56 VS ベギル 後編
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一時的に身体能力を爆発的に強化する『雷虎』、その発動と共にススムはベギルの体を押し返し瞬間的ではあるがその身に隙を生じさせた。
「いい加減にしろって言ってんだろうが、ジジイ!!」
ススムが今できる全力の力、その拳をベギルの顔面に叩きこむ。
メリメリとその全力の拳をくらったベギルはその身を後方へと吹き飛ばされる。そのベギルを追うようにススムも豪速でその場から蹴り出し、頭部に一撃をくらったせいで一時的に意識の無いベギルに追撃としてその身に深く脚を蹴りこむ。
「ハァァァァァァ!!」
まるで大砲でも打ち上げたかのような爆発音と共にベギルの体は遥か上空へと打ち上げられた。
「はぁ…はぁ…」
瞬間的な強化の『雷虎』を解除し、その身全身で息を荒げるススム。
いくら空中での軌道修正、そして加速して動く事ができると言ってもこれだけの力で空に打ち上げられれば多少の時間稼ぎは出来るはずである。
すぐさまススムはその場から駆け出し数少ないジリアの知識から被害が最も少ないであろう場所へと移動をする。そこは最初にススムとベギルが居た場所……すでに崩壊し原型を留めていない闘技場であった。
強大な魔力原で強化されていたはずの魔法壁は既に跡形もなく消え差去り、堅牢な闘技場ですらもう瓦礫の山であった。
その場に一人の人影、ララスの姿が未だその場にあった。戻って来たススムを確認したララスはその口を開く。
『~~~~~!!』
王がこの場に居なくなった今、翻訳されていたはずの言葉はそのままススムの耳へと入る。ララスは人の言葉をしゃべる事ができたはずだが自分がいま獣人の言葉を話し、ススムに伝わっていない事に気が付いていないほど興奮気味であった。
『~~~~、~~~!!』
「落ち着けララス。あのじいさんならピンピンしてるよ。あんな攻撃で『六天』が死ぬ事はないさ」
何を言っているか理解できないススムであるが、この戦いについての事だとはわかったススムは自身と対峙している人物が何者であるかをララスに思い出させ、ススムの言っている事が伝わったのか段々と落ち着きを取り戻してゆく。
「お前も逃げた方が良いぜ…ほら、あのじいさんもうこっちに落ちて来てるぞ」
するとススムの前に巨大な土煙を上げながらベギルが落下する。おそらく空中で意識を取り戻し空中での衝撃波を利用した移動で軌道修正と加速をしながらこの場に着地していた。
既に意識を取り戻している様子のベギル、その身の『半魔化』は既に解け元の姿へと戻っている。首を鳴らしながら自身の体の調子を確かめていた。
「すまんのススム。見苦しい所を見せた」
「気を付けてくれよじいさん。あんたの国の人達を巻き込むところだったんだぜ。『半魔化』ってのはあんな風に暴走するものなのか?」
「いや、本来ならあんな事にはならん。『半魔化』する事で増大する感情を己の強靭な理性で押さえれば普通の強化技になる…はずなのだがな。なにしろこれを行ったのも200年ぶりじゃ、油断しておったわ」
『半魔化』した状態で暴走なんてされたら普通の者では止めることなど不可能だろう。あの調子で暴れていれば首都どころか国の一つも滅ぼしかねない。
「『六天』の一員としてとても恥ずかしい所をアークの弟子に見られたとは…一生の深くじゃな」
「それで? これで終わり…って訳じゃなさそうだなじいさん」
「当り前じゃ。先ほどのような失態で終わってたまるか。今度こそちゃんとした『半魔化』を見せてやろう」
そう言ったベギルは再びその身を変身させてゆく。
だがベギルが自身を持つ『半魔化』、実際に受けて見て思うところがあった。実際の所指輪を外したススムとそこまで力の差は無い。つまり『雷虎』が使えるススムにとっては単純な力比べで勝機がある。だがその程度の技にここまで自信をもつだろうか……。
すると変位するベギルが明らかに先ほどまでと違う事があった。ただ垂れ流されるだけだった強大なベギルの気、その全てがいきなり消失した。いや違う、消失したわけではない。ただ一点に集まり集中しているのだ。ベギルの体内へと――。
「おいおい、これは……」
乱暴な殺意を向けていたいままでと正反対な殺意。静かに、けれども重く鋭い気がススムに刺さる。
「さぁ、再会しようかススム」
その変わりようにススムは今までで一番拳を堅く握り、警戒心を高める。周りを破壊するような移動はせずただ接近したベギル。それに合わせススムも『虎』を放つ――
が、次の瞬間ススムの視界は跳ね上げられた。
ベギルの足がススムの攻撃の間をぬって顎を跳ね上げていた。脳を揺らされ平衡感覚がなくなるススムだったが何とかその場に踏みとどまり続けて攻撃を行う…が、ススムの拳は勢いを殺すように手で受け止められる。
続く連撃を『花』で避けつつ接近しようとするが、拳だけでなく脚までも使うようになったベギルの攻撃を腕二本のみでさばききれずススムの防御の間を鋭く、意識を刈り取る攻撃が貫く。
(このじいさん…本来はこっちのタイプか!!)
最初の傍若無人な戦い方で力で押し切る人かと誤解していた。
ベギルは”技”で戦うタイプである。
力どうしのぶつかり合いならば打倒の方法などいくらでもある。だが”技”どうしではそうはいかない。どちらが洗練されているか、どちらがより技を使いこなせているか、それで勝敗は決まる。
だがススムの『神断流』はしっかりとベギルの拳を受け流し、そして相手の陣地を侵略している。通用している筈なのだ。ここで決定的に違ったのは別の要因……。
(”気”か……)
ススムが動作に入るワンテンポ早くその動きを予測しているかの如くススムの防御を貫通する。
万物を捕える事ができる気、それを完璧に操れれば五感など必要ない。もはや目よりも遠くを見渡し、耳よりも細かく聞き分け、肌よりも敏感に感じ取る。とりわけ危険察知や状況把握に長けている気は相手の動作を先読みし事前に把握する事も可能とする。
その気の最大量はススムとたいして変わらない、大きく差があるのは気の操作、使用法、それらが圧倒的なまでに差がある。
一撃一撃を楽しんでいた時とは全く異なりその表情はただの無。澄ました顔をしながらススムの急所へと的確に鋭い一撃を入れてゆく。
「グ…ガァ…」
「……」
冷静に、確実にその拳をススムの頭部、腹部、脚部。その脚でわき腹、関節裏を狙う。
一撃で戦闘不能になるほどの攻撃ではない。だが確実にススムの急所を突き、その体力、力、耐久力をそいでゆく。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ここまでやられても何とか反撃をする事は出来ていた。だがこれに関しては逆転の芽が見当たらない。仮に『雷虎』を使った所でここまで完璧にこちらの動きを呼んでいるのだ、防がれる可能性か高い。もし防がれてしまったら完璧にこちらは正気を失うだろう。
(どうすれば…)
次の対応の思考を巡らせた瞬間、ベギルの脚が今までで最高の速度と制度、鋭さをもって蹴り上げられる。そしてまるで鋭利な刃物の如くススムの左腕を切り飛ばした。
まるで鋭利な刃物のように左肩を下から切り裂き、鮮血を飛ばす。
加速された意識の中でススムはベギルと目が合う。蹴り上げた彼はしたたかに未だススムを捉え続ける。もう油断などしてくれない、暴走もしない、絶対的な力とその技を持った人物それこそが『六天』なのだ。
(『六天』相手に出し惜しみなどできるはずがない。なら使うしかないだろう!!)
すぐさま『仙術』を発動させ飛び散る鮮血、肉片などを強制的にその身へと戻し腕が完全に千切れとれる寸前に再生を始めていた。
「ッ!!」
まさか切り飛ばした腕がくっつくとは思いつかなかったベギル、蹴り上げた脚のせいで瞬間的に生まれた隙を再度ススムの『虎花』が貫く。
ベギルはその身の内部に伝道した衝撃にて口から血を吹き出し、ススムは未だ完全に治っていない腕の回復を行う。
「「はぁ…はぁ…」」
普通にくらっていたら即死の負傷を負いながら二人は視線を外さずに次の行動へと移ろうとする。
「アークの弟子ススムよ…お前まさか」
「……はい? なんですか…」
左腕が上手く動かない今、片腕だけで対応するのは不可能である。一刻も早く回復をしなくてはいけない今…使える物は何でも使う。それがたとえ時間稼ぎの会話であっても。
だがそんな考えのススムと違ってベギルは深刻そうな顔を見せた。
「その技……仙術か?」
「ええ、そのとうりだ」
「なるほど……あのアホが…己の弟子になんて術を…」
一瞬、そう一瞬であったが確かにその瞳に悲しみの色を見た。彼が何を思い、何を憂いたのかなどススムにはわかるはずもないが、確かにそう感じたのだ。
「はぁ……」
深くため息をつくベギル。
「ススム、一撃じゃ。次の一撃で終いとしよう」
「一撃…それでいいのか?」
「これ以上貴様にあの”術”を使わせるわけにはいかん。だから一撃じゃ、互いに最高の一撃を放つ…よいな」
突然の終りの宣言。なぜか仙術をススムに使わせたがらないベギル。
だがそんな理由はわかりきっている。万能であらゆる物理法則すらもゆがめる『仙術』。それにもある意味でのデメリットが存在する。使うたびにその身はこの世ならざる物へと変化してゆき命は伸び、精神は薄れ、その身は虚構な存在へと変わり果てる。
彼はそんな副作用を知っている、いや、誰よりもアーク師匠を間近で見ていた人物だからこそわかるのだだろう…この技の恐ろしさが。
「わかった。その提案受けてやるよ」
ススムもこれ以上戦闘が長引けばこちら戦闘力不足は明らか、それを補う為に仙術を使ってしまうだろう。なるべくそれは避けたい。
「ならば構えよ…」
低く、その手を地面に置き前傾姿勢となるベギル。気のせいか先ほどまでと毛皮の面積が増えつつある。いや、気のせいではない、明らかに『半魔化』している範囲が広まっている。
「瞬間的な『魔素帰り』による蹴り。それがワシが出来る最大の攻撃じゃ」
つまりその身を一瞬ではあるが完全に『魔』で覆い、その時の最大の攻撃力での一撃が彼の最強の攻撃なのだ。ここまで教えられたのならこちらからも言わねばなるまい。
「『雷虎』のよる一時的な身体能力の向上、そしてその状態でも『虎』。それが俺の一番の攻撃…になるんだろうな」
今まで一度も自身の全力の攻撃など試したことも無いススム。技のみの戦いでなく、力を試す戦いでもない、力と技の二つを使う全力…それを行える数少ない相手が今目の前に居るのだ。そんな機会、めったにないだろう。
「っと、その前に…ララス!!」
「……な…なに?」
二人から少し離れた位置に腰が抜けた様子のララス。ススムは自身の懐から一つの魔道具を取り出し彼女へと投げた。
「それを使って身を守れ」
「え…えっ?」
これまでのススムとベギルの現実離れした戦闘で放心状態となっていたララスにはこれから二人が何をしようとしているかなど理解できない。
「ほう…アークの道具か」
「あぁ、あれなら相当協力な攻撃だろうと一度は防ぐ。あんたもこんな戦いの巻き添えで彼女を殺したくはないだろう?」
「そのとうりじゃな。『半魔化』で理性を失いかけていたワシが言えたものではないが感謝する」
ついにベギルの体の全てが毛で覆われその身にどす黒い気が立ち込める。
「時間じゃ…行くぞススム」
「あぁ、いつでもいいぜ」
ススムもその身から青い稲妻を放ち自身の身体能力を向上させる。ススムにできる強化時間などせいぜい十数秒が限度、だがこの一撃にのみなら十分な長さだ。
自身の全ての気をこの一撃の乗せる。あとのことなど考える必要などない。
加速された意識が互いの動きをゆっくりと捉える。前へと進むために蹴りつけた地面はひび割れ、蹴って前に出ようとするたびにその地はえぐられる。一歩一歩と進むたびに加速されわずかな距離で音速すら超ていた。
この瞬間だけ…この瞬間だけがススムにとっての数少ない感情を表に出す瞬間である。強大な者との闘いの恐怖、相手を倒し自身の力を証明したい傲慢、さんざんいたぶられた事への怒り、自分の全力を出せる事への喜び、それらを全て混ぜ合わせススムは……『笑う』。
そんなススムにつられベギルも『笑い』ながら互いを屠るだけの威力を持ったその撃を放つ。
そしてベギルの振りぬいた蹴り、ススムの『虎』が触れる。
〇
その日、ジリア連合獣国を震源とした大きな地揺れが発生した。その揺れは隣国のセントリア王国まで届いたそうだ。
そして広大な密林を有するジリア連合獣国、豊かな自然に囲まれ資源に恵まれた国。
そんな首都から遠く離れた場所にある闘技場。
獣人にとって生ける伝説である『六天』、ベギルと戦う事を許された者のみが使う事を許される堅牢かつ最高級の魔法壁を備えた戦う者ならば誰もが憧れる場所。
だが、翌日から大きく地図を書き換える必要があるだろう。
闘技場を中心とした半径30キロにわたって建造物も動植物も一切存在しない――
”巨大なクレーター”となってしまったのだから……。
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