閑話 友人の初恋
サイラス視点
リオとは父親同士が仲が良くマール公爵邸で共に過ごしていた。
マール公爵家は容姿端麗な一族だから女性から人気がある。
初めて相談を受けたのは入学前。
突然うちに訪ねてきたリオに不思議に思っていた。
「サイラス、誰にも言わないで欲しいんだが・・・」
ソファに座って視線を泳がせて言いにくそうにしているリオは初めてだった。なんでもスマートにこなすのがリオである。
「ビアード嬢と・・・」
言いたいことがわかった。
強さに全く興味がなかったリオがビアードで訓練に参加してる理由も。
しばらく待っても続きを言えない友人を仕方がないから助けてあげよう。
「協力してあげるよ。うまくいくかはわからないけど」
驚いた顔で見られている。こんなにわかりやすいの珍しい。
「全然、会えないんだ・・・・・。」
途方に暮れている友人に情報を集めてあげると言うと極上の笑みを向けられた。きっとリオに夢中な令嬢達が見たら頬を染めるだろう。
リオに協力したくても俺にできるのは、情報を流すくらいだけど。
ビアード公爵家とはそこまで親交はないけど、時々訓練に顔を出してみようかな。
***
ビアード公爵家に顔を出すと、リオの想い人であるレティシア嬢が大きいバスケットを抱えていた。リオは全く会えないって言うけど、俺は頻繁に会えた。
「ごきげんよう。サイラス様、今日は訓練ですか?」
「ビアード公爵に用があって」
「お父様は出かけております。お昼過ぎにはお帰りになりますが。帰られたら声を掛けます」
「ありがとう。なら訓練に混ざってくるよ」
「行ってらっしゃいませ。良ければどうぞ」
にっこり笑ってバスケットの中のお菓子を渡された。
「ありがとう」
お菓子を受け取ると礼をして騎士達の元に近づいていき、バスケットの中のお菓子を笑顔で配りはじめた。
「お嬢様、ありがとうございます」
「マナに教えてもらいました。栄養満点です」
公爵令嬢自ら差し入れを作って配るのは彼女くらいだよな。なんでリオと会えないんだろうか・・。
「フィル、明日は私と遊んでください。行きたい場所があります」
「時間は?」
「朝からです。狩りに行きたいです」
「了解」
「ありがとうございます」
レティシア嬢は騎士達と仲が良い。
この光景を見てリオは大丈夫だろうか。
もらった差し入れをリオにあげることにした。
後日レティシア嬢の話をすると嬉しそうに笑うリオに令嬢達が頬を染めている。
レティシア嬢関連のときだけは表情が柔らかくなる自覚はないらしい。
****
レティシア嬢が入学した。
入学当日にリオは彼女を探しに行っても見つからず諦めて生徒会の仕事に戻った。
走っているフィルとレティシア嬢を見つけて、門の側で待っていたリオの運のなさに苦笑した。すでに校内に入って散策していたのか。散策に夢中でオリエンテーションの時間にギリギリになったみたい。
オリエンテーションが終わり、教室に向かうレティシア嬢を捕まえために近づく。
「レティシア嬢、フィル、グレイ嬢、入学おめでとう」
「ありがとうございます。ご指導お願いします」
「困ったらいつでも」
「サイラス様はお優しいです。エイベルに見習わせたいですわ」
レティシア嬢達と談笑しているとリオが近づいてきた。
「ビアード嬢、入学おめでとう」
「ありがとうございます。授業がありますので失礼します」
リオの極上の笑みに上品な笑みを返し、礼をして立ち去った。リオは彼女の笑みに顔を赤くしてるけど、レティシア嬢の素っ気なさに驚いた。全く脈無し。
立ち去るレティシア嬢を見ているリオの周りに令嬢達が集まってきたので、肩を思いっきり叩く。
「マール様、よろしくお願いします。学園でお会いできるなんて」
レティシア嬢以外にはモテるんだよな。リオは我に返って適当にあしらっている。
同じ学園にいるなら接点が増えるだろう。
もう彼女に会えないと途方にくれるリオをなだめなくてすむことにほっとした。これで少しは進展するだろうか。
***
「サイラス、強くなりたい。稽古してくれ」
公務で休んでいたリオが久々に登校してきた。突然の言葉に驚いた。
「ビアード公爵に勝てるようになりたい。」
高い目標だった。レティシア嬢と付き合うにはビアード公爵に勝利が条件だからか・・・。
そういえば最近彼女も公務のため休みだったな。
時々用事を見つけてレティシア嬢の教室に会いに行っているのは知っている。全く二人の関係に進展はなかった。
「リオ、エイベル達との訓練に混ざる?」
「できればビアードの手は借りたくない。いずれ倒したい」
気まずそうな顔に笑ってしまった。手のかかる友人である。
強くなりたいなら力を貸す。了承すると極上の笑みを浮かべたリオにざわめきがおこり令嬢達が見惚れている。本命に相手にされないのに、どんどんファンを増やしている。
****
レティシア嬢がリオに会いにきた。
彼女が会いに来るのは珍しい。リオは彼女が会いにきたことに顔が緩んでいた。愛らしい笑顔でリオに贈り物を渡す姿にリオが極上の笑みを浮かべた。クラスメイトの令嬢達は頬を染めて見惚れている。気恥ずかしそうに大事にしてほしいという言葉にリオは即答した。余裕がないらしい。返礼はいらないって言うけど絶対に用意するよな。立ち去っていくレティシア嬢にリオは見惚れている。全く脈無しに見えていたけど、ようやく報われたんだろうか。
「リオ、中身は見ないの?」
「ああ」
リオが机の上に、刺繍入りのハンカチやお菓子、手紙等を出していく。刺繍入りのハンカチは令嬢からの告白だ。銀糸で刺繍された花を愛しそうにリオが眺めている。
量が多すぎないか?
違和感を感じて贈り物をもう一度よく見る。リオの好物のチョコのお菓子は手作りではない。レティシア嬢はお菓子作りが趣味でよく振舞っている。手紙には宛名だけで名前は書いてない。令嬢達は上機嫌なリオを熱い視線で見つめている。ここまで上機嫌なリオは珍しい。
「リオ、レティシアからもらったがいるか?」
「は?」
リオが現実から戻って来た。友人の手にはクッキーがある。
彼はレティシア嬢に懐かれており、報われないリオの初恋を愉快に見ている。レティシア嬢になつかれている彼に嫉妬してリオが強引に友人にしたが、今では頼もしい情報提供者だ。うちのクラスで一番彼女に懐かれているのは彼である。
「フィルと喧嘩したから余ったって。拗ねてたのを宥めたらくれた。どっちが折れるか見物だな。サイラスもいるか?リオは令嬢の贈り物がこんなにあるならいらないか。悪いな」
レティシア嬢は笑顔で戻っていったけど、拗ねてた?
笑っている友人の様子に嫌な予感がしてきた。
「これレティシア嬢が持ってきたんだけど」
クッキーを食べている友人がリオの贈り物をチラっと見た。
「頼まれたんだろう」
「理由は?」
「レティシアは不器用だからこんな見事な刺繍はできないよ。」
「不器用?」
公爵令嬢が?苦手なことなどなさそうな彼女が?
友人が鞄からハンカチを取り出した。緑色の斬新な塊の刺繍だった。
「あまりに愉快でもらった。鳥のつもりらしい。エイベルの訓練を見学しながら必死に刺繍してた。ビアード公爵夫人に数をこなせと命じられてるけど、おもしろいくらいにどんなに刺繍しても全く上手くならない。レティシアに言ったら怒るから気をつけろよ」
楽しそうに笑っている友人の言葉にリオが手紙を読んで握りつぶした。
贈り物、大事にするって彼女に言ってたような・・。破かないだけいいのかな?
「リオ、レティシアは女にモテる奴が嫌いだから諦めろよ。モテるとレティシアには避けられるから、近づくやつは気をつけてるよ。フィルなんて身だしなみを整えればモテるのにあえて整えないし」
リオにフィルはライバルじゃないと教えよう。彼女に近づきたいなら味方につけないといけない人物だから。
「フィルは嫡男だから婿候補にはなれないってエイベルが残念がってたよ」
「サイラスだって求婚されてただろうが」
リオに冷たい視線を向けられている。機嫌が急降下したよ。それは言わないで欲しかった。
「あれは彼女の冗談だから。彼女はエイベルと仲が良く、武術が出来て、人気がなければ誰でもいいんじゃないかな?」
「ビアードの名に相応しいかと基準があるらしい。やっぱりサイラスは人気があるから、フラれて当然って笑ってた。もう少し人気が出たら逃げ始めるな。あいつは令嬢達に人気の男はしっかり調べているから」
レティシア嬢を振るなんて恐れ多い。どう見ても俺自身が彼女に釣り合わないんだよ。リオの冷たい視線がやんだからいいか。
「俺はモテたくないのに」
「人気がなくなれば、多少は警戒緩むんじゃないか?」
「最近は令嬢の相手をしていない」
リオが落ち込んでいる。相手をしなくても、ファンは減っていない。レティシア嬢が入学してからはさらに増えている。
「リオは絶望的だよな。レティシアの条件に1つも合わない。エイベルの友達なら多少は良くしてくれるよ」
「無理だった。警戒されてる。」
放任のエイベルが妹に近づけたくない男が二人いた。その一人がリオだった。
エイベルもリオのこと嫌ってるもんな…。
「すでにか。ステラの仲介なら聞くだろうが、無理だろうな。まずお前がステラに近づいたらレティシアが邪魔するだろうな。ステラもレティシア第一だからな」
リオの恋は絶望的らしい。その後もレティシア嬢がリオに贈り物を届けにくることが定期的に続いた。5回目の時にリオは断ることを決めた。令嬢に嫌われたいらしい。
好きな子に他の令嬢から贈り物を届けられるって精神的にきついけど、それは平気なんだよな・・。
「マール様、こちらを」
「ごめん。受け取れない」
「そんな・・・」
レティシア嬢が悲しそうな顔でリオを見ていた。
「想いがいっぱい詰まってます。自己満足でも受け取ってもらえるだけでも幸せなんです。」
贈り物を儚げに見ている。これはリオは断れるのか・・。明らかに動揺している。
「渡せる相手がいることがどれだけ、幸せか・・」
潤んだ瞳でリオを見て消えそうな笑みを浮かべた。
「受け取る。ごめん。」
「いえ、ご迷惑なら」
「俺が浅慮だった。感謝する」
リオの顔を見て、にっこり笑って贈り物を渡して立ち去っていった。リオは机に伏せっている。
「振り回されてんな。あいつは押しと勢いに弱いから強い口調ではっきり言うと諦めるよ」
「リオには無理だよ」
「受け取るかわりに、なにか要求すればいいのに」
「え?」
「贈り物に途方にくれて困ってるって正直に言えばやめるよ。レティシアは本気で相手が嫌がることはやらない。言い聞かせようか?」
「説得できるの?」
「エイベルが叱りつけるだろう。武術大会の時は仲が良さそうだったのに、やっぱり遊ばれたな。いっそビアード公爵家のレティシアのお気に入りを手懐けるか?」
「ロキは手強いだろう。リオ、復活しなよ。贈り主に断ってきなよ。仲介はやめてほしいって。贈り物を断らなければ、仲介されることもないだろうけど」
リオが贈り物を返しに行った。
初恋は叶うんだろうか。
レティシア嬢は無意識にリオに甘えることがあるらしい。
リオは物凄く可愛いと惚気ていたけど・・。名前で呼ぶのを断られたのに、時々リオと呼ばれることがあるらしい。彼女が閉じ込められた小屋から助け出した時は抱きつかれて、笑みを向けられたと喜んでいたけど、目覚めた彼女はいつもの態度に戻ったらしい。リオの妄想だったらどうしよう・・・。俺の友人は初恋を拗らせて妄想と現実の区別がつかないわけじゃないよな?一度カナト様達に相談したほうがいいだろうか?




