第三十五話 広告
属性魔法は特化したものがあり、治癒魔法は水の魔導士の十八番です。
ですが修復するものが増えるほど魔力を紡ぐのは困難で、一歩間違えれば悪化させてしまうこともあり、水属性の持つ魔導士の治癒魔法は難易度の高い魔法とされています。集中力とイメージと魔力量が必要なので治癒魔導士を名乗れるのは限られた者だけ。そして治癒魔導士の半数はルーン公爵家のお抱えです、治癒魔導士の育成に力を入れているのはルーン公爵領だけで、必要時に派遣してもらっています。
私はビアード公爵に治癒魔法に適性のありそうな生徒を勧誘してほしいと言われています。ビアードとしてはルーンの力を借りるのは避けたいので領内にお抱えの治癒魔導士を増やしたいとお考えです。武門貴族の優秀な生徒の取り合いはよくあり、学園で勧誘するのも常識です。
貴族は家に縛られるので平民が望ましく、エイベルが生徒達の指導するのを見学してます。定期的にエイベルが希望者のための合同訓練をしているおかげで平民や下位貴族から人気があります。エイベルの訓練を受けたい生徒がたくさんいるのは嬉しく、そのままうちの家門を目指すのは大歓迎です。
「ディーネ、治癒魔法の適性がある方はわかりますか?」
「あの中に水属性がいないわ」
エイベルの訓練に集まるのは一番多いのは風属性、次は火属性の生徒なんです。水や土は戦闘に向かないのです。守りには役に立ちますが派手さに欠けます。
ようは目立てばいいんですよね・・。男の子は格好つけたいものですもの。閃いたので休憩しているエイベルに声をかけます。
「エイベル、泉で魔法の手合わせお願いします」
「は?」
「ビアードのためですわ。私はディーネと一緒です」
「わかったよ」
苦笑してるエイベルに太い紐を渡します。
私も髪をまとめ、ハチマキ代わりの太い紐を縛ります。この紐を斬られたら負けです。
泉の中に入り、風を纏うエイベルと向き合います。
「ディーネ、エイベルとストーム様を沈めますわ」
「わかったわ」
生徒達に水魔法で戦えることを示せばいいんです。
準備をおえたエイベルに水の刃を放つも風で相殺されます。エイベルを閉じ込める水球を放ちますが躱されます。守りはディーネが担当するので、私は攻撃に専念するのみです。再び水の刃を躱したエイベルの足元に水の渦をしかけます。水で魚を作ってエイベルに向かって放ちます。かかりましたわ。水の渦がエイベルを覆いました。
「俺の勝ちだ」
紐が切られてます。
振り向くとストーム様がいました。ストーム様は気配がないんです。
もう少しだったのに、また負けました。
泉から上がるとエイベルにディーネがおびき出されてました。
エイベルの回りに仕掛けた魔法を解除します。
「悔しいです。失敗しました」
「負けられるか」
「次こそは」
聞こえる声に目的を思い出しました。
「水でも戦えるのか!?」
エイベルとの反省会は後です。生徒達の前に立ち笑顔を浮かべます。
「はい。水は防御のイメージですが戦うこともできますわ。もし水属性の騎士に興味がある方は私が魔法を指導しますので、教えてください」
「レティシア様が強かった」
強くはないんですが…。勘違いを利用しましょう。
「私も魔法は嗜み程度に使えます。ビアードの治癒魔導士も育てたいので、意欲のある方は大歓迎しますわ」
「風を優遇するんじゃないの?」
確かにうちの騎士達は風使いが多いです。
「うちは強さが第一です。無属性でも強ければ優遇します。弱くてもやる気とビアードの誇りを持ってくださる方なら大歓迎です」
「レティシアはずっとビアードにいるんですか?」
「はい。エイベルと一緒にビアードを守ります。お友達に広めてくださって構いませんよ。私達は一生をビアードに捧げるの、皆様達にも見極めていただいても構いません」
しばらくすると、ビアード家門は属性を気にしないという噂が広まり、無属性や水、土属性の生徒も訓練に集まりました。私は水属性の生徒の魔法の指導を任せてもらってます。治癒魔法の適性がありそうな生徒もいるので一生懸命鍛えたいと思います。魔力が少なくても魔石を使えば使える魔法の幅は広がりますので。
***
ビアードの勧誘はいい方向に進んでいると思いますが、面倒なことが起きています。
私はなぜかリオのファンに目をつけられました。身に覚えがありません。生徒会以外で一緒にいることはありません。
「まがいものの家系は節操なしなのね。ビアード様」
まがいものと呼ばれるのは私しかいません。先輩を無視するのもマナー違反なので足を止めます。家格が低くても人生の先輩は敬うものです。目の前の睨むご令嬢達を敬えるかは怪しいですが、表面上は穏やかな笑みで見つめ返します。
「ごきげんよう。うちは志のある騎士を求めております。まがいもの家系とはどのようなものかご教授いただきたいですわ」
「あら?武門貴族は浅はかなのね」
「風属性のためにマール様に近づくのに?」
「マール公爵夫人のお気に入りですものね。マール様もお気の毒ですわ。お二人の優しさにつけこむなんて」
誤解です。どうしてそうなったんでしょうか。私はマール公爵夫人のお気に入りではありません。
蔑むお顔やあざ笑うお顔、誰一人淑女としてふさわしいお顔をしていません。まだ子供なので、貴族の仮面は身につけてないんでしょうか。同じ貴族令嬢として質の低さに嘆かわしいですわ。
「マール公爵夫人は同派閥の令嬢は大事にしてくださいます。私は社交の指導を受けているだけですわ。マール様とは生徒会以外の関係はありません」
「マール様に付き纏って」
「誤解です。マール様はクラスメイトのカーチス様の指導係です、カーチス様への伝言を承っているだけです」
「最近、マール様は・・・・。」
「貴方を見るとすぐに追いかけますのよ」
「誤解ですわ。私とマール様は用もなく話すほどの関係性はありません。」
「贈り物だって・・」
不満な理由がわかりましたわ。リオと親しくできないから、自分達よりも話す機会がある私が不愉快なんでしょう。そして、リオが親しくする令嬢の中で一番年下の私に物申しにきたのでしょう。カトリーヌ様よりも私のほうが御せると思われるのは仕方ありませんね。
令嬢達の希望は明白です。
私がリオと関係者には近づかないこと。
残念ながら、マール公爵邸のお茶会も生徒会の付き合いも拒否するわけにはいきませんので叶えられません。
もう一つは、令嬢達との仲を取り持つこと。これも私の立場では困難です。同派閥とはいえ、無関係の人間の知り合いの仲介で親しくしてもらえるほど簡単な家ではありません。それに多大な手回しが必要で、社交の天才揃いのマール相手には、そこまで労力をさくほど私には暇な時間はありません。
最大限の譲歩は贈り物の仲介です。
私が令嬢達に無理のない範囲で利用される都合のよい令嬢になれば満足されるでしょう。
「私が代わりにお渡ししましょう。断られましたらマール公爵夫人にお願いしますわ。マール様は皆様の想いの募った物を無下にする方ではありません。お断りするのはなにか理由があるのでしょう。よくチョコのお菓子をめし上がってますわ」
今世のリオもチョコが好きです。チョコのお菓子を断られたことはありません。無関係な私からも受け取るのなら、令嬢達が断られたのは渡すタイミングが悪かったのでしょう。
「貴方にやましい気持ちはありませんの?」
訝しげに見られていますがニコッと微笑みます。
「全くありません。私はお兄様が一番です。それに全く好みでもありません」
「確かにエイベル様とは違いますわ・・」
令嬢達が話し合いしばらくすると態度が和らぎました。
納得していただけて良かったですわ。
貴族は利に弱いものです。疑念を晴らすよりも取引するほうが簡単です。正々堂々のビアードらしくありませんが、指摘を受けたらやめましょう。
令嬢達にリオへの贈り物を預けられました。ハンカチに手紙にお菓子にすごい量です。いつも令嬢に囲まれてますものね。リオの女性関係に興味はありませんが私を巻き込まないでほしいです。
贈り物は量が多いので紙袋の中にまとめました。
面倒なお役目は早々に終わらせるため、リオの教室に向かいました。
リオの教室に行くとサイラス様と話してます。
「お邪魔をしてもよろしいでしょうか?」
「え?どうぞ」
サイラス様が笑顔で了承してくださったのでリオに袋を渡します。
「マール様、受け取っていただけませんか?」
「俺?」
不思議そうな顔をするリオを見つめます。
「はい。ご迷惑でなければ。返礼はいりませんわ」
リオからの返礼の用意は約束できないと令嬢達に確認してあります。さすがに返礼の強要は私の立場ではできません。贈り物の仲介が限界です。公式ではなく私的な贈り物には返礼の義務はありません。
「ありがとう」
リオが手を伸ばして受け取りました。
ありえませんが、捨てられないように釘をさしましょう。無事に届けられなかったと令嬢達に責められるのは避けたいです。
「こちらこそ。差し出がましいお願いですが、想いがこもっておりますので、大事にしていただけると」
「もちろん。大事にするよ」
「ありがとうございます。私はこれで失礼します。貴重なお時間をありがとうございました。」
嬉しそうな顔のリオに礼をして立ち去りました。やはり受け取ってもらえましたわ。
令嬢達は渡すタイミングが悪かっただけですわ。
リオへの贈り物を預かるようになってからは怖い呼び出しは減りました。最近は残念そうな顔でリオに見られています。やはり直接渡されたいのでしょうか。余計なことを言って平穏が壊れるのは嫌なので気付かないフリをしましょう。人は欲深いものです。これ以上の協力を求められても応じられません。




