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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
4章 ジリア連合獣国

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60 ララスの覚悟

 やっと書けた…

 男が二階のこちらへと向かうためいったん階段を登ろうと向こうの視界から消える。その時、時間にして数秒しかないだろうがララスとススムにとっては自身の二大国の運命を決める仕事の始まり、その覚悟を決める最後の瞬間でであった。


 カツカツ、と革靴を鳴らしながら男性がススム達が座る丸テーブルの隣へ立ち止まりこちらを見下ろす形となっていた。


 「お前達がうちの者の死体を見つけたって奴か?」

 「っ……!!」


 その瞬間、ララスの目が殺意と憎悪に染まり戦闘態勢に入ろう――とした時だった。ススムの抑止する眼差しがララスの行動を思いとどまらせていた。


 頭部を隠しているローブから獣人の耳が盛り上がりかけるが幸い男の視線はススムへと注がれているため気づかれることなく盛り上がりは静かに鎮静化されてゆく。


 (無理もないな…だってこいつ、『獣人』の匂いを付けてやがる)


 どれだけ上品な香水を上から振りかけようと、匂いの上書きをしようと、一度付いた匂いというのはそうそう取れる物ではない。ましてや、ススムとララスの嗅覚でこの距離まで近づけばはっきりと分かった。


 (ビンゴだ)


 「おい、何黙ってんだよ…」

 「あ、いやすいません。確かにあなたが言っている人ってのは私達の事で間違いありませんよ」

 「そうか、なら…」

 「彼らの遺体は流石に持ち帰れなかったのでその場に。ですが『持ち物』ならその場から動かす事ができたので…」

 「へぇ…ちゃんと自分が何に頭を突っ込んでいるかはわかってるみたいだな。奥の個室だ、そこで詳しい話を聞かせてくれ」

 「なるほど…個室ならだれにも聞かれませんですもんね」


 ギルドが冒険者に貸し出している個室は防音と盗聴の対策が施されていて誰かに聞かれたらまずい話をする場所としては最適、周りの冒険者たちは自身の仲間達と晩飯と共の酒で騒いでいるが耳に入る可能性はある。そんなときに使う部屋なのだ。


 「付いてきな」


 男が先頭をきる形でギルドの奥へと歩みを進める。


 一見この男、ススムが話が分かる男でホッとしていると見えるが…相手が理解ある者でよかった、という態度を演じている。なぜならさっきからずっとポケットに入れている左手。左のポケットには微量ながら魔力の波動を感じていた。おそらく緊急用の連絡手段か、それともこちらを脅すための道具か。


 どちらにせよそれに触れているという事はいつでも対応できるべき警戒しているのだ。


 魔力の内容が暗殺なのか仲間への連絡なのか、内容まではわからないがとにかくこの男、いやこの組織の危機意識の高さは高い、と言える。


 ちらりと横を歩くララスを見るとなるべく男を視界に入れないようにしているが、彼女の拳は血が出るのではないかと心配になるほど強く、硬く握られている。


 彼が獣人の娘を攫う役割を持った男なのか、それともそれらを統率する役目か、はたまた何も知らされていない下っ端か…どっちにせよはっきりと感じ取れる獣人の匂いは彼女にとって耐えがたい憎悪をもたらす。


 目的の部屋に到着したようで男が先に入室し向かい合わせとなっている長椅子に腰を下ろした。


 「どうした? 座れよ」

 

 続いてススムとララスが入室する瞬間、ススムにだけ聞こえる大きさで「任せる」とだけ発した彼女は長椅子に座ることなく椅子に座ったススムの後ろに控える形で相対することとなった。最初から予定していた事だがススムが男の正面に座って相対する。


 「それで…商品はどこにあるのか聞かせてくれよ」

 「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。話をせかしてもいい事は有りませんよ」

 「そういう訳にはいかねえだろ。だって――」

 「”奴隷”ですもんね」


 はっきりとススムが口にした事で男の表情が曇る。


 「まずいですもんね。あんなことをしているなんて知られたら極刑どころの騒ぎじゃない。国家間のいざこざまで発展してしまいます。そんな危険な証拠…今すぐにでも確保したいですもんね」

 「おめぇ、まさか俺らを脅しているつもりか?」

 

 ギロリと男が睨むがススムがたじろぐことは無い。仮面によって表情は伝わらないがにこやかに談笑するように会話を続ける。


 「脅しているなんて人聞きの悪い、ただ困っているだけなんですよ~」

 「困ってるだぁ?」

 「あんなの私の身に余ります、うっかり善の心で憲兵隊にでも話してしまいそうなんです」

 「……それで?」

 「気持程度で構いません。口が滑らない程度の”何か”があれば貴方達も安心でしょう?」

 「ちぃ、たかりか…」


 すると男は懐から金貨を一枚取り出し机に投げ捨てる。


 「これでいいだろう。さぁ、教えろ。攫った奴らはどこにいる」

 「残念です。これでは一人分しか教えられませんね」

 「ハァ?」


 受け取ったコインを弾いて遊びながらススムは続ける。


 「”一人一枚”、お仲間の死体、”一人金貨一枚”です」

 

 ドン、と机が叩かれた。


 「おい、あまり舐めるんじゃねぇぞ」

 「そんな怒鳴らなくてもいいじゃないですか」

 「組織をなめると…ただじゃ済まねえからな。考えて物を言えよ」

 「怖い怖い、そんなにムキにならなくてもいいじゃないですか。たった金貨数枚で衛兵やギルドに通報されずに済むんですから」

 「おいおい、そんな事で何とかなるとでも? 俺らを敵に回してこの街から無事に出られると思うなよ」


 一見、弱みを見せた犯罪者集団にたかっているように見えるこの状況。もちろんススムは金貨などに興味は微塵も無い。だが演じているのは相手も同じなのだ。


 「でも、”騒ぎ”は起きないにこしたことはないですよね……?」

 「……チッ」


 この男は”なるべく”奴隷商売についての通報はされてほしくない。少なくともススムにはそう捉える事ができた。その証拠に男は舌打ちと共に手持ちの財布に手を突っ込み始めた。この男は「そんな事で」、と言った。つまりこの街の衛兵やギルドに通報したところで相手方にとっての致命傷にはならない。それは同時にこの事件がどれだけ深くまで潜り込んでいるかを表している。


 「……何枚だ…」

 「……”5枚”」


 ススムがそう告げると男は財布の中から残りの金貨を取り始めた。だがこの時点でススムの知りたいことは全て集め終わった。あとは……


 「ほらよ!」


 机に叩きつけられるように金貨が置かれる。ススムはそのうちの一枚を手に取ると品定めするように指で回し始めた。


 「さっさとその5人の場所を教えやがれ!」

 「……」


 先ほどまで会話をしていたというのにススムはひとりでに思考を巡らす。もう相手が意識の範囲外にいるかのように。


 「おい! 聞いてんのか!?」


 そんなススムの態度に腹が立ったのか男は椅子から立ち上がろうとした瞬間。


 シュン、と何か軽い切り裂き音か聞こえた。


 「へっ?」


 そんな男の間抜けな声と共にボトリと重い物が床へと落ちた。その場に居るススム意外の二人はその正体が何なのか一瞬では判断ができなかった。なぜならそれは落ちることなど無い、体に付いている”腕”なのだから。


 「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!! 腕がぁぁぁぁぁ!!」


 遅れて男の悲鳴と鮮血が飛び散る。


 男の後方には壁に突き刺さっている物が一つ。男の腕を切断したのはススムが遊んでいた金貨であった。だが普通の金貨とは違い薄く、平たくなった金貨は鋭利な刃として腕を切り裂いたのだ。いくら金が加工しやすいと言っても通常、道具を使わず人の手だけで加工するなど不可能に近い。だがススムにとっては少し硬い粘土を伸ばすようなものであった。

  

 「ふ~ん、やっぱり緊急通信用の魔具か……」


 落ちた男の腕に握られていたのは遠く離れた場所でも信号を送る事ができる、と言った簡易的な伝達魔具だった。


 「なら…まずい…話を…伝えられた…かも…」

 「大丈夫だよララス。これは一方的に信号を送るだけの魔具、こっちで使ったら対応する魔具も光る…その程度の物だから言葉を伝えるっと言った情報量の多い伝達はできないはず。それに使用する前に切り落としたから」


 出血を抑えるようにもがき苦しむ男などはなから居ないかのように二人は話す。


 「さてと…」


 ススムは懐から一つのポーションを取り出す。それは剣聖アキスト・メアリスと戦った大会でもらった回復薬である。部位欠損を直す様な巨大な力など無いが傷口を塞ぐ事は出来る。その薬を男の腕へとかける。煙を上げながら回復していく男は段々と喋るだけの余裕がでてきた様子だった。


 「て…てめえら…俺をどうするつもりだ。俺を殺したら組織が黙っちゃいねえぞぉ!!」

 「そうわめくな。いくら防音の魔法がかけられてるからって僕たちにはうるさいんだ」


 見下ろす形でススムはその面を取る。その下にあったススムの表情を見た瞬間、男の中にある怒りは恐怖に負けた。


 ごみを見る目でもない。憎い物を見る目でもない。人が虫を殺すのをなんとも思わない、命を奪う事になんのためらいもない…そんな殺意がこもった静かな視線だった。


 「本当はあのコイン、貴方の首を狙う予定だったんですが…少し気が変わりました」

 「な…なんだよ…」

 「本部の場所、またはあなたのアジトを教えていただけませんか?」

 「なっ…そんなこと言えるわけが――」


 言えるわけがない。そう男は言いたかったのだろう。だが続きの言葉はススムの眼光に押しつぶされる。その目はこう言っているのだ。この場で殺されるか組織を裏切るか選べ、と。


 「べつに教えてもらわなくてもあなたの匂いははっきりと覚えました。これであなたが頻繁に出入りする建物は特定できます。ですけど…それって手間じゃないですか?」

 「匂い…だと…まさかてめえら」


 その男の感は的中する。ローブを取ったララスが獣人の証である耳を晒していた。それと同時にススムとは違って憎しみと憎悪の眼差しを持って。


 「なんとなく予想が付いたんじゃないですか? ですから…ね」

 「あ……あ…」


 殺す予定だったと直接言われ、組織を裏切り命を狙われるか、拒んでこの場で殺されるかの選択の恐怖は男の体を震わせる。


 「貴方が知らない筈がない。貴方は実行犯の人数を正確に把握はしていない。つまり何人では攫っているとかは知らなくていい立場にいるんでしょ?」


 獣人攫いの実行犯はララスが3人、ススムが5人葬っている。つまりこの男はススムのブラフに気が付かなかったのだ。


 「そして面倒な事態の対応ができ、判断する事ができる立場にある。多分ですけどいくつもある組織のグループの長なのでは? ……あぁ、正解みたいですね」


 男の返事を待たずしてその瞳の動揺から質問の正否をススムは勝手に確かめていく。


 「なら教えてくださいよ。ほら…」

 「や、やめてくれ……」


 ススムは机からもう一枚金貨を手に取り指ではじいて遊び始める。男からしてみれば己の腕を切り落とした攻撃がいつ飛んで来るかわからない恐怖に襲われる。


 「わかった!! 言う! 言うからやめてくれ」

 「…それで?」

 

 男の口から次々と名と場所が上がってゆく。使われていない店舗の地下、大きな商店の裏、一般的な民家、数にして15のアジトが吐き出された。


 「これでいいだろ! だから殺さないでくれ!!」

 「……」  


 ススムは金貨を懐にしまい男から離れる。それをみて安堵する男だったが……。


 「ララス…この男、好きにしていいよ」

 「へっ?」


 ススムから告げられたのは憎しみに燃える獣人に男の生殺与奪を受け渡すと言う物だった。 


 「……いいの…?…我慢しなくて」

 「これは僕の師の教えだ。目には目を、歯には歯を。ララス、君の殺意は間違いなんかじゃないんだ。こいつを殺していいのは僕…いや俺じゃない」


 ゆっくりと男に近づくララス。それに対して男は脚だけで這うように逃げる。


 「や、やめろ! 約束が違うだろ!! 伝えれば殺さないって……」

 「僕が殺すのはやめてあげますよ。 ただ、僕が受けた依頼と彼女が動く理由は一致するようで一致しない。彼女は彼女の意志でこの場に居るんだなら…僕が止める資格なんて本来ないんだ」


 ララスの足が男の脚を踏み潰す。


 「あぁぁぁぁぁ! やめてくれ…頼む…」

 「そうやって…『やめて』と言った…子を…何人…連れ去った…」


 今度は逆の脚を潰す。


 「呪いの…足枷を…付けて…何人の子の自由を…奪った」


 動かなくなった脚の間にララスの剛脚が炸裂する。


 「あ…がぁっ…」

 「何人の娘を…その汚物で…汚した!」


 股間を潰された痛みで意識を失いかけるがララスはそれを許さない。腰骨と肩、顎を蹴り砕き強制的に意識を繋ぎとめる。


 「誇り高き獣人族…その頂点に立つ…六天のベギルが…末裔の…ララス。私は…お前達を…狩りつくす」

 「ご…ごめんな…さ…」

 「これは復讐だ。いままでの屈辱…その命で贖え」

 

 ララスの蹴りは男の喉元を切り裂き赤い鮮血が飛び散る。


 一つの復讐をやり遂げたララス、だがそんな事を喜ぶ彼女ではない。どれだけ大義名分を並べようとも殺人には変わりない。今にも吐きそうな顔をしているララスにススムは言う。


 「続けられるか?」

 

 すると感情を飲み込んだ彼女は真っすぐススムを見据えて言う。


 「まだ…始まったばかり」

 「そうだな。早く君の妹を探そう」


 そういうとススムは窓を開け、外へ飛び出る準備をする。流石に話し合いが終わったと思ってギルドの職員が入ってきたら騒ぎになるだろうからここはひっそりと抜け出し、あと数時間は話し合いをしていると勘違いさておくつもりであった。


 だがそんなススムにララスは言う。


 「ガドーは…人間を殺して…何ともない…の?」

 「……ない、かな」


 帰って来た返事に『そう』とそっけなく返すがララスはそんなススムがひどく悲しく思えてしまったのだ。同族を殺しても特に感じる事は無い、きっと彼はそんな事を感じる人として大切な何かを落としてしまったのだ。


 それはエリナとかいう女の為に『落とした』物なのか、それとも彼はこの世界に生まれた時から『持ってなかった』のか。


 だがススムを嘆くなど許されるはずがない。そこまでして強くなったススムを嘆くなどそれこそ彼の人生そのものを否定しているようなものだ。


 でもどこかその彼に焦がれる自分がいる。間違っている、人としておかしい、狂っていると分かっていようとも焦がれるのだ。私はその狂人を幼いころから見てきた。狂ったから強いのか、強いから狂うのか。けど構わないじゃないか、狂う先に強さがあるのだとすれば目指さない理由にはならない。


 だったら、この世界でただ一人同じ『六天』の弟子の一人としてそんなススムを肯定してあげる人がいてもいいじゃないか、と。そして同時に自分の役目を理解した気がしたのだ。これから彼が起こしてゆく事象、事件、それらを間近で見て、一緒に居てあげられるのは自分しかいないのではないかと。


 エリナとかいう女にだってきっとできない。それは『六天』の弟子の定めなのだと。


 「ガドー…いや、ススム。ありがとう、力を貸してくれて」

 「ありがとう? ……まぁいいか、ほら行くよ。もうすぐ夜中だ。襲撃するには絶好のタイミングだ」

 

 そう言って飛び出したススムの背中を見ながらララスは言う。


 「うん…付いて行く…すっと…」


 ずっと追い続けて来た伝説の獣人の背中、それが今日、目の前の男の背に変わったのだ。

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