かもって」
魔力を持たない無属性の者への貴族の目は冷たいです。魔力が貴族の証という者がいます。魔力は自分では選べません。魔力ではなく誇りある行動ができるかが一番だと思いますが・・。
価値観はそれぞれですが。
しばらく待つと涙が止まった令嬢に書類を1枚渡します。
「もし魔法の授業が辛ければ先生にこの書類を出して相談してください。授業での魔道具の使用許可の手続きです。魔道具には魔力を貯めておくものや増幅させるものもあります。授業が楽になりますわ。私は定期的に魔法の指導もしてますので、」
「参加します」
即答されたのに驚きました。
「訓練場で平民や下位貴族の学生と一緒にですが」
「構いません。私はビアード様についていきます!!レティシア様とお呼びしてもよろしいでしょうか!?」
興奮してますが大丈夫でしょうか・・。状況をわかってますか?
「落ち着いてください。私は構いませんが、貴方の友達や家が許さないと」
「私は派閥の恥さらしなので、構いません。消えろと言われましたし、お傍においてくださいませ」
「何か困ったことがあれば相談してください。ご両親にもきちんとご相談を」
令嬢の勢いに驚きましたが、暗い顔をしていた令嬢が明るい顔になったので良いと思うことにしましょう。平等の学園ですし、本人にやる気があるならいいでしょう。
令嬢達にあまりにひどい扱いを受けるならマートン様と同派閥の親しくしているユーナ侯爵令嬢を頼りましょう。
令嬢は私の魔法の訓練に参加するようになりました。
魔石の魔法にも興味を持ったので教えると目を輝かせました。
また可愛らしい後輩が増えました。
伯爵令嬢の生家が近い将来にうちの派閥に入ることになるとは私は予想もしませんでした。




