52 回避への謁見
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10人の獣人の子共を連れながらの移動は想像以上に早い物である。やはり人間と違って身体能力その物が高い獣人にとっては凸凹な樹海の中を歩み進むことなど容易な事であった。
ワイワイとはしゃぎながら歩いてゆくが自分の身長以上ある地表から突き出た根をいとも簡単に乗り越えて行ってしまう。もはや荷馬車の方がそれら凸凹に車輪がはまり速度が遅い。
「この荷馬車…というか、乗っている”荷物”は本当に必要な物なのか? 明らかに移動速度が遅くなっているんだが……」
馬を先導しているススムが現状の打開を提案する。たとえ冒険者5人を一瞬で殺し、あの『剣聖』でさえ打ち負かす技量を持っているススムでも馬車を扱った経験など皆無だ。もはやススム自身が引っ張った方が早いだろう。
「それは…ダメ…せっかくの…手がかり」
「手がかり…それはララスが言っていた”妹”と関係があるのか?」
先程意識を刈り取った際に言った言葉、あの言葉への執念がススムの一撃を耐える事ができたとしか思えなかったからだ。
だが帰って来たのはであった時と同じような冷たい目である。
「人間が…それを…聞くの」
その言葉にはススムにも理解しきれない程の憎しみが込められている。一体どれほどの憎悪を持てばここまでの目をすることが出来るのだろうか……。
「お前は…この子達を…助けた…だから…案内している…本来なら…人間なんて…」
「もしかして、さっきのような人…ではないな。獣人の子さらいは多いのか?」
ススムと視線を交わす事をやめたララスであったが静かに首を縦に振る。
「まさか…ララス、君の妹も……」
彼女はそれ以上何も返答の動作も、声も、返す事は無かった。ただ虚しくその手の拳だけが握られる。
「……」
この場でススムは彼女にかける言葉など見つかりはしない。人間がした愚かな行為を謝ったとしても、慰めの言葉をかけたとしても、希望を持たせる言葉をかけても、すべてが侮辱になるだろう。
自分の大切な人が攫われその身の権利すら守られない状況でもてあそばれるのだ。奴隷は生き物ではない、物だ。金持ち共の道楽の為、自己顕示の表現の為、文字どおり”消費”されるのだ。
もしその魔の手が自分の大切な人、エリナ…リナリー、フロスト様、タタカ村の人々、そういった人に及ぼうものならきっとススムは正気を保っていられないだろう。全力で相手を見つけ出し、四肢をもぎ、はらわたを引きずり出し、命を奪っても憎しみは止まらないだろう。そういった憎悪の中に彼女は居るのだ。
たとえススムが妹を攫った者でなくとも、その者と同じ種であるだけで彼女の中には憎しみが生まれてしまうのだ。
〇
既に日も傾き、日が落ちこむころ意外にも早く首都らしき場所へとたどり着く事ができていた。普通の人間が歩行するよりも早く歩いていたとはいえこんなにも国境と首都が近いのは意外である。
首都と言っても自然の中にあるような緑と調和した建物が多い。小川が数多く流れ、道端には木々が生い茂る。ほとんどの建築物が木造か、それか土壁で作られているのはセントリアの王都とは少し違う。
すると衛兵らしき獣人が近寄って来る。
ララスがその衛兵と親しく話をし始めた。きっと彼女はジリアの兵か騎士に所属している子なのだろう。あの娘達を攫っていた男共はきっと強くてもC級冒険者程度の強さしかないだろう。だが、八対一では話は別、そんな状況で3名を仕留める力量、そして何といってもススムの一撃に耐えた事がその力量を指し示しているだろう。
周りに居た子供たちが次々に兵士に保護されていき、ついに残されたのはススムただ一人だけとなる。
「まっ、こうなるよな」
保護すべき子供たちが居なくなった今、人間であるススムはこの場では異分子でしかない。次々と現れる兵士たちがススムの周りを囲み始めていた。20人を超える兵に囲まれ槍や剣を向けられる。
ススムにとってはこのような状況、どうという事は無い。だが首都まで来た交渉人がその場で暴れるのはどう考えてもまずい行動である。向こう側からの明らかな敵意があるまではススムは何も行動する事は出来ない。
その者達の指揮をとっているララスは迅速かつ的確にススムをどこかへ移動させる算段を立ててゆく。だがススムとしては少しだろうと時間を無駄にはできない。もし牢屋にでも放り込まれたら時間内の王への謁見は絶望的となる。
すると何やらララスとその周りに居る少し年と取っている獣人の兵たちとの話し合いが何やら激しい物となっていた。おそらく指揮官クラスであろう者はススムを指さし声を荒げる、それを冷静にララスが返してゆく。
ススムを今すぐにでも処刑する話しでもしているのだろうか…兵たちの握る柄に更に力が込められる。
すると強引に話を切り上げたのか怒鳴る指揮官の話を無視しながらララスがススムの元へと歩み寄る。
「ガドー…貴方を…王に…合わせる」
「えっ、いいのか?」
どう見ても話し合いは合意しているようには見えない。未だススムには数多くの刃が向けられその目からは殺意が感じられる。
どうやらララスは進むを王に謁見させるつもりのようで、そんな敵国の、ましてやいきなり現れた人間を自国のトップと引き合わせるわけにはいかないのが道理である。
『~~~~!』
ララスが大きな声でその場に居る者全員に説得を試みていた。すると明らかな殺意が薄れていく。
つまりララスは軍部の中でもそれほどまでに権力を持った人物という事となる。
(俺と同い年ほどで……何者なんだ?)
「だけど…これだけは…付けさせて…」
そう言って取り出したのは黒い特殊な手枷と頭にかぶせるであろう麻袋であった。パッと見ただけではわからないが何か特殊な魔法らしき物がかけられているのには違いない。確かに、人間を何も制限を付けていない状態で街中に入れるわけにはいかない。
「分かった。ララスを信じるよ」
「……ありがとう」
ガチャリと手枷をはめられたススム。するとその光景を見ていた一人の女の子が兵士の制止を振り切りススムへと駆け寄る。その子はススムが奴隷商人から助け出した内の一人であった。どうやら手枷をはめられるススムを見て今度は獣人が人間を奴隷にしようとしている、とでも思ったのだろう。必死に何かをララスへと訴えている。
するとススムはその子と同じ目線になるようにしゃがみその無垢な瞳をのぞき込みながら精一杯笑って見せた。
「大丈夫だよ」
この子にはこの言葉は通じていないだろう。だが何を言っているかは理解できたのか弱々しくつかんでいた服の端を離す。
「ララス、シロを頼む」
「……わかった」
なかない離れようとしないシロだったがススムが強引に引きはがしララスへと預け、その白銀に光る頭をなでる。
「心配しなくていい。だから大人しくしていてくれよ」
「キュイ……」
従魔との別れの言葉を告げると頭に袋をかぶせられた事でススムの視界が完全に奪われる。
〇
そこからのススムは一切なのもすることは無かった。気のによる感知すら行わずただ、ララスが言った「王に合わせる」その言葉を信じてただなされるがままであった。持っていた物を全て取り上げられ、ススムに残されたのは手にはめている指輪ぐらいとなっていた。
どこかわからない場所で一時間ほど待たされたり、歩いたかと思いきや今度は馬車らしき物に乗る。
階段を上ったり、降りたりを繰り返し。
一刻も早く王都と面会する事を願いながら3時間程した頃だろうか、周りの獣人が出す音が急激に減ってゆく。おそらく囲んでいたであろう兵たちが居なくなったのだ。
ジリアの言葉もあまり聞こえなくなり、数少ない聞こえる声は反響して聞えて来た。
自身がどこか広い空間に居る事だけを把握しながらゆっくりとた会話がススムの周りで進行する。するとススムにかけられていた麻袋に手がかけられる。
「っ……」
急激な光の変化にまぶしさを感じながらススムは周りの状況を確かめる。
立ち尽くすススムの周りのはやはり誰もおらず、その空間は広々とした物であった。部屋の隅には先ほどまでと違い装備をしっかりと揃えた騎士らしき獣人が並び立つ。
そして視線を前へと向けるとそこには一人の男が王座らしき椅子の座していた。その周りには補佐であろうか、数名の獣人と個々人を守る護衛まで居る。だが王の護衛はススムの見知った人物、ララスであった。
「ガドー、といったか。人間よ、よくこのジリアに来られた」
「どうも……」
明らかに歓迎しているとは思えない口調の王の言葉、やはりその口からは人間への不信がある。
「我らが兵が無礼な事をしたな。申し訳ない、だがこれも貴公と我が相対する為に必要な事とわかってほしい」
「いえ、俺…私としても王に会えるだけ十分です」
ここでススムはある事に気が付く、このジリア王…完璧な人の言葉を話しているのだ。
「む、我が人の言葉を話す事が意外か?」
「え、ええ」
「この国に伝わる秘法を使っておるのだよ。言語の違う者とも会話が可能になる物をな」
よくよく聞けばぼそぼそと小声で話している周りの者の声も人の言葉としてススムへと伝わっている。
「これが無ければ貴公から詳しく聞けないからな。率直に聞こう何をしにこの国に来た」
そう問いたジリア王の目はゆっくりと憤怒の火を灯している。激怒している理由などわかりきっている。あの獣人さらいの事だろう。あのような事が慢性的に起こっているのなら人間の男がこの国に入って来る目的に疑惑をもたれるのは当然だ。
「ジリアからセントリア王国への宣戦布告、あれを回避するためです」
「ほう…なら貴公はセントリアの大使か?」
「そういう事になます。セントリア王国第三王女、リーシャ様より書状をいただいています。先ほど取り上げられた物の中にあるかと…」
「そうか」
ただなんの重みもなくジリア王はただ「そうか」とだけ述べる。
(あっ、これは全く関心が無いな)
あるいはジリア連合の方も戦争は本意ではなく、こちらに敵意が無いと伝えれば何とかなるかとも思っていたがこの反応…これは対話でどうなると言った雰囲気ではない。
「それで? 我が国から攫われた者達の返還に応じる気にはなったか?」
「……」
「何度貴国には返還の通達、犯罪行為の中止、阻止、防止を呼び掛けてきぞ」
セントリア王、ガルベンは言った、なぜ宣戦布告されたのかは不明だと。つまりジリア王が言ったセントリア国に伝要求した事は何一つとして伝わっていなかったわけだ。
だが今その事実を言った所でなんの解決にもならない。
ジリア王は言った、「呼びかけた」と。「呼びかけるように言った」では王からの伝達が側近、または伝達役が何らかの理由で職務を果たしていない可能性もあった。だが「呼びかけた」ではその要求についてはジリア王がかなりの関心を持って、その成行きを把握している。
つまり、情報の伝達はセントリア側でとん挫しているわけだ。
今ここで『そのような事実は存じていませんでした』と言ったところで火に油だ。
「ララスよ、この者は信用に足る人物か?」
横に立つララスへと質問が投げかけられる。
「目的や、彼の背景にある事はわかりませんが……信用はできるかと思います。”お父様”」
お父様、そうララスは言った。ジリア王が父ならば必然的に彼女は……いや今考えるべきはそんな事ではない。ララスは言っていた、妹が同じように攫われていると。
つまり、人間はジリア王の娘を攫い、奴隷にしようとしている……。
(これがジリアがセントリアに戦争を仕掛けた本当の理由か……)
「信用できるか……ならばガドーとやら、貴公に問おう。貴方達人間に対して戦争を取りやめればどのように我が娘が帰って来る。我が民が帰って来る。戦争を取りやめれば帰って来るのか?貴公が取り返してくれるとでもいうのか?」
ジリア王が高圧的に喋り始めた。先ほどまで毅然とした態度で話してはいたが自らの娘の話題が出た所から感情がこもってきている。横に立つララスもススムを睨む事は無いが目を逸らしつつその手を握る。
「わかりましたジリア王。私に数日いただけますか? そうすればお嬢様を見つけ、王の元に戻してごらんみせます」
「なっ! 貴様、何を言っているのかわかっているのか!」
取り巻きの獣人がススムの提案に激怒を飛ばす。
「皆、落ち着け」
王の一言でその場が沈められた。
「ガドー殿よ、我が娘を探しだす…貴公はそう言ったか? 間違いないか?」
「はい、間違いありません」
この場合、宣戦布告の大きな決め手になっているのは王女、ララスの妹が攫われた事が大きいだろう。でなければ既にジリアはセントリア王国に向けて戦争を仕掛けているはずだ。だが、実際に宣戦布告したのは数日前。おそらくそこで妹が攫われ、本気で激怒した王は宣戦布告した……ならば王女だけでも帰還させることが出来れば回避、もしくは進軍の停止ができるかもしれない。
「確かに人間である貴公ならセントリア王国で動きやすいだろう。だが広大な国土を有するセントリアの中から娘一人を数日で探し出せると?」
普通無理だろう。人探しなど人海戦術が基本、一人でなど無理があるのだ。
でもススムにはあてがある。あの男から無理やり聞き出した情報、攫った娘達を受け渡す為に合流しようとしていた。そこに行けさえすれば何か手がかりがつかめるはず。
「はい」
はっきりとススムは答えてみせる。ジリア王の睨みつける目を真正面から受けて立つ。
「……だが、いくらララスから信用できると言われても、実力も知れず、会ったばかりの男などに任せることなどできない」
「くっ……」
(ダメか……俺自身が勝手に王女を助けてもいいがそれではジリアを止めておくことが出来ない。捜索にもせめて一日は欲しい……)
ススムは次の案を考える。このまま王を捕えて人質にする、そんな事をすれば本当の意味で戦争である。ならば自分一人で軍の侵攻を妨害する、いや最悪それも敵対行動だ。
この場の誰か、一言でもいいから王に進言してさえすればいいのだ。ならこの者の実力を確かめてみましょう、と。その可能性が一番あるララスもあの時気絶させてしまったせいでススムの戦闘を直接は見ていない……。
とその時――
「ならばこの者の実力、試してみればいいだろう」
今まで聞いたことが無い声が聞こえそちらを向くとそこには……ただの年老いた獣人だった。
このおじいさんだ~れだ…答えは…、次回直ぐにわかります。
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