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癒しの手  作者: 宙華
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第三章〔1〕 /…さらわれた先は

猛烈な風の音と感触に、美風が目を開けると、見知らぬ女に抱き抱えられていた。

辺りは暗く、空には満天の星が広がる。

「あ、あなたは…」

ぼんやりと美風が呟くと、女が美風の方に顔を向けた。

「あのう?」

ふっと女は微笑んで、

「ほらあなた、いきなり空を飛んでいる気持ちはどう?」

美風は、女があまりに綺麗なのと、意識がはっきりしないので夢かと思った。

「あぁ、怖いけど楽しいわ」

美風が答えると、美風から見えない場所からくっくと男の忍び笑いがした。

「小娘がそれでは、助ける為に我々を追ってる連中は甲斐が無いではないか」

「追われてるなら、顔、隠さなくていいの?」

美風を抱えている女は星空に目を向ける。

「私はこの美しい顔をウリにしているの。隠したら意味無いでしょう?んーあなたはねー洗練されてるとは言い難いけど、人目を引く容姿なのは確かねぇ」

はぁ、と美風は応える。

「海…元気でな、頼んだぞ」

寂しさを含んだ声を出して、真賀太が海の部屋へ来た。

大混乱と化した会場が鎮静化された直後、美風が掠われた事が公になった。

警察が捜索を始めたが、勇潤は、父親から美風を捜す意志が全く感じられない事から、捜索を適当に打ち切るであろう事を既に見抜いており、独自に捜索しようとしていた。

「その荷物…一人で追い掛けるつもりなのか」

と、真賀太。

「はい。それが、私が勇潤様に希望した事です」

「海がパーティーに客として来れるよう計らえばよかった、君が客としていた方が、美風は喜んだだろうに」

真賀太の後ろから出て来た人物、勇潤を見て海の顔が綻ぶ。

「あなたは彼女の事を、いつも大切に考えて下さっているんですね」

勇潤は穏やかに微笑み、

「そうだ。だが俺だけじゃない。特に俺は、美風が好きだからな。従兄妹の、妹の域を越えて、いつの間にか」

「勇潤ぼっちゃん…」

真賀太が更に寂しそうな顔をした。

「身近な人間を愛するのは、ごく自然な事ですよ」

今にも飛び出しそうな海を勇潤が引き止め、冷静な口調で言った。

「海、俺には婚約者がいる。…大事な…だから、俺は行けない。俺の代わりに君が行ってくれ。情報と費用を保証する」

海は荷物を抱え、二人の前に立つと頭を下げた。

「お世話になりました。ここで親切にして下さった方々の恩は忘れません」

勇潤の部屋に、美子之が呼ばれた。

後ろから大地に手を引かれた由子真がちょこちょこついて来た。

普段、暇があれば遊んでくれたり、話しを聞いてくれた海がいるのを見て、由子真は顔を輝かせた。

美子之は海に、用意しておいた飛行機のチケットを渡した。

予め犯人達について知っている限りの情報提供はしている。

由子真は不思議そうな表情を浮かべた。

「え?海?どこに行くの?」

「美風お嬢様を探しに行きます、お元気で」

「由子真も海と行くわ!美風お姉様を助けるっ」

海の服を掴んだ。

「あたし、犯人の会話を聞いちゃいましたのよ。知りたいでしょ?ね、海?」

会場が暗くなった時、由子真は会場にこそ入れ無かったが、偶然犯人達がいたすぐ側の柱の裏に隠れていたのだ。

「由子真。君をここに呼んだのは、君があの時見た事と聞いた事を直接話して貰う為だ。美子之にも話さなかったのだから…さ、餞別に話しなさい」

と、勇潤。

「覚えていませんわ、勇お兄様」

「由子真」

「由子真お嬢さん、何を見たか、全く覚えていない?」

海が割って入った。

「…見てはいないわ。暗闇で話し声と笑い声を聞いたから、それが気になっただけなの」

「どんな声でした?」

「聞き取れたのは『これはゆゆしき問題だからな』『本当に恐ろしい…』『必ず天罰が下る』って言葉だけですの」

由子真はしゅんとうなだれた。

「十分です。ありがとうございます」

勇潤は、再び口を開いた。

「海、君の希望を優先したいが、やはり一人で君を行かせるわけにはいかない。美風を掠ったのが国際犯罪組織ワーディテル(宇宙からの人)のメンバーではな。そこで、彼を選んだ」

言って、勇潤が示したのは大地だった。

「もちろん、もちろん構いません」

大地が挨拶をする前に、海は大地の手を握った。

「大地さん。宜しくお願いします!」

「海君、宜しく」

大地は少年を改めて見つめた。

大きく、凛々しくなった。


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