第三章〔6〕 /…皆に崇拝される存在
「お疲れでしょう、ディナレカ様」
集会の解散後、部屋から出かけて少しよろめいたディナレカを、エトファドースはそっと支えた。
「エトファドースさんですか。私は幼い頃から神の……宝の魂と交信してきました。少女達の魂の美しさに、改めて魂の美しさを思い知ります……」
「えぇ、よく知っていますよ。……ディナレカ様」
「はい」
「宝は、万能でしょうか」
ディナレカは難しい顔をして、
「恐らく目覚めた宝を欺く事は出来ない。宝は声からその生物の感情の波を感じる事が出来るから」
予想通りの答えだった、と言うかすかな無念がエトファドースの胸を打つ。
「ディナレカさん、あの……大丈夫ですか?」
そう言ったのは、いつの間にか近くにいた美風だった。
「ありがとう。大丈夫ですよ。それより、聞きたい事があるのでしょう?」
ディナレカは美風の方に顔を向けて微笑んだ。
「は…はい、私や女の子達だけではなく、例えばエトファドースの魂は……?」
「彼は、護る魂を護る魂……ミカゼ、よね」
「はい?」
「あなたは優しいと聞いているし、それが事実だから心配。愛し合ってても、そこに本人達のどちらか、あるいは誰かの憎しみが入ると悪なるものが目覚める。気をつけなさい」
「何してるの美風!行くよ!」
マヴァケスが呼んでいる。
美風ははっとして、ディナレカに一礼して小走りで去った。
ディナレカは美風の足音が聞こえなくなってから、
「あの子とあなた。心底から愛し合っているわ。これからの事が辛いなら、元気を出す為に忘れなさい」
エトファドースは表情を変えず、ディナレカが自力で立てるのを確認し、彼女からそっと離れ、シンクニオンと共に部屋を出た。
歩きながら、エトファドースはディナレカに言われた事を思い返していた。
「ん?何だあれは。えらく光ってる女だな」
その女性が駆け寄って来た。
「ハァイ」
エトファドースは少し下がり、その女性を見つめた。
「エルテニーナ?いつの間に着替えた?一瞬、ユンオー様かと」
エルテニーナは非常に嬉しがった。
「うふふ、シンクニオンたら嬉しい。ユンオー叔母様はいつも素敵だものね。ねぇエトファドース、私ね、ユンオーさんみたいになりたいの。どうやったらなれる?親戚なのにどうしてこうも違うのかしら、ユンオー叔母様になれたら、ユンオー叔母様の前に開けてるであろう、これからの素晴らしい人生を私も歩いていけるかな」
「まず不可能だ、と断言する」
エトファドースがうなるように言った。
「そう……」
「君には、ユンオー様とはまた違う素晴らしい魅力がある、この時点で君は、ユンオー様と掛け離れているから」