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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
4章 ジリア連合獣国

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61 闇の中のハミルティア

遅れました~

セントリア王国の端に位置しているにしては広大な面積を誇るハミルティアの街。沢山の人と豊かな土壌に恵まれ、ここの街に住む人間は毎日安寧な夜を迎えていた。ただ運がいいのか、それとも領主の統治能力が高いのか、それは当事者にしかわかりはしないが、それなりの資金を蓄えている街。昼夜問わず衛兵が街中を見張り、防壁の向こうに居る魔物の魔の字も知らない人間は大勢いる。


 だが、そんな緊張とは無縁のハミルティアの街の人々は今日、初めての眠れない夜を過ごす事となった。


 ある少年は窓から、ある主婦は道に出て、ある男達は何が起きているのか衛兵に詰め寄る。


 夜であろうとも月明かりで照らされるその大きな土煙は住民の不安を煽る。そしてまた、大きな爆音と揺れと共に煙が舞う。


                   〇


 「おい! いったいどうなってる!? 何が起こっているんだ!!」

 「俺が知るかよ! この場は巡回の道の横にある。けど、さっきまではこうじゃなかったんだ!!」


 衛兵たちがあわただしくあたりを駆け回る。その中心には跡形もなく粉砕された家屋の残骸だけが有ったのだ。


 「目を離したのはたった少しの時間だ…。その少しの間にこんな事に…」


 先ほどまでちゃんと建っていたはずの残骸を眺めながら衛兵はこぼす。


 「やはりありました…」

 「やっぱりか」


 混乱する衛兵の中に一人冷静に指揮をとる男が居た。報告される情報を精査し、何が起きているのかを知るべく部下と話す。部下の兵があったと話したのは先ほどまで人であった”はず”の死体である。


 「畜生…これで8件目だ。何がどうなってがる」


 日が落ちてからこの事件、すでに7件もの建物が同様に跡形もなく破壊され、残骸から無残に殺害された人の死体が見つかっている。そしてこの場を含めれば8件目、明らかに何か事件がこのハミルティアで起こっている。それは誰しもが把握しているのだが…。


 「だめだ…登録してあった住所によると最初はただの商店、つぎは民家、飲食店、倉庫。どれも共通点が無い…」

 「これはもしかして人為的な物ではないのでは?」

 「……つまり魔物がこのハミルティア内に入り込み、無作為に家々を破壊してると? それも一人一人惨殺してからか?」

 「ですがそうとしか考えられません! 未だ犯人の目撃も無く、ただ巨大な振動と共に建物が『砕け散って初めてこちらが発見に至るのですから…」


 部下の衛兵の言い分もわからなくも無かった。ここまで大々的な破壊工作をするのなら通常それなりの人数を必要とする。もし魔法などで破壊していたら詠唱の時間や魔力の発光で反抗が目撃される可能性はかなり高いはず。それが一切無いのだとするとこの崩壊は物理的な力によるものである。そのような事が可能なのはよほど高ランクの冒険者か魔物ぐらいだ。


 冒険者なら街に入れば必ず足が付く。現在調べているが高ランクの冒険者は全員アリバイがとれている。それに今日の夕方に来たあの”三人組”の方々なんて絶対にありえない。


 「だとしても誰にも察知されず…どうやって…」

 

 隊長である男が続くであろう事件の解決のため頭を悩ませていると瓦礫の山を捜索していた者達から何かを発見した事が知らされる。


 「どうした何を見つけた?」

 「見てください…地下への入り口です」


 それは瓦礫の山をどければ簡単に見つかるようにそこにあった。本来強固な扉が付けられ簡単に中に入れないようにしてあったのだろうがその扉は強力な力によってひしゃげ、原型を留めてはいない。


 すると中を見て来た兵が一人上がって来る。だがその者の顔に生気を全く感じられなかった。


 「おい、下で何を見た?」

 「……下は……地獄絵図です」

 「…正確に伝えろ。何を見た?」


 するとゆっくりと部下の兵は口を開く。

 

 「上の人間のように切り殺されているのではなく…その…」

 「なんだ、はっきり言え」

 「無いんです。心臓や、頭が…」


 人が失えば即座に絶命する箇所。それらだけが的確に、えぐり取るように無くなっていたのだ。引き上げられる死体を見て新入りの兵士は吐き気を催す。それほどまでに悲惨な現場であった。


 「違うな…」

 「違うって何がですか?」

 

 死体を簡単に調べている隊長が自らの見解を述べ始める。


 「地上の死体と地下の死体が、だ。上の物は…そうだな、まるで流れ作業でもしているかのように淡々と殺されているが、下の者は確実に絶命させる意志を感じられる。それにあの扉だ」


 そう指さすのはぐちゃぐちゃにへし曲げられた金属性の蓋である。


 「ただ開ければ良い物を力づくで無理やりこじ開けている。犯人は十中八九地下を目指しているな」

 「どうやら地下は広くて、捜索な難攻しているようですが……地下に一体なにが?」

 「……もしかして……」


 ここで隊長はある考えに至る。これまでの7件、立て続けに発生したためまともに瓦礫の撤去などはできていない。いまだ捜査など全くできていないに等しいのだ。


 考え方を変えてみるとある疑問点にたどり着く。ここは登録上はただの空き屋。そもそもここから人の死体が出てくる事自体がおかしいのだ。それに捜査が難攻する程の地下通路。


 「まさか…俺らは間違っていたのかもしれない…」

 「間違いですか? いったい何が…」

 「もしかするとこれと同じような地下、またはそれに準ずる隠し部屋が今までの場所にあるかもしれん! そもそも犯人はなぜ犯行がばれるように最後に建造物を破壊する?」

 「そ、それは…」


 側近の部下は即答する事は出来ない。


 「我々に犯行現場を捜査させるためだ。その為にこんな派手なパフォーマンスをしているに違いない!」

 

 目撃者すらいない程の犯行をしておきながら、ど派手な爪痕を残していく犯人。矛盾するそれには必ず意味がある。


 「今すぐに前の現場に急ぐぞ! 多分そこにも――」


 その時、瞬間的な地揺れと共に遠くの街中から土煙が上がった。


 「くそ! 次から次へと!!」


                  〇


 ハミルティアの防壁付近。


 人のあまり寄りつかない空き家に普段は居ない筈の人影が集まっていた。


 大きな振動の後、数分したごろに扉が開かれる。


 「ほら、ここに居れば大丈夫だよ」


 ススムは背におぶっていた獣人の女の子をその小屋の中へ下ろす。既にその中には10人を超える人数が静かに身を寄せ合っていた。


 「ララス、説明をお願い」

 「…任せて」

 『~~~。~~~~』

 

 獣人の言葉にて新たに連れて来た少女に現状の説明とこれからの予定をおおまかに説明が始まる。


 既に9件もの組織のアジトを壊滅させ、その内部に囚われていた娘達を一時的にこの空き家に集めているのだ。流石にどれだけの人数がアジトに居るか判明していない現状、救出した子達を連れて次の目標へと向かうのは隠密性と娘達の安全性にかける。そこでこの場所を利用しているのだ。


 『~~!? ~~~!!』

 

 ララスと話している少女が歓喜の声を静かに上げた。きっと自分が国に、故郷に、家に帰れることがとてつもなく嬉しいのだろう。


 皆、厳重な地下に囚われ、強固な檻に入れられていた。そして助けた娘の中には痛々しい暴行の跡も見られたのだ。そんな状況では生きる希望すら失ってもおかしくない。


 「…終わった。…次に…行こう…ガドー」

 「了解。それじゃみんな静かに待っててね」


 言葉は通じていないであろうが、その場の皆にススムが言わんとしている事は通じたようで静かに首を縦にふる。


 木製の扉を閉め、外へと戻るススムとララス。残る拠点はあと6つ。半数以上を回っても最大の目標であるララスの妹は未だ見つかっていない。襲った組織の人間に無理やり吐き出させようとのしたが、人間には誰が王女なのかなんて分りはしない。そもそももうこの街にすらいない可能性だってある。


 ふと横を見るとララスが思いつめた顔で下を向いていた。きっと彼女もススムと同じ考えに至ったのだ。ススムは無意識的にそんな彼女の頭をなでる。


 「まだ希望はある。ほら次いくよ」

 「……うん」


 そして二人は10件目のアジトへと向かう為に屋根を伝って走り始めた。その後をつくようにララスを後を追う。


 特に障害に憚れることなく9件のアジトを壊滅させたがススムには気になる事があった。


 (さっきからシロが全く動かない)


 ジリアを出てから徐々に反応を示さなくなったシロ。いつものススムの頭上ではなく肩に乗り周囲を警戒し続けていた。


 シロは神の力をススム以上に感じ取る事ができ、そんな時は警戒を示す。最近増えていたリリスが関係していると思われる人間の魔物化の事件。ススムには『運命』の力を感じ取る事は出来なくてもシロだけは感知できるようでいつも自体が深刻になる前になんとか食い止める事は出来ていた。


 そんなシロが徐々にではあるが警戒の色を見せているのだ。


 そもそもこの事件は単なる獣人攫いの事件では無いのかもしれない。王城であった第一王子のあの違和感、そしてこのシロの反応。何かつながっているとしか思えなかった。


 それに捕っている子達の数が少なすぎる。あの荷馬車に居たのは10人以上、そんな事件が頻発しているのならもっといる筈だ。


 (もしかしてどこかでまとめて捕まっているのか?)


 もしこのまま王女の足取りを掴めずに全てのアジトを壊滅させた場合、その後の行動を考えておくべきだろう。


 と言っても取るべき行動など一つしか考えられない。ハミルティアの街に多くの拠点を持ち、たとえ衛兵にばれても何とかなるとあの男は言っていた。


 (つまりそれは権力が――)


 そんな事を考えていると直ぐに目的の場所へとたどり着く。とりあえず目の前の事に集中すべく意識を切り替える。


 外から見ると何もおかしなところは無い店。深夜である今は明かりを落とし、住居であるなら住人は奥の部屋にいる筈である。でも、犯罪者のアジトとして使用されている事は既に判明している。


 ススムは気による探知を行い、内部の人数と力量を図った。


 「男性と思われる気が…5つ。弱々しい、怯えている気が1つ…どう?」


 そうララスに問いかける。


 「…だめ。妹の匂い…しない」

 「そうか。ここもハズレか」


 本命ではないからと言ってこの場に囚われている獣人の子を見捨てることなどしない。戦闘態勢に移行したススムはこれまでの9件と異なる事に気が付く。


 「流石に派手にやったからね。相手も警戒して全員地下に入ってる」

 「…だって…あんなに派手に…壊せば…ばれるの…当然」


 わざと派手に破壊したのは衛兵にその場が犯罪者集団のアジトである事を伝えるため。時間が無いススム達にとっていちいち兵と共同歩調をとる時間は無い。それにここまで深く潜っている相手、絶対に面倒な事になる。


 であるなら、物件への立ち入り許可などいらない程に木っ端微塵にしてやれば捜査もしやすくなる。


 荒事は全てススムがやり、あとのごたごたを全て衛兵に押し付けるつもりなのだ。


 それに上と下とで殺し方を変えているのも衛兵へのメッセージである。感情が激高するほどの”何か”が下にあった。という事さえ伝われば良い、程度にススムは考えていた。


 「全員下にいるならむしろやりやすいな」

 「…? どうするの? また扉を探して…正面から…行かないの?」

 「いや、上の建物をぶち抜きながら地下に突入する。それと同時に敵の殲滅をするからララスは――」

 「捕らわれてる子…を…」


 ススムがうなずく事で行動の決定が下された。


 「先に行く…ね!!」


 その場でかがみこむとその場で大きく跳ね上がる。十数メートル程上昇したススムは上空で体を整え落下地点を定める。


 「シロッ!!」

 「キュイ!!」


 その合図とともにシロの熱線が照射された。高熱光線は木造の建物など軽く貫通し地面に当たってその場を融かし始める。


 その場にススムが落下すると建物はバキバキと音を立てながらぐずれ落ちる。が、既に解けかけていた地面は吹き飛ばされることなく丸い穴となってススムを通す。


 「き、来たぞ――」


 待ち構えていた相手はそう怒号を飛ばそうとした。だがそれがその男の最後の言葉である。


 着地した土煙の中で聞いたことの無い音が響く。絶命の音もなく鮮血だけが床に飛び散る事で初めてその男の周りで一方的な殺戮が行われている事に気が付く。だがそんな男に反応する数秒すらススムは与えない。


 口を掴む形で顔を掴み取られ体ごと宙に浮く。


 一瞬遅れてララスが地下へともぐり怯えている獣人の娘に近寄る。これからススムが行う事をなるべくその子に見せない事も含め―― 


 「攫って来た子は他にどこにいる?」

 「っ~~~!!」

 「よく考えてくださいね。周りの奴らを見て」


 土煙の中、つい数十秒前まで生きていたはずの仲間の死体は恐怖を引き起こす。ススムの手から緊張と気がひしひしと伝わる。この様子では次の質問こそ正直に答えるだろう。


 「で? どこですか?」

 「っ……」

 「そうか…また空振りか」


 掴み取った手から気の一撃を相手の神経系に打ち込む。すると、男の意識は薄れ心肺機能が徐々に停止してゆく。


 ススムの拷問という”わがまま”に付き合わせたせめてもの痛みを与えない配慮である。


 「ガドー…終わった?」

 「うん、終わったよ。それに多分だけどララスの妹の居場所の検討が付いたかもしれない」

 「ほ、本当に!?」


 ララスが驚愕の声を上げる。


 この組織、配置されている人員の戦闘能力は正直差異が全くない事から考えて多分アジトごとの上下関係はあまりない。それに捕らわれている者の少なさ、おそらくこれまで襲撃したアジトは全て奴隷を売る小売店。きっと売買が決まった分だけこのアジトに連れて来られるのだろう。


 なら本店があるはず。それはきっと権力が集まり、多数の奴隷を収納するだけの土地があり、この都市を潤すだけの金が集まっても不思議が無い場所。


 「だけどまずは相手の手足から切り取っていこう。残りのアジトに妹さんがいる可能性だってあるしね」

 「…わかった…」


 その時、ララスは仮面で覆われている筈のススムの顔が何故か今までと異なる事に本能的に気が付いた。数少ない気を感知できるララスだからこその感知。ララスが感じ取ったのは――


 (怒?)


 ガドーの時は感情を表に出さない筈のススム。そのススムが表に出るほどの”何か”が今回は有るのだ。


 「貴族か…」

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