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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
4章 ジリア連合獣国

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54 俺の名前はーー

 危険には二種類存在する。その兆候がある物、つまり徐々に発生する危険。そして突発的に起きる危険だ。後者の場合、危険自体を回避する事は不可能に近い。既に巻き込まれている危険では起きてからどう対処するかの対応こそが不可欠。前者の場合、その傾向はあらゆる側面で現れる。何気ない変化、気が付きもしない異常。そういった物が傾向である事の少なくはない。


 ススムが今直面している危険は突発的に思えるが実は傾向はあったのだ。


 なぜこのジリアに入ってから魔物を一匹たりとも見かけていないのか。


 なぜララスはススムの一撃を耐えるだけの実力、胆力、精神力を備えているのか。


 そう、それはただ一人の強力な個体、ベギルが居るからである。


 「さぁ、小僧。数世紀ぶりにワシの血を熱くたぎらせてくれ!」

 「くっ……」


 ようやくベギルは抑え続けていた気を解放したようでその場に圧倒的な威圧感、覇気は吹き荒れ始めた。だがそれに一番の驚きを見せたのはススムではない。その対峙を見守っているジリア王とララスである。


 「お父様…お師匠様の一撃を受けて無事だった者なんて初めて見ました……」

 「私もだララス。そもそも大おじ様が自身から勝負を仕掛けること自体が前代未聞だ」


 伝説として生き続けるベギル。そんな存在が居るのなら教えを乞うか、その力をその身で感じてみたいと思うのは仕方のない事だろう。もしニアがその存在を明らかにしたら魔道の弟子となる者が彼女の自宅に列をなし、勝負を挑む者だって後を絶たないだろう。


 すべての勝負を一瞬で片付けてきたベギル、そんな彼が自ら戦いを求め、そしてその一撃を受けてもたっていられる生物などジリア500年の歴史の中でも初めてなのだ。


 「あのガドーという人物…一体何者なのだ……」


 そんな驚愕の言葉は渦中のススムとベギルには届くことはない。全身の集中力を互いに注ぐ、視界、触覚、嗅覚、聴覚さえもフルで使う。


 ベギルは即座に動ける姿勢、前傾姿勢へと変わり、ススムは今度こそ油断のない『神断流』の構えをとる。


 視線がぶつか会うこの場。先に動いた方が負けではないかと思うほどの隙の無さ、身体能力を極限まで上げた二人に隙など有りはしない。でも後攻に動く…そんな思考を二人には有りはしないのだ。


 同時に二人の姿が掻き消え、一瞬遅れて地面がひび割れる。


 再び視界にとらえる事ができたのは闘技場のちょうど中央、互いに右手は顔面に向かってストレート、左手は相手のストレートを正面から握り止めていた。二人の骨身に衝撃が伝わりミシミシとはっきりと耳へと届く。


 「いいぞ…もっとついて来い!!」

 「ッ!」


 至近距離からの連続のパンチ。だがパンチなど…軽い言葉と聞こえてしまうほどの衝撃派が一つ一つに纏い、発生していた。風も音も、あとから届くほどの豪速の拳。そんなスピードで繰り出される連撃をススムはその一つ一つを丁寧に、そして力強く『花』によって流し、空を切らせる。


 知識がある者ならば行動に一定のパターンはあり、連続の攻撃が続けばその傾向をススムは体で覚え、タイミングを見極める。だが――


 (クソッ…あと一歩前に出る事ができない!!)


 アークとの試験、あの時はアークはススムと同じように『神断流』を使っていたのだ。だからタイミングと技量さえあれば対応はできる。


 だがこのベギルは全く違う。その身ただ一つを使った全力の攻撃、力で押し切るようなこの連撃、ススムの熱線のベクトルさえ曲げる域に達した『花』でさえ力のみで押し切る勢いである。


 (ならここは!)


 拳が引くと同時にその身ごと内側へと滑り込む。再装填される前の拳を強引に腕ごと弾き、リスク覚悟で一瞬の隙を作りだした。だがこれはものすごく危ない行為である。なにせもう片方の拳は既に装填済み、ススムへと向けられているのである。


 加速する意識の中、待てどもその拳は前へと進んでは来なかった。それどころかベギルは嬉しそうに更に口角を上げ胴体を晒す。


 (完全に舐められてるな)


 その一瞬に『花』を解きススムは精錬された一撃、『虎』を打ち込む。気の瞬間的な爆発を利用したこの技の前ではどんな硬い鉱物だろうと、堅固な外皮をした魔物だろうと無事では済まない。


 ズドン、と強烈な一撃が『虎』はベギルの腹へと撃ち込まれ、衝撃はその後方の地面の土を舞い上げる。

 

 「ゴフゥ」


 流石に『虎』の威力は効いたようで肺の空気と鮮血が強制的に口から吐き出される。だが――

 

 「クッ、クッフフフ。ええの、ええの!」

 「嘘だろ…」


 思わずそんな言葉が漏れる。


 ススム最大の攻撃であるはずの『虎』それを受けてベギルは更に楽しそうに笑ってみせる。自ら洗練し続けた技がこの程度だった。その衝撃はススムに一瞬の集中力の途切れを起こしてしまう。続けて『虎』を放とうと瞬間的なタメに入る。その瞬間――


 「お返しだわい!」


 ベギルの脚がススムの腹へと突き刺さる。メリメリと突き刺さった脚は強固に鍛えた腹筋などお構いなしに突破する。だがそれだけでは終わらない。攻撃の勢いで吹き飛ぶ前、更に踵落としをくらわせススムの肉体はその場に叩きつけられる。土煙が爆炎のように舞い上がりその周辺をも揺らす振動を起こしていた。


 地面へとめり込んだススム、体を起こそうとするが全身に激痛が走る。間違いなく肋骨と肩の骨が砕けていた。


 「むぅ、思いのほあ良い拳を打ちよるもんだからついやってしまったわい」

 

 (くそ……流石”六天”か)


 力で真正面から押し負けたススムにはこれ以上の策など存在しない。ある”一つ”を覗いて――


 倒れるススムにベギルは強引に引き釣り出し強制的に立たせる。


 「さて小僧」


 とどめをさすのかとも思われたがベギルはその場でススムに問いかけ始めた。


 「いつまでワシを愚弄する。全力で来んかい」

 「……全力? 全力に…決まって…るでしょう」

 「なめるなよ小僧。貴様の反応と対処、全然会っておらんわい。反応速度に体が付ついておらんわ、まるで身体能力だけを半分にしたようじゃ」


 ススムですらわからなかった事実。指輪による効果は強すぎるススムの力を半分にする物、反応速度までも半分にするわけではない。


 「それに気の流れがまだ甘い。気の生成は一人前なのに流れが澱んでおるわい。まるで命その物を”何か”にかき乱されておるかの用じゃ」

 「そ…それは…」


 気は生命の力その物。魔力よりももっと命の形に近いエネルギー、そんな物を半分にすれば当然『気』にも影響がないわけがない。


 「六天の一員であったワシがアークが付けておった”その指輪”を見間違えるはずがあるまい」


 彼が本当に六天であるならこの指輪の真の能力を知っていても不思議ではない。


 「つまり…僕に…この指輪を…外せと?」

 「わざと力を抑えている者をいたぶっても何の面白みもないわい。やるなら全力でかかって来い……アークの弟子よ」


 アークに言われた。この指輪は『神断流』を真に極めるためわざとススムの力を吸い取る物だと。そしてこの指輪はニアによって黒い髪を白色へと帰る能力も得る事ができた。


 正直に言ってススムはこの指輪に助けられている事がある。


 自分はまだ人間なのだと実感することが出来る。幼少期の事件、フォードとの関係、そしてエリナとの対面、それから守ってくれているという事にススムは無意識的に安心感を感じていた。


 だがそれはあくまで後付けに過ぎない。我道 ススムという人間に上書きしてるに過ぎないのだ。


 「外せない理由でもあるのか?」

 「……それ……は…」


 リリスに居場所を悟らせない為? 違う。


 事件のごたごたに巻き込まれない為? それも違う。


 いや違いはしないのだ。それは理由の一つではあるのだ。だが大きな理由ではない。


 怖いのだ。


 我道 ススムという人間をこの世に出す事が。


 我道 ススムに戻る、それは自分の不幸な運命と向き合う事でもある。かつてやりたいようにやると決めてからその為の道を進んできた。そこからの自分は全くの別だった。今この指輪を外す事はつまり――


 (ガドーでもなく、ススムでもない。 我道 ススムに戻るのか)


 「もし秘密を守りたいというなら安心せい。王もララス、そしてこのワシも他言する事は無いと誓おう」


 そう言われススムはあたりを見渡す。確かにこの場にはジリア王とララスしか他には居ない。もしかすると事前にこれを見越して人払いをしていたのかもしれない。


 「……本当に守ってくださいますか?」

 「ああ。小僧、貴様の師に誓おう」


 ススムは力ない指を指輪へとかける…がその手は疲労やダメージとは違った震えをみせる。


 こんな時、師匠ならなんて言うだろう。


 大丈夫と安心させるか? お前ならできると励ますか?


 かつてアークに問いを投げかけた事がある。なぜ500年という長い間、誰も来ないダンジョンで待ち続けたのか。誰かが来るなんて保証もないのに、と。


 その問いに師は答える事は無かった。だがその時いつも彼は笑っていた。笑っていたのだ。


 きっと彼ならこう答えるだろう――



 『笑え!! 震えるなら武者振るいに変え、力が無いならまだいけると自分に言い聞かせろ! 血肉の全てを使って笑え!! この世界は笑った者が勝者だ!!』


 「後悔しないでください……いや」


 指輪を完全に外す覚悟はまだない。


 だけど少し……少しの間なら… 我道 ススム へと戻ろうか


 「後悔すんなよクソじじい!!」

 

 スルリと指輪がススムのその手から抜け落ちる。その瞬間、今まで無駄に消費されていた命、生命力その物が倍に増えて行った。あらゆる力、存在感、威圧感までもがススム本来へ物へとなってゆく。そう”髪の色”までもだ。


 「ほう、生意気に黒髪じゃったのか小僧」

 

 気の爆発的な生成によって自然治癒の能力は段違いとなっていた。折れた骨、破裂した血管、避けた皮膚までもが治癒しようと爆発的に細胞分裂が行われる。


 「その顔と口調……昔のアークそっくりじゃわい。それで? 貴様は何者じゃ?」

 「何者か…そうだな」


 こう名乗るのも久しぶりだろう。ニア姉さんに全てを話した時以来だろう。


 「そうだな、改めて名乗らせてもらうよじいさん。俺の名はススム、我道 ススム。英雄アークの一番弟子だ」


 上がり続ける威圧感は既にベギルを超える物となっていた。膨張した圧は魔法壁を超え観客席にいる者二人にも伝わっている。いや、それすらも超えて広範囲に広がっているだろう。木々に止まっていた鳥、闘技場の隙間に隠れていた小さなトカゲから動物まで生ける物全てが一目散にこの場を去る。


 「ええの! ええの! その純粋な闘志と殺気、かつてのアークのようじゃ!!」


 ススムの変わりように一人高ぶるベギル。


 もうすでにススムの中にはこんな闘志と殺意、覇気を吐き出して被害が出るかもしれない…などという考えは存在しない。目の前にいる強者を自らの手でねじ伏せたい、その傲慢とも思える闘争心に支配されていた。


 自分の方が強い、ただそれだけを求める感情。


 「死んでも文句いうなよ!! ジジイィィ!」

 

 目に見える傷が治り、再び『神断流』の構えをするススム。


 「ワシを殺せたら褒めてやるわ! 小僧ゥゥ!!」

 これがやりたかった! 男同士のスデゴロ!! 魔法なし、スキルなし! 始まるよ!


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