閑話 友人の観察日記2
サイラス視点
朝からリオの様子がおかしかった。機嫌が悪いのとは違い、落ち込んでいる?
授業中にも前の授業の教科書開いたままだし、無言のリオに腕を掴まれ昼休みにリオの部屋に連行された。クラスメイトに気の毒そうに見られている。機嫌の悪いリオを刺激すると笑顔で人の嫌がることするから恐れられてるんだよな・・。別に俺は慣れてるから怖くないけど。
用意された食事をとりながら話を聞くとレティシア嬢に告白したけど全く相手にされなかったと落ち込んでいるので堪えきれずに笑ってしまった。リオには悪いけど、もともと全く相手にしてない男から告白されたら、フラれるのは一目瞭然だ。結果を聞かなくても想像できる。
「彼女にとって告白なんて日常茶飯事だよ」
「冗談って。俺は真剣に言ったのに、全く信じてもらえなかった」
この感じってフラれたことに落ち込んでるんじゃないのか。
彼女は鈍くはない。本気の告白には誠意をもって答えを返す。
手紙も大事に受け取り呼び出しも応じている。
俺が見たのは「私には貴方の手を取る権利はありません。まっすぐな心を向けていただいて光栄ですが、私ではなくふさわしい方にむけてください。どうか貴方を愛してくださる方に」って優しく微笑んでいたよな。
相手の告白に丁寧に付き合いすぎるとフィルが呆れていた。あまりしつこいと誰かしら仲裁に入るから、大事には至っていない。レティシア嬢を妹分と扱う奴の中では彼女への告白は陰で見守るのが常識らしくエイベルも容認している。そしてレティシア嬢は視線を集めるのには慣れているから、誰に見られても気にせず反応しない。フラれた相手をからかう生徒がいれば諫めるけど。
「何を言われたの?」
「数ある恋人の一人は嫌だって。自分だけを想ってくれる人がいいって。俺、彼女だけって言ったのに、全く信じてもらえなかった。俺に恋人なんていない。」
「見向きもされないのは今更だろう?聞いてやるから荒れるなよ」
力なく笑うリオの肩を叩く。素直な彼女の拒絶は珍しいから聞いてみるか。
寝込んでいた彼女が復学してからも会えず、頻繁に学園の見回りをしている彼女を全く見ないのは違和感だった。廊下を歩いているとソートを見つけたので聞いてみよう。
「ソート、最近レティシア嬢に会った?」
「廊下で会ったよ」
「俺、全く見かけないんだけど」
ニヤリと笑うソートに肩を組まれる。
「避けられるリスト入りおめでとう。あいつが避けるなら令嬢達の人気が上がってモテモテだな。レティシアがサイラスに用がなければ姿を見せないから、使いを出して呼び出せば?」
「え?」
「あいつは入学前に気配を消す特訓を受けてるから、モテる男はレティシアに会いたいなら使いを出すが常識だ」
リオが全く彼女に会えないと言っていた話を思い出した。教室と生徒会室以外だと彼女は意図的に探さないと絶対に見かけないと・・・。モテる男を避けるってそういうこと?彼女は気配を消すのも読むのも上手いのは知っていたけど。
「急用か?」
「リオに頼まれて」
ソートに事情を話すと腹を抱えて笑っている。
「リオはモテるだろう?だから羨ましい奴らがレティシアとエイベルに教えるんだよ。特にリオの片思いに気付いているやつらが。あんなに令嬢に囲まれて、レティシアまで囲い込むのが許せないらしい。」
「は?」
「レティシアがステラに、何人も恋人を持つリオは駄目と言い聞かせるくらいだから相当だぜ。エイベルとレティシアにとってリオは女に見境のない信用できない男だ」
初恋からよそ見なんて全くしていないのに一番わかってほしい相手に誤解されているリオに同情した。そしてソートを見ると、面白がって見ている者も多そうだ。
「誤解を解くつもりは?」
「ない。フィルが面白がって助長しているから無駄だ。あいつの扱いに一番長けてるのはフィルだ。エイベルの恋愛方面はポンコツと言っているからエイベルの言葉も聞くかわからないだろうな。まずエイベルが信じないだろうが」
レティシア嬢はエイベルの親友のソートとも親しい。そしてレティシア嬢が一番仲が良いのはフィル。リオの誤解を解くために協力してくれそうな生徒は思い当たらない。彼女が親しいのは恋愛よりも強くなるのに重きをおく生徒ばかり。
俺はリオに現実を突きつけると崩れ落ち頭を抱える姿に友人は笑っている。
「知らなかったのか?常識だよ。入学前からリオは数多の恋人を持つから騙されないように気をつけろって話す奴が多かったからな。文官一族は嫌われてたし、レティシアは興味なさそうに頷いていたけど」
「そんな昔から・・・。もしかして」
「レティシアはモテる男が苦手だから。モテるやつが来る時は訓練場には顔を出さない。エイベルも協力してたし。むしろ二人が知らないとは思わなかったよ」
そこまで頻繁にビアードに通ってなかったし、そんな噂は俺の耳に入らなかった。ビアード家門の常識ってこと?
「訓練に参加するよりビアード領を歩いてれば簡単に会えたのに。俺は嫌がらせには興味なかったから参加してないよ」
失恋よりも衝撃の事実だったのかリオが動かなくなった。会えないってずっと嘆いていたよな。友人は苦笑している
「仕方ないから教えてやるよ。レティシアは放課後は1年3組に通って、後輩達の勉強を指導している。あとビアード家門に興味のある水属性の生徒を紹介すると物凄く喜ぶ」
「なんで?」
「ビアードは水属性の魔導士が少ないからスカウトしたいらしい。レティシアが水魔法を教えながらスカウトしている。別に魔石を使った魔法の指導もしてるから、いれてもらえば?中々興味深く、ためになる」
レティシア嬢は相変わらず忙しそうだ。リオの告白の事は頭から抜けてるだろうな。ビアード兄妹は恐ろしく切り替えが速く、行動力も凄まじい。
「蔭から見守るんじゃなくて、堂々と追いかけて口説けば?」
「避けられてる」
ようやく避けられてるの認めたんだ・・・。
ゼロよりもマイナスから始めないといけないリオの肩を強く叩く。
「二人にならなくていいんだよ。後輩の指導の場に行けば逃げないだろう?せっかくだから手伝えば?リオ自身が信頼を得られるようにしないと解決しないよ。出遅れてるんだし」
「レティシアは押しに弱いからな。短気だけど根に持たないから失敗しても大丈夫だよ。でも思い込みが激しいから頑張れよ」
彼女の評価がひどい・・。
「骨は拾ってあげるから行ってきなよ」
リオがようやく顔をあげて立ち上がって出て行った。持ち直したみたいだ。
行動力はあるよな。最近は訓練もさらに必死にやってるし。昔の俺はリオが強さを求める日が来るとは思わなかった。
「どう思う?」
「さぁな。でもリオはレティシアの嫌いなタイプではないから、全く脈無しではないんだよ」
「は?」
「レティシアは努力する奴が好きだから」
リオの努力は見当違いな気がするけど当てはまるのだろうか?
翌日からリオは1年3組に通いレティシア嬢のいない日も顔を出している。
レティシア嬢の後輩という貴重な味方を得たらしい。
「恋人を目指すことにした」
「は?」
「在学中が勝負らしい。令嬢が一目惚れする場面をたくさん聞いてきた」
「一目惚れは違うんじゃないか?」
「困っている時に助けられると弱いらしい」
「当てはまらないと思うよ」
リオは堂々とレティシア嬢に付き纏いはじめた。
令嬢の見惚れる笑みもレティシア嬢には通じない。
付き纏うリオに彼女が迷惑そうにしている気がするのは俺だけだろうか?リオの言葉を聞き流す彼女の視線が冷たくなっている気がするんだけど大丈夫なのだろうか・・。
距離が近づくよりも開いてない?
サイラスとリオが親しいのは有名でした。
そのためサイラスもリオを嫌う同世代には警戒されていました。
リオに興味のない騎士は傍観してました。
熱心に訓練するためにビアードに来ていたので聞かれない限り余計なことを話すことはありません。




