第七話 保護
ターナー伯爵家で出会った方々は時々ビアードの訓練に参加しています。なぜかリオも時々参加をしてます。エイベルは私がリオを苦手と思っているのであらかじめ滞在を教えてくれます。リオの滞在する日は書庫で過ごしています。最近はビアード公爵が水魔法の魔導書を手に入れたり、遠征に行く騎士達に本の買い出しを頼んだおかげで興味深い本が増えたので、充実した読書の時間を過ごしています。
「レティ、リオは苦手なの?」
ビアード公爵夫人の声に本から顔をあげます。弱々しい表情を浮かべます。
「お母様、私はご令嬢に人気の殿方は怖いのです。お兄様と一緒にいても嫉妬の視線が痛いです。」
「そうなの。」
ビアード公爵夫人は不思議をそうなお顔で立ち去っていきました。何が聞きたかったんでしょうか…。
***
弓の訓練をしています。
最近はよくフィル様に会います。
「レティシア様、勝負しませんか?」
「勝負ですか?」
「もちろん、ハンデを差し上げます」
「いりません。受けて立ちますわ」
挑戦的な笑みを浮かべて弓を取ります。騎士に頼んで的を出してもらいます。
最近は動く的に当てる訓練をしています。私の矢には青い印を入れました。魔法で出してもらった的の中心にたくさん射たほうが勝ちです。
弓を構えて、合図とともに弓矢を構えて的を狙います。
「そこまでです」
騎士の声に弓を降ろし、矢を回収にいきます。
「7本です」
「10本」
「負けましたわ」
悔しいです。弓だけは勝率が良かったのに…。
「フィル様、お願いを教えてくださいませ」
フィル様が考えこみ、しばらくすると口を開きました。
「友達になっていただけませんか?」
真剣な顔で言われた言葉に目を丸くしました。
「私などでよろしければ、よろしくお願いします。敬語も敬称も不要ですわ」
手を差し出すと両手で握り返されました。
「ありがとうございます。俺もフィルで構いません」
「わかりましたわ。」
お友達が増えました。あまりに嬉しそうな顔で笑うフィルにつられて笑ってしまいました。フィルは騎士達に呼ばれたので手を振って見送りました。友達になって欲しいなんて初めて言われましたわ。今世は二人目のお友達です。
***
王都でやりたいことがあります。
私はエイベルが王都に連れて行ってくれないのでビアード公爵にお願いをしました。エイベルと一緒ならと許可がでました。ビアード公爵のおかげでエイベルが久々に帰ってきました。生前に王都で迫害されていたため保護したロキ達を探しに行きます。うまく会えるかはわかりませんが…。幸せに暮らしていれば、接触するつもりはありません。
馬車を降りるとエイベルに手を差し出されたので握ります。最初は違和感ばかりでしたがエイベルに手を引かれるのは慣れました。
「レティシア、人が多いから俺の手を放すなよ」
「わかりました。お兄様は何も言わずに私についてきてくださいませ」
にっこり笑って、エイベルの手を引いて歩きます。
記憶を頼りにロキの家を探しますが全然わかりません。仕方がないので、人のにぎわう市で探すことにしました。ロキの髪色は珍しいので運がよければ見つかるはずです。
しばらく歩いていると探していた髪色を見つけました。
「エイベル、あの子供を捕まえてください。私はここで待ってます」
ロキを指さします。エイベルが風魔法で拘束しました。急いでロキのもとに駆け寄ります。ロキが怖い顔の店主に捕まってます。盗人なのでロキが悪いんですが殴られたりしたらたまりません。
「離してください。お代は私が払いますわ」
ロキを捕まえている店主に銀貨を1枚渡します。
「嬢ちゃん、こいつの知り合いか?」
「はい。乱暴はやめてください。お釣りはいりません。この子から手を離してください」
店主に笑顔で圧力をかけます。
店主がロキを放り投げました。ひどいです!!転がったロキの前に膝をついて抱き起こします。やはりもっと早く探すべきでした。
「ロキ、迎えにくるのが遅れてごめんなさい。」
傷だらけのやせ細ったロキに治癒魔法をかけました。
「誰?」
不思議そうな顔のロキの頭を撫でます。ロキにとっては私は初対面の不審者ですわ。
「ごめんなさい。貴方が無事で良かったわ。レティシアです。お母さんの病気をみるから案内してください。貴方を家族と引き離したりしないから安心して」
「レティシア?」
エイベルには笑顔で圧力をかけます。
「エイベル、あとで説明するのでついてきてください。食べられるものを買いたいです」
ローブを脱いでロキに着せます。ロキの手を握って足を進めます。途中で果物を買ってロキに渡します。
「家族の分もあるわ。これはロキのだから食べて」
ロキが頷いて食べました。このやせ細ったロキを見ると切なくなります。
古びた扉を開けるとロキの母親のローナと妹のナギが寝ていました。
「ロキ、私はお母さんの治療をするから、お兄様に事情を説明してくれる?治療は私のためだからお金はいらないわ。」
頷いたロキをエイベルに預けました。ロキはしっかりしているので、説明できます。
栄養失調で衰弱している母親のローナに治癒魔法をかけます。顔色は良くなりましたが、しばらくは療養が必要です。
エイベルがロキの話を聞いて、顔を顰めてます。
外国人のロキ達は国の保護を受けられず、母親が倒れてからはロキは物を盗んで生活をしてました。助けを求めたロキ達を迫害した役人に問題があるんです。ビアード公爵に頼んでしっかり調べて制裁していただきます。
「お兄様、連れて帰ってもいいですか?」
「そうだな。」
エイベルは正義感が強いので、快く了承してくれました。
「ロキ、三人で私達の家に来ませんか?」
「いいの?」
「はい。今までよく一人で頑張りました。もう大丈夫です。お母様は責任もって私が元気にしますわ」
泣き出したロキを抱きしめてあやします。エイベルが護衛騎士に指示を出しています。
「誰?」
目を覚ましたナギが近づいてきました。
「はじめまして。レティシアと申します」
「ナギ、起きたの?」
「ナギ、暖かいお部屋にお引越ししますよ。さて引っ越しの準備をしましょう。ロキ、荷物をまとめましょう」
ロキと一緒に荷物をまとめます。
エイベルの手配した馬車が来たので、寝ているローナを護衛騎士に抱き上げさせて乗り込みます。
私はロキ達とは別の馬車に乗ってます。
エイベルに睨まれます。
「レティシア、説明しろ」
「お茶会で噂を聞きましたの。王都の市に綺麗な髪色の妖精が出ると。嫌な予感がしたので調べてみたかったんです」
「市に行く前に歩き回っていたのは?」
「なんとなく歩きたかったんです。初めての王都に興奮してしまいました。せっかくのお兄様とのお出かけなのに、こんなに早く帰るのは残念です」
笑顔でごまかすとエイベルがため息をつきました。無理な言い訳ですがエイベルなら通じますわ。
「父上達にはお前が説明しろよ」
「はい。ありがとうございます」
エイベルは私のやりたいことをやらせてくれ、お説教も短く、生前のリオよりも楽なのはありがたいです。リオはお説教が長く、ごまかされてくれません。単純なエイベルが兄で良かったです。
ビアード公爵邸に帰り、ローナは医務官に任せ、ロキ達は侍女に預けました。まずは体を綺麗に洗われるのは我慢してもらいましょう。ビアード公爵は留守なので、ビアード公爵夫人に事情を説明すると保護の許可をもらいました。
ロキ達は使用人宿舎で面倒を見てもらえることになりました。ロキ達の身分を考えると心苦しいですが、準備が整えられるまでは目を瞑りましょう。生前はロキ達とも関係があったので父親の正体を知ってます。とても高貴な方です。今は3人が元気になりうちで健やかに過ごせるように心を配りましょう。
翌日に帰ってきたビアード公爵にお願いすると快く引き受けてくれました。ロキ達の保護と役人への報復ができたので今はこれで満足しましょう。
レティシアは王都には詳しくありません。
生前も王都に行くときは、ほぼ誰かと一緒でした。
生前もロキと出会い、保護して帰るにも帰り道がわからず困っている所をリオに保護されてます。
ただ運は良いので今回も無事に保護することができました。
読んでいただきありがとうございます。