62 縮まらない二人の距離
かなり久しぶりの投稿となります。
設定などを思い出しながらの執筆となるので・・・おかしなところがあったらごめんなさい!
ハミルティアには計15回もの土煙が巻き上がっていた。
流石に街に危険が起こっていると誰もが気が付き、人々は明け方だが既に外に出て周囲の状況確認を始めていた。走る衛兵に問いただす人、自ら走り情報を得ようとする人、家に篭り事態が沈静するまで外に出ないようにする者。
そんな騒動の中、ススムは捕まっていた最後の獣人の子供を隠し場所に届け終える。
「これで15件分の子達は確保できたかな・・・」
「・・・・・・」
そんなススムの安堵をよそにララスは彼を睨む。ララスの妹の居場所の心当たりがあると言ってから二人は特に動くこともなく順番にアジトを潰していた。
「そ・・・そんなに睨まないでほしいな・・・」
「・・・別に・・・ガドーの・・・決定には従うけど・・・でも・・・」
彼女は自分の妹の安否が今すぐにでも知りたいのだろう。手がかり、心当たり、少しの情報でも今すぐに飛び出してしまう・・・そんな状況なのだ。逆によく今まで文句も言わずにススムを手伝っていたと言える。だがこれは必要なプロセスなのだ。
「わかってくれ。こうやって手足から潰さないと相手に先手を取られる可能性だってあるんだ」
「先手・・・? 『六天』の弟子・・・である私達・・・の先手を?」
「うん、ララス・・・君は魔法が使えるわけではない。そうだろ?」
その問いにララスは首を縦に振る。
「感知・・・ならできる・・・」
「獣人はその野生的な感覚で魔素の流れを検知できる・・・と聞くけどそれは相手と一対一で対峙している時の話・・・違う?」
「・・・そう・・・」
「なら僕ら二人がこれから殴り込む場所、そこでは流石に今までのように建物ごと・・・と言った破壊は出来ない。となるとどうやっても時間がかかるんだ」
今から殴り込む場所、そこではあまり過度な破壊工作はしたくない場所である。それに多数の獣人奴隷が捕まっている可能性がある。助ける対象が増えれば増えるほど無傷での奪還は難しくなる。
「・・・・・・」
少しララスが思案を巡らせる。
「・・・後ろからの挟撃・・・をさせない為・・・?」
「そ、そうだね」
案外まともな回答がララスから出される。
『彼女・・・師匠とは違って案外馬鹿じゃないんだな・・・』
晋の中ではどうしてもあの暴力が全てと言わんばかりの師『べギル』の影が見えて弟子である彼女もそうなのかと思ったが、流石は王女。ちゃんと押さえるべき点は理解している。きっとアークやべギル、ニア姉さんがこの場にいたら力づくで全てを解決していただろう。多分その代償にこの街は廃墟となるだろうが・・・。
今回は証拠である獣人誰一人として消させるわけにはいかないのだ。つまりこれはタイミングとスピード勝負。その為の不確定要素は一つでも残しておきたく無かったのだ。
「それじゃ・・・行こうか!」
ススムが歩みを始めた。
「・・・わかった」
それに合わせてララスも歩む。
向かうのはこの街の中心。
多数の獣人を隠すことができ、多額の金があっても誰も怪しむ事は無く、そして人の出入りが数多くなされる場所。走り回る衛兵はもうススムとララスのことを気にする余裕は無く横を素通りしてゆく。
一歩一歩歩くたびにララスから溢れんばかりの気の昂りが感じられた。
一週間、妹が攫われてから経過した期間。彼女はその怒りを溜め続けた。本来それを押さえるべき、とススムは進言するべきだろう。だが彼にそんなことを言える資格はない。彼女は必死に今も抑えているのだ。横にいる人間全てを殴り殺さんとするその殺意を。
ススムと彼女が並び立つ。目の前に見えてくるのは硬く閉ざされた門であった。
「ハミルティア領・・・領主。ジーアル侯爵屋敷・・・」
不自然といえば不自然だろう。
ススム達がここまで派手に破壊工作をしたというのに領主の門は硬く閉ざされ開く気配はない。まるで『我関せず』と言っているかのようである。
「入るぞ・・・ララス」
「うん・・・行こう」
多少強引でも構わない。どうせアジトが狙われているということは伝わっているのだろう。鉄格子の門を真正面から押してゆく。物理的な守りと魔法の加護がかけられているがそんなものススムには無いに等しい。
ギシャ、と金属音を立てながら強引に門はこじ開けられた。
「・・・・・・門兵の一人も無し・・・ね。これは確定かな」
「奴隷移送の為の・・・人払い・・・」
「その線だろうね」
特に妨害があるわけでもなくスムーズに二人は歩みを奥へと進める。
舗装された道を進んでいくと広く開けた広場へと辿り着いていた。そこで二人はあることに気がつく。
「ガドー・・・気がついた?」
「・・・気が乱れている。魔力がかなり入り混じっているな・・・」
「こんな事・・・初めて・・・」
気を感じ取れる二人だからこそわかる違和感であった。まるでそこらじゅうから気が感じ取れるかのような困惑度合い、明らかに生命に関する感知に対する妨害の魔法であった。
「アーク師匠から聞いたことがある。『気』っての生命力そのものだけど、魔力はその生命力を使用した物。だから気による感知に引っかかるって」
「けど・・・こんなに広範囲に・・・魔法がかけられてる・・・って・・・効率・・・悪い・・・」
「だよな・・・」
魔法に関しては駆け出しの初歩でしかないススムにはそのばにある魔法の効果を読み解くといったいった高等テクニックは出来ない。だがある程度推察はできるだろう。
「多分・・・音や振動を妨害するってとこじゃないかな」
「・・・なんで?」
「そりゃ・・・侵入者を倒す為でしょ」
屋敷の方から数人の気配がある。どうやらララスの感知範囲はそこまで広くは無いようだがススムは既に迎撃体制がこの場で整っている事を察知していた。そして二人を迎え撃つということはかなりの実力者だということも分かる。
「3人かな・・・出てくるぞ」
「っ! 分かるの!?」
「とりあえず今は目の前に集中・・・・・・」
ララスの言葉を遮りこちらも迎撃体制を整えようとした時だった。
屋敷の扉を開き出てきた人物の顔を見たススムの体が固まる。
「報告の通り・・・『白銀』だね」
「横の獣人の女は分からないけど・・・油断しちゃだめよ
エリナ」
ススムにとって何より大切な人が目の前に立っていた。
動きやすい装備に身を包んだ彼女はその腰に秘蔵の剣をぶら下げてこちらを睨む。その横には堂々とした立ち姿で杖を掴み同じくこちらを睨む赤髪の女性がいた。
「エリナ・・・リナリー様・・・」
その時、ススムの頭にはあらゆる情報が巡りごちゃごちゃとなってしまっていた。セントリアとジリアの戦争を食い止めるにはララスの妹を取り返さなくてはならない。その為にはどんな障害だろうと潰す、殺すつもりでいた。でも・・・でもだ。その相手があの二人であっていいはずがないのだ。
「『白銀』のガドーですよね。ここには何様ですか!!」
リナリーの高圧的な声が響く。
それに合わせてエリナの睨む目が向けられることで更にススムの動揺は激しくなっていた。
(なぜ、どうして、こんなところに、俺は・・・二人を殺・・・)
その時、ススムの腕が引かれ、頭にペシッと衝撃が伝わる。
「ガドー? 大丈夫?」
「キュイ!!」
明らかに動揺していたススム心配したララスとシロが声をかける。二人を視界にとらえることでススムは徐々に落ち着きを取り戻していった。
「ごめん・・・大丈夫だ・・・」
そう。大切なことを忘れていた。ここまでずっと静かだったシロが『反応』したのだ。つまりこれは『ヤツ』が干渉している可能性があるのだ。ススムはすぐに息を吸い込み強制的に自身の緊張を解きほぐす。
(落ち着け・・・あの二人が奴隷商売に関与しているはずがないんだ・・・)
ススムは落ち着きを取り戻していた。
「ここには仕事で来たんですよ。フォードのお嬢様方」
「あら・・・私だけじゃなくてエリナもフォードだと知っているのね・・・ならこっちの自己紹介は要らないかしら」
「こちらからも質問させていただきますね。なぜここにいらっしゃるんですか? 確か貴方方は王都を中心に活動しているはずですが・・・」
「それは急な依頼が入ったからだよ!」
ススムとリナリーの会話を遮るように男の声が入る。それは当然だろう。あの女達二人がいればあの男もこの場にいるには・・・・・・。
「アキスト・メアリス・・・」
「嬉しいね。僕のことを覚えていてくれたんだ!」
アキストは既に懐から魔剣を抜きススムに向けていた。あの時の大会から既に一ヶ月以上は経過しているが未だその恨みは健在のようだった。
「依頼・・・とは?」
「それは君には言えないな・・・何せ“偉い“人からの直接のお話なんだから・・・」
「・・・・・・成る程・・・ね」
ススムの中である程度の推論が固まっていた。
おそらくだがこの3人は偶々この街に居た、という訳では無い。きっと第1王子か第2王子のどちらかの指示だろう。ハミルティア侯爵邸に向かい指示あるまで待機・・・とかの依頼だと推察していた。
「あの羽虫・・・」
きっとリリスの仕業だ。エリスとリナリーをススムぶつける事でススムに嫌がらせをしたのだ。表向きはフォードの二人は第3王女のリーシャ王女の派閥だ、そんな彼女達は他の王子達の言う事などそうそう聞きはしないだろう。つまりアキスト・・・いやメアリス家はどちらかの王子の派閥に鞍替えしたのだ。
その指示を受けたアキストは二人を連れてハミルティアへ。
ジリアとの距離が近いハミルティアへ二人を送り込めれば最悪戦争に巻き込む事ができる。あの二人が戦火に巻き込まれる平民を見捨てる事が出来無いのも含めてのことだろう。
パッと思うついた推察で一瞬怒りが込み上げるがその場で抑え問答を続ける。
「それではあなた方はここで行われている奴隷商売とは無関係なのですね」
「なんですかそれは・・・」
エリナが初めて口を開く。
「あなた達は・・・」
「私達は連れ去られた獣人の子供達を奪還するためにこの街に来ました。そしてこの場所にいる可能性が最も高いのです」
「そ・・・それは本当ですか!?」
あの奥手のエリナが敵対するかもしれない相手に向かって喋っていた。それは学園でも、タタカ村でもずったススムの後ろに隠れていた頃とは全く別のものである。
「エリナ・・・相手の言うことを信じすぎちゃダメよ」
「で、でもリナリー・・・あのガドーさんが悪いことをするとは・・・」
「・・・・・・でも今はやるしかないの」
ガドーの王都での評判はとても良い物である。誰に対しても高圧的にはならず真摯に、優しく対応する。そんな評判である。その相手が今この街のあちこちで破壊を行っているなど信じられる物ではない。でもそれ自体は真実なのだ。たとえその先に更なる真実があろうと今はそれを証明する手段もなく、時間もない。
ならばこの場は二人を拘束し、その後調べると言うのが正解だろう。
「ガドーさん・・・あなたを一旦拘束させていただきます」
「二人ともおとなくしなさい!」
エリナとリナリーが構えた。だがそれがまずかった。
「・・・・・・ッ!!」
一瞬の間を狙いララスが駆けていた。彼女はまだ目の前の二人が悪意のない敵とは知らないのだ。
両陣陣営の均衡はそれを持って崩された。豪速で近づくララスに真っ先に反応したのはリナリーであった。簡易的な魔法陣を作り一瞬にして火魔法を数個生成する。そしてエリナは手に持った剣を振りかぶりララスの接近に合わせて振り下ろす。
ララスはそんな迎撃を正面から迎え撃つつもりで拳を固めて突っ込んでいた。
だが、そんな3人が衝突する瞬間、瞬間的に稲妻を放つ豪速の物体が割って入っていた。
「ストップだララス」
「「「・・・・・・!!」」」
三名が驚きの表情をしていた。
リナリーの火炎魔法は神断流の『虎花』によって空間に衝撃が加えられ消滅。
エリナの拳は『虎』によって弾かれ。
ララスの拳は『花』によって受け流されがら空きの彼女の体をススムは抱き抱えていた。
リナリーにとっては放ったはずの魔法が着弾することなく消え去っている。それは本来あり得ない事のはず。エリナにとっては本気ではないとは言え自分の攻撃を弾かれたこと。ララスにとっては殺すべき敵をススムが庇った事の驚きだった。
距離を取り直したススムはララスに説明する。
「ララス。ハミルティアに入る前に言った事覚えてるか?」
「・・・覚えてる・・・もしかして大切な・・・エリナって人・・・?」
「そうだ。あと隣のリナリーって女性もだ」
「・・・・・・」
彼女をおろし二人で並び立つ。
「ガドーの・・・気持ちは・・・わかった・・・けど・・・」
「ああ、わかってる」
ララスの言わんとする事は理解できた。彼女にとっては妹に手が届くかもしれないチャンスなのだ。そして彼女達がその壁そのもの。それに危害を加えるなと言われても聞ける話ではない。
「だからララスはあの男の相手をしてくれ」
ススムは先ほどの一瞬の攻防に出遅れていたアキストを指差す。
「あいつは・・・いいの?」
「ああ、あいつはそれなりに強いが・・・ララスなら大丈夫だろう。最悪殺してしまってもいい」
「了解・・・ならあの女・・・二人は・・・?」
ススムは一歩前に歩みを進める。
「良いチャンスだ。彼女達がどれほどの実力なのか知っておきたい。
エリナとリナリー様とは俺が戦う」
次回・・・ススムVSフォード、ララスVSアキスト
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