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癒しの手  作者: 宙華
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第三章〔5〕 /…魂の資質

この国、マトゥシェヌの中央に位置するチャヴィレイ神殿がディナレカの家であり仕事場である。

この会場は王宮の一部をその神殿に似せて改装したもので、目の見えないディナレカも勝手が分かる。

また、ディナレカは視覚以外の感覚が並外れて優れていた。

演壇に立ち、ライトに晒されながら、ディナレカは各地から選ばれ、集められた少女達を更に選定する為に集中し始めた。

全員がディナレカに注目した。

運命と予言のバトジェの声を聞けるディナレカは、この国では有名だ。

一生を神殿からバトジェ神に仕え、国の重要な儀式を手掛けて過ごす筈だったが、息子であるシンクニオンの出産と後継者の出現により変化した。

「魂は……僅かな人生の風や火にも変化する。安定の予想は出来ない。私、ディナレカに見えるのは魂の心臓部、魂の核……」

言いながらディナレカが蝋燭を持ち、娘達の間を縫うように歩いて行く。

「……ダメ、憎しみに満ちた魂」

そう言われた少女が、脱力したようにその場に座り込んだ。

「問題外。汚れた魂」

真の宝の妻候補は十人前後になると聞いた。

選ばれても選ばれなかった場合も、無事に帰る事だけを考えようと美風は思った。

「命あるもの全てを監視し、役目を与える魂」

と、ディナレカが近くの娘の肩に手を置いた。

二人の男が近付くと非常に丁寧に別の部屋へ誘導した。

「悪魔の力に対抗出来る魂」

と、ディナレカがマヴァケスを示す。

驚いた顔をしたマヴァケスに、先程と同じく二人の男が近付き、別室へ。

「聖なる香り漂う魂」

と、ディナレカと男二人に上品にお辞儀をする娘。

しばらく選定が続き、

「人の苦しみ、悔しさを知らず喜びに満ち溢れた魂」

と、誇らしげな表情のエルテニーナも別室へ。

「暗い道で行き先を教える、優しい光そのもののような魂」

と、周囲の女性と比べ幾分幼い無表情な少女。

ディナレカが近づいて来る。

彼女には不思議な威圧感があると美風は思った。

「失われ行くものを護る魂」

と、ディナレカが美風を示す。

少女達の間を抜けて二人の男が近づいて来た。

二人は他の少女達と同様、丁寧に美風を別室に誘導した。

扉が開かれる。

部屋は薄暗く、美風は一歩踏み出して何かに躓き、バランスを崩して少しよろめいた。

後ろで扉が閉められる。

「あの人は……」

全身からかすかに光を放つ、肌の黒い長身で中性的な男が、決して広くはない部屋中に根を張った巨大な水晶の樹の中で眠っていた。

流れるような、非常に長い銀の髪が綺麗だなと思う。

ふと気付くと、よろめいて咄嗟に手をついた箇所も水晶の樹の一部だった。

数分ほどして、娘が一人入って来た。しばらくして、また一人。

今度はディナレカも一緒に入って来た。扉が閉じられる。

「選定は終わった。この方が、我が国の宝、そして世界を司る神の宝、神の第三の目だ」

水晶の樹の向こうから重々しい男の声がした。

見ると、黒い布を頭から被っており、顔はおろか手も黒い手袋をしている。

「はるか昔、人類が歴史を記録に残し始めてからしばらくして、この世の創造主である神の額にある第三の目に己の意志が芽生えた。第三の目は好奇心に負けて人の姿をとると神に無断で下界に降りた。そして再び神に戻る事を嫌い、幸せと救いを求めてさ迷いながらこの国にたどり着いた。ほどなくして神の使い、あらゆる儀式と封印の神オドバヘスもこの国に訪れた。第三の目である彼と出会ったオドバヘスはすぐに、彼が痛みを感じず動きを止める方法……今で言う催眠術のようなもので自らが作った強力な結界……この水晶のような物体の中に眠らせる事にした」

「催眠は自己暗示の延長、催眠状態は、安心して何かに集中している状態ですわ……」

と、美風の傍にいた娘が小さく呟いた。

「夢にのめりこむのも一種の催眠状態と言われるそうね」

と、マヴァケスの凛とした声がちらっと聞こえた。

黒いマントの男が続ける。

「彼がすぐに眠らされた理由は、彼が、凄まじい負の力を発しており、全ての命に悪影響を与える寸前だったからだと言われている。その後、オドバヘスは彼を眠らせたまま神に戻そうとした。だが、戻す前に……オドバヘスは謎の失踪を遂げてしまい、第三の目を神に戻す方法を知る者も、オドバヘスの結界を破れる者も、その後現れなかった。また、第三の目が死ぬと神の力が非常に弱まり、死後の世界などで常に飢えている、太古に別の次元に追い払った邪悪な魔により世界は滅ぶ。幸い、第三の目の生命を維持する方法を、オドバヘスと共に実施していた従者がおり、彼らの子孫である我々が継続している。……君達は、彼の生命維持に必要な人間なのだ」

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