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追憶令嬢のやり直し。  作者: 夕鈴
第一章  幼少期編
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兄の苦労日記4 後編

ターナー伯爵家で訓練している。

リオ・マールが来てからは妹は俺の傍からいなくなった。連日の様子から見るとマールが苦手なようだ。


「お前の妹は何しに来てるんだ?」

「体を丈夫にするために鍛錬してる」

「公爵令嬢が?」

「うちにも色々あるから」


マールは妹の様子を気にしている。

怖がる妹に近づかけないようにできるだけ一緒に訓練している。部屋に戻ると妹が待っていた。妹が俺の部屋に勝手に入り待っているのはよくある光景だ。


「エイベル、お帰りなさい」

「ただいま」

「あげます。甘さ控えめです」


お菓子を受け取った。ターナー伯爵家で料理を教わっているらしい。料理をするのが楽しく、最近は食欲も戻ってきた。

俺が食べる様子を上機嫌に見ている妹は公爵令嬢には見えない。


「エイベル、ビアード家門の訓練に混ざりたい方がたくさんいます。お父様の訓練も人気なんですね。お名前を控えますか?」

「いらない。どうせ家同士の連絡が来る」

「わかりました」


俺に訓練に加わりたいなんて言ってくるやつはいない。妹目当てだとしてもビアード家門なら安全だし断る理由もないからいいか。うちの騎士達も父上のように妹を溺愛している。危害を加えて泣かせたら恐ろしいことがおきるだろう。父上が直々に手をくだしそうな気がするけど。


***


ターナー伯爵家では森で1泊2日過ごす訓練があるらしい。俺とマールが受けるのはわかるんだけど、なんで妹も連れていくんだろうか。うちの妹はまだ弓しか自衛できないんだけど・・。周りに護衛騎士も配置されているし、発煙筒もあるからある意味安全か。ここまで来るのに妹が荷物に潰されそうで転ばないことが奇跡だと思う。

伯父上の説明を聞き、妹が茫然としていた。真面目だから、嫌とは言えないんだろうな・・。マールも妹を複雑な目で見ている。公爵令嬢を野営させるのに思う所があるのは同じらしい。


「お兄様、マール様、寝る場所を探しにいきましょう」


突然歩き出した妹から荷物を奪うことにした。迷うことなく進んでいく妹についていって平気なんだろうか・・。

妹が休む場所を示したので従った。俺はマールとお互いの荷物を確認をすることにした。


「私、ご飯を探しに行って参ります」


立ち上がり歩き出す妹を慌てて止めた。マールも驚いた顔をしている。伯父上の言葉を忘れて単独行動しようとした妹の頭を軽く叩いた。妹は危機感がないんだろうか・・。

なぜか妹が指揮をとっている。

動物も捌けると聞き逃せないことを言ったので問い詰めた。ビアード領で狩りをしていたなんて初耳なんだけど。護衛騎士は妹を自由にさせすぎだ。帰ったら父上と護衛騎士について話し合わないといけない。俺の妹は狩りまで覚えて何を目指すんだろうか・・。


「お前は何を目指すんだ!?」


「将来ビアード公爵家のお役にたてるように頑張りますわ。もしお金に困ったら、辺境伯に売り飛ばしてくださっても構いませんよ」


にっこりと微笑む妹の言葉にため息をついた。


「妹を売り飛ばさないとおさめられないなら、爵位を返上する」

「情けないですわ。その時は私が多額の資金援助をしてくださる家を見つけて差し上げますので、しっかりしてくださいませ。暗くなる前に急ぎましょう」


うちの妹は大丈夫だろうか。お兄様、資金の心配はいりませんって綺麗な笑みを浮かべて、悪徳貴族に嫁ぐ姿が想像できた・・。領地経営の勉強もしっかりやろう…。

俺の不安など気づかずに妹は指示を出してきた。

薪を集めていると突然弓を構えた妹が鳥を仕留めた。

落ちてきた鳥は心臓を貫かれている。お前、弓が上手すぎないか・・。

慣れた手つきで鳥の羽を剥いで血抜きして楽しそうに捌いている妹に引いた。

俺の教育がまずかったのか。食材の調達に満足した妹は足早に戻り、調理をはじめた。

火打石も使えるらしい。うちの妹は山でも生活できそうだ。マールが妹を静かに見つめるのは、きっと俺と同じことを考えているんだろう。

食事をおえて、休むことにした。

火の番を自分もするという妹を宥めた。緊急時に一人で対処しようとする妹が想像できてしまった。マールも同じ思いなのか一緒に説得してくれた。妹に火の番など危なくてさせられない。


「ビアード、先に休め。彼女もお前が傍にいる方が眠れるだろう」

「悪い。助かる」


俺達の心配はいらなかった。妹はすでにぐっすりと眠っていた。はしゃいでたから疲れたんだろうな。妹のあどけない寝顔を眺めながら、隣で眠ることにした。


***


野営のせいか眠りが浅い。ぐっすり眠れる妹の図太さが羨ましい。目が醒めたので火の番を交換するために声を掛けた。


「なんで彼女がこの訓練に参加しているかわからなかったんだが…。」

「俺も同じだ。まさかこんなに有能とは思わなかった。今回のことは見なかったことにしてほしい」

「ああ。令嬢としての評価は下がるからな」

「助かる。後は代わるから休め」


マールが離れていった。

しばらくすると辺りが明るくなってきた。背中が衝撃に襲われ振り向くと寂しそうな顔をした妹が背中に張り付いていた。頭をしばらく撫でていると妹が口を開いた。


「エイベル、かわりますよ。目が覚めました」


お前に火の番を任せるのは不安で眠れないという言葉を飲み込んだ。


「眠くないからいい。情けない顔だな」


「固くてよく眠れなかったんです。変化を受け入れられない時はどうすればいいんですか?」


ぐっすり眠ってたような…。

弱った顔をしている妹の頭を撫で続ける。両親が恋しくなったんだろうか・・。


「変わらないものなんてないだろうが。俺の妹はよくわからないが、妹であることには変わらない」


妹に睨まれた。


「失礼です」


「この環境で泣き事言わずに、耐えていることは褒めてやるよ」


「ありがとうございます。」


文句を言うと思ったのに素直にお礼を言った妹に驚いた。突然泳ぎたいと言い出した妹を止めた。情緒不安定な妹を水の中に入れるとあがってこない。まず着替えもないのに飛び込んだら風邪を引く。駄目な理由しか思い当たらない。ようやく俺の背中から離れた妹は泳ぐことを諦めて食事の用意をはじめた。


***


片付けもおえて後は伯父上との待ち合わせ場所を目指すだけだった。相変わらず妹が前を歩いていた。

突然妹の足が止まって、震え出した。妹の視線の先の木の上には白い大蛇がいた。



「いやぁああああああ」

「レティシア?」


悲鳴をあげた妹に視線を向けるとマールの腕に抱きついていた。


「リオ兄様、駄目、また死んじゃう」

「ビアード嬢?」


リオ兄様?

虚ろな妹に俺達の言葉は届いてない。マールの腕に抱きついて怯えた顔で大蛇とマールを見ている。

大蛇が木から降りてきた。


「シアの所為で噛まれる。いや、だめ、来ないで」


マールの腕に抱きついて、涙を流しパニックを起こしている。

気に入らないけど仕方ない。


「マール、悪いがレティシアを任せた」


剣を抜いて、大蛇に近づき首を落とした。動かないのを確認した。いつの間にか静かになった後を振り返ると意識のない妹をマールが抱えていた。


「悪い。」


妹を受け取ろうとすると、妹の手がマールの服を掴んでいた。

目の前には大蛇の死骸。無理やり引きはがして起きたらまた発狂するかもしれない。


「俺が運ぶよ」

「悪い」


不本意ながらマールの申し出を受けた。待ち合わせ場所に着くと伯父上がいた。


「レティシアはどうした?」

「大蛇を見て、意識を失いました」


伯父上は妹のマールを掴む手に気付いて苦笑した。


「荒業を使おうか」


伯父上の風魔法で包まれて気付いたらターナー伯爵邸の前にいた。妹をベッドまで運んでもらった。妹の手をマールから離そうとする腕が掴まれた。


「このままでいいよ」

「邪魔だろう」

「良く寝てるから、起こすのも可哀想だ」

「俺が寝かしつけるから問題ない」

「大丈夫だから」


強情に妹の手をそのままにしようとするマールを睨んだ。


「お前、いつレティシアに近づいたんだ」

「は?」

「俺の妹をお前の取り巻きにする気はない。女遊びに巻き込むな」

「身に覚えがない」


とぼけた顔をするマールの言葉を信じられなかった。


「レティシアからお前に近づくことはない。リオ兄様ってなんだよ。あいつに何をした」

「そんなのわからないだろうが。何もしてない」


妹から近づかせたのか!?数多くの令嬢に手を出している男は信用できない。


「俺の妹に邪な気持ちはないだろうな」

「それは・・・」


マールは俺から視線を逸らした。妹はこの男に騙されてるんだろうか。


「二人共うるさいわよ。やめなさい。心配なら二人でここにいてもいいわ。ただし静かにしなさい」


「腕を離せ」

「無理矢理解いて手を痛めたらどうするんだ。彼女は俺がみてるよ」


そんな恐ろしいこと許せるか。寝ている妹に手を出されたら堪らない。


「お前と二人っきりなんてさせられるか」

「二人共」


伯母上の言葉が聞き取れずに体の力が抜けて視界が真っ暗になった。


***


「エイベル、起きてください」


目を開けると妹が起きていた。


「起きたのか」


「お兄様、ごめんなさい。結局、」


しょんぼりしている妹の肩に手を置いて瞳を見つめる。


「お前の兄は誰だ?」

「エイベルです」

「これは」


視線でマールをさすと戸惑った顔をした。


「マール様です」


妹の迷いのない答えに安堵した。やはりレティシアは俺の妹だ。


「そうか・・・。もう平気か?」

「はい。お兄様、ありがとうございました。」

「妹を守るのは兄の務めだ。父上から帰還命令だ」

「私が倒れたからですよね・・。お兄様は残ってください」


気まずい顔をしている妹に苦笑する。情緒不安定な妹を一人で帰すのは心配なので、一緒に帰ることにした。


「いや、俺も帰るよ」

「エイベル、私は貴方の妹で良かったです」

「バカ」


力なく微笑む妹の言葉に照れくさかった。訓練なんてここでなくてもできる。俺に気を遣う妹の頭に手を伸ばそうとするとマールが起き上がったので、手を引っ込めた。妹の俺にしか見せない笑みをマールに見せるのは嫌だった。


妹がマールに頭をさげた。


「マール様、このたびはありがとうございました。不甲斐ない姿をお見せして申しわけありません」


「いや、構わないよ」


マールが切なそうに見ている様子に、妹に近づけないことを決めた。妹が目をつけられている。伯母上に任せて退室した。

父上とは妹が倒れたら帰還する約束だった。ビアード領に帰りしばらくは妹の傍にいてやることにした。

自室に戻ると伯父上が訪ねてきた。


「エイベル、御苦労だった。報告は聞いた。レティシアには驚いたよ」

「自分が情けなくなりました」

「反省は次に活かそうか。彼女が一人なら危なかったよ。エイベルは慣れない環境で状況判断がしっかりできていたよ」

「ありがとうございます。伯父上、どうしてレティシアを同行させたんですか?」

「強さを求める理由を聞いたら、誘拐されても監禁されても生き残れるようになりたいって」

「はい?」

「今は弱いから自分で対処できない。せめて迎えに来てくれるまでは生きたいって。そのために容赦なく鍛えてくれって頼まれたんだ」


うちの妹は何を考えているんだろうか。

妹の考えがわからないのはいつものことか。


「ビアード公爵夫妻の野望には驚いたけど二人を見て良い判断だと思ったよ。補い合っていけばいい。またいつでも来なさい」

「ありがとうございます。」


立ち去る伯父上を見送って荷物をまとめた。

俺はもっと強くならないと。

今度は狩りも覚えよう。妹よりは武術関係は優れていたい。

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