第十四話 生徒会の仕事
茶会が終わりしばらくすると生徒会室の緊張感にあふれる空気もなくなりました。
クロード殿下の不機嫌な冷たい空気から解放されて一安心です。
カトリーヌ様は私が茶会の空気を悪くしてしまったことを「気にしないで。よくやってくれたわ。ありがとう」と優しい言葉をかけてくれました。心が広く優しい方です。エイミー様も「よく演奏できたわ」と愛らしい笑顔で褒めてくれました。私は優しい先輩に恵まれて幸せです。
廊下から歓声が聞こえたので、また人気の殿方が来たんでしょう。令嬢達は歓声をあげるのが趣味でなので歓声は気にせず生活しています。
「ビアード嬢、カーチスを知らないか?」
リオの声に本から顔をあげました。できれば令嬢達の視線が怖いので話しかけないで欲しいのですが正直に言えないので令嬢モードの笑顔を作ります。教室にはいないので後ろの席に振り返ります。
「フィル、カーチス様は?」
「クラムは日直で先生に呼ばれた」
フィルは周りをよく見ているので頼りになります。お前が無頓着すぎるという言葉が頭をよぎりましたが気のせいでしょう。
「ありがとうございます。マール様、ご用があるなら承りますが」
「放課後、俺の部屋を訪ねるように伝えてほしい」
「かしこまりました」
「助かるよ。」
「いえ、授業の準備があるので失礼しますわ」
リオに物言いたげな目で見られてますが気にせず礼をして席を立ちました。授業の準備は特にないんですが、令嬢の視線が怖くこれ以上の会話は避けたいので逃げました。令嬢に人気のリオと関わるのは避けたいので必要最低限しか話したくありません。不敬になるので話しかけないで欲しいとは言えません。私は自分より高位のリオの発言を無視することはできませんので。平等の学園なので関係ないですが、そういうわけにはいきません。
リオが立ち去ったので席に戻るとカーチス様が教室に帰ってきました。
カーチス様に伝言を伝えると凝視されて笑われました。人気者のカーチス様とも距離を置きたいので笑みを浮かべて離れました。今のところは嫉妬に狂う令嬢達に敵意の視線を向けられていないのでありがたいですわ。
***
放課後は生徒会です。
学園には複数のクラブがあります。同じ目的を持つ生徒が集まり生徒会に申請すると結成されます。生前の私の後輩達は向上クラブを作って勉学に励んでいました。
私はクラブに資料配布の役目を承ってます。毎年生徒会役員が各クラブをまわって、規則や予算の説明をしながら配布します。生徒会は雑務が多く忙しいです。生前にお友達のセリア・シオンが生徒会役員になるのを断った理由がよくわかりましたわ。クロード殿下の頼みを断れるのは国の至宝の研究一族のシオン伯爵家の方だけだと思います。
「成り上がりの平民が。面の皮が厚すぎないか」
「金で爵位を買った家が」
聞き捨てならない言葉が聞こえる方に急いで足を進めます。
数人の男子生徒に囲まれている令嬢に見覚えがありますわ。
あれは生前のお友達のハンナですわ。ハンナがどうして令息達に絡まれているんでしょうか。
ハンナに手が伸ばされてるので足を速めます。
「どうされました」
「俺達は大事な話を・・。混ざるか?」
卑しい顔を向けられ、伸ばされる手を振り払います。
「令嬢への態度ではありませんわ。その手を離してください」
「俺達に逆らうと痛い目をみるが、俺は心が広いから優しく指導してやるよ」
私は自分より高位の生徒は覚えております。見覚えがないので私よりも下位ですわ。
「お戯れを」
「は?」
無礼な生徒に笑みを浮かべて生徒会証を見せます。
「生徒会です。」
「嘘だろ!?なんでこんなところに」
「黙らせればいいだけだ」
ニヤリと笑い振り上げられる拳を躱します。そんな遅くてぬるい攻撃は当たりません。
「私に手を出せば、ビアード公爵家が黙っていませんが覚悟はありますか?」
「減らず口を」
警告はしましたが意味はないようです。
攻撃を軽々とかわせますが、問題は大柄な3人相手に体術をかけられないことですわ。一人を抑える間に捕まります。せめて剣があれば・・。
「小賢しい。動いたら、こいつがどうなるか」
「大人しくするなら優しくしてやるよ」
もう怒られましょう。怯えるハンナの顔を見て決めました。ハンナに危害を加えるなんて許しません。
そして女性への態度でもありません。貴族でも平民でも同じですわ。フラン王国民なら最低限の礼儀はわきまえるべきですわ。ここは学びの場所ですから、人に危害を加えるなら、反撃される覚悟もありますよね。そして生徒会役員と上位貴族の警告を無視するなら教育的指導という名の報復を受けても当然ですわ。いくらでも表向きな理由は用意しますわ。一番は私の大事なハンナを傷つけようとした罪ですが。
卑しい笑顔に笑みを返し、魔力を纏います。
一気に男子生徒達を水魔法で拘束します。ハンナに手を出す前に沈めます。ハンナの腕を掴んだ方の拘束がきついのは自業自得ですよ。悲鳴が聞こえても拘束は緩めません。
「ビアード様!?後ろ」
後ろを向くと男子生徒がリオに拘束されてました。
棒で後ろから襲われるのは予想外でしたわ。油断していました。
「リオ、ありがとうございます。あとはお任せしてもよろしいですか?」
「怪我は!?」
「特には。」
「無事で良かったよ。次は先に救援を。反省文が出るだろうな。」
ほっとしているリオの頭を撫でる手も抱き寄せる仕草もないことで気付きました。このリオは別人でした。生前はいつもリオに任せていたので、間違えました。今の私は自分で対処しなければいけません。
「マール様、失礼しました。どう対処すればよろしいでしょうか」
リオが固まってます。無礼な態度を取った私がいけないので仕方ありません。それに油断してビアード公爵令嬢として失態を晒しました。でもリオよりも優先すべきはハンナですわ。叱責はあとで受けましょう。
「ハンナ様、怪我はありませんか?」
「はい。助けていただきありがとうございました」
「次からは一人での行動は控えてください。困ったら生徒会に。」
「ですが…」
「どんな事情があっても伯爵令嬢にはかわりありません。陛下に恥じないようにお心を強く持ってくださいませ」
「うちを認めてくださるんですか?」
下を向いたままポツリとこぼすハンナに笑みを浮かべます。
「当然です。国王陛下から爵位を与えられたら貴族の一員です。爵位を得るためには多大な尽力が必要です。古参も新興貴族も関係ありませんわ。派閥は違いますが、目指すべきものは同じです。同じ貴族として国のために頑張りましょう」
「あ、ありがとうございます」
「マール様、私は先に彼女を送ってもよろしいでしょうか?」
「ここは俺が任される。生徒会室で」
「かしこまりました。ハンナ様行きましょう」
私はリオに礼をしてハンナを送ることにしました。顔をあげない彼女はハンナ・イーガン伯爵令嬢。イーガン伯爵家は商家がお金で爵位を買ったので反感を持つ貴族が多いです。反感の理由は他にも色々あるんですが・・。だからといってハンナが傷つけられる理由にはなりません。そして、どんな形でも爵位があるなら貴族として差別するつもりもありません。貴族として相応しい姿であるかが一番です。
「もしお困りのことがあれば遠慮なく相談してください。生徒会としても同級生としても力になります」
「ありがとうございます」
ハンナを寮に送り、生徒会室に向かいました。
ハンナともお友達になりたいですがクラスも違いますし、イーガン伯爵家だと難しいです。イーガン伯爵は欲深い方なので、私がハンナと親しくすればハンナを利用します。寂しいですがハンナのために関わらないほうがいいですわ。ビアードの名前は偉大なので、付き合う方を選ばないといけません。武力のビアードの名前を利用する者は近くに置けません。利用されたら、報復しますが、それは私の望む平穏から遠ざかります。
生徒会室についてしまいました。
クロード殿下の顔を見るのが怖いです。
ノックをして入室許可が出たので、中に入って頭を下げました。
「申しわけありません。」
「頭をあげて。事情の説明を」
「ご令嬢に乱暴する男子生徒がいたので注意しました。生徒会やビアードの名を出しても止められず、武力行使されたので、魔法を使ってしまいました。私の体術の腕が弱いばかりに申しわけありませんでした」
「殿下、御前を失礼します。レティシア、いつも考えて行動しろと言ってるだろうが。魔法を使ったことじゃなく、救援を呼ばなかったことを怒られてるんだよ。何のために魔道具の笛を渡されている」
生徒会役員には救援を呼ぶための魔道具が渡されていました。笛を吹くと大きい音が鳴り、近くにいる教師や役員が駆けつけてくれる便利な物です。
「忘れてましたわ」
頭を強く叩かれました。今世のエイベルは私の頭をすぐ叩きます。
私が悪いので仕方ありませんが場所が悪いです。クロード殿下の空気が冷たくなりました。
顔を顰めるエイベルに首を横に振ります。
「エイベル、後で怒られます。殿下の御前です。わきまえてください。殿下申しわけありません。エイベル、」
「殿下、失礼しました」
エイベルと一緒に頭を下げました。
「構わない。頭をあげて。わかっているならいいよ。ただレティシアは反省文と報告書の提出を。書き方はリオに教わって」
報告書はすでに一人で書けるんですけど、何よりリオの指導は避けたい・・。
「はい?殿下、恐れながらお忙しいマール様の手を」
「わかった?」
クロード殿下から冷たい笑みを向けられました。
今世のクロード殿下もきっと腹黒なので私が嫌がることをわかっての指示です。これは従うしかありません。
「かしこまりました。マール様、ご指導よろしくお願いします」
「ああ。構わないよ」
リオに礼をすると仕事が増えたのに機嫌良さそうに笑う顔が怖いです。笑顔で怒る方なんでしょうか・・。
「レティシア、離せ」
エイベルの服の袖を掴んでいたので慌てて離しました。
「もう怒ってない。次は気をつけろ」
エイベルの眉間の皺がなくなりました。
殿下達が怖かっただけなんですけど・・。誤解ですがお説教から解放されるなら利用しましょう。
「はい。申し訳ありませんでした」
エイベルが私の頭を撫でて離れていきました。リオに促された席に座り、報告書の記載の説明を聞いてペンを進めます。
「書けました」
「確認するよ。よく書けてるな。妹の方が得意なのか」
エイベルは書類仕事が苦手なので比べられたのでしょう。
叱責があると思いましたが予想外な反応です。関わりたくないので余計なことは言わずに礼をします。
「ご指導ありがとうございました。」
不服そうな顔で見られてます。手間をかけたのは反省してますよ。何も話さないなら逃げましょう。クロード殿下に報告書を提出します。
「反省文は明日でよろしいでしょうか?」
「構わない」
「私は資料配布に行ってきますので失礼します」
クロード殿下の笑顔が怖いので礼をして退室しました。
「ビアード嬢、手伝うよ」
歩いているとリオの声が聞こえて、足を止め振り返ると気のせいではありません。これ以上、問題を起こさないように見張るつもりでしょうか・・。
「私の仕事なのでお気遣い不要ですわ。」
「令嬢が一人で行くのは危ない・・」
窘められてますがリオと二人では絶対に歩きたくありません。まずこの廊下で話す状況さえ令嬢に見られたら面倒ですわ。人目がないか辺りを見渡すと、見覚えのある髪色に笑みがこぼれました。
「ご心配ありがとうございます。フィル!!待ってください」
不敬にならないお断りを考えていると救世主を見つけたので手を振ります。
立ち止まったフィルに近づきリオの前に腕を抱いて連れてきます。
「マール様、彼に付き合ってもらいます。腕も立ちますし、問題ありません。では失礼します。」
礼をしてフィルの腕を抱いて立ち去ります。
「レティシア?」
「マール様が見えなくなるまで付き合ってください。」
フィルの耳に事情を囁くと付き合ってくれました。一人でも大丈夫なんですが、リオに指摘されても困りますので甘えました。無事に仕事が終わって良かったです。
時間が余ったので生徒会には顔を出さずフィルと一緒に宿題をして、夕食を共にして寮に帰りました。
反省文も書き上げたのであとは休むだけです。
今世の学園生活は人気の殿方に関わらないように頑張りますわ。
気配を読むのは得意なので人気の方には近寄らないか気配を消して通り過ぎます。学園の入学前に気配を消す特訓もしたのでバッチリですよ。ビアード公爵直伝ですので自信もあります。
目指せ平穏な学園生活です。




