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シスル幻想戦記  作者: ヤク物
4/8

000-c2

「やってしまった…」


 やってしまった。

あまりにも酷いやらかしをしてしまいました…

どのくらい酷いやらかしかと言うと

『桶狭間の戦いで今川義元が織田信長を返り討ちにしてしまう』くらい酷い。

『徳川家康が竹千代時代に織田家を乗っ取る』くらい酷い、

『シスル・アル・カレントの物語』を根底から破壊する大・大・大・大暴挙です。


 そもそも『シスル・アル・カレント』はプレイヤーユニットの一人。

統一大陸各所に存在する様々な勢力の内

大陸を二分する巨大勢力

『エトランド連合帝国』北方地域の国境を守護するカレント家の若き当主で

父の盟友であった『グスタフ・イル(※イルは領家クラスの中~下級貴族号)・アミット』を後見に、

自らも正騎士(ハインツ)を駆り、北方貴族を苦境に立たせ続けた腐敗した帝国に反旗を翻すという

全プレイヤーユニット中、攻略難易度最難関のストーリーを背負っている。

―――1()6()()()()()

その『グスタフ』を、殺してしまったのは


他でもない9()()の『シスル・アル・(わたし)カレント』です。


 そう、今しがた殺してしまったグスタフは、シスルでのプレイにおいては主力となるユニットであり、

天涯孤独と成った彼女に帝国への憎しみを植え付け、

父を殺した事を隠しながら、自身の歪んだ復讐のためにシスルを傀儡として利用する

狂気の奸雄グスタフ・イル・アミット…が、死んでしまいました。


 本編開始のずっと前に、シスルルートの前提が破壊されてしまったのです…

他でもない、シスル(わたし)自身の手で。




 私がシスル・アル・カレントとして目覚めた日から7年。

何とか御父様に働きかけて、出来る限り穏便な対策を画策してきたのに

友誼と負い目でグスタフを疑う事が出来なかったお父様は

結局筋書き通りグスタフの手にかかってしまいました。


 正直グスタフを奇襲で殺したのは次善どころでない苦肉の策で、かなり最悪に近く

それでも今、グスタフの排除を実行したのは、この時を逃せば確実な機会がなく

生かしておけば()()()()()()()()()()()()()()()()事が目に見えていたからです。


「…よし、状況を整理しよう」


 シスルは総合的にかなり高い素養を持っており

統率・武力・魔力・知力・政治・魅力

六種の能力は漏れなく高水準で、特に魔力は総量も出力も()()()()

初期乗機の《正騎士(ハインツ)》だって弱くは無い。


 それでもシスルルートは攻略難易度最難関であり

圧倒的な戦力差はグスタフの提供する聖国の装備や物資が無ければ到底帝国と戦う事は不可能。

まぁ聖国の物資を全て使い倒しても、それだけでは絶対に勝てないのだけれど…


 重要な要素として、ゲーム内のシスルは帝国と絶対に和解が出来ない。

勢力間の関係性に、ゲーム内リソースでは修復不可能なマイナスが付いており

開始時の敵対状態から悪化する事はあっても改善は不可能。

ほんの些細な通商や期間限定の講和すら結べず

そもそもシスル側からは平和的提案すら選ぶ事が出来ません。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()以上

最低でもグスタフだけは排除しておく必要があった…あったのです。

そして、最低の結果で終わらせれば

シスル(わたし)を利用しようとする『次のグスタフ』が産まれてくるのが目に見えている…

()()()()、やるしかありません。


「《ハインツ》」


「―――――――」


 グラスハープの様な応答音。

胸部が開き、《正騎士(ハインツ)》の掌から

人間の心臓にあたる部位にある操縦槽にすべりこみ、

数度瞬きして同期を確認。

意識して()()()()()()()()()()()


 この世界の元になっているのか、それともこの世界を元にしているのか

あるいは単に似ているだけかは不明のままの

『私がプレイしていたゲーム』に於いて、騎戒兵器同士の戦闘はコクピット視点で行われます。

勢力運営等の戦略要素(SLG・RTS)と騎戒による戦術要素(FPS)

密接に、遅滞なく一つの世界で影響し合い

ランダム性も高く、気象条件一つとっても戦闘の内容がガラリと変わる。

操作メニューを展開している間すら、プレイ中は『時の止まらない戦場』の世界。


 どれだけ緻密に準備を整え、優れた戦略を練っても

騎戒が争う戦術要素で敗北すればひっくり返るし

どれだけ戦術要素で騎戒が強かろうが、戦略要素を疎かにすれば()()()()()()()()()


「難易度が高すぎて評価が微妙なんですよね…」


 私は好きだったんですけれどね。


 気を取り直してコクピット内を確認すると、

その手の体感型アミューズメント筐体(※筐体を個人所有していた)のコントローラーに近い、両手両足のレバーとペダルが自動的にアジャストされますが、実際にはこれらは殆ど単なる飾りに過ぎません。


 視線を一回り巡らせ・首を回し・四肢を順に動かしてみると、

散々乗り回した訓練機同様、《ハインツ》は自分の身体の延長の様に動かせて、

自分(シスル)が十数倍のサイズに巨大化した様な感覚で、文字通り手足の様に操作出来るのです。

そのくせ、ゲーム時代の細かな特殊操作がコントローラーも無しに再現できるのは

非常にご都合主義的で、少しだけ気持ちが悪いのですが―――


「魔力消費の感覚は想像より軽いし、コレならいくらでも動かせます」


 一通りの確認を終わらせたあと、《ハインツ》のセンサーに反応。

領内で登録済みの騎体が稼働状態でジリジリと屋敷を屋敷に近づいて来ているのが表示され

私の記憶と《ハインツ》の登録、両方と照合、グスタフに従った(カレントを裏切った)諸領家の騎士達と断定――

屋敷が壊れたのを見てやって来たのでしょうけれど、あまりに判断が遅い。


「丁度良い、そのまま大人しくして貰います。

《指令:待(うごくな)機》及び《指令:手動操作(言う事を聞いて)》」


 カレント家麾下の騎械全てに《待機》を命じると

邸を包囲していた登録済み騎体全騎が移動を停止。


「コマンドは有効、と」


 カレント領の領旗機たる《ハインツ》には麾下の騎械への指揮・命令権がありますが

今回使ったのはSLG側のコマンド。

操作を意識し、発声するだけで《カレント領所属の(自陣ユニット)騎械》は全て

プレイヤーユニットであるシスルが次の行動を命令するまで待機状態になり、

《ハインツ》を除く周辺HEXの全ての騎体は、私が許可を出すまで指一つ動かせ無いのが確認できました。

まぁ『ユニットが待機状態になるだけ』で、

『中の領家貴族』達は状況が理解できず錯乱状態になっているでしょうけれど。


「それにしても()()ですね」


 いずれも領家貴族が駆る中位機、その数四十…下位機が居ない所を見るに、全員当主か跡継ぎ。

つまりカレント家麾下の領家貴族の内、実に三分の一が裏切っており

この場にいる―――、ハンス・アル・カ(御父様)レントの弑逆に加担している事になります。


「難易度ベリーハードは確定と…」


 シスルルート序盤から中盤最大の敵とも言える

『忠誠度の低い味方』の数は難易度で変わる。

忠誠度次第で反抗の内容は変わりますが、

謀殺・弑逆にまで走る領家貴族が本来のゲーム開始以前から四十家を超えているのは、

どう考えても最高難易度以外に無いです。


 コレが本当のファンタジーならいつ領家貴族が裏切るかなどわからない

可能な限り彼らのご機嫌を伺い、威圧し・圧力をかけ、

いつ裏切られるかわからない領家貴族を、まるで爆弾処理の様に細心の注意をしながら扱わなければいけない。

御父様が、まさにそうだった。


 が、脳裏に浮かぶSLG・RTS画面からは

跪く間抜け共の《忠誠度》の数値が、軒並み()()である事が確認できてしまう。


出来てしまう、しまった以上は―――


「御父様は喜ばないでしょうけれど…」


《ハインツ》を操作し、剣を水平に構える。

装甲の隙間を狙う刺突――、御父様の得意技だった。

それを、手早く、一騎も逃さず撃ち込んでいく。


 事の真相を、彼らの内心を、そして何よりシスルの未来を知っている私としては

動かぬ騎体のコクピットの中で半狂乱に成っているであろう領家貴族…()()()()

一人残らず片付ける以外の選択肢は無かったのでした。



そしてまた、あるべき未来(シナリオ)が不確定になります。



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