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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
学園編 一年生

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兄の苦労日記14 

妹が怪しい侍女を連れてきたことをのぞけば平穏な時間が流れていた。


「お兄様、遠乗りに行きたいです」


社交で忙しい妹の唯一の休みに頼まれ了承すると嬉しそうに笑う。両親は妹の社交を絶賛しているが評価はあてにならない。

遠乗りの希望場所はマール領の湖。妹は水場が好きだ。マール領は遠くなく魔物もほとんど出ないのなので、遠乗りとしては悪くない。風を感じることも好きな妹の馬の疾走に付き合いながら地図で示されたマール公爵領の森を目指した。険しい道もなく、魔物にも出遭わずすぐに着いた。

森の中で湖を見つけた妹の目が輝く。普通の湖にしか見えないがなにが見たかったんだろう・・。楽しそうだからいいか。

歩きたいと騒ぐので馬を繋いで何もない湖を散策する。

妹が祠を見つけて足を止める。うちの妹は祠を見つけると掃除して祈りを捧げる習慣を持っている。神殿にも頻繁に通い、信心深さも神官達の中では有名らしいが母上の話なので、事実は知らない。


「エイベル、風魔法で乾かしてください」


汚れが水で流され綺麗になった木で作られた小さい祠を風魔法で乾かすと妹がお菓子を備えて両手を組み、目を閉じて祈りを捧げる。妹の祈る姿は神秘的と騎士が騒いでいたが、よくわからない。祠が一瞬光り、菓子の上に白い丸い物体がある。


「鳥?」


祈り終えて、目を開けた妹が白い鳥?を抱きかかえて振り返って嬉しそうな顔をして俺を見つめる。

神託でも受けたのか?躊躇なく触るけど平気なのか?


「エイベル、この子に魔力を送ってください。」


興奮している妹の勢いに負けて鳥に手を当てて、魔力を送る。白い鳥の瞼が上がり銀の瞳が見えたので魔力を送るのをやめる。魔物にしては綺麗な瞳をしている。


「助かった」


鳥が話した…。やはり魔物か?知能の高い魔物は言葉を理解する。


「良かったですわ」

「契約する?」


妹が抱いている鳥とニコニコと会話しているが、動揺している俺がおかしいのか?今までは鳥が話す声を聞こえなかった。幻聴か?


「エイベル、風の精霊様と契約したいですか?」


ニコニコしている妹が首を傾げているが、状況がわからない。風の精霊と契約?魔物ではなく?


「説明しろ」


妹はきょとんとして鳥に視線を落とす。


「精霊様、説明していただけますか?」

「僕は風の精霊。魔力が尽き果てて、祠で休んでたんだ。

誰かが来たら魔力を分けて貰おうかと待ってたんだけど、中々こなくて、もう消えちゃうかなって思ってたら、君の祈りが聞こえたの。

だから最後の力を振り絞って擬態したの。君の魔力は、すごいよ、量も、質も最高級!」

「精霊との契約は一生に一度です。ただ精霊に出会える機会は中々会えません。私が契約したいですが属性的にはエイベルの方がよろしいかと」


精霊?や妹に嘘をついてる様子はない。悪い予感もせず、顔は笑っているのに、いつもの気楽さが嘘のような、強さを宿した勝ち気な瞳で見上げられている。


「レティシア、悪いものではないのか?」

「ありえません。私が風の属性なら迷うことなく契約します。契約したら私の訓練にも精霊様を貸してください。」


風の精霊か。妹が俺に勧めるなら必要なものだよな。期待する顔をしている妹を見て、風の精霊と契約を結ぶことを決めた。精霊と契約すると一瞬全身が温かくなったが、すぐに収まる。契約しても、特には体に害はないようだ。

風の精霊のストームに頼めば、風を自由に操れる。妹と軽く魔法で手合わせをして、食事をして暗くなる前に馬に乗り帰路についた。

ビアード公爵邸に帰ると新しい侍女とロキが睨み合って玄関で喧嘩をしている。


「子供なのに生意気よ」


侍女はロキを睨んで、声を荒げている。子供だから生意気だし、お前に言われたくないだろう。


「俺は間違ってない。お嬢様の侍女にはなれない」

「ルリは侍女にしてくれるって」


まず、妹に敬称をつけろ、偽名で呼ぶな。指摘をされても変えず、一番うちの使用人に嫌われている理由だとわからないらしい。


「お嬢様を第一に考えないものがなれない。泣いて嫌なことから逃げるやつならまだナギのほうが役にたつ」


ロキが正論を言っている。妹が俺の腕を掴んで困惑した顔をしている。俺はあれは危険と言ったんだけど全く伝わらなかった妹の出来の悪さにため息をつく。いつまでもここで喧嘩をされても邪魔だ。


「何事だ」


「ルリ、ロキが」

「申しわけありませんでした」


俺の声に礼をするロキと妹に縋ろうとする新しい侍女の態度の違いに失笑する。ここまで酷いならビアードの制服は着せられない。


「エイベル、ロキを任せるわ。リアナ、お茶に付き合ってください。マナ、用意が出来たら二人で私の部屋に」


マナが新しい侍女を連れて行き、妹はロキに近づき、視線を合わせる。


「怒ってないわ。私のために怒ってくれてありがとうございます。ロキ、ただもう少し優しい言葉を覚えて欲しいわ。明日のお茶はロキに任せてもいい?」


ロキの言葉は正論だから・・。ただアレに何を言っても表情を変えなかったロキは妹の言葉に顔を曇らせ落ち込んでいる。


「お嬢様」

「内緒にしてね。私、ロキとマナのお茶が一番好きなんです。明日のお茶とお菓子を楽しみにしてるわ。」


妹はロキのフォローを忘れなかった。妹はロキとナギを可愛がっているから当然か。顔が明るくなり笑ったロキを連れて部屋に行く。


「ロキ、茶に付き合え」

「わかりました」


お茶を淹れたロキを向かいに座らせる。


「ありがとう」

「え?」

「正しいのはロキだよ。間違っているのはレティシアだ。喧嘩した場所は良くないけどな。次は本邸以外で大人のいる場所を選べ。あの侍女は人を利用するのが上手いから人目のない所では危険だから関わるなよ。」

「俺はお嬢様のお役にたってるでしょうか」


ロキは妹の役にたつことが一番らしい。不安そうなロキの頭を撫でる。


「感謝してるよ。俺もレティシアもロキに助けてもらっている。子供のお前に嫌な役目を頼んだけど、嫌になったら言ってくれ」

「エイベル様が信じて任せてくれたのが嬉しいです」


ロキは俺達に仕事を頼まれると喜ぶ。必死に役に立とうと努力する姿に両親さえも評価している。ロキは子供だけど、うちの立派な使用人だ。だから子供用のビアードの紋章入りの執事服を与えられている。執事長がいつの間にか特注で作らせていた。ビアードの紋章入りの制服を着るのは使用人をまとめる執事長に認められた者だけだ。


「レティシアはあの侍女以上にロキとナギのお願いに弱い。頼りにしている」

「お任せください」

「何かされたら教えろ。」

「はい」


一応、ロキにも護身術を仕込ませるかな。後で、執事長に本人とローナが希望するなら手配させるように命じるか。

茶を飲み終え片付けて礼をして去っていくロキの背中を見送る。本人が望むなら、いずれは使用人達を纏める執事長を目指せそうだ。

ロキが退室ししばらくすると執事長が訪ねてきた。


「坊ちゃん、お嬢様はリアナを孤児院にいれて、次年度学園に入学させるように手配してほしいと。時々お嬢様が勉強を見にいかれると」

「侍女はやめるのか」

「マナが荒れてました。お嬢様を睨みつけ不満をぶつけたようです。お嬢様が謝罪され、孤児院の件を提案し、お嬢様が孤児院で教育を受けるように説得されました」


あの侍女は自分の立場をわからないのか。妹は本気で見切りをつけてくれないだろうか。社交は優秀と聞くのに、どうしてこんなに出来が悪いんだろうか・・。


「学園に入るのは構わないが、うちやレティシアをあてにされるわけにはいかない。孤児院の監視と立場の違いの教育の手配を。あのままビアード領民として入学するのは恥だ。不適合なら試験に落とさせろ」

「かしこまりました」


妹の厄介な拾い物が公害でないことを祈るばかりだ。

洗脳と子供を理由に妹は許しているけど、あれは性格だろう。あの侍女の世界は自分が中心に回っている。子供って言うけど、妹とは同じ年なのにロキ達と同等の目で見る妹は大丈夫だろうか。でも孤児院なら妹に近づく機会は減るからいいか。

うちは子供へのステイ学園入学への支援として教師を手配し指導をしている。ただステイ学園の入学試験代をビアードで負担する代わりに、試験の前にビアードで面接と仮試験をする。

ビアード領民として相応しくないものを学園には送れない。日頃からビアード領民としての心得も教え込んでいるので、今の所不適合で落とした者はいない。

このままなら怪しい侍女が初めての不適合者になるだろう。


読んでいただきありがとうございます。


フラン王国では精霊を信仰していますが、見えないものとされています。

架空の神話のお話はたくさんありますが具体的に一般には伝わっていません。

精霊との契約については、伝承の世界の話です。その伝承も一部の者しかありません。

長い歴史の中で伝承は改竄され消えていき精霊について正しい知識があるのは精霊と出会えたものだけです。

レティシアが精霊の知識があるのは二度目の人生で出逢った風の精霊のフウタのおかげです。

エイベルが全く知らないのではなく、知っているレティシアが特殊です。



フラン王国で主流なのは術者の魔力を対価に精霊が魔法を行使する精霊魔法です。

レティシアが得意な魔石と魔法陣を使った魔法は精霊魔法とは系統が違うので、学園ではほぼ習いません。

生前の風の精霊フウタに教わったものと大量に読んだ魔導書から得た知識ばかりです。

エイベルは読書が得意ではないので、レティシアの本で読みましたの言い訳を信じます。


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