兄の苦労日記20
武術大会を迎えた。
初日の団体戦の日は快晴。妹は父上から参加許可がでず拗ねていたから訓練に付き合ったら機嫌が直った。時々頑固だが普段の単純すぎる妹はある意味扱いやすい。
毎年恒例の予選の宝探しは適当に森を歩く。警戒すべきは他のチームからからの妨害行為。手を組んで潰しにくるチームも多い。先ほど徒党を組んで挑んできた選手は戦闘不能にした。徒党を組むのは弱い選手ばかりだからそこまで警戒はしない。毎年、探さなくても宝が見つかるのは過去の経験で知っていたが・・・。
「エイベル、おかしくないか?」
宝が見当たらなかった。毎年下級生でも見つかるようにわかりやすいところに宝が配置されている。上級者向けに教師や殿下が隠す宝もあるが、宝の半分は大会に参加しない下級生の生徒会役員が隠す。待てよ。下級生の生徒会役員・。無邪気に笑う妹の顔が浮かんだ。
妹は鬼ごっこは苦手だが、隠れんぼは得意だ。
反則を使うか。ストームに妹の魔力を探らせると空の上と言われた。
魔力を纏わせ弓を上空に放つと上から勢いよく水球が落ちてきた。水の結界に魔法を当てて壊すと中から魔法陣と俺の魔石と宝が出てきた。宝の色は一番難易度の低い黒。
俺はストームがいないとわからなかった。妹よ、魔石を使って隠すのはやり過ぎだ。そして魔石を使った魔法に対応できる奴は少ない。妹は魔石を使った魔法は得意だが授業ではほとんど習わない。
ソートが見覚えのある魔法陣を見て苦笑している。
「今回予選突破は少ないな」
「たぶん泉の奥に隠してそうだが行くか?」
「いい。他を探そう。真面目に探せばあるだろう。レティシアが隠したものより楽だろう」
土の中に隠されている宝と底なし沼の上にある宝を回収し、滞りなく予選は突破した。予選を突破したのは武門貴族を抱えるチームばかりだった。予選で過半数以上のチームが落ちたのは初めてらしい。妹の隠した宝を手に入れたのはフィルと俺だけだった。
妹は控え室の担当で、選手に丁寧に労いの言葉をつげて、道具の確認に駆けまわっている。
数々のチームを落選させた妹は能天気な顔で近づいてきたので、袋に入れてある道具を渡すと確認を終えた妹は俺を意思の強い瞳で勝気に見つめいる。
「お兄様、信じてますわ」
不甲斐ない姿を見せれば怒るだろうな。立ち去った妹をソートが笑っている。。
「よく言えるよな。照れもなく、躊躇いもなく。」
「レティシアは変わっているから」
「可愛い妹にあそこまで言われたら、やるしかないな」
「関係ない。ビアードの者として恥じない行いをするだけだ」
「コクーンがレティシアに婚約申し込んでたぜ?」
揶揄うソートに乗る気はない。幼い頃から婚約者を持つ貴族は珍しくないので、妹はよく婚約を申し込まれる。
本人にもうちにも。父上が嬉々として断り母上は意味深な顔で選別しているから、たぶん俺達の婚約者を決めるのは母上だろう。
「フラれただろう?」
「ああ。ただ優勝したら、デートの誘いを取り付けていた」
コクーンは嫌な予感がするから妹に近づけたくない。
「瞬殺」
「そろそろトーナメント表が出るかな」
「確認頼んだ。俺はあいつに昼飯を食べさせてくる」
「大変だな。」
俺はソートに頼んで、昼飯を抜くつもりの妹を回収した。
食事を終えてしばらくすると、気分が悪くなってきた。
「エイベル、緊張してるんですか?」
能天気な妹の声に顔をあげた。緊張してるつもりはない。ただ気分が悪く、思うように動けず、期待通りの戦いをできる自信はない。
「悪い。」
手を握られ、体にひんやりとした魔力が巡り、吐き気も落ち着き、軽くなっていく。無詠唱で治癒魔法をかけたのか。力が抜けて顔をあげると、妹が笑っている。
「私の力はお兄様のものです。存分に力を発揮してください。怪我は治しますが、できるだけ気をつけてください」
不甲斐ない所を見られ、かけられた言葉もなぜか照れくさくて頭を撫でてごまかした。
「俺にはないのか?」
からかおうとするソートよりも妹のほうが上手だった。
俺が一番と言い切る姿に羨ましそうに見るやつらがいた。武門貴族の中でも妹ほど堂々と嫡男や家を一番と言い切る令嬢はいないらしい。横恋慕するやつらもいるが、理想の妹として憧れるやつもいる。母上は武門貴族の夫人達の憧れらしい。騎士達の憧れのビアード公爵令嬢の親として、令嬢の教育の相談も受けているらしい。妹を家庭教師として貸してほしいという家もあるが妹は多忙なため、話はなくなった。その代わり定期的に武門貴族の令嬢達のために妹がお茶会を主催している。回数を増やして欲しいと要望があるが、月に1、2回が限界らしい。
試合に向かう俺達に無邪気に手を振る妹に不甲斐ない所を見せないように気合いを入れる。ありがたいことに初戦の相手はコクーンだったので、遠慮なく潰す。
試合が終わって戻ると、妹は控え室を駆け回っている。
「寂しいか?」
「まさか。お互い求められたことをやるだけだ」
ソートに苦笑されたが気にしない。妹は試合の様子を見る余裕はなさそうだ。
ずっと治癒魔法をかけて、駆け回ってる姿に心配になり、水を渡すと口をつけて固まり、差し入れのもとに駆けていった。
妹と一緒にいるのは、変装しているけどレオ様か…。二人に近づくと聞こえる言葉に耳を疑い、俺の視線に気付いた妹に笑いかけられた。
「エイベル、ここは私に任せて集中してください。飲物は冷水で我慢してください。マナ、私の部屋にあるおやつを人数分持ってきてください」
妹の指示に、察してしまった。大量の体調不良は・・・。
「まさか」
「ここを任されているのは私です。信じてくださいませ。」
「無理はするなよ」
「もちろん。試合を見れないのは残念ですが、仕方ありません。頑張ってくださいませ」
「行ってくる」
レオ様もいるし大丈夫だろう。妹は有能だ。ビアードとして不甲斐ない姿を晒すわけにはいかない。
妹に任せて試合に集中するか。
「エイベル、いいのか?」
「レティシアが信じろと言うなら信じるよ」
「レティシアもだが、お前も中々だよな…。」
ソートが俺をからかおうとしていたが、放っておく。
準決勝は勝利したが問題なのは決勝だった。
決勝相手は強く、宝が奪われ俺達の負けだった。
控え室に戻ると妹が近づいてきた。
「お疲れ様でした」
あそこまで言われて、負けたのは不甲斐ない。
「悪い」
妹は能天気な顔で俺を見ていた。
「お兄様は手を抜いたんですか?」
「違う」
「なら謝ることなどありません。私はエイベルが本気で戦ったのなら、ビアード公爵家嫡男として相応しい姿と知ってます。卒業までには優勝を私達に捧げてくださいませ」
妹はまだ届かないことをわかっていたのか・・。
そういえば優勝しろとは一言も声を掛けられなかった。
試合は見てないのに堂々と俺を信じてる妹に気が抜けた。実力差に打ちのめされている場合ではない。
改めて妹の言葉を思い返すと、待てよ。
は?卒業までって、来年は無理と思ってるのかよ!?
「卒業までか」
「まだまだ強い方はいます。3年の経験差は騎士の世界では大きいです。個人で勝利を捧げたい方がいらっしゃったら、紹介してくださいませ。譲ってさしあげますわ」
俺がビアードの嫡男として恥じないように戦う姿は信じても、勝利は信じてないようだ。
来年こそは妹に勝利を捧げて謝らせてやる。
俺は個人としても、お前に捧げるよ。妹は俺の負けを全く気にしてない。今はいいや。反省は後で後日ソート達とゆっくり検証だ。
試合も終わったし、生徒会の仕事をするか。
「何があった?」
「明日の準備に入ってください。ここは生徒会にお任せを」
「おい」
「今は詳しいことは話せません。殿下の命令ですわ」
それなら詳しくは聞けないが、妹が能天気に笑ってるから大丈夫だろう。
「エイベル、レティシアをうちにくれよ」
「やらない。欲しいなら婿入り」
「あいつがいれば騎士達が強くなる。あの言葉に動かされる。」
妹は士気をあげるのが上手い。演説や挨拶は俺よりよっぽど。
俺は最後に堂々と締めるだけでいいと言われている。
性格的に期待してないと言われたが、否定はしない。適材適所と強気に笑うやる気満々の妹に任せている。
「俺が体を鍛えて、レティシアが心を奮い立たせる。ビアードは安泰だ」
「うちの妹をレティシアに弟子入りさせようか」
「あいつの影響を受けたら、手がかかるけど。俺はあいつ以上に手のかかる妹がいるとは思わない」
「放っておけないくせに」
ソートの言葉は聞こえない振りをする。来年は優勝できるようにもっと訓練しよう。
あいつは驚くよな。明日の個人戦は優勝は難しくても腕試しには丁度良い。明日に備えて休むとするか。
レティシアはクロードの婚約者時代に鍛えられているため挨拶や演説は慣れています。
また母親がターナー伯爵家の出身だったため騎士の奮い立たせ方も仕込まれています。
ローゼ・ルーンは社交は苦手でも武術関係は天才でした。本人がやる気になれば騎士に闘志を燃やさせるのも得意でした。




