第三章〔2〕 /…さらわれた理由
一行は予め用意されていた船でラエフィロ国(他国と交流がほとんど無い)のエヤイラド宮殿へ続くトンセラン川を遡り宮殿へ向かう。
途中、多数の頭蓋骨が川の周辺に放置されていた。
船に着くまで美風を抱えていた長身の美女はワーディテルのユンオーと名乗った。
彼女は既に手紙を送ったと言った。
ラエフィロのレタゼッフ王にだ。
王は状況をどう見たのかワーディテルの一味と正式な面会を許可した。
美風は一見ドレスに見える幅の広いズボンと上着に着替えさせられた。
若い娘の魅力を引き立てるように、体に合うように作られている。
一方、またたくまに宮廷にワーディテルの噂が広まる。
ユンオー達は武装し、他国からの客人と同等な対応を要求したが、賢い事にラエフィロの慣わしには従った。
美風を除くユンオー、縮れた金髪で鋭利な傷があちこちにある恐ろしげなラチワーニ、色白でひょろりとした身体、前に垂らし、部分的に刈り上げた黒髪が特徴的な眼鏡のセフバの三人は、役人から細かい質問を受けながら王との会見を待った。
そして待ちに待った会見の時間、ユンオー達は王に礼をせず、胸を張ったまま会見にのぞんだ。
「何千年と人々が手を合わせて来たその対象が、お前達の仲間の何者かの手により傷つけられ、眠らされた。彼には数々の信仰の源が込められていると言うのに!」
途端、王は悲しそうな目をして美風を見遣り、近くに来させる。
「彼は…眠ったままなのだ。お前も、目覚めさせられる力なのだな?」
美風は、お前も、と言われた事に違和感を感じながら王の前に膝をついた。
「その方がそうなったのは、どなたのせいでしょう?」
「ふむ?」
「私の力は、害を与えられた者から害を奪い、害を与えたものに跳ね返す力です…」
そして、病のように、跳ね返る相手がいなければ私に。
と美風は心の中で呟く。
それが一地の意見だった。
「ワーディテルの能力者達よ、話しが少し違うのではないか。お前達にもリスクが大きいようだ」
「王の依頼を受けた総裁自らが網を張り、触れた力を我々に伝え、探して連れて来るよう命じた。それが彼女だ。我々は神聖な役目を立派に果たした」
と、不機嫌そうなラチワーニ。
その言葉で、王ははっとしたようだった。
「…そうだ。彼が心身に受けた傷を取り除く力を持つ者が必要なのだ…どんな代償を払ってでも」
会見後、成る程なぁ、とセフバが無表情で言った。
「小娘の力を使うなら、一部ワーディテルのメンバーが眠らなければならないと言う事か」
ユンオーは、美風が震えているのに気付いた。
「美風、怯えてるの?」
「王様が、怒ってて怖かったわ」
ユンオーは慰めるように、美風の肩を叩いた。
「えぇ。けれどね、それも仕方のない事だわ。眠らされたのは宇宙から贈られたこの星の宝物なのよ。それが眠らされたのよ?黙ってられる方がおかしいわ」
美風は詳細が分からないまでも頷き、話題を変えた。
「ユンオーにはどんな力があるの?」
美風はユンオーの背後にいる二人にも目をやる。
「何かを覆っている空気に触れると、そこに混ざっている記憶がわかるの」
「どうして分かるの?」
「とても簡単な事よ。あった事を感じるだけだもの。あなたの視点から過去を見せて貰ったわ。…悲しかったでしょう」
美風はユンオーから少し離れ、俯いて複雑そうな笑みを浮かべた。
「んー…すごい」
楽しい事も沢山あったのだけど。
と遠慮がちに付け加えた。
「だから、私にとっては自然な事なんだもの。私は感覚を磨けば、誰でも身につくと考えているわよ?」
「そう…なの?」
ユンオー達は、美風を王から指示された部屋に案内し、その場を離れた。
さてと、とユンオーは豊かな金髪をかき上げた。
「奴は着いたのか?」
と、ラチワーニ。
「先程気配がしたよ。そう心配しなくても、約束は守れるでしょ」
と、セフバが苦笑して言った。
「ん?お前に分かり、俺が分からないとはな」
「際だってるのは美風含めた二人ね。けど、二人は全然タイプが違うわ。一方は可愛い、片方は美人。その他は普通…と。とにかく美風はお嬢様らしく、気品ある姫にならなきゃね」
「ユンオー様、ただ今到着しました。美風と言う娘は?」
振り返ると、自分と似た金髪の青年だった。