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癒しの手  作者: 宙華
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第一章〔4〕 /…海の上で

船の中で、優風は美風に守都鈴に着いてしばらくしたら結婚をするから、自由に会えなくなる事を伝えた。

多少話しを聞いていた美風だったが辛そうだった。

「美風、悲しまないでね。私は貴女が大好きだし、貴女が会いたいと思えばすぐ会えますからね」

「私も叔母様大好き…」

美風は悲しそうにじっと海を眺めていた。

ある時、美風は真面目な顔つきで大地に言った。

「叔母様と自由に会えなくなるの嫌なの、でも叔母様はいつも寂しそうでしたから、いい人と結婚して寂しくなくなるのはいい事ですよね。私は寂しいけど、叔母様の為に身を引くんです」

とませた口のききかたをした。

大地は美風が顔だけでなく可愛いと段々思うようになった。

船室にこもっていた人達が甲板に出て来るようになった。

そのうちに遠い北の国から来ていると言う珍しい一行の事が、皆の間で評判になった。

美風は優風や大地と話している時以外はその一行を興味深そうに見ていた。

一行は8人で男女半々。

銀糸で刺繍された白や黒の被り物を被り、口元から下は黒布で覆い、顔を少し隠くすようにしている。

どの男女も透き通るような白い肌をしていた。

彼等は容姿や服装が美風達と変わっていたものの素朴で温かい人々だった。

美風は彼等と友達になった。

彼等は子どもが好きで、その一行の中の女の人達が美風を話しの仲間に引き入れてくれたきっかけだ。

たまに男の人もやって来て海賊や祖国などの不思議な話しを聞かせてくれた。

優風や他の客も彼等に強い関心を示していた。

彼等が流暢にこの国の言葉を話す事ができると知って、積極的に話している人もいた。

そうしているうちに美風は聞き慣れない彼等の国の言葉を幾つか覚えた。

ある時、美風は甲板にある椅子に座ってうたた寝していた。

目を覚ますと、近くにあの一行の女の人が二人いて、近付いて来た。

一人は美風に最初に話しかけてきた中年の婦人ドゥラで、もう一人は綺麗で親切そうな若い娘だった。

「美風、よくまぁこんな騒がしいとこで眠れるもんだ」

と、ドゥラが言った。

美風はにこっと笑った。

「だって、眠かったんだもの」

「そうよねぇ、ま、子どもはそうでなきゃ。そうそう、この子はアクファと言って、私達と違って初めて他の国へ行くから緊張しすぎて、中々あんたの国の人と話せないんだよ、あんた暇なら、ちょっと話し相手になってあげておくれ」

美風は嬉しそうに手を差し出した。

「アクファさん、私、美風って言います、よろしく」

「美風…ちゃん、アクファで構わないわ」

とアクファが美風の隣に座り、微笑みながら言った。

「アクファ達は色々な所に行けていいですね。でも大変ですね、ドゥラさんから聞きましたけど、ドゥラさんやアクファの国の神様が、大事な何かを見つけるように命令したんでしょ?それが何かはアクファの国の人以外に言ったらいけないんですよね、早く見つかるといいね」

美風は無邪気な声で言った。

「ありがとう。でもね、それが見つかるのはそう遠くない気がするのよ」

「どうして?」

「えぇと…」

ドゥラの視線を受けてアクファは言い淀んだ。

「あれ、アクファ、指を切ったの?」

アクファの人差し指に、かすかに細い赤い傷が伸びていた。

「本を読んでいる時に切ったの」

「治してあげる!」

美風がほんの一瞬、アクファの傷ついた指先を両手で隠して、離した。

「ね、もう痛く無いでしょ?」

ドゥラとアクファは驚いたように顔を見合わせた。傷が消えている。

「え…えぇ、ありがとう」

アクファが優しい声で言った。

「美風や、今の、どうやったんだい?」

美風は慌てて手を振った。

「突然出来るようになったの。でもいつも出来るわけじゃなくて、失敗ばかりなんだけど…」

ドゥラが優しく美風を引き寄せて言った。

「美風、よくお聞き。お前には私達が持ち得ない素晴らしい力が備わってるようだね。だけど、自分にその力が無いからって、お前をさらって操ろうとする悪い奴が世の中には五万といるんだよ」

「えっ五万も!」

と、美風はびっくりした声で叫んだ。

「そうさ。だから、用心しなくちゃいけないよ。そう言う奴がどこにいるか分からないんだからね。だから力がある事を普段は隠しておいて、いざと言う時の為にとっておくんだよ。いいね?」

美風は大真面目な表情で頷いた。

今まで用心と言うものをそれほどした事が無い美風だったが、この忠告を受け、ちゃんと守ろうとしたのは全くの幸運だった。

と、言うのは、美風自身がその力の素晴らしさ、恐ろしさを全く分かっていなかったからである。

二週間目に、船は守都鈴の港に着いた。

そして二日目の朝に、これから美風の家になる緑蓮りょくれんに着いた。

明るくて家の様子がよく見えた。

鏡南かがみなは美風のお手伝いのばあやとしてこの家に来ていた。

鏡南は二人に歩み寄ると嬉しそうに涙を浮かべた。

「優風お嬢様、お会いしとうございました…あらまぁ貴女が美風お嬢様ですか、何て可愛らしい…お父様にそっくりで…」

優風はほっとした表情を浮かべた。

鏡南は優風が小さい頃から家にいて女中としてまめまめしく働いていた。

彼女は優風と流が大好きだった。

常々心の中で何とか二人の力になりたいと思っていた。

「あぁ、ばあや。私もお前に会えて嬉しいわ。どうか、美風を頼みますよ」

鏡南は労るように優風の手を握ってしっかりと頷くのだった。

長い間遠くにいて、我が子に等しい美風を他人に近い親と兄に預け、更に自分は結婚させられるのである。

お可哀相なお嬢様…と、優風に同情していた。

他の召使は珍しそうに二人を見ていた。

召使達は一家について色々な噂を聞いていた。

美風はいつの間にか家の中に入って辺りを見回した。

広い部屋にはおもちゃや本がたくさんある。

「叔母様、この家すごい!!これからこの大きな家が私のお家なんですね!!」

以前住んでいた家に比べると、格段に広い立派な家だった。

美風は嬉しくなった。

大きなベッドに寝転ぶとたちまち旅の疲れが出て眠ってしまった。

優風は眠っている美風をそっと見た。

そこへ二人が着いた事を、美風の祖父や伯父へ報告しに行っていた大地が戻って来た。

「今夜、旦那様方からお二人へお話があるそうです」

と、改まって告げた。


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