第三十四話前編 武術大会
魔法を使わず、扉を壊せるために足の筋力増強と蹴りを鍛えています。武術大会が近いため、エイベル達もさらに気合いをいれて訓練してます。私は差し入れの用意と魔法の手合わせに付き合うくらいしかお手伝いはできません。
とうとう学園の大行事の一つ武術大会を迎えました。私はビアード公爵の許可がでず参加できないため生徒会役員として運営のお手伝いです。
雲一つない青空は絶好の大会日和です。
運営担当の生徒は早朝に団体戦の予選を行う訓練の森に集められました。
武術大会の団体戦予選の宝探しの準備です。宝探しの宝は先生と参加しない生徒会役員で隠すとは今まで知りませんでしたわ。私は宝を20個ほど抱えて森を歩いて隠す場所を探しています。簡単に見つからないように工夫して隠せとクロード殿下の仰せです。水魔法で包んで泉の中に投げました。
「ディーネ、どこがいいかな?」
「空の上?」
宝を風の魔石と魔法陣に包んでしばらくすると上に飛んでいきました。ディーネが落ちないように水の魔法で覆ってくれました。空の発想はなかったのでディーネは凄いです。
「レティ、この底なし沼の中は?」
ディーネが教えてくれた場所には底なし沼がありましたわ。
結界で覆って投げ込みました。ディーネと相談しながら隠すと気づいたら宝はなくなってました。
「終わったのか?」
クロード殿下に声をかけられました。
「はい」
「安易に隠してないか?」
「はい。しっかり考えて隠しました。余ってるなら隠しますよ」
クロード殿下から新たに10個受け取りました。
ディーネと相談して隠すとすぐに終わってしまいました。誰が見つけるか楽しみです。
***
武術大会はクロード殿下の挨拶と共に始まりました。
見学は男子生徒ばかりで、令嬢達はほとんど見学に来ません。
初日の団体戦は3人一組。お昼までに訓練の森に隠された宝を3つ集めて競技場で待つクロード殿下にお渡しすれば予選突破です。
私は魔法鏡で不正がないか観察するのが仕事です。生徒会の男子生徒はクロード殿下以外は武術大会に参加していますがロベルト先生とエメル先生が控えてくれているので、荒事があってもすぐに対応できます。殺し以外はなんでもありなんで、不正もなにもないんですが、負傷者がいれば救助に行くためです。
「遅いな」
椅子に座っているロベルト先生が呟きました。隣に座っていたエメル先生は魔法鏡から視線を外しました。
「上級生はもう突破しててもいいんですが。ビアード、幾つ隠した?」
「30個くらいです」
「どこに?」
「空の上と泉の底と底なし沼の中と…」
「ビアード、それはどうやって取るんだ?」
「空の上は弓に魔力を纏わせて射ぬけば落ちてきます。泉の底は潜れば簡単です。底なし沼は水魔法が使えるなら沼の中に魔力を注いで水の気配を探って引き寄せるだけですわ」
エメル先生にじっと見られてます。
もしかしてわかりやすすぎですか!?
念の為結界で包んで魔力をぶつけないと取り出せないようにしてありますよ。
「すみません。簡単すぎました」
「いや、簡単ではない。今回は予選突破は減りますね」
「え?」
「生徒会役員の低学年生に一番多く宝を隠させるのは見つけやすくするためだ。上級生は難しい場所に隠す。生徒によってはあえて難しい宝を探す者もいる。宝には色がついていて、黄色の宝が難易度が高く黒い宝は難易度が低いとされているんだ。」
「知りませんでしたわ。」
「敢えて教えないけど、ビアードは宝の色は覚えているかい?」
「黒ばかりでした」
「君が隠すのが上手いとは誰も思わなかったんだろう。良い訓練になるから、気にしなくていい。」
感心した笑みを浮かべられたので、問題なさそうです。そこまで難しくないので大丈夫ですよね・・。殿下はよく考えて隠せと言いましたもの。
しばらくすると、少しずつ予選突破者が現れました。
エイベルやフィルも突破してます。
お昼になり予選が終わりました。
予選突破は8チームでした。宝は時間と共に自然に消えるので回収に行かなくてもいいそうです。
次の仕事のため控え室に移動しました。
本戦参加者の道具の確認をします。本戦に持ち込みが許されているのは武器と自身の魔力で作ったものです。
魔道具の眼鏡を掛けると作成者が作った道具は同じ色に見えます。他の先輩はトーナメント表を用意しています。
控え室は広い部屋です。作戦会議等は各々周りに聞かれないように工夫をして行います。本戦の内容は毎年同じなので、作戦会議や準備は当日までにおえているチームがほとんどです。
近くにいる上級生のチームに声をかけましょう。
「予選突破おめでとうございます。本戦で使用する道具の確認をさせてください。」
魔石に紐に薬と色々ありますね。
「申しわけありませんが首元のネックレスは規定違反になるので外してください」
「これは駄目か」
「はい。他の物は大丈夫です。また試合の直前に確認しますので、追加の物があれば教えてください。」
「わかった。」
「ご武運をお祈りしております」
礼をして次のチームに行きます。
フィルのチームです。
「予選突破おめでとうございます。本戦での使用する道具の確認をさせてください。」
フィルが視線を合わせません。いつもなら自慢してきます。フィルは時々手がかかります。肩に手を置いて笑顔でフィルの赤い瞳を睨みつけます。
「フィル、何を隠してますの?」
「ビアード、左足を」
「バカ、言うな」
膝を折りフィルの左足に手を当て治癒魔法をかけます。
「怪我をしたら治してあげます。いつも言いますけど、隠すのやめてください。次隠したらフィルにはお菓子をあげません。フィルが抜けてるのは知ってますから、格好つけても無駄ですわ」
「おい、」
不満そうに見られているので立ち上がってフィルの頬を思いっきり引っ張ります。予選でうっかり怪我をして恥ずかしい気持ちはわかりますけど悪いのはフィルです。騎士が十分に力を出せるように心を配るのは私の役目ですし、まだ子供のフィルに免じて許してあげましょう。
「万全のフィルが戦う姿は格好良いので、頑張ってください。道具の確認をします」
フィルの頬から手を放し、盛りだくさんの道具の確認をおえました。色々用意したんですね。
「ご武運をお祈りしております。頑張ってください」
ようやくいつものように笑ったフィルに手を振って別のチームに行きます。
エイベルとソート様がいました。
「おめでとうございます」
「お疲れ」
無言で差し出された道具を受け取ります。エイベル達は魔石と魔法陣だけなんですね。小細工はせずに正面突破でしょう。確認は終わったので、エイベルを笑顔で見つめます。
「お兄様、信じてますわ」
「レティシア、煽るなよ」
ソート様に笑われました。エイベルも苦笑してますが本気ですよ。ビアード公爵家嫡男としての雄姿が見れると信じてます。3年生のエイベル達が勝てるかはわかりませんが・・。
「ご武運を」
次のチームのもとを目指します。
コクーン様がいました。私は恒例の祝いの言葉を告げて道具の確認をさせてもらいました。
「ご武運をお祈りしております」
「レティシア様、お待ちください」
引き留められるのは予想外です。
「コクーン様?」
「もし優勝したら、婚約していただけませんか?」
この申し出はよくありますが、コクーン様に言われるのは初めてです。ビアードの後ろ盾と後見は魅力的ですから。
「申し訳ありません。婚約はお父様が決めますので、私に頷く権利はありません。」
「婿入りしますよ」
「お気持ちはありがたいのですが、私は父の命令に従います」
「でしたら、せめて時間をくださいませんか?」
「時間ですか?」
「ビアード領内で構いません。一日二人で過ごしていただけませんか?」
真剣に見つめられますが、武術大会で優勝するならビアード家門にスカウトしてもいいですわ。むしろ喜んでお付き合いして引き込みますわ。引かれて警戒されないようにニコリと笑みを浮かべます。
「わかりましたわ。お祝いに時間を作るお約束をしましょう。」
「レティシア嬢、その話、俺達も入れてくれない?」
「サイラス様?」
「ビアード領内でいいから優勝したら一日くれる?」
サイラス様はビアード領の観光をしたいんでしょうか・・。サイラス様はあまりうちに訪問しませんものね。サイラス様にはお世話になっているので、喜んでご案内しますが、空気を壊さないように余計なことは言いません。
「構いませんわ」
「ありがとう。確認、どうぞ」
サイラス様達の確認も問題ありません。
「ご武運をお祈りしております」
礼をして次のチームのもとに行きます。
ようやく全チームの確認もおえました。そろそろトーナメント表が発表されますね。
私は本戦開始直前まで休憩です。
「レティシア」
エイベルに肩を掴まれました。
「食事、行くぞ」
「え?トーナメント表を見に行かなくていいんですか?」
「ソートが行く。食事抜く気だろう?」
どうして知られてるんでしょうか。読みかけの本がありますし、面倒だなと思ってましたが・・。
眉間に皺のあるエイベルに連れられて食事に行きました。
作戦会議は必要ないんですね。いつの間にかソート様やフィルもいて、ビアードでは馴染みの食事風景になりました。
皆様、これから戦うのに余裕のようです。全く緊張した様子もなく強靭な心臓を持っているようで頼もしいです。
私は彼らが心置きなく戦えるようにお役目を果たそうと思います。今世は初めての武術大会楽しみです。
どんな戦法や勇姿が見られるか、胸が高鳴ってしまいますわ。きちんとお役目を全うしますが、ゆっくり観戦できたら嬉しいですわ。




