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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
4章 ジリア連合獣国

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52/63

51 ララス

 奴隷商人となっていた冒険者5人を葬ったススムは直ぐに荷馬車へと歩み寄る。


 幕が開かれていたようで先ほどの一方的な殺害の様子も獣人の子達に全て見られてしまった。


 「えっと、とりあえず俺は敵じゃないよ」


 両手を上げ敵意はない事を示しても子供たちから恐怖の感情が消える事はない。彼女達にとって人間は自らを奴隷にした恐怖の対象であり、ススムは目の前で殺戮を行った人物だ。怖がって当然である。


 とりあえず信頼を得るためには素顔を見せる必要がある。普段つけっぱなしの仮面を外しその素顔を晒す。この場はではススムの素顔を知る者などるはずがないので正体が露見する事も無いだろう。


 「えっと確か……」


 ススムはかつて読んだジリアでの言語を思い出す。


 『こん…にち…は?』


 ただ資料でしか読んだことのない言語だったため発音がどうしてもうまくいかない。それにまともに喋れる言葉は簡単な挨拶程度だ。


 聞き取りずらいであろうススムの言葉に怖がっていた少女たちは互いに何やら話し始める。続けてススムはたたみかける。


 『僕の…名前…は…ガドー…です』


 軽い自己紹介だがどうやら伝わったようで小さく『ガドー』と返事が聞こえた。


 「そうそう、ガド―」


 自身を指さし名前を繰り返す。そうしていると次第に女の子達もススムが攻撃ではなく対話の意志を持っている事を理解し始めたようで恐怖心が薄らいでいる。


 「とりあえずこの檻を外すか、ごめんね少し離れていてね」


 手で奥に下がるようにジェスチャーすると理解した子から奥へと集まる。十分に間が広ると牢の扉へとその手をかける。だがどうやらその牢は特別性みたく魔法で強化がかけられており普通の衝撃程度ではびくともしない物であった。


 おそらく鍵は後ろで転がっている男どもの誰かが持っているのだろうが……。


 「面倒だ」


 牢から扉ごと鉄格子を引きちぎり取り、強引に子供たちを解放する。


 「さ、出て来ていいよ」


 一歩身を引いて手で誘導するジェスチャーをすると恐る恐る一人の女の子がその足を地面へとつけた。一人が出ればあとの子も続く、一人、また一人と馬車から抜け出す。地面に足が付かない身長の子はススムが手を貸してあげる事で全員が暗い荷馬車から抜け出す事ができた。


 「うっ、ううぅぅ……」


 一人の子が泣き始めるとつられて次々とその目から涙が、その口から泣き声が噴き出す。抱き合い自らの自由を確認し合う子、地面に尻餅をつき大声で泣く子、先ほどまで怖がっていたが感謝の気持ちからかススムに抱き着く子、ススムの手を取ってジリアの言葉でおそらく感謝の言葉を示すであろう物を繰り返す子。


 きっと泣くことも許されない恐怖の中に居たのだ。


 するとある一人の女の子があたりを見渡し始め、そして誰かの名前らしき言葉を繰り返す。


 「ラ、ラ、ス? ララスって子を探しているの?」


 今ススムが思いつく獣人など目の前に居る捕まっていた子達以外にはあの子しかいない。


 未だ歩きづらそうな足かせと手枷を付けたまま名前を呼んでいた子を彼女の元へと連れて行く。


 『ララス!!』


 そう叫んだ女の子は襲撃者の娘に歩み寄る。その声を聴いた他の子もそのララスと呼ばれた娘の傍へと歩み寄っていく。


 意識が戻りやすいように一撃を加え、かつそれにある程度耐えていたから今直ぐにでも意識を取り戻すだろう。


 だが問題なのはその意識を奪ったのはススム本人である。間違いなく敵対心を持たれるだろうがこの場合彼女の手を借りる必要があるだろう。彼女は人間の言葉を理解していた。それに「許さない」、「妹、返せ」といったジリアの言葉ではなく人間の言葉を使っていた。


 そしてこの子達を奪還しようとしていたのだから彼女達を届けるべきであろう場所も知っているだろう。流石にこの子達を置いて首都に向かう訳にいかないし、連れていけるわけでもない。


 「ん……」


 周りからの呼びかけに答えるようにララスはその目を覚ます。


 「!」


 飛び起きたララスは連れ去られていたであろう女の子達が自分の周りに集まっている事に驚いているようだった。そして自分が鎖に繋がれることもない事にも動揺している。


 何が起きたのか周りの子に聞くとススムの方に指さし説明を始めようとした瞬間、その視界に人間であるススムを捉えたのと同時に一気に飛び起きたララスがススムへと襲い掛かった。


 「待て待て待て! 俺は奴隷商人じゃない!」


 素早い拳を三発ほど避けると子供たちの元まで下がり毛を逆立出てて警戒したままだがとりあえず話は聞いてくれるようだった。


 慌てて掴まっていた子たちが間に入り娘をなだめる。


 何を言っているかはわからないが、どうやら敵ではない事を説明してくれている様子である。


 何度かやり取りが繰り返されるとララスの視線が荷馬車にある破壊された牢と、無残に倒れている男共に向けられる。するとようやく敵意が無い事が理解されたらしく構えを解かれる。


 「お前…ガドー…って言ったな…この子達…助けた…のか?」


 完璧とまではいかないが聞き取れるレベルの言葉だった。


 「そうだよ。さっきは悪かったね……急に襲い掛かって来るからつい」

 「…わかった。とりあえず…信じる」


 信じる、と言ってもらえたがその目には未だ警戒の色が有り続けていた。


                  〇


 先ほどの場所から少しジリアへ向けて入った樹海をススムと獣人の娘達が歩みを進め、荷馬車には倒した男共を乗せているため全員が歩く結果となっていた。流石に死体と女の子を同じ馬車に乗せるわけにはいかない。


 かと言って男共を置いて行く事もできないらしい。ララスいわく証拠として必要な物らしく断固として譲らない様子である。


 「キャッ」


 すると一人の子が転び地面に足をつく。


 「大丈夫?」


 心配して駆け寄る、言葉はわからないが『心配いらない』と言っているのはわかる。だがどう見てもそうは見えなかった。


 「どう考えてもこんな足かせと手枷をしまままじゃ歩きずらいよな」 

 「その…足かせに…触れ…ちゃダメ」


 横に来ていたララスが女の子の手を取って立ち上がらせる。


 「この枷は壊したらダメなのか?」

 「この枷…簡易…『ギアス』。無理やり…とると…歩けなく…なる」


 そう言われてはこちらも簡単には手が出せない。だがこのままでは夜になってしまう、ただでさえ樹海の中で日光が届きにくい中では動けなくなるのも早い。ススムとしては一刻も早くジリアの首都へたどり着き、王、またはそれに準ずる人物に謁見しなくてはならない。


 再びススムは枷へと手をのばす。すると首筋に短刀が当てられた。


 「それ以上…触るな」

 「安心しろ、多分俺にはこの枷を外す事ができる」

 「…お前…魔導士?」

 「いや、だがこういった物には何度か触れたことがある」


 直接触ったわけではないがこのギアスと呼ばれる物、おそらく『呪い』言われる部類の魔法だろう。そしてどこか魔物に変えられていた人間の時と同じ感覚があるような気がする。


 「えっと、通訳を頼めるかな?」

 「通…訳?」


 目の前の子に向けて話し始める。


 「君の枷を取りたいんだ。信じてくれないか?」

 「……」

 「痛かったり、傷ついたりしたら直ぐに止めるよ…どうする?」


 少し考えこんだララスは短刀を構えたままジリアの言葉で女の子に話し始めた。するとその子はススムの瞳を真っすぐ見て首を縦に振る。


 「よし、決まりだ! じゃぁ動かないでくれよ……」


 ススムの体がかすかに発行を始め、その指が足かせの中へと滑り込む。やはり考えていた通りこの枷は一部が肉体と魔術的に同化する事で外しにくくしていたのだ。なら話は早い、『仙術』で枷に潜り込み賭けられたギアスを直接掴み取ったススムはその術式ごと引き抜き握り潰した。


 するとまるで砂のように枷が砕け散ってゆく。足が自由になった女の子は嬉しそうにその場で飛んではしゃぐ。 


 「ガドー…何を…した?」

 「まぁ、隠しワザってやつだよ。全員の枷を外してあげるよ」


 一人、また一人と枷が崩れ落ちて行く中、ララスがススムの首元に構えていた短刀を懐にしまう。どうやら少しは信用してくれた様子である。


 「その…枷…国一番の…魔導士…じゃないと…外せない…はず…あなた…何者?」

 「あはは、俺はガドー。ただの冒険者だよ」


 全員の枷を外すと同時に歩みを再開させる。すると先ほどまでの速度と段違いのスピードで進む事ができていた。


 「ララスさん」

 「…ララス…で…構わない」

 「ならララス、俺らはどこに向かっているんだ?」

 「私の…家…」

 「家か…俺実はジリアの首都に行きたいんだけど…」

 「…? なぜ?」


 なぜ……。そう問われてススムは考え込む。果たしてララスは戦争の件を知っているのだろうか。セントリア王国では情報統制が行われて一部の上級貴族以外には知られてはいない。だが今頃は緊急で軍備が整えられているのだろうからそう長く隠せることでもないだろう。


ジリアではどのような情報統制がされているかはわからないが端的に目的だけを伝えればいいだろう。


 「王に…いや。ジリアで一番偉い人に会いたいんだ」

 「……」


 歩みを止めることなくララスは進む。


 「なら…好都合。今…向かってるの…首都」

 「ほ、本当か!?」


 これは思いがけない幸運だった。てっきりどこかの集落にでも寄ってこの子達を預けるのだと思い込んでいた。


 すると全員で一番小さく幼いであろう子がジ~っとススムの事を見続けていた。


 『何?』


 そう問いかけるとススムの頭上に居るシロを指さす。きっと白いドラゴンが珍しいのだろう。


 嫌がるシロを頭から引きはがし女の子の手にゆだねると抵抗をやめてただ愛玩される事を受け入れるだけだった。


 「キュイィ~~~……」


 その光景を見た数名の子が更に集まってもみくちゃにされるシロ。


 楽しそうにシロと戯れる女の子、本来子供は笑っていなければいけない。この光景こそがあるべき姿なのだ。


 その光景がかつてフォード邸に紛れ込んだ子ウサギを可愛がっていたエリナとリナリーと重なる。そんな光景に自然と笑いがこぼれる。


 「「フフ」」


 同じタイミングでララスが微笑んでいた。その笑みはまるで懐かしい物を見るような暖かな笑みだ。今までの冷たい表情とは違ってその笑顔は美しい女性のそれである。


 改めて確認すると整った顔と適度に鍛えられた体、風に揺れる青色の髪はどの男性が見ても美人だと同じことを言うだろう。


 ススムの視線に気が付いたララスと視線が交わる。


 とっさに視線を外したのはススムの方だった。


 (何考えてんだ……俺)


 そんなやり取りをしながらススムはジリア首都へと向かう。

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