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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
学園編 一年生

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閑話 武門貴族の認識

ある伯爵子息視点

武門貴族の令嬢で一番人気なのはビアード公爵令嬢である。

常に嫡男である兄を立てて、家門関係なく騎士達にいたわりの言葉をかける。

深窓のまがいものの公爵令嬢と彼女を蔑むのは文官一族達である。

いつの間にか同世代の武門貴族の間で文官一族であり、令嬢に人気のリオ・マールに彼女が目をつけられたと噂になっていた。



騎士を排出する一族の中でも、ビアード家門の訓練は人気がある。

身元が保証され、やる気がありビアード公爵家に危害を加えなければ誰でも受け入れられる。

ビアード公爵夫人とビアード公爵令嬢に危害を加えたら制裁を受けることに了承さえすればだが……。

そんなビアードの訓練場だけで見られる光景がある。

ビアード公爵令嬢が頻繁に訓練場に顔を見せ、差し入れを配り、愛らしい笑顔で激励の声をかけることだ。

俺は初めて見たときに驚いたが、しばらくしてビアードの日常であると気づいた。

そして彼女が訓練に参加する日に出会えるのは運が良いと言われている。

訓練相手は彼女の指導騎士やフィル・カーソン、エイベルの友人ばかりであるが。

とはいえ俺もエイベルの友人として数えられている。フィル達との訓練を終えたレティシアを中心に同世代の男達が集まり話しかけている。


「もうすぐ学園に入学だな」

「はい。ビアード公爵令嬢として頑張ります」


得意なおしとやかな顔で微笑み返答するレティシアに数人の男が顔を赤くしている。



「ビアードと違ってろくでなしがいるから気をつけろよ」

「ろくでなし?」


きょとんと不思議そうな顔で首を傾けるレティシアは言葉の意味がわかっていない。ある意味箱入りのお嬢様は言葉に疎い。


「常に女に囲まれて、何人も恋人を作るやつもいるからな。特にマールには気をつけろ。学園屈指のモテ男だ」

「マール様は私など相手にしませんわ」


男達の言葉を冗談と受け取り、ありえないと笑っている。訓練の後で頬や服が砂で汚れているが、白い肌に日の光を浴びてキラキラ輝く銀髪、華奢で兄とは正反対の小柄な体の少女は美少女である。


「付き纏われたら助けを求めろよ」

「ありえませんが、ご心配ありがとうございます。後輩としてご指導よろしくお願いします」

「ああ。フィル達と同じクラスになれるといいな」

「お勉強はしっかり教えたのできっと大丈夫ですわ」


すでにリオ・マールに目をつけられている自覚はないらしい。

リオ・マールが定期的にビアードに訓練に来る理由がレティシア目当てだろうと察している奴は多い。

俺は実際に二人が一緒にいるところを見たことがないから周りが危惧するほどリオ・マールへの妨害に参加しない。

レティシアは妹分だから嫌がるなら保護してもいいくらいの認識ではあるが。

男達はレティシアがモテる男に全く興味を持たないことに喜びながら、近づかないように忠告している。

フィルがレティシアの手を引いて終わりの見えない話から連れ出した。手を振っているステラを見つけてレティシアは名残惜しげに見る男の視線など気づく欠片もなく駆け出した。

おしとやかな見た目に反して好奇心旺盛なレティシアはフィル達と遊んでいるほうが楽しそうだ。

レティシアの特別になりたい男は多いが相手にされていないのは自分も同じと気づかないのはいかがなものか。俺には関係ないから言わないけど。


***


入学したレティシアは偶然会うとよくお菓子をくれる。

レティシアのポケットからはいつもお菓子が出てくる。お菓子をもらって、別れた後に肩を掴まれ、振り向くと目の据わったリオ・マールがいる。

クラスメイトでもほとんど話したことはない。


「どうして親しいんだ」

「親しいというほどでは……。サイラスも懐かれてますよ」

「ビアード嬢はサイラスにはあんな無邪気な顔を向けない」


無邪気?

レティシアに恋して目が曇ってるんだろうか。普通に笑ってただけだけど。


「気の所為でしょう」

「リオ、絡まない。何してるんだよ」

「俺は挨拶しかされないのに……」

「ごめん。せっかく接点ができたのに全く相手にされないから荒れてるんだよ」

「はぁ……。失礼します」


サイラスに任せて退散した。

ただその後もしつこく話しかけられた。敬語もいらず、リオでいいと言われいつの間にか友人枠に入っているらしい。顔に似合わず強引な人間とは知らなかった。

偶然会ったレティシアにリオが嬉しそうに笑って声を掛けに行く。

レティシアは立ち止まり礼をして、自然な流れで立ち去り、フィル達と楽しそうに話す様子をリオが羨ましそうに見ている。仕方ないか。楽しそうなレティシアの頭に手を置くと、きょとんと見つめられる。


「レティシア、リオともう少し会話を」

「マール様は同じ生徒会ですが何も関係ありません。話すことなどありません。失礼します」


全く興味がなく、関わりたくなさそうだ。レティシアはモテる男が苦手だから仕方ないか。礼をして立ち去りステラに笑いかけ、フィルの頬を引っ張ってるから何か余計なこと言ったんだろうな。あの3人は物凄く仲がいい。リオはいつの間にか令嬢に囲まれている。あんなに令嬢に囲まれているのに本命に相手にされない姿が滑稽に思えてきた。俺はサイラスほど面倒見はよくないから愉快に見守るか。


***

武術大会はリオに誘われ共に組んだ。

いつもは参加しないリオと組むのは初めてだが、風使いは万能だからいいかと思い軽い気持ちで了承した。

最近はリオはサイラスに稽古をつけられている。武術に興味なさそうだったが、何か心境の変化があったんだろうか。

サイラスに一段落したら手合わせしてもらうか。

剣はサイラスが上だ。魔法の手合わせはエイベルに頼むけど。

予選の宝探しの難易度は今年が一番高く初めて本気で探した。

予選を突破し昼食をすませ控え室にいくと担当はレティシアだった。

毎年恒例の道具の検査に回っている。

激励の言葉を笑顔で伝えるレティシアに見惚れる奴が多い。

レティシアは天然で、思わせぶりな言葉に耐性ない奴は勘違いする。


「ビアード様、応援してくれますか!?」

「頑張ってください。ご武運を」

「勝利を捧げます」


笑みを浮かべて去っていく様子を見ながらまたファンが増えることがわかった。控室にはレティシアを知らない奴もいる。レティシアは強さを求める奴には惜しみない笑顔と激励の言葉を贈る。

フィルとレティシアの親しそうな様子を羨ましそうに見ているリオの肩を叩く。


「あいつらはあれが平常だ。特別ではない」

「フォローになってないから。」


俺達はなんでレティシアの観察をしているんだろうか。対戦相手も決まってないし暇だからいいか。

レティシアの話に耳を傾けている奴が多いけど本人は全く気付いてないんだろうな。耳を傾けてもレティシアは笑顔でふざけるから、本気と冗談の見分けがつかない奴は勘違いするから言葉を聞くのは危険だ。言っても信じないだろうから余計なことは口にしないけど。

まさかこの場でもレティシアに婚約を申し込む奴がいるとは思わなかった。

レティシアは笑顔でいつも通り即答で断り、デートの誘いに、サイラスが割り込んだ。

優勝したらビアード領を案内してもらいたいと願うやつが他にも出ないようにサイラスがこっちに連れてきた。別にレティシアが同世代の子息にビアード領を案内するのはそこまで珍しくない。ビアード公爵夫人はレティシアの婿選びに積極的だし、ビアード公爵家の客人の接待はエイベルではなくレティシアが任されるから余計に。サイラスはあまりビアードに顔を出さないから知らないか。

流れ作業で確認をおえて、ご武運をと礼をして立ち去り、リオは全く相手にされていない。


しばらくして吐き気に襲われ、座り込んでいると手を握られ体が軽くなり吐き気がおさまった。


「大丈夫ですか?」

「助かったよ。ありがとう」

「いえ、また具合が悪ければ言ってください。ご武運を」


レティシアは笑みを浮かべて他の奴の治療に回っていた。無詠唱で治癒魔法をかけ、激励の言葉をかける様子に赤面している奴が多い。手を握られて笑いかけられたら免疫ないやつは仕方ないか。

対戦相手がわかっても作戦会議もせずレティシアを見ている選手は多い。

レティシアの好みの男の話に真剣に耳を傾けてる。レティシアがフィルを婿に欲しいという話は俺達の間では有名だ。

ふざけてソートにも婚姻を申し込んでいる。美少女の冗談はたちが悪い。

リオは調子が悪そうだからレティシアの求婚は耳に入ってないらしい。

レティシアがリオに近づいて伸ばす手をリオが断っていたが、強引にリオの手を握り治癒魔法をかけてにっこり笑っている。


「大丈夫ですよ。リオがいるなら怖いことはないんです。安心して行ってらっしゃいませ。リオ兄様、ご武運を」


礼をして離れるレティシアにリオが赤面している。

遊ばれてんな。


「これって脈あり?」

「ないな。あの程度序の口だ。ふざけてるのか励ましてるのかは判断つかない」


サイラスがため息をついた。本当にリオに対して面倒見が良いよな。

俺の周りでリオの応援をしているのはサイラスだけ。

団体戦は上級生は強く2戦目で負けた。

試合から戻るとレティシア達が真顔で話し合っている。

リオが混ざったけど何かあったんだろうか。

用があれば普通に会話はできるのか。リオが出て行ったあと突然レティシアが選手達の接待を始め、餌食になった男がいた。

モテる人間が苦手と言うのに自分がモテることは平気なんだろうか。

自分が美少女とそろそろ認識してほしい。レティシアを美少女と認めないのは当人とエイベルだけである。

リオがレティシアに相手にされず落ち込むのはよくあることだ。

正直、リオがレティシアを落とすのは難しいだろう。

でもサイラスしか味方のいない状況でレティシアの心を手に入れられたらビアードへの婿入りは叶うかもしれない。ビアード公爵は根性のある人間が好きだから。

友人のよしみで、レティシアの婚約者はリオに賭けた。

これでリオが勝てば俺は大儲けだ。協力はしないけど、情報くらいは渡してもいいかな。


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