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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
学園編 一年生

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第十九話 新学期

リアナは孤児院で生活していただいています。無邪気な子供達に囲まれて、人間性が育つのを祈るばかりです。

長期休みが終わり学園での生活がはじまりました。休み明けの賑やかな学園は浮かれる生徒の取り締まりが増え、生徒会の仕事もあり慌ただしい時間を送っています。エイベルの部屋で宿題をしながら、書類を睨んでいる顔に問いかけます。


「エイベル、海の皇国に遊びに行って来て良いですか?」

「父上の許可が出たらな」

「意地悪」

「遊びに行く距離じゃないだろうが!!風邪で寝込んだからまた外出許可が遠のいたな」


書類と睨んでいる間なら、頷いてくれると思ったんですが駄目ですわ。私は休みの最後の週に熱が出て寝込んでしまい今世の両親を心配させました。ビアード公爵は過保護なのか放任なのかいまいち掴めません。


「お父様は訓練と外出許可だけは厳しいです」

「愛娘だから仕方ないだろうが」


海の皇国行きをエイベルに説得してもらうのは諦めました。嫡男の意見なら令嬢よりも発言権が強いので、もしもと思いましたが。

もう一つの面倒なことについて確認しましょう。毎朝、下駄箱に置かれた手紙を見てため息を飲み込む悲しい日課ができました。


「エイベル、殿方からお手紙をたくさんいただくんですが、お父様に勝ち婿入りしてくださるなら婚約するって言ってもいいでしょうか?」

「俺が話をつけようか?」


エイベルが書類から顔を上げました。話をつけるってに対処できるんでしょうか?一時期令嬢に追いかけられ困っていたエイベルには無理でしょうが気持ちだけありがたく受け取っておきましょう。エイベルがこの手紙の主の中から婿候補を探せというなら動きましたが興味なさそうです。それなら躊躇いなくお断りしましょう。エイベルに認められない婿は認められないので。ビアードの後ろ盾が欲しい子息も多いので平等の学園で良縁探しをする理由はよくわかるんですがビアードの意が優先ですわ。


「今度からはお兄様の御眼鏡に適う方がいれば婚約しますって言いますわ」

「しつこいやつは知らせろ。危害を加えられたらその笛を吹け」


もしかして話をつけるって物理ですか?私は子供に遅れをとったりしませんよ。眉間にしわを寄せるエイベルにニッコリ笑いかけます。


「生徒会の職権乱用ですわ」

「問題ない」

「わかりましたわ」


真面目で曲がったことが嫌いなのに堂々と職権乱用を勧める兄を悩ませる書類を取り上げます。宿題も終わりましたし、エイベルの苦手な書類仕事を片付けましょう。いつの世もエイベルの書類仕事が苦手なのは変わりません。

学園の名簿を見てもリアナの好きなハクの名前はありませんでした。やはり偽名でしょうか・・。ハク様の容姿と同じ色を持つ候補者も多すぎて声を掛けるのは諦めました。全然うまくいきませんわ。


***


本を抱えて図書室に向かいます。長期休明けなので、たくさん借りすぎましたわ。前が見えないから気をつけてゆっくりと足を進めます。


「レティシア様、持ちますよ」


聞き覚えのある声に足を止めると、手が軽くなりました。

ティック・コクーン伯爵令息はエイベルのクラスメイトでターナー伯爵家で会ってからは、うちにも時々訓練に来ています。


「コクーン様、すみません」

「ビアード公爵家にはお世話になってますから」


お言葉に甘えて図書室まで運んでもらうことにしました。笑顔で隣を歩くコクーン様は強引なところもあるので従うほうが楽なのです。ただエイベルとはあまり仲がよくありません。


「王都に美味しいケーキの店が出来たんです。よければ行きませんか?」

「申しわけありません。私はお父様から外出許可がありません」

「では、ビアード公爵家に訪ねる時にお持ちします」

「ありがとうございます。エイベルは甘くないものでお願いします」

「かしこまりました」


コクーン様はよく差し入れをくださいます。最初は遠慮してたんですが押しに負けて、ありがたく受け取ることにしました。コクーン様の差し入れは珍しいお菓子をいただけるので、楽しみです。

コクーン様のおすすめの本を借りて寮に送っていただきました。強引な所を除けば読書好きで物腰柔らかで紳士な方で、エイベルとは正反対なので相性が悪いんですかね。


***


登校するとカーチス様に必死な形相で肩に手を置かれて詰め寄られました。


「ビアード、頼む。この書類をマール様に届けてほしい。昨日までって言われてて、俺、日直なんだよ」

「わかりました」


リオに関わりたくありませんが、困っているクラスメイトは放っておけません。昨日までってすでに期限が過ぎてるような・・・。深く考えるのはやめまよう。

心底安堵の笑みを見せたカーチス様から書類を受け取りリオの教室を目指しました。生前の友人だった時にニコル様のお説教が終わった時に見せるお顔とそっくりだったので笑いたくなるのを我慢しました。リオはそんなに厳しい指導をしてるんでしょうか・・。あんまり厳しい指導をしている姿は想像できませんが。ぼんやりしていると教室に着きましたが見渡してもリオはいません。リオのお友達のサイラス様がいるので預けましょう。


「おはようございます。サイラス様」

「おはよう。どうしたの?」

「マール様にお渡しする書類を持ってきたんですが、いらっしゃらないようなので」

「もう少しで来るから待ってて」

「はい?」


笑顔で言われた言葉に落胆を隠して穏やかな顔を作ります。渡してくれないんですか・・。

優しくて気の利くサイラス様ならきっとと期待しましたのに。

肩を叩かれて振り向くとエイベルのお友達のソート・グール侯爵令息がいました。学年が違うはずですがサイラス様に会いに来たんでしょうかね。


「レティシア、珍しいな、どうした?」

「生徒会の書類をマール様に」

「渡してやるよ」

「ありがとうございます。」


思わぬ救いの言葉に、にっこり笑ってソート様に書類を渡しました。エイベルと違って気遣い上手ですわ。


「ビアード領はいつ帰るんだ?」

「次の休みに」

「手合わせ付き合ってやるよ」


ソート様も面倒見がよく訓練にも快く付き合ってくれます。

二カッと男らしく笑うソート様に勝気に笑い返します。


「ありがとうございます。打倒お兄様です」

「エイベルは強いからな」

「エイベルは帰らないので、秘密の特訓ですわ。私、そろそろ失礼します。また」


手を振るソート様に礼をして立ち去ろうとするとサイラス様に腕を掴まれました。


「レティシア嬢、なんでリオが苦手なの?」


サイラス様の言葉に驚きますがどうして知られてるんでしょうか。聞き耳を立てている方々もいるのでサイラス様にだけ聞こえるように耳元で囁きます。


「私はご令嬢に人気のある殿方はお兄様以外は苦手なんです。」

「え?」


戸惑うサイラス様には申しわけないですが、視線が集まっているので付き合っていただきましょう。年若い令嬢らしい恥じらいの表情を浮かべます。


「サイラス様、家格の高いマール様ですと私は緊張してしまいます。礼儀をわきまえておりますが、ご忠告ありがとうございます。マール様のご気分を害さないようにビアード公爵令嬢としてさらに精進致しますわ。失礼します」


サイラス様の手が離れたので礼をして立ち去りました。令嬢に人気のある殿方とは関わらないと決めています。それに今世のリオは特別苦手です。これで聞き耳を立てている生徒から誤解を招かないでしょう。公爵令嬢は好き嫌いを表現するのは許されませんので。特に家格の高い相手へは。

カーチス様のおかげで朝から疲れましたが、リオに会わなかったので運が良かったと思い教室に戻り愛らしいステラの笑みに癒され、フィルの楽しい話に笑みが零れました。気分が浮上したので、授業の用意を始めましょう。


***


お昼休みになり、廊下から歓声が聞こえますが学園では日常茶飯事なので気にせずステラと一緒に食事をします。


「レティシア様、後ろに」


振り向くと書類を持ったリオがいました。


「今朝は悪かった」


書類を届けただけなので、謝られても困ります。視線を集めているので、できれば関わらないで欲しいですわ。


「いえ。気にしないでください。」

「カーチスはいないのか?」


リオとカーチス様はどうしていつもタイミングが合わないんでしょうか。


「食堂でしょうか。ご用があるなら承ります」

「書類の訂正を」


リオの持っている書類を覗き込むと書き方が間違っているため、残念ながらやり直しです。


「私が説明しますよ。放課後に提出すればいいでしょうか?」


リオの顔が赤いのでそっと額に手を当てると熱はありません。


「マール様、書類は私が預かりますわ。お疲れなら休んでくださいませ」

「あ、いや、俺の仕事だから」

「恐れながら、無理してまでする仕事ではありません。昼休みがなくなるので戻ってお食事してお休みくださいませ」


カーチス様を待ち、立ち去る様子のない後輩指導に熱心なリオの頑固さにため息を飲み込みます。

同じ1年生の私がカーチス様に指導できるか不安なんでしょう。それなら他の先輩に任せればいいのにという苦言も飲み込みます。関わりたくありませんが、殿下のために後輩を鍛えるために無理する姿を見たら放ってはおけません。リオはまだ子供なので仕方ありませんわ。リオの殿下への忠誠心にビアード公爵令嬢として敬意を示しましょう。


「マナ、マール様にお食事を用意して。フィル、カーチス様を呼んで来てください。好きな物を作ってあげますから、行ってらっしゃい」


立ち上がったフィルがカーチス様を呼びにいっている間にリオに食事をさせましょう。

マナが席をすすめて食事を配膳し、戸惑うリオに笑顔で圧力をかけます。確かにいつもしっかり食事をするマール公爵家のリオからすれば簡素なサンドイッチは不服かもしれません。


「恐れながら人の食事にうるさくお説教したいならしっかり食べてください。マナの食事は栄養もあり美味しいですよ」

「え?」


手を付ける様子がないのでサンドイッチをリオの口の中に押し込むとようやく食べ始めました。手がかかります。そういえば今日のおやつはチョコケーキだったので鞄から取り出します。


「あげます。好物でも食べて休んでください」

「なんで」


リオの前にチョコケーキを置きます。


「レティシア、連れてきたよ。俺の分は?」


フィルがリオの前のチョコケーキを見つけて恨めしそうに睨んできます。お昼が足りなかったんでしょうか。


「ありますよ。おやつの時間に渡してほしいって言うから持ってましたの。放課後、ステラとお茶をしますが、来ますか?」

「菓子は?」

「ステラの好きな物です。」

「贔屓がすぎる」


不服そうなフィルの顔に笑ってしまいます。意地悪はやめましょう。


「チーズケーキも焼きました」

「嫁にくるならもらってやるよ」

「婿入りでないならお断りです」


「マール様、申しわけありません」

「ああ、ビアード嬢、ご馳走様」


フィルとのふざけ合いをやめて礼をします。

リオは立ち上がりチョコケーキを持ってカーチス様の元に行きました。不機嫌そうな顔は、失礼がすぎたからでしょうか。体調が戻って苦言を言われたら謝罪しましょう。教室に生徒が少なかったのは不幸中の幸いです。今日は生徒会が休みなので放課後はステラとフィルとお茶会です。実は考え込んでいたらお菓子が大量にできていました。エイベルの部屋の中を甘い匂いで充満させたので怒られました。リオのことは気にせず授業の準備を始めましょう。リオと向き合う顔色の悪いカーチス様には気付かないフリをします。私は今世のリオには関わりたくなく機嫌の直し方もわからないのでサイラス様に相談してくださいと心の中で呟きます。


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