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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
学園編 一年生

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第二十八話 手回し

私はエイベルを強い騎士にするために、ルーン公爵夫人に師事させるため親睦を深めないといけません。ルーンとビアードは同派閥ですが親睦がありません。文官貴族と武官貴族はあまり仲が良くありませんので。生前もビアード公爵とルーン公爵が公務以外でお話するのを見たことありませんでした。思い返すとルーン公爵はよくターナー伯爵令嬢を迎えましたよね。二人の馴れ初めは生涯教えていただけませんでした。

派閥のお茶会に何度か参加しましたが規模が大きくルーン公爵夫人とお話できませんでした。ルーン公爵夫人は夫人に人気があるので、周りに人がたえません。さすがお母様です。生前ですが・・。

理由はわかりませんがマール公爵夫人から私的なお茶会の招待状が送られてきたのでお受けしました。もしかしたらルーン公爵夫人も同席するかもしれませんと期待していましたが、私の思惑は外れました。私的なお茶会はマール公爵夫人と二人っきりとは思いませんでした。礼をして、挨拶をおえたので、席に座りお茶に口をつけます。


「招待を受けてもらえるとは思わなかっわ」

「作法に自信がなく、高貴な夫人のいらっしゃる茶会は控えておりました」

「うちが嫌いなのかと思っていたわ」


笑顔で直球の言葉に恐怖を覚えましたが必死に平静を装い微笑みます。私は生前の伯母様に嫌われてるんでしょうか。


「いえ、格式高いお茶会に自身の未熟さを反省しており、足を運ぶ勇気が出ずに」

「まぁ。私には指摘するようなところはなかったわ」

「マール公爵夫人のお気遣いのおかげです。」

「ご謙遜を」


穏やかな笑みを浮かべるマール公爵夫人の冷たい瞳に恐怖を感じ背中に冷たい汗が流れます。生前の社交のお手本のマール公爵夫人には敵いませんが、よわよわしく微笑えみ受け流します。


「お茶会に頻繁に参加されるのは理由があって?」


休養日には一日三件のお茶会に参加してます。ビアード関連のものが一つに、残りの二つはルーン公爵夫人と交流を深めるためです。そのあとに夜会と学業よりも社交を優先している自覚はあります。社交をおろそかにしがちな武門一族が文官一族なみに社交をこなすという私の行動がお気に召さないんでしょうか?


「最近は体調もよく、ビアード公爵令嬢としての務めを果たしたいと」

「学園の令嬢達はここまで頻繁に参加しないわ。是非理由を」


ルーン令嬢の社交シーズンはもっと忙しかったんですが。冷たく見据え笑みを浮かべるお顔を見て、わかりました。

諦めましょう。マール公爵夫人に敵うわけがないので、正直に頭を下げます。


「申し訳ありません。ルーン公爵夫人と親交を深めたく参加しておりました」

「え?ローゼと?」

「妹君に邪な気持ちで近付こうとして申し訳ありませんでした」

「邪な気持ち?頭を上げて」

「風の天才と言われるルーン公爵夫人に兄を師事させていただきたく近づきました。身の程をわきまえず申し訳ありません」


恐る恐る顔を上げるとマール公爵夫人が笑ってます。怖い笑顔ではなく冷たい空気もありません。正直、獲物になった気分でした…。


「ごめんなさい。勘違いしてたわ。新しい派閥でも作るのかと警戒していたの」


どうしてそうなったのかはわかり、いえ、心当たりがありましたわ。最近は中立貴族の夜会の招待ばかり受けてましたわ。いささか物凄い勘違いだと思いますが、言うべき言葉は決まっています。


「誤解を招き申し訳ありません。派閥筆頭であるルーン公爵家の妨げになることは致しません」

「まさか、ローゼに師事させるために動いていたとは。ターナー伯爵経由で頼めば簡単だったのに。兄想いの貴方に免じて頼んであげるわ」


ターナー伯爵家!?忘れてましたわ。伯父様に頼めば簡単でしたが、ビアード公爵夫人が教えてくださらないなら使えない方法?反省は後ですわ。

これは頷いて平気なのでしょうか…?


「その代わり教えてほしいの。貴方はどの国の言葉が話せるの?」


取引ならマール公爵夫人の口添えはありがたく受けた方が得策でしょう。確信のある問いかけは様々な国の言葉を覚えていることも気づかれているんでしょう。


「ここだけの話にしていただけますか?」

「もちろん」


思い出せる言葉を並べていきます。生前は王太子の婚約者としてたくさん勉強しましたし、旅もしていたのでそれなりに話せます。生前のクロード殿下やリオはもっとたくさんの言語が話せたので怪しまれることはないでしょう。


「時々、仕事を任せても良いかしら?」

「翻訳でしたら引き受けます」

「うちの息子の教師役は?」


マール公爵家の方に教えるなんて恐れ多いです。そして、その息子がさすのは嫌な予感しかしません。


「恐れながら私には務まりません。お許しくださいください」

「残念だわ。レティシアと呼んでも?」

「はい」

「レティシアが息子を避けてるのはどうして?」


油断するのは早かったです。

直球すぎる話題が怖いです。避けてるって気付かれてるんですね・・。相変わらず、すごい情報網を持っていますわ。私は見つからないようにさりげなく避けているつもりだったんですが・・。ごまかせないので正直に話したほうがいいでしょう。きっとすでに私の答えも予想されていると思います。私に直接探りを入れるなら身辺調査もされてるでしょう。マールの諜報部隊の実力は知りませんが。私が新しい派閥を作ると誤解を生んだなら、仕方ないですわ。


「無礼をお許しください。マール様を慕うご令嬢達は情熱的です。私は兄のファンの対処だけで精一杯です」


リオと一緒に公務で学園を休んだおかげで大変でした。ファンの皆様が過激でしつこく、言葉が通じずとは言えません。


「情熱的?」

「私は視察から帰り15回ほど忠告を受けました。弁明し不用意に近付かないことを約束し許して頂きました。お仕事は私かビアードに送ってください」

「わかったわ。ルーン公爵家に話をつけましょう」

「ありがとうございます。兄の訓練は私も見学させてください。倒れたら責任持って連れて帰ります。ルーン公爵家にご迷惑はかけないように精一杯気をつけます」


探られるように見られてます。


「今後も派閥のお茶会には顔を出しなさい。」


きっと派閥のお茶会に顔を出さないので怪しまれたのでしょう。定期的に顔を出しましょう。ビアード公爵夫人が時々参加しているので、私は他のお茶会を優先してました。社交は得意でも、さじ加減が難しい。


「かしこまりました。」


礼をして退室するとリオに会いました。

懐かしい訓練着姿ですが今世は初めて見ました。礼をして立ち去りましょう。



「書庫に行かないか?最近、父上の趣味で貴重な魔導書が手に入った」


関わりたくありませんが非常に興味があります。マール公爵家の貴重な魔導書は絶対にうちでは手に入りません。エイベルのためにも…。少しなら大丈夫ですよね。


「ありがとうございます。ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ああ。着替えてくるから先に、場所はわかる?」

「以前教えていただきましたので」

「中に入って、好きに読んでいいから」

「ありがとうございます」


私は誘惑に負け、リオの言葉に甘えて書庫に行きました。相変わらず種類豊富ですわ。見覚えのある魔導書ばかりです。貴重な魔導書がどれを指すかはわかりませんが風の魔法に関する本を何冊か手に取り、椅子に座り読みはじめます。

やはりマールは風の魔導書が多いですね。エイベルの役に立つようなものがあればいいんですが。


本から顔を上げると正面でリオが眠ってました。

訓練の後で疲れてるんでしょう。居眠りするなんて珍しいです。似てるのに違う人。

私のリオは夢の世界でも私の婚約者になって側にいたと言っていました。どんな気持ちだったのかな。俺はどんなシアも好きだからって抱きしめてくれますわね。

会いたい。リオ兄様、私には難しいです。目の前にいるリオは違います。風邪をひかないように書庫の隅に置いてある毛布を広げてリオにそっとかけると、目が開きました。腕を引かれて、そっと抱きしめられ胸に顔を埋めさせられているのはどういう状況でしょうか。


「シア」


呼ばれる名前に驚いて顔を上げると、そっと長い指が頬に添えられ、銀の瞳が細められ優しい笑みを浮かび、見覚えのある笑みに思考が止まり息を飲みます。唇に熱を感じ我に返ると、触れるだけの口づけをされて、見覚えのある優しい笑みを浮かべた別人に間違いそうになり、目を閉じて首を横に振ります。聞こえる寝息に目を開けると気持ちよさそうに眠っていますわ。とりあえず、見慣れない幼い寝顔は別人です。もしかして、寝ぼけて間違えたんでしょうか?今世のリオは数多の恋人を持っていますから納得ですわ。腕を解こうにも腰に回った手が強い・・。寝てても抱きしめる手の力が強いのは同じなんですね。そんな共通点を知りたくないですわ。温かさも香りも同じなのに別人です。生前もリオの腕から抜け出せたことはありません。これは大人しくしてるしかないんでしょうか・・・。


「え?なんで・・、」


混乱しないように目を閉じ思考を巡らせると声が聞こえて、ゆっくりと目を開けます。


「リオ?」


胸から顔をあげると、リオの顔が真っ赤です。


「リオ兄様?」


額を合わせると熱がなく、様子がおかしく首をかしげます。


「ビアード嬢、」


呼ばれる声に思い出しました。

間違えました。腕の拘束も解けているので、慌てて体を離します。


「ごめん。俺、寝ぼけて」


赤面して額を抑えて気まずい顔をするリオに頭を下げます。


「マール様、失礼しました。」

「俺、君に・・・」

「何もありませんでした。気にしないでください。そろそろ失礼しますわ」


笑顔を作って慌てて読みかけの本を片付けます。今世のリオも本当に令嬢達に人気がありますわね。寝ぼけて口づけるなんて、相当ですわ。生前の初めての口づけも慣れてましたものね。色々と複雑ですが別人でしたわ。恋人と間違えて優しい笑みを浮かべただけ。血縁関係のない私には向けられる理由はありませんもの。


「手伝うよ」


抱えている本を顔の赤いリオに取り上げられました。


「ありがとうございます」

「ビアード嬢、リオでいいよ」

「はい?」

「様もいらない。」


名前で呼んでいいということですか??リオを名前で呼ぶなんてできません。今の私とリオは無関係で誤解を生みます。

周りにいる令嬢達にも言ってるんでしょうね・・・。家格の低い私は従うべきですが、無礼を承知で口にしましょう。リオを名前で呼ぶなど厄介事しかありませんわ。


「恐れながら私にはマール様を名前で呼ぶ権利はありません。お気遣い不要です。今日はありがとうございました。」


本は片付け終わったので返事を聞く前に礼をして退室し、馬車に乗り学園に戻りました。無礼ですが抗議があれば対応しましょう。

好奇心に負けてしまいましたがこれからは誘惑に負けないようにしましょう。本よりも関わらないほうが大事ですもの。でもマールの広くて種類豊富な書庫が羨ましい。

エイベルの部屋を訪ねると殿下のお側に控えっているのでまだ戻っていません。しばらく待っていると戻ってきたエイベルに勢いよく抱きつきます。

一番欲しい腕はありませんがエイベルの腕は優しく温かいです。一人ではなく必要としてもらえることがありがたい。乱暴に頭を撫でられて満足したので、顔をあげてにっこり微笑みます。


「エイベル、私、やりましたわ」

「は?」

「詳細はこれからですが、ルーン公爵夫人に師事させていただけます。強くなってください。」


また頭を乱暴に撫でられました。喜んでいるんでしょう。エイベルは素直ではないので言葉には出しません。


「ご褒美に訓練場の泉を予約してくださいませんか?一人でいいです。久しぶりに水魔法を思いっきり使いたいです」

「迎えに行くから声をかけたら、上がってこいよ」

「はい。ありがとうございます」


水に潜りたいです。精霊は求めてはいけないと思います。それでも生前契約したデイーネに会いたいです。

以前、契約した場所にはいませんでした。ルーンの血筋ではないから会ってくれるかわかりませんが。

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