58 追跡途中にて
ごめんなさい!!ぜっっっっんっっっっぜん時間が取れませんでした!!!
めっちゃ時間がかかった…。
ススムとシロ、そしてララスはセントリア国への国境付近の街道の場所へと戻ってきていた。
この場所はススムが奴隷商人から強引に聞き出した集合場所。だがその集合予定は一日前である。両人どもを全滅させ、馬車を奪っているので当然この場に商人が落ち合う予定だった者は現れない者達をいつまでも待ち続けることなどしない。
今、街道にそって走っているがそれらしい人物は何一つ存在しない。
「まっ、丸一日留まる間抜けな犯罪者だったら…こんな事態にすらなってないだろうな」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「大丈夫? 速度を落とそうか?」
「…問題ない…大丈夫」
そんなススムの横をララスは何とか同等の速度で走っていた。
ジリア王から期限の三日を告げられてから既に半日、だが首都からこの街道まで半日でたどり着くこと自体が普通の移動手段ではまず難しい。
意外にも獣人であるララスの足は速く、指輪を付けた状態での走り、それもススムにとってとびっきり”遅く”走っていたがそれでも馬車などよりも断然早い。だがその速度にもなんとか付いてきていたのだ。何度かススムは手を貸してララスを背負って走る事を提案したが『いい…走れる』と拒絶され続ける。
正直ススムもベギルとの闘いのダメージが大きい。今全力で走る事は避けたいのでこの程度のスピードがちょうどいいのだ。
あの時から丸一日経過してはいるがわずかでも手がかりが残っている事を願いススムはまず予定されていた場所の特定を急ぐ。
「ガドー…一つ…聞いても…いい?」
肩を上下に揺らしながら息を荒げるララスだが走ったままススムに問う。
「何?」
「その指輪外すと…元の姿に…戻るの…?」
「うん…」
ベギルとの戦いでススムが指輪を外し、その髪の色と本来の力となるところを目の当たりにしたララス。そんな彼女がこうやって他人が居ない場所までこの話題を出さなかったのはある程度の配慮が会ったのだろう。
「あなたの…本当の名は…ススム、でいいの・・・?」
「……うん」
勢いで指輪を外してしまい、その上自らの真名までも口にした。既に騙したままでいられる段階はとうに過ぎている。
「ならなぜ…髪を…白く変えて…いるの?」
「それは……」
言っていいのだろうか。あの後ベギルにはそれとなく事情とススムの背景を説明しようとしたが既に何かを察していた様子だった。だが何も知らないララスには気になって仕方のない事なのだ。
「セントリア王国で今、黒髪の状態だと何かと厄介ごとが多くてね」
「『アーク』…と同じ…髪色なのに?」
「うん……」
「そっか……いろいろ…あるんだ……」
本当は他にも聞きたい事は山のようにあるはずなのにこれ以降ララスは質問を投げかける事は無かった。特に詳しい説明はしていないがララスは察してくれていたようだ。
だが髪色の件はアークと同じ髪色”だから”、と言った方が正しいのかもしれない。
「そういえばララスはベギルさんの弟子だったね」
「うん。ススムもアークの弟子…同じ」
そう考えてみればススムとララスは数少ない『六天』の弟子である。だがベギルが彼女に接する時、師であるアークや現在の師ニアといった『六天』が指導をしている…という雰囲気は感じられなかった。ララスの実力はおそらくAランクの冒険者にも匹敵する。”未だ”その程度なのだ。
『六天』であるベギルの指導を受けてその程度なのはララスが悪いのか…それともベギルの指導が悪いか。
おそらく後者である。ほんの少ししか手合わせしていないがララスにはちゃんとした才能は見受けられた。きっとちゃんとした指導を受ければ彼女は化ける。ちゃんとした指導を受ければ……だ。
(あのじいさん、根本のところでは優しいんだな)
そもそもこの歳でこれほどまでの実力を得ているススムがおかしいのだ。ベギルは人並みのスピードで自らと同じ高見なんて望んでいないのだろう。『六天』のような超越者の力を得ようとするなど人の人生、いや体から魂まで捨てる行いだ。そんな苦しみをこの子が受ける必要などそもそも無い。
「ススムって…呼べば…いい? それとも…ガドー?」
「髪色に合わせた名でほしい。今は『ガドー』で」
「うん…了解」
しばらく走っているとススムが急にその足を止める。
「まったララス」
「何か…見つけた?」
ススムは地面に付いている車輪の後をなぞり、そのあたりにある痕跡そ調べ始めた。
「これは…荷車だな」
「? ここは…街道。馬車…の後が…あって当然」
「荷車に何も載せていない馬車だとしても?」
「そんな事…わかるの?」
「これを見て」
そう言ってススムは横にある別の車輪の跡を指さす。
「これが普通の馬車の後、それでこれが問題の馬車。どう? 車輪の溝の深さが違うだろ?」
「本当だ…」
「こんな街道に何も乗せていない馬車が通る事は少ない……しかもほらあそこ」
ススムが指を指した場所、そこには人の足跡が集中して付けられていた。さもこの場で長い時間”何かを待ち続けた”かのように。
「荷物を積んでいない馬車がこんな何もない街道で止まって、しかも人が降りて長時間居た。道程を急ぐ商人がそんな事をすると思うか?」
「…つまり…あの男共…の…会う予定だった…奴…?」
「断定はできないと思うけど…可能性は高い、とりあえずこの跡を追ってみよう」
「てっきり…追跡の…魔法でも…使うのかと思ってた…」
そうララスは怪訝そうにつぶやく。確かに追跡の魔法でも使えればもっと簡単に相手を探し出す事もできるかもしれない。だがそんな高等な魔法など魔力5のススムにできるはずがない。せいぜい彼が出来るのはその身の身体能力を生かして脚を使って調べる事ぐらいである。
「ララス、君の正直な意見を言ってくれていいよ。今は僕たちは仮のパーティなんだ。だから僕のこの馬車を追うという案にたいして異論や反論があるなら聞かせてほしい」
今のススムは一人ではない。勝手に一人で話を勧めるわけにはいかないのだ。
「……」
ススムの問いにララスはしばらくその場で考え込んでいた。悩むのも仕方のない事である。王から聞いた話によるとララスの妹が攫われたのは一週間前。彼女にしてみればススムに与えられた三日間など関係ない程急いでいるのだ。ここから捜索が始まるのだとすればここで道を間違えては大きな時間ロスになる事は間違いない。
「……それで…かまわない。…ガドー…信じる…」
「そ、それはどうもありがとう」
なんの迷いもなくララスは全力の信頼をススムへとぶつけた。
なぜだかララスはベギルとの戦いの後、ススムへの態度が変わっていた。前は人間という事で恨みの部分をどこかにひそめていたが、今現在まったくそう言った面は表に出てきてはいない。むしろ彼女の向ける視線はススムの事を更に知るべく鋭い注視が向けられている。
「それじゃ、行こうか」
「…うん」
「キュイ!!」
そう言って人間、獣人、ドラゴンの二人と一匹は数少なく、確証の無い手がかりを追って再び走り始めた。
〇
~~ララス視点~~
この男は本当に何者なのだろうか……。
人間なんて妹が攫われる前から好かない種族だった。たまにジリアに商売へくる行商の人間が私に向ける視線はまるで品定めをするような下種な視線、それか色欲にまみれた下品な物ばかりであった。
口では平等だ、権利だ、対等だ、と言っていながら彼らは根本の事ところで私達獣人を下に見ているのだ。
人間など私達獣人の前では調子のいいことを言っておいていざ自国に戻るとどうせ我々の事をさげすんでいるに決まっている。
あの視線が刺さるだけで吐き気がしそうだった。
約一か月前、我が国からの若い娘の失踪者が続出し、調べていると失笑者が出た地域には決まって人間が目撃されていた。
犯人は人間。
これまでにも獣人が攫われる事件はあった。だがここまであからさまに犯行におよび、ばれても構わない、というような犯行は初めて。それほどまでに大胆に、かつ被害が拡大していた。
そうと判明すればわが父は直ぐにセントリア王国に犯罪を止めるように要求を出した。だがその返事すらなく、失笑者は後を絶たなかった。
激怒した国の有権者たちは直ぐにセントリア王国に攻め込む事を提案したが穏健派の父はそれをなんとかなだめていた。
「戦争は最後の手段。それをしたら最後…両国に多大な被害が出る」
父はそう言って他の者達をなだめていたが私は正直その考えには賛成できなかった。なにせ被害が出ているのは獣人であっる我々だけだ。人間があの下種で下品な目、そして汚い手で我が国の娘達を汚しているのだ…ゆるせるはずがない。
だがそんな王の制止もあの事件と共に崩壊する。
私の妹、ナナが攫われたという一報が入ったのだ。妹は心優しく、攫われた者達の家族一組一組回り、励ましていた…が、そんな途中で妹は攫われたのだ。
穏健派だった父も流石に耐えきれなかったようでジリア連合獣国は『戦争』という方針で決まった。
そんな時この男に会ったのだ。
セントリアに戦争を仕掛ける前に少しでも誘拐犯達の情報を掴めないかと国境付近を警備していた時だった。ちょうどジリアの密林から魔法か魔具か、何かしらの能力で不可視化していた馬車が森から向け出て来たのだ。
国境付近で不可視化までしていて、なおかつ人間が操る馬車。そんな物を発見してしまっては体が勝手に動く。
私は目の前に踊り出て問う。
『私はジリア王の娘ララス。ここはジリアの領地、人間が何用だ! そしてその馬車の中身は何だ!』
「~~~~!!」
慌てふためくように人間が人間の言葉を喋る。前に人間の言葉は師匠から習っていたから断片的に理解はできるがどうやら男共は次の行動でもめているようだった。
『ララス様!? ララス様なのですか!? 助けてください!!』
荷馬車から若い娘の声。
次の瞬間、人間の返答を待たず私は襲い掛かっていた。頭の中に犯人では無いという可能性など存在はしない。たとえ違ったとしても人間であるというだけで私は恨みで一杯だった。
最初の一人は気が付かない内に喉を切り裂いた。
次の男は最初の男が上げた悲鳴を聞いて出て来た所を襲った。
三人目は男共に囲まれながらなんとか奴の心臓に剣を突き立てる事ができた。
そこでようやく私は自分が何をしたのかを理解した。
殺し、だがそんな罪悪感が生まれる前に馬車から聞こえる獣人達の救助を求める声で再び憎しみが生まれ掻き消えていた。
そうして自らの命を犠牲にしてでも目の前のゴミを殺そうと決心した時だった。彼が目の前に落ちてきたのは。
そこからの記憶は正直あまりない。
彼、ガドーに意識を奪われ、そして目を開けた時には既に全部が終わっていた。
男共は私が行おうとしていた事よりも無残な殺され方をしていて、捕らわれていた娘達は既に解放されていた。そんな彼に私は無意識的に襲い掛かってしまったが彼はわたしの攻撃ももろともせずにいなすほどの実力者だった。
王都に向かいたいと言った彼に同行、兼監視の目的で共に向かう。
だが私が何より驚いたのは『六天』の弟子である私を軽く倒す実力でも、その目的でもない…この男の目だ。
ガドーがしている目は他の人間とは全く異なる物だ。確かに差別的な考えをしない人はいる、会ったこともある。
だがこの人物は全く別だった。
人間とか獣人とか、そもそも種の違いそのものに興味すらないその目。まるで師匠が偶になる絶対的強者が至ったが故の目…自分の前にいる人なんて全てが等しく見える、そんな事を言っているようだった。
だがそれでいて彼は心優しい青年だった。
我々を護衛し、そして転んだ娘に手まで貸す。多少は気を感じ取る事ができる私でもこの男の纏う気が内部すら感知できない程の密度と量を兼ね備えていた。底知れぬ力量と優しさを兼ね備えている人物。師であるベギルおじ様がいい例だが圧倒的なまでに巨大な力を保持している者はどこか普通ではない。おじ様はよく他の『六天』の異常性を笑っていたが、私からするとおじ様の戦闘狂な考え方が一番以上であった。
でも目の前の同い年ほどの青年からはそのような異常性は全く見られない。
……だからだろうか。どこか普通のはずの彼の反応、それこそが狂気に満ちている気がするのだ。
私と同じように『六天』の弟子と判明した後ではその疑いが更に増した。数百年の間、その実力の一端しか見せてこなかったおじ様の全力を一瞬とはいえ引き出し生きて戻った。果たしてそんな事が同じ『六天』の弟子である私にできるだろうか……。
父上の信頼を勝ち取り、わずか三日ではあるが時間を勝ち取る事に成功したガドー、そんな彼は今私の横で奴隷商人の足取りを追いかけている。
一刻も早く妹を探し出す事に注視すべき…なのだがどうしても気になってしまう。
いったい…どれだけの苦痛と犠牲、覚悟があればそんな力が得られるのだろうか、と。
よろしければブクマと評価をお願いします!
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