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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
第一章  幼少期編
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兄の苦労日記2

俺の妹のレティシアはようやく公爵令嬢の自覚が出てきたらしい。

風邪で寝込んで一度部屋を抜け出したがその後は大人しくベッドで過ごしていた。じっとしていることが苦手な妹が大人しくベッドで過ごすの心配した母上が熱が下がっても数日療養させていた。大人しくしている妹が薄気味悪かった。

何度診察を受けても医務官から心身共に異常がないと言われた妹は変わった。

まず医務官嫌いの妹がおとなしく診察を受ける光景も異常だ。いつもは魔法で眠らせて診察を受けさせていた。



勉強嫌いの妹が逃げずに授業を受けていたのでなにか企んでいると思ったが違うらしい。連日きちんと授業を受けている。悪戯もせずに、使用人達を困らせることはない。

野生児の豹変に両親は妹が公爵令嬢として自覚を持ったと喜んでいる。俺は甘すぎる両親にため息をついた。妹に説教しない毎日がくるとは思わなかった。


久しぶりに晩餐の時間に間に合った父上が母上と一緒に妹をデレデレした顔で褒めている。


「レティ、教師達が褒めていたよ。」

「最近は振る舞いも上品になって」


教師の評価はあてにならない。授業を逃げずに受けるだけで褒める教師達だ・・。

顔の緩んだ父と誇らしげに感動の涙を流す母の評価も甘すぎる。妹は曖昧に笑っている。最近は妹が見たことのない表情を浮かべるのは成長したということだろうか・・。

上機嫌な両親に甘やかされる妹は気にせず食事をしていた。俺は甘えん坊な妹が両親に甘えてるのに嫉妬するほど子供ではない。


「お母様、私は社交デビューよりもやりたいことがあります」

「なにかしら?」

「私にも武術を教えてください」


ありえない言葉に手からフォークが落ちた。

妹は無邪気に笑っている。

聞き間違いか?



「私、お兄様に勝てるようになりたいです。それにビアード公爵家の者が弱いなど許されませんわ」


俺!?

楽しそうな声で話す言葉がおかしい。聞き間違いであって欲しかった。

ビアードの歴史書を気に入ってずっと読んでいたから心境の変化があったんだろうか。心の強さは求めるけど、武術の腕を誰もお前には求めてない。


「レティ、いずれは嫁ぐんだ。強くならなくてもいい」

「私はお父様の命に従います。ただ嫁いでもビアード公爵本家の者として恥じないように、自分の身と臣下は守れるようになりたいですわ。」


堂々と言う妹は立派になったようだ。

違う。父上、負けないで。こいつに武術なんて無理だよ。


「ちゃんと、言うこと聞くんだよ」


「お父様大好きです。約束しますわ」


妹の満面の笑みに父上が負けた。

抱きついた妹を抱き上げてデレデレと笑っている。しばらくすると上機嫌な妹は母上と共に手を繋いで退室した。


「父上、本気ですか?」

「レティは可愛いな」


父上の緩んでいる顔にため息を堪える。


「父上、レティシアに武術は」


「自衛はできて損はない。レティが望むなら無理のない範囲でやらせよう。エイベルから見たら遊びに見えるだろうがな。それにビアード公爵令嬢として自覚が出たなら見守ってやりたい。時々気にかけてくれ。よもや妹に負けるなんてことはないだろうな」


父上の緩んだ顔が真顔にかわり圧をかけられている。ビアード公爵の顔になった。


「ありえません。妹に負けるなら訓練をさらに厳しくします。」

「さすがだな。レティはお前の背中を追いかけているから、励みなさい」


父上は情に流されたわけではないのか。父上が決めたなら俺は従うしかない。自由奔放な妹が俺の背中を追いかけているようには見えないけど。

父上が一戦見てくれるというので、久しぶりに指導を受けることにした。


***


朝食を終えると妹が飛び込んできた。


「お兄様、訓練着を貸してください」


いつもは俺の部屋に勝手に入り、自由に物を持って行く妹に訓練着を投げた。着替えるとサイズが合っていなかった。

ズボンを脱いでシャツだけ着て、腕をまくり腹をリボンで括っていた。くるりと回って頷きにっこり笑った。


「ありがとうございます。失礼します。ズボンはお返ししますわ」


出ていく妹を引き止めた。その格好で訓練はまずい。

侍従に頼み妹の体に合う訓練着を用意させ着替えさせた。好きにしろと何着か渡すと満面の笑みを向けられた。何か企んでるんだろうか。


妹の基礎訓練が始まった。訓練場を10周走るようだが、4周目にはスピードが落ち8周目にはフラフラと走っている。ようやく走り終えた妹は座り込み、丸くなって眠った。

指導騎士が真っ青になった。


「お嬢様!?」


騎士が途中で走るのをやめるようにすすめても、10周おえるまでやめなかった。眠っている妹を見て途方にくれる騎士の顔に苦笑した。父上から制裁を加えられないか心配しているんだろう。

ビアードでは母上と妹に危害を加えたら父上の報復を受けるのは常識だ。


「連れてく。咎めたりしない」


騎士が安堵の顔をした。妹を背負って部屋のベッドに寝かせると侍女のマナに笑われた。


「明日は筋肉痛ですね。午後のお勉強の時間まで休ませましょう」


翌日、全身筋肉痛の妹はさらにフラフラと訓練場を走っていた。

指導騎士が6周と言ったのに拒否して10周走ったらしい。指導騎士は妹の訓練メニューに頭を悩ませている。俺は訓練が終わって眠る妹を部屋まで運ぶ日課ができた。指導騎士の言うことを聞かないのは言い聞かせた方がいいんだろうか・・。2日でやめると思ったが飽きずに訓練している妹に正直驚いている。体力の限界に挑む妹に負けないように俺も頑張るか・・・。


***


父上は俺達に週に2日休みを作っている。最近は休みになると遊べとうるさい妹が全く来ないので訓練に集中できる。

妹は護衛騎士を連れて、外出しているらしい。ビアード領内に妹に手を出す者はいないから心配はしていない。

孤児院の子供と遊んだり、森に行ったり、楽しんでるようだ。門限には必ず帰るので昔ほど心配していない。

素振りをしていると寝ているはずの妹がいた。


「エイベル、お願いがあります。」

「そろそろ寝る時間だろうが」

「お兄様は訓練ばかりで、私の相手をしてくれません」


拗ねている妹の頭を撫でると嬉しそうに笑った。夜風にあたって風邪を引かせるわけにはいかないので、明日時間を作ると話すと満面の笑みを浮かべで屋敷に帰った。使用人達の言うように確かに最近の素直で聞き分けのいい妹は可愛い。


「坊ちゃん、そろそろ止めませんか?」

「最後に一戦だけ付き合え」


騎士と手合わせをして俺も休むことにした。

俺が知らない間に妹が門限を破って大騒ぎがおこっていたとは知らなかった。両親が注意したなら俺からは何も言わなくていいか。


***


約束通り妹を訪ねると、おねだりする顔を向けられた。俺は動じないけど妹に上目遣いで見つめられるとお願いを聞く使用人達が多い。


「お兄様、お願いがあります。私、ルメラ領に通いたいんです。お父様を説得してください」

「は?」

「お願いします。お兄様」


妹のお願いは予想をこえていた。ルメラ領は辺境地にあり特色もない。妹が興味を持つものがあるのだろうか。


「ルメラ領は遠いし、うちと交流がない」

「お友達になりたい可愛い子を見つけましたの」


目を輝かせた妹の言葉は、ありえないものだった。


「お前、行ったのか!?」


驚いた顔をしたあとニコっと笑った。その顔は効かないってわからないんだろうか。


「護衛を連れて行きましたわ。夢を見たんです。ルメラ領に素敵な子がいるって」


突っ込みたいところはあるけど、悪気が全くないのが問題だ。

まさかの行動範囲の広さにため息をついた。

今度、妹の外出先の報告書を出させるか。


「父上はビアード領内なら自由にと」


「え?」


「他領に行く許可は出ていない」


妹から表情が抜け落ちた。本気でわかってなかったのか。

ビアード領外に行くとは思わないから教えてなかった。


「そんな・・。お兄様、護衛騎士を怒らないで。お父様達に内緒にして。私が悪いんです。何も言わずに連れまわしたの」


妹を止めなかった職務怠慢な護衛騎士には注意をする。悪気もないし反省しているなら妹は今回だけは見逃してやるか。

ここまで反省した顔で懇願するのは初めてだし。


「うちの騎士はお前に甘いからな・・。これからは領を出る時は、父上達の許可を取るのを忘れるなよ」


「ルメラ領の少女とお友達になれた後は、必ずと約束しますわ」


前言撤回。反省してないなら俺は庇わない。


「報告してくる」


退室しようとすると手を掴まれ、じっと見つめられた。


「お兄様がお皿を割ったことお父様に言いますわ」


倉庫整理の時に献上品の皿を割って、証拠隠滅したのは誰も知らないはずである。しかも先月だ。


「なんで知ってる!?」

「お皿を埋めた場所もわかります」


父上に知られたらこの上なく面倒だ。父上に妹のことを報告に行くのはやめるけど、一人でルメラ領に行くのは危険だから諦めさせるか。

妹は最近はなぜか気配を消すのがうまい・・。長年の使用人達とのかくれんぼの経験の所為だろうか・・。


「なんで気配を消すの上手いんだよ・・。どうしても行きたいなら、旅行でも強請ればいい」

「お兄様、ルメラ領はなにもありません」

「友達が欲しいなら、茶会でも開けよ」

「貴族のお友達は面倒ですわ。」


お前はどんな友達を作る気なんだよ!!

自信満々に言う妹の言葉に頭を抱えたくなった。

妹の通り名を話すといじめられると怖がるフリをしている様子に思わず噴き出した。

好戦的な妹がやられっぱなしのわけはない。


「お前ならやり返すだろうが。」


妹が真剣な顔で俺を見上げて来た。


「お兄様は私に攻撃を向けることはありませんか?」


妹が突拍子もないことを言うのはいつものことだ。


「妹だからな。バカなことしたら叩くけどな」

「約束ですよ」

「バカなことはやめろよ。」


頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じる妹は猫のようだ。ルメラ領のことは諦めたな。成長して多少は令嬢らしくなっても、やっぱり手のかかる妹だった。


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