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癒しの手  作者: 宙華
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第一章〔3〕 /…旅立ち

優風が別の用事で出掛けたので、家には大地と美風の二人だけだった。

大地は子どもに慣れておらず、美風と何を話せばいいのか分からず黙り込んでいた。

美風は大地を見つめて口を開いた。

「お兄さんは、伯父様のとこから来たの」

「はい」

と大地は答えた。

「私は伯父様達の事をよく知らないんです。教えて頂けませんか」

「わかりました」

「お祖父様やお祖母様、伯父様はどんな人ですか?」

「大変お金持ちで、偉い人達ですよ」

「あの、よく分からないです。お祖父様はどんな食べ物が好きなの?趣味は?」

「えぇと、それは…そうですね…」

大地は説明しにくそうに呟いた。

「お祖母様はどんな花がお好きなの?伯父様はどんなスポーツが好きなの?」

「それは、お会いしてからのお楽しみにしましょう」

と、大地は負けずに言った。

「そうですね、お会いしてからの方が知る楽しみって言うの、増えますね」

大地は興味深そうに真面目な顔つきで何かを考え込んでいる美風を見つめた。

「さっきお金持ちの偉い人って言ってましたけど、どうして偉いんですか?どうしてお金持ちになったの?」

「貴女のお祖父様やお祖母様、そのまたお祖父様やお祖母様などのご先祖様が、代々王様によく尽くして、立派な手柄を立てて、その度にたくさんご褒美を頂いたからですよ。最初の方は今から千年も前の話です」

「千年!」

と美風は目を丸くした。

「私は見た事ないです、千年も前のことなんて」

「それは、私もですよ」

大地は微笑んだ。

「これまでの話、お分かり頂けましたか」

「はい」

「先程も言いましたが、お祖父様やお祖母様、伯父様は大変お金持ちです。何でも貴女の好きなものを買って下さいますよ」

「わぁ!いいなぁ!」

美風は目を輝かせた。

「でも私、私じゃなくて一番に叔母様が欲しい物を私が買ってあげたいんです、私は子どもでお金持ってないですからね。それに海や海のお母さんや、お隣りのおじいさんとおばあさんにも」

「海…君、ですか?」

と大地は聞いた。

「海は友達で漁師なんです、今は子どもだからちゃんとした漁師じゃないですけど、なるって言ってました。私は海には漁師の才能絶対あると思うの、魚とるのも上手くて、学校の皆と釣りに行った時も一番たくさんとってて、でもいい奴だから自慢したり馬鹿にしたり意地悪なんかしないの、とれなかった子や私に「俺はこれだけあれば十分だからさ」って余った魚を分けてくれたの。泳ぐのが上手で、私が海で溺れそうになった時に助けてくれたし、力も強いけど人を叩いたり弱い者イジメなんか絶対しないの。それに…」

美風は熱心に話した。

その時、叔母が戻って来た。

「お待たせして申し訳ありません、お隣りの方が、最近体が不自由なものですから」

それを聞くと美風は心配そうな顔をした。

「おじいさんとおばあさん、大丈夫でした??私、見て来ます!」

美風が部屋から走り出て行くと大地は叔母と向き合った。

叔母は大地を心配そうに見つめた。

「力の事を言っても、私達を連れ戻すと思われますか」

「はい、何があっても必ずお二人を連れて帰れと、力の事を例に挙げておっしゃってましたので…」

「そうですか。あの冷たい両親や兄も、もしかしたら改心したのかもしれませんね。それに両親にとって美風は孫、兄にとっては姪ですから…あの子は父親に似て活発で優しい子ですから、きっと可愛がって下さると思いますが…それに、私が結婚しても変わらず会いに来てくれるでしょう。会わなくても思っていてくれるでしょう。私の結婚の事は、いずれこうなる事は分かっていたのですから仕方ありません」

大地は思わず目をそらしてしまった。

同時に美風を思う気持ちに打たれた。

心の冷たい老夫婦と、我が儘で人一倍気の短い叔母の兄が誰かを可愛がるなど想像もつかなかった。

しかし、美風は女の子で(伯父には息子2人しかいない)幾らでも有力な相手に縁談を持ち掛ける事がが出来るから縁談で問題を起こさない為にもよく思われるよう演技はするだろうし、世間体があるから親戚として最低限の事はするだろう。

守都鈴にたつ前の一週間、美風は、初めのうちはお金持ちになる事がよくわからなかったが、大地と話す内に色々な事が分かって来た。

大地は、美風に村を案内して貰った事、親しい人を紹介された事を後々まで忘れる事は無かった。

そして、出発の日が来た。

支度も整い、荷物を船へ運ぶと車が入口に停まった。

出て来た叔母に美風は走り寄った。二人の目は潤んでいた。

「家を離れるの、寂しいわ、叔母様」

「えぇ、私もなの」

叔母は静かな声で答えた。

客がほぼ全員船に乗り込んだ。もうすぐ出航の時間である。

美風はぼんやりと手摺りに寄り掛かって景色を眺めていた。

すると、海がこちらへ駆けて来るのが見えた。

「これ、やるよ」

と小さい綺麗なお守り袋を美風に渡すと、美風がお礼を言おうとするのも待たないでまた駆け出した。

「袋の中のもんは俺が海で見つけたんだ!じゃな!」

間もなく大きな船は動き出した。

美風は海から貰ったお守り袋を大事に持っていた。

中を少し見ると、綺麗な貝殻や真珠、珊瑚が入っていた。

人がたくさんいたが、海の目には、美風の笑顔しか見えなかった。

「海!また遊ぼうね!絶対よ!」

と言う叫び声しか聞こえなかった。


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