第二十七話 前編 失策
休養日なのでビアード公爵邸に帰りました。
ウォントは騎士よりもローナの側にいられる執事の仕事を覚えています。ローナと穏やかに話す様子に安心しました。使用人達からも不満は聞こえないので、うまくやってるようで一安心です。ウォントが元気になり、出会った頃とは違う明るい笑顔に笑みが零れます。
今日は社交の予定はないので、疎かだった訓練に時間を使います。
私は訓練着に着替えて、訓練場に向かう途中にステラを見つけたので手を振ります。
お泊りしたいとお願いされたので、歓迎しました。
ルーン公爵令嬢時代はお友達が泊まりにくることがなかったので新鮮です。生前は親友のセリアの家にお泊まりして一緒に眠っていたことが懐かしいです。
ステラが愛らしい笑顔でこちらに手を振り返しました。
「ルリ!!どういうこと!?」
甲高い声に視線を向けるとリアナが勢いよく駆け寄ってきました。護衛騎士が前に出て背中に庇われます。
「お嬢様、危険です」
護衛騎士のマオは私をリアナの前に出す気はないようです。危険・・?
護衛騎士の指示にはきちんと従うようにビアード公爵夫妻に厳しく言われています。
眉を吊り上げたリアナに睨まれて、無礼を承知でマオを挟んで話を聞きましょう。
「どうされました?」
「ハクがもう会えないって!!」
「え?」
「もう会えないから忘れて欲しいって。どうしてくれるの!?私は貴方を信じたのに。やりたくもない侍女になって、孤児の世話を手伝って。私は貴方を信じて、それなのに」
興奮してます。
耳に響く甲高い声で勢いよく話され、頭がついていかず、理解が追いつきません。
「ハクに会わせてくれないし、ハクが」
「無礼です。公爵令嬢のレティシア様への態度をわきまえてください。ふられた理由をレティシア様のせいにするなんて見苦しいです。自分に魅力がなかっただけですわ。」
この声は、ステラ!?
いつの間にかステラがリアナと向き合っています。
あんな強気なステラは初めて見ます。
「違う!!悪いのはレティシアよ!!だってレティシアは邪魔する悪役だもの」
「ならどうして、レティシア様の手を取ったんですか?レティシア様が貴方にこの生活を強制しましたか?自分で決めたなら自己責任ですわ」
「貴方に何がわかるのよ!?」
「わかりません。ですが非常識なのは貴方です」
ステラがリアナと口論を始めました。保護したほうがいいでしょうか・・。
近づいてきたフィルと目が合いました。笑ってるからなんとかしてくれるんでしょうか。せめてステラの保護をお願いしますと視線を向けると頷いてくれました。
「レティシアは忙しいんだよ。それなのに、お前のハク探しに付き合ってたんだ。学園の名簿調べて、同じ髪色のやつを探して。お前はレティシアのために何をした?」
フィル!?違います。おさめてほしかったのに。そのバカにした顔で挑発しないでくださいませ。今は遊んでる場合ではありませんよ。周りの騎士達の視線が集まってます。訓練場で騒いだら迷惑ですよね。心置きなく訓練に取りくめるように環境を作るべきビアード公爵令嬢が邪魔をして申し訳ありませんと謝罪する雰囲気ではありませんわ。
「なんで私を責めるのよ!?」
「お嬢様の優しさに甘えて、何もしないで願いが叶うわけない」
声を荒げて顔を赤くして怒っているリアナにバカにした顔のフィルと笑顔のステラ。
ちょっと待ってください。聞き覚えのある声に視線を向けると・・・。
ロキもいつからいたんですか!?
仲が悪いことは知ってましたよ。今のリアナは危険だから喧嘩したら危ないですわ。ロキを抱き寄せ保護しようとしたらすでにいなくフィルの隣にいます。
「先に言い出したのはレティシアよ。私は騙されて」
ロキとフィルとステラとリアナが喧嘩してます。
激しい口論に口を挟めません。1対3でも負けないリアナが凄いですが感心している場合ではありません。白熱していて止まらないのでもう、魔法で眠らせましょう。
「俺は散々意思を確認した。父上も。親が生きてるのに親元を離れることについて。帰省を拒否したのはお前だ。ルメラ領に帰るなら手続きをしてやるよ」
学園にいるはずのエイベルの声に魔法の発動をやめました。帰ってくるなら教えてくれれば、一緒に帰ったのに。現実逃避している場合ではありませんわ。
「絶対に許さない」
リアナがエイベルを睨んでいます。
「私も許しません。レティシア様への不敬を。」
ステラの様子がおかしいです。
「荷物を纏めろ。送ってやるよ」
「こっちから出ていくわ。なにがビアード公爵家よ。ビアードがいるから豊かな生活がおくれる?バカみたい。なにが豊かよ。勝手に庇護して、偉そうに。ただ運が良かっただけじゃない。」
リアナにとってここでの生活は嫌だったんでしょうか・・。もう少し気にかけてあげたほうが良かったかな?不穏な報告もなかったので海の皇国への準備を優先してましたわ。
「レティシア行くぞ。相手にするだけ無駄だ」
エイベルに肩を抱かれました。本人が帰りたいなら止める権利はありません。
「エイベル、後悔するわ。貴方は報われない。国で一番の騎士になれない。」
聞き捨てならない言葉にエイベルの手を振り解いてリアナの方に振り返ります。
「リアナ、エイベルは立派な騎士です。いずれ公爵を継ぎ、国の要になりますわ」
「リオとエドワードには敵わないわ」
生前は確かに二人の方が強かったです。でも今世はわかりません。私はエイベルが毎日訓練して、努力していることを知っています。
「武術の腕が全てではありません。騎士が慕って、追いかけたいと思うのはエイベルです。私は二人にエイベルが勝てないとは思えませんが。」
「レティシアは見届けられない。貴方の未来は死だもの。」
確かに一度目の人生は15歳で死にましたし、二度目はよくわかりません。潔い死さえ迎えられれば怖くありません。フラン王国の公爵令嬢はいつでも命を捧げる心構えは教え込まれます。教わったのは生前でアリア様からですけど・・。
「私が死んでもエイベルはいずれビアード公爵になり立派な王家の剣になりますわ。うちの優秀な騎士達はエイベルを支えて、王国を守ります」
「絶対に許さないわ。一番不幸にしてあげる。ハクを奪った貴方を許さない」
リアナが勢いよく踵を返し立ち去っていきました。洗脳されなければと思いましたが無理でした。やはり彼女は私の話を聞いてくれません。そして妄想の世界に囚われていますわ。
ここに連れてきたのは私なので、きちんと私が送り届けましょう。
「ステラ、ごめんなさい。私は今日はリアナを送らないといけません」
「ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「え?」
「お嬢様、俺も行きたい」
「二人ともリアナを送って、男爵夫妻にお話するだけですわ。楽しいことなどありません」
「お泊まりの許可をいただいてます。お邪魔はしませんので、視察のお話を聞かせてください」
「護衛なら俺がしてやるよ」
「フィルも行くんですか?」
「たまには遊びに行こうぜ。最近、忙しかっただろうが」
三人は楽しそうに話してますが、ルメラ男爵領は楽しい場所ではありません。観光地もありません。
「エイベル、どうしよう」
「馬車で出かけて一泊するか。」
「わかりました。お父様にお願いしてきます。エイベル、ありがとうございました」
「俺も行くけど」
「はい?私、謝罪して参りますわ」
「俺がいないと領から出られないと思うが」
「お兄様が一緒で心強いです」
騒がしたことを騎士達に謝罪をして、ルメラ領に行く準備をはじめました。ビアード公爵はエイベルと一緒ならと許可をくださいました。
リアナのことは気にしなくて良いと笑顔で許してくださいました。散々振り回したのに懐の広い方です。ルーンなら反省会がおこり、私の手落ちに叱責がありましたわ・・。
私はステラとフィルと同じ馬車に、リアナはロキとエイベルと一緒の馬車に乗ってます。リアナは不服そうに睨んで馬車に乗ってましたがロキは大丈夫なんでしょうか。
「レティシア、エイベル様がいるから大丈夫だ」
「そうですわ。ロキもしっかりしてます。それにマナも乗ってますわ」
殿方の中に女性を一人はまずいのでマナを同乗させました。きっとマナなら上手くやりますわ。私のマナは優秀ですもの。マナだけが頼りだからロキをお願いしますよ。
「フィルはどうして護衛騎士の服を着たんですか?」
「エイベル様の着替えを借りるのは恐れ多いから」
「礼儀正しいフィルは久々ですわね」
「公爵令嬢に無礼はできないからな」
フィルとお友達になってから態度の違いに驚きました。気さくな様子は生前のクラム様を想い出して、懐かしい気持ちになりました。気さくなだけで全然似てませんけど。今世も中々楽しい時間を過ごしています。
「レティシア様、お勉強のためにルメラ男爵夫妻との話し合いに同席させてもらっても良いですか?」
「グレイ伯爵令嬢の同席はいけません」
「侍女の制服を借りてきました」
用意周到すぎるステラに噴き出して笑ってしまいました。
「わかりました。喧嘩はしないでください」
「はい。侍女の仕事も覚えてますのでお任せください」
愛らしく笑うステラは何を目指すんでしょうか・・。
「レティシア、ステラもお前には言われたくないからな。」
「心の中を読まないでください」
フィル達と話していたら楽しくて、気持ちが浮上してきました。
落ち込んで悩むのは後にしましょう。
久しぶりお友達とのお出かけを楽しみましょう。二人の希望に答えて海の皇国の土産話をしましょう。




