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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
第一章  幼少期編
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兄の苦労日記1

兄の苦労日記はエイベル視点です。

ビアード公爵家嫡男に生まれた俺には2歳年下の妹がいる。妹は祖母譲りの銀髪とビアードの銀の瞳を持ち、愛らしく将来絶世の美女になると使用人達が言っている。両親が溺愛しているため我儘でお転婆で手のかかる妹である。

最近の妹のお気に入りは隠れんぼだった。勉強嫌いの妹は授業の時間になると隠れて教師を困らせていた。あまりに目に余るので勉強の時間は逃げ出さないように騎士が見張りについている。両親はお転婆な所も可愛いと笑っているが大丈夫だろうか。俺が同じことをやれば鉄拳制裁である。俺はビアード公爵家嫡男だから仕方ない。使用人や両親が絶賛する妹は俺にとっては野蛮な野生児である。


「エイベル」


俺の所に来るのは遊んで欲しい時か泣きたい時だけ。

抱いて背中を撫でると、号泣した。母上がしばらく留守で寂しいのだろうか。

妹は思いっきり泣いた後、満面の笑みをみせて去っていく。泣く理由を聞いても理解できないから聞くのをやめた。

最近は母上が妹に王子と姫の物語を読み聞かせている。

妹は母上の思惑通り恋愛小説に夢中になった。

母上の念願の娘と恋の話をするという夢が叶ったらしい。

妹は王子の話を気に入り父上にクロード殿下の話をせがんでいる。会ったことのないクロード殿下に物語の王子と重ねて恋焦がれているらしい。

ただ自由奔放で礼儀作法もままならない妹を王宮には連れて行けないので、妹の呼ばれる王宮行事は微量の毒薬を飲ませて寝込ませている。毒の耐性もつき、不敬罪にもならず、妹にも嫌われないと大絶賛している両親の判断が正しいようには思えなかった。聞き分けの悪い妹だから仕方ないか。

俺は父上は妹がクロード殿下に夢中なのが気に入らないから王宮に行かせたくないんじゃないかと思っている。そのせいか妹は深窓のご令嬢という似合わない通り名がついている。俺は妹のことを聞かれても話せない。


妹は乗馬が好きだ。ただ妹が一緒だと思いっきり駆けられないため、家に置いて遠乗りに出かけた。

頑固な妹は俺に文句を言うため俺が帰ってくるまで馬屋で待っていたらしい。

妹は風邪で寝込み俺は両親に怒られた。寒い中、使用人が止めるのも聞かずに半日馬屋で待ってたとは・・・。俺は悪くないと思うんだけど、使用人達の咎める視線に負けて寝込んでいる妹の様子を見に行くと起きた妹を母上が心配そうに眺めていた。


「レティシア、熱下がったのか?」


妹は不思議そうな顔で俺を見ている。


「エラム様?」


聞いたことのない名前だった。


「は?」


「レティ、まだベッドに入ってて。まだ調子が悪いみたい。どうしたのかしら」


ベッドから抜け出した妹を困惑した顔の母上がベッドに寝かせていた。


「レティ、お母様は出かけないといけないの。夜には帰ってくるから安心してお休みなさい。エイベル、帰ってくるまでレティを頼んだわよ」


母上の咎める視線は妹を置いて出かけたことをまだ怒っているのか。

それでも1日も我儘な妹に付き合いたくない。


「母上、俺は訓練が」


「たまには妹の面倒をみなさい。騎士たるもの心身共に守るべきよ。妹も守れないなら殿下なんてお守りできないわ」


母上、俺は結構こいつに振り回されるけど・・。母上達より面倒見ていると思うんだけど言えば怒られるよな。妹を見ると母上を不思議そうに見つめて、見たことのない大人しい顔で笑った。


「私は一人で大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


妹がおかしい。

いつもなら、母上の好きな無邪気な笑みでエイベル、怒られたって言うだろう。こんなに丁寧な言葉を話せない。


「母上、俺が見てます。様子がおかしいので」


「ええ。私も早く帰ってくるわ。」


母上は執事に呼ばれ足早に去っていた。

母上もいないことだし、問い詰めるか。妹は要領がいいから両親に怒られることは上手く隠す。


「レティシア、母上達には秘密にしてやる。何をやらかした?」

「つかぬことをお聞きしますが、私と貴方の関係は?」


見たことのない静かな顔をしているのは、まだ怒っているのだろうか。


「まだ根に持ってるのかよ。兄妹だろうが」

「はい?」


とぼけた顔をする妹に頭を掻く。調子が狂う。新手の遊びか?


「次の遠乗りは連れて行ってやるよ。いい加減に機嫌を直せよ」


「お兄様?」


首を傾げて呼ばれた名は気持ち悪かった。妹は俺をエイベルと呼ぶ。


「お前がお兄様なんて薄気味わるいな。」

「失礼ですわ」


言葉は丁寧だが不機嫌な顔で睨むのは見慣れた妹だ。ふざけて俺で遊んでいるのか・・。

顔色も良いし、遊ぶ元気があるならいいか。

今日は妹の遊びに付き合ってやることにした。


「元気ならいいや。ついてるから休め」

「私は一人で大丈夫です。訓練に行かれてくださいませ」


拗ねてる妹の頭を宥めるように撫でた。


「何かあれば呼べよ。ゆっくり休め」


俺は予定通り訓練に行くことにした。何かあれば呼ばれるだろう。

騎士達と訓練をして、食事のために屋敷に戻ると騒がしかった。


「お嬢様、見つかりました」


執事の声が響きわたり、ため息をついた。執事の声がした書庫に行くと妹が本の山の中できょとんとしていた。あいつは病み上がりである。そして無理をさせると倒れる。

両親が甘い分俺が叱らないといけない。妹を睨みつける。


「レティシア、隠れんぼするなら全快してからやれ!!」


いつも睨み返す妹が目を大きく開けて、しばらくすると泣き出した。

嘘だろう!?


「レティシア!?」


父上が妹を抱き上げていた。いつ帰ってきたんだろうか。


「ビアード公爵」


「どうした?今日は大人しいな。ずっとベッドでの生活に嫌気がさしたか?拗ねてお父様とは呼んでくれないのかい?」


父上が妹にしか向けない優しい顔をして涙を拭いている。


「お父様、お部屋を抜け出して申しわけありませんでした。」


丁寧な言葉で頭を下げる妹に驚いた。いつもなら無邪気な笑顔でお父様と抱きつき甘えて抜け出したことをうやむやにする。

具合が悪いのか、俺で遊んでいるのかわからない。


「レティもそろそろ社交デビューか。念願の王子様に会うために今から練習かい?」


笑っている父上は戸惑わないらしい。父上は妹が何を言っても笑顔で甘やかすから当然か。


「私は怖いので王家の方にはお会いしたくありません」


「レティ?」


あんなに王子様に会いたいと言っていたのに・・。

レティシアが怯えた顔で父上を見つめている。


「お父様、私は王家も社交も怖いのです。もっとお勉強をして自信がついてから社交デビューしたいです」


やはり具合が悪いんだろうか・・。妹の口から怖いは初めて聞いた。確かにクロード殿下は妹の夢見る王子ではない。教えてないけど。


「父上、様子がおかしいんです。借りてきた猫みたいで」

「お兄様、ひどいです。」


言葉は丁寧だが睨む顔はいつもと同じだ。


「お前の願いで社交デビューを早めたから、嫌なら構わないよ。」

「お父様!!ありがとうございます」


満面の笑みを向けられた父上は上機嫌に笑った。父上は妹をギリギリまで社交デビューをさせたくないのは知っていた。愛娘に悪い男を近づけたいないらしい。確かに満面の笑みの妹が可愛いのはわかる。たとえそれが計算された笑顔と知っていても。

父上に任せれば平気だろう。訳のわからない妹は放っておいて食事に行くことにした。


読んでいただきありがとうございます。

今回は本編のレティシア視点だけではなく、補足で他者視点のお話も進める予定です。

ぶっ飛んでいるレティシアと周囲の認識の違いに笑っていただけると幸いです。

振り回されるエイベル視点が多くなりそうですが(笑)

不定期更新ですが気ままにお付き合いくださるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹にぐだぐだ言えるほど上等な人間じゃないだろうが 金玉切り落とした後首かっ切って死ね
2021/09/08 15:00 退会済み
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