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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
学園編 一年生

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兄の苦労日記17 

妹は海の皇国から帰国した最初の休養日に、ビアード領に帰宅したらしい。懸念事項があるので念のため追いかけるか。

ビアード公爵邸に帰ると、妹は訓練に向かったらしい。帰国後も多忙そうだったが、そろそろ体力の限界で倒れたりしないよな・・?

訓練場に行くと張り詰めた空気で支配され妹は訓練場でマオの背に庇われている。

張り詰めた空気の理由は孤児院を抜け出した元侍女リアナが妹を侮辱している所為か。ハクに会えないのは妹の所為か・・。つい最近までコクーンに夢中だったのに、女という生き物はよくわからない。よくわめくリアナにロキとステラとフィルが応戦し、妹だけが悲痛な顔を浮かべている。あいつのお人好しはどうにかならないだろうか。どこに悲しむ要素があるんだよ。

騎士達の視線が冷え殺気が出てきた。ビアードの本拠地でビアード公爵家への侮辱は自殺行為。血気盛んな騎士に斬られても、文句は言えない状況だ。

ビアードから出て行きたいなら俺としてはありがたいから口を挟むか。


「俺は散々意思を確認した。父上も。親が生きてるのに親元を離れることについて。帰省を勧めても拒否したのはお前だ。ルメラ領に帰るなら手続きをしてやるよ。」


妹が俺に気付いて力なく笑う。リアナに睨まれるが別になんとも思わない。


「絶対に許さない」

「私も許しません。レティシア様への不敬を」


ステラも珍しく怒っているな。

さっさと帰すか。うちとしても危ない領民は抱えていたくないし引き留める理由も一切ない。


「荷物を纏めろ。送ってやるよ」

「こっちから出ていくわ。なにがビアード公爵家よ。ビアードがいるから豊かな生活がおくれる?バカみたい。なにが豊かよ。勝手に庇護して、偉そうに。ただ運が良かっただけじゃない。」



教育しても無駄だったな。俺達も望まぬものを庇護する気はない。貴族の家に産まれることを運が良いか。俺達が背負っているもののカケラもわからないんだろうな。平民だから仕方ないか。

心を傾けて、世話をして一方的に責められ悲しむ妹の様子を見た周りの空気がさらに冷たくなったな。うちの訓練場では妹と母上を傷つけたら重罪と父上が公言している。そして騎士達も妹を溺愛している。


「レティシア行くぞ。相手にするだけ無駄だ」


動かない妹の肩を抱いて、無理矢理歩かせる。


「エイベル、後悔するわ。貴方は報われない。国で一番の騎士になれない。」


お前に何を言われても気にしないし国の一番の騎士も目指していない。

妹が俺の手を振り払い踵を返し、頭のおかしい女の前に立った。


「リアナ、エイベルは立派な騎士です。いずれ公爵を継ぎ、国の要になりますわ」

「リオとエドワードには敵わないわ」


蔑んだ顔を向けられた妹が睨み返している。悲痛な顔とは別人だ。


「武術の腕が全てではありません。騎士が慕って、追いかけたいと思うのはエイベルです。私は二人にエイベルが勝てないとは思えませんが」

「レティシアは見届けられない。貴方の未来は死だもの」


死?頭のおかしい女の言葉に空気が凍る。


「私が死んでもエイベルは立派なビアード公爵になります。王家の剣になりますわ。うちの騎士達は優秀です。エイベルを支えて、王国を守ります」


妹よ、それは否定しろよ。


「絶対に許さないわ。一番不幸にしてあげる。ハクを奪った貴方を許さない」


妹は勢いよく立ち去った頭のおかしい女の背中を悲痛な表情で見つめている。

ステラに一緒に過ごせないことを謝罪してるけど、お前が送るのか!?あんなに言われて?

ステラとフィルも同行するのか。妹が行くなら二人が一緒のほうがいいか。落ち込んでるし・・。

俺の同行に驚く妹には危機感がないのだろうか・・。頭のおかしい奴に近づいてほしくないという俺の願いは届かない。

妹が着替えて支度を整えている間に両親には報告する。俺に一任されているけど、他領に関わる案件なので念のため。案の定母上からは「任せる」、父上からは「レティへの危害を加えるなら好きに使え」と言われ必要ならビアードの力を使っていいと許可が出た。

フィルには護衛騎士の制服を、ステラは侍女の服を貸してほしいと言うので用意した。この二人の考えはわからないがビアードや妹の害になることはしないからいいか。


「エイベル様、俺も行きたいです」

「坊ちゃん、是非経験に」

執事長の勧めもありロキの同行を許す。お気に入りの執事教育に必要なんだろう。妹はロキを心配そうに見ているが、ステラ達が気を逸らした。

孤児院に行くと、リアナが荷物を抱えて出てきた。

無言で睨まれたのでマナに対応を任せ馬車に乗せた。


「レティシア、俺達と乗ろう」

「ロキを」

「お嬢様、俺はエイベル様と乗ります」

「マナを同乗させる。お前がこっちに乗るなら留守番だ」

「わかりました」


フィルが不服そうなレティシアの肩を抱いて無理矢理馬車に乗せている。空気の読める良い友人を持ったと思う。

馬車の中は誰も無言だった。睨まれても声を掛けるつもりはない。頭のおかしいやつの相手をするのは無駄だ。

ルメラ男爵邸に着き馬車が止まり、立ち上がる。


「レティシアは不幸を呼ぶわ」


敵意の籠った言葉にさえ相手をする気は起きない。


「お前という不幸を呼んだ。俺はお前を許さない」


ロキはまだ子供だから仕方ないか。害のある者への関わり方はそのうち教えられるだろう。俺が口出すほどじゃない。必要ならマナが教えるだろうし。


「一緒に落ちればいいわ」


馬車を降りようとするリアナをマナに取り押さえさせる。

リアナと睨み合っているロキを連れて馬車を降りる。俺もさっさと離れたいけど、手続きがいるんだよ。

まだロキには相手をしないということは難しいか・・・。子供だから仕方ない。


顔の強張っている男爵夫妻と面会した。

挨拶を終えると妹は突然男爵夫人に治癒魔法をかけはじめる。確かに顔色は悪かったが、お前がここまでする必要あんの?

目的を忘れた妹にかわり、ルメラ男爵に事情を説明をする。

リアナをビアード領でいかに丁重に扱ったか話した上、本人の希望で送ってきたことを。男爵は顔を引きつらせた笑顔を浮かべ頷く。まさかビアード公爵家の俺と妹が自ら送りにくるとは思わないよな。普通なら必要な書類を本人に持たせ自力で帰り手続きさせるけど、あとで文句を言われたら面倒だから。単なる平民の移民をここまで丁重に扱うのは初めてだろう。

手続きは終えたので、ルメラ男爵夫人にいつでも治癒魔法をかけに伺うと話している妹を回収して出て行く。男爵夫人の病を心配するのは俺達の役目ではない。あとで言い聞かせるか・・。


リアナを家に送り届けると馬車から降りて、家の中に入った。扉を閉められ出てくる様子はない。礼も言わないらしい。妹は母親に説明できないと頭を抱えている。騎士に見張りを命じさせて、侍従に説明を任せ宿に行くか。ステラ達に誘導され妹は馬車に乗り込んだ。食事の時には表情が明るくなったが食事量が減っている。

翌朝、妹は起きてこなかった。疲労の溜まっている妹はそのまま休ませるようにマナに命じる。

侍従が戻らないので、様子を見に行くとまだ説明が終わってないらしい。力づくでもいいんだけど一度だけ正攻法でいくか。


「ビアード公爵家の者です」


昨日の呼びかけは無視されたのに、呆気ないほど簡単に扉が開いた。これが洗脳された母親か。


「リアナを迎えに?」

「説明に伺いました」


俺の顔をうっとりと見つめる母親に説明をして書類にサインをさせて、侍女の給金を渡す。


「リアナは連れていかないんですか!?」

「送り届けにきただけです」

「紳士ですね。いつでもお待ちしてます」


期待した顔をする母親は相手にせず、家を出た。母親も話が通じないらしい。

宿に戻りしばらくすると妹が起きたので食事をさせる。

ステラとフィルとロキはやりたいことがあるのでレティシアと先に帰れと書置きを残して出かけていた。フィルがいるから危険はないだろう。

妹に帰ることを話すと謝罪してないと言い出した。妹が謝罪するのは俺の忠告を無視したことくらいだ。説得すると、とんでもないことを呟いた。


「エイベルはリアナにイチコロされなかったんですね」

「そこまで趣味は悪くない」

「ご迷惑をおかけしました」

「これに反省したら、俺の忠告を聞け」

「善処します。どうしてハク様はうちにリアナがいることをわかったんでしょうか。ハク様は貴族ではなく旅人でしょうか・・・・」

「もう終わったことだ」


考え込んでいる妹の手を引いて馬車に乗せる。


「エイベル、風の天才ルーン公爵夫人に師事しますか?」


思考の海から戻ってきた妹の言葉に視線を向けると真剣な顔をしている。


「は?」


「私、お茶会で仲良くなってお願いしてみます。」


妹は俺を強くしようとしているのか?怪しい女の妄言を本気にしたんだろうか・・。


「気にしているのか?」

「エイベルの努力が報われないなんて許せません。見返します。エイベルへの無礼な言葉は後悔させます」


妹の眉間に皺がよせて不機嫌な顔をしている。ここまで怒るのは珍しい。


「お前は他に気になることはなかったのか?」


はいとうなずく妹は自分の死より俺のことを怒ってんのか。妄言なんて信じないが妹と一緒にいて不幸になるなら一緒に落ちてやるよ。

頭を乱暴に撫でるといつもの顔に戻る。

せっかくだから妹の心意気を受け取るか。


「お前は見学。一緒に訓練を受けたりしないか?」

「私はお邪魔になりますので。エイベルが倒れてもいいように側で見学してますわ。私のお兄様は国で一番の騎士になりますわ。お父様達も説得します。」


妹が参加しないならいい。倒れる前提に突っ込みたいけど、やる気に満ちた妹に言うのは気が引けた。それに沈んだ顔をされるより今の顔のほうが全然いい。


「任せるよ」

「帰りましょう」


すでに馬車は進んでるけど突っ込むのはやめた。妹は思考の海にまた潜っている。とりあえずうちの領から災厄が去ったことに安堵した。

父上がまだいるなら訓練してもらうか。

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