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私は恵まれている。
裕福な家庭という言葉では適切では無いかもしれない程に。
お金が有り、物が有り
それらを生み出す技術が私の家にはあったのだ。
といっても、両親の功績では無い。
母の父、直接あった事も無い血縁上の祖父にあたる人物が、何らかの発明をして
ただ生きているだけで無限に金が入り続ける環境が、母が産まれた時には出来上がっていたのだという。
その母の子供である私も、産まれた瞬間そこに組み込まれた。
随分優れた人間の種を買って産んではみたものの、結局母は私に興味が持てず
私もあまり母を必要とはしなかった。
最低限必要なカリキュラムをこなしてさえいれば、誰も私に何も求めなかったし
私も私に自動的に分配される金銭で賄えるモノで勝手に生きてきた。
外に出る事は危険であるらしく
物心ついた頃からセキュリティの整った場所で生活する事が推奨されていた。
それも強制ではなく、外に出たいなら事前に申請すればいくらでも外に出る事は出来た。
ただし、相応の人数の護衛付きで。
何度か出掛けて、煩わしい思いをして…
訂正、とても煩わしい思いをして以降、私が外に出る事は無くなり
その分、仮想現実で過ごす事が増えた。
最初は単なる暇つぶしとして、
次第に生活の殆どをアチラで過ごす様になり
単なる課金を超えて、手持ちの資産を有望なメーカーに投資したりもし始めて
既に数年間、現実では最低限の食事と運動、それに排泄しかしていない。
そんな生活を、きっと死ぬまで続けるのだろうと思って
私は何も、一切の不自由を感じていなかった
誰にも名前を呼ばれる事もなく。
目が醒める、あの日までは。
あの日、《シスル》と呼ばれるまでは。