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7 二人目の――

 王都の中へはすんなりと入ることができた。


 それにフォード家の名前を聞いた時のあの門番の表情。もしかしたら俺は凄い人と知り合いになったのかもしれない……。


 王都に入るとまず目に入ったのが大きな王城だった。白く高々にそびえ立つその白亜の城はこの王国の広大さ、そして力強さを物語っているようだった。


 王都を囲む壁の中へ入った後、そこには村にあるような家々があった。平民が住んでいる住宅地を通る。すると街並みは途中でガラッと変わった。人が住むような民家ではなく宿や、店などが立ち並ぶ商業街になってきた。また少し進むと建物が変わり一軒一軒の大きさが明らかにデカい。おそらく金持ちや貴族などのお屋敷だろう。つまり王都は商業街を挟むように平民が住む住宅街と貴族が住む高級住宅街に分かれている。


 そんな街並みに俺とエリナは窓に釘付けになり「「おお~~~~~~!」」とつぶやいていた。


 ある程度高級住宅街を進むとある屋敷の前で馬車の進行が止まった。


 馬車を降りるとそこにはほかの貴族の屋敷よりも一回り大きな館がそびえ立つ。どうやらここがフォード家のお屋敷みたいでフロストさんが門番らしき人と話を始めた。


 「私、ここに住むの?」

 

 貴族のエリナも屋敷の大きさに唖然としているようだった。


 「エリナの家はこんなには大きくなかったの?」


 確か貴族の屋敷は王都にある屋敷より自分の領地にある屋敷の方が大きいのが一般的だと前に本で読んだことがある。エリナも貴族だったらここまでとはいかないだろうが屋敷に住んでいるのではないだろうか。


 「ううん。私のおうちはもっと小さいよ……。」


 そういえばフロストさんは謙虚な貴族だった。だから実家も小さくしたのだろう。

 ちなみに俺はエリナの家に行ったことはない。行っていればエリナが貴族とゆうことにも気が付いていただろうに。


 フロストさんが話していた相手が血相を変えて屋敷の中へと走って行った。フロストさんを見るとむこうもこちらをみて「いこうか」と体でジェスチャーをした。


 大きな屋敷の扉が開かれるとそこには何十人ものメイドや執事の格好をしたお手伝いさんらしい人達が一直線に並び深々とお辞儀をして出迎えてくれた。


 「「「「「「「お帰りなさいませ。フロスト様。エリナ様。」」」」」」」


 そんな盛大な出迎えをさも当り前かのようにフロストさんは悠遊と歩みを進めた。エリナも貴族の娘らしくぎこちない足取りでついていく。自分だけが場違いな場所に来てしまったように感じられた。いや、実際に場違いなのは違いない。


 俺たちは初老の執事に案内され屋敷の中を進んでいくとほかの扉とは作りが違う扉の前まで来た。


 「ご主人様。フロスト様をお連れしました。」

 「うむ。入れ。」


 入室の許可と共に扉が開かれると……そこにはフロストと同じ赤い髪をした男性が座っていた。

 つまりこの人が……。


 「久しぶりだなフロスト!」

 「久しぶり。フレイド兄さん。」


 フロイドさんとフレイドと呼ばれたおそらくフォード家の当主であろう人が兄弟の抱擁をしていた。


 「兄さん、少し痩せた?」

 「いや、これは体が引き締まったのだ。私は健康体だよ。」


 久しぶりに会ったのが嬉しいのかフロイドさんがニコニコと笑っている。フレイド様も笑っている。フロイドさんはゆったりとした人柄だが兄のフレイド様はどうやら陽気な人らしい。今も弟の背中をバシバシ叩いている。


 「そうそう、兄さんに合わせるのは初めてだったよね。この子が――」


 フロイドさんがエリナの肩をつかむ。


 「私の娘のエリナだよ。エリナ挨拶は?」


 挨拶を求められたエリナは着ているドレスの端を掴み少し上げながら答えた。


 「お初にお目にかかります。エリナ・フォードです。」


 ――――少しびっくりした。

 こんな丁寧な言葉遣いをするエリナなんて初めて見たのだ。二年前からエリナの事は知っているが改めて彼女が貴族であることを実感させられた。


 「君がエリナか!アイシャさんに似て可愛らしい子じゃないか!」

 「ありがとうございます」

 「そうだった!うちの子も紹介しないとな!入ってきなさい。」


 そうフレイド様が呼ぶと部屋の横にあった扉が開き一人の女の子が出てきた。

 

 「こんにちは。フォード家当主の娘、リナリー・フォードです。」


 先ほどのエリナと同じように挨拶をした女の子は顔を上げるとフロイドさん、エリナ、そして俺へと視線を向けると俺を見たとき一瞬だけ驚いたように目が少し開かれた気がした。


 彼女はフレイド様と同じ赤色の髪をしていて、どことなくエリナと似ていた。それもそのはずこの二人は従妹なのだから。まだ幼さがあるエリナと違ってどこか大人びた、そう貴族の雰囲気を纏っている。


 「それでフロスト。その黒髪の子が手紙に書いてあった例の……。」

 

 俺の事だろう。俺はフロストさんが紹介してくれる前に一歩前に進んで名乗りを上げる。


 「お初にお目にかかります。この度フロスト様のご厚意によって王立騎士学校に通う機会を与えられましたススムと申します。平民の身でありながらフレイド様にお会いでき光栄に思います。」


 俺は自分の外見年齢をすっ飛ばした挨拶をした。俺にはこの年の子が使う敬語なんてわからない。変に演技するよりもこっちの方がボロがでないだろう。


 「そうか!君がススム君か。弟から手紙で話は聞いているよ。その様子だと……うむ。入学試験も大丈夫だろう。何か困った事があったら遠慮なく私を頼るといい。リナリーも君と同い年で騎士学校に入学するから仲良くしてやってくれ!エリナもリナリーと仲良くしてやってくれ!」

 「は、はい!かしこまりました。」

 「は、はい……」


 エリナは同世代の子供は俺しか知らないから少し不安ぎみに答えた。


 フォード家当主とゆうからにはもっと厳格な人でだと思っていたが平民の俺にもこうやって接してくれる。フレイド様はとても豪快な性格な方なのかもしれない。そう考えるとフォード家の人間は皆優しい人ばかりなんだろう。本当に出会ったのがエリナでよかった。


 「ではフロストよ。顔合わせも済んだことだし久しぶり飲みにいくか!」

 「おぉ!兄さん。久しぶりに行きますか!」


 ん!?


 ちょっと待て、今昼だぞ?今から酒を飲むのか!?それに今置いて行かれては――――


 「「では、行ってくる」」


 そう言うと二人とも楽しそうに部屋を出て行ってしまった。




 豪快な正確にも程がある!ただ一言挨拶しただけの子供を置いて行くなんて……。


 先ほどまでの華麗な貴族の雰囲気は消え去り部屋には静かな沈黙だけが残った。いや、こうゆう場合は平民の俺から話題を振らなければ!

 俺は改めてリナリー様に深々と頭を下げる。


 「改めまして、ススムと申します。リナリー様、今後ともよろしくお願いします。」

 「あら、どうもススムさん。これからよろしく。」


 彼女は貴族らしい返事を返してくれた。だが、一つ困った事がある。エリナが俺の後ろから出ようとしないのだ。

 

 「ほら、エリナも挨拶を。」

 「う、うん。エリナです。よ、よろしくお願いします。」


 やっぱり俺以外の子供が苦手になってしまっている。だが、エリナの今後を考えるとこれは直さなければいけないし何よりこの二人は従妹なんだ。もっと仲良くなってほしい。でも仲良くなるといってもどうすればいいだろうか……共通の話題とかかな。


 「それにしても黒髪なんて珍しいわね。」

 「黒髪の人は少ないんですか?」

 「珍しいわよ!黒髪はこの国じゃ勇気の象徴とされているわ。なんでも昔いた英雄が黒髪だったとか。」


 なるほど。だから初めて会ったエリナは俺の事を『黒髪君』と呼んでいたのか。


 「そ、そうなんです。ススム君は黒髪だけじゃなくっていろんな事を知ってて勉強もできます!」


 急にエリナが前に出て発言をしはじめた。


 「へえ、黒髪は飾りじゃないのね。でも英雄『アーク』はもっとすごいんだから。」

 「ススム君だってすごいんですよ?」


 どうやら、黒髪だった昔の英雄と俺の比較の話で盛り上がってるみたいだ。まさか俺の髪の毛の色から話が盛り上がるとは思わなかった。それにしてもエリナ……俺を英雄と比べないでくれ。恥ずかしい。




 幾分か時間がたち、二人の比較トークが止まりひと段落付くと二人ともが笑っていた。


 「ふふふ、気に入ったわエリナ。あなたは私の従妹だし同等な立場で喋ってほしいわ。」

 「わかりま……わかった……よ?リナリー。よろしくね!」

 「ええ!よろしく。エリナ!」


 彼女たちはまだ同世代の子がするにはよそよそしいが互いを認め合った。それに俺は嬉しさとちょっぴりの寂しさも感じていた。


 この日、俺はエリナのただ一人の友達ではなくなり。エリナに同性の友達ができた日であった。

新ヒロイン!?リナリーの登場!


えっ?努力要素はどこにあるかって?ごめんなさい、もう少し先になります……。

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