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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
4章 ジリア連合獣国

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50 ジリアへ

 既にジリア連合領地内に入り、ススムは立ち止まり自らが進むべき道筋を確認していた。


 何もない平原からぽつぽつと木々が生え始め、明らかに土地の性質が変わり始めている。既に前方に広がるのは地平線ではなく木々が生い茂る樹海であった。


 ジリア連合獣国は広大な木々に囲まれた自然豊かな国と昔、書物で読んだ記憶がある。もし目測を誤って樹海に入った場合、目的地であるジリアの首都に到着するためには今ここでちゃんとした方角を確認する必要がある。


 「時間が無いって状況でこれでは困ったな……」


 王女から渡された地図もあくまで大雑把な物、果たしてこのとおりに進んだ所でちゃんと首都に付けるかどうかさえ定かではない。王都への進軍まで数日しかない中、この樹海で足止めをくらう訳にはいかないのだ。きっと指輪を外し本来の力を解放すればこのような森の踏破など容易だろうがもし着地地点に民家や町、ましてや首都が有ろうものならただの着地だろうが大きく地面をえぐり取り、建造物をなぎ倒す”攻撃”となってしまうだろう。交戦の意志が無い事を伝える大使の役目なのにそんな事をしたら回避は絶望的となるだろう。


 「どうしたものか……道案内が居れば一番ありがたいんだけど」

 「キュイ、キュイ!!」


 自らの進路に迷っていたところ、頭上のシロがぺシぺシと頭を叩きとある方角を指し示す。その瞬間、背筋に久しく感じていなかったあの感覚が走った。


 「また『神』の運命の力か……そっちに何かあるのか?」

 「キュイ!」


 今まで何度かある『運命』を操った事による揺らぎの感知。一見意味のないようなことでも物事は繋がっている、リーシャ王女との事がそれのいい例だろう。シロに導かれ彼女を助けた事によって王女との面識ができ、今回の事にもつながっているのだろう。


 「なんか手の平の上で転がされている気がするんだけどな……」


 『運命』の揺らぎは大体区別が付くようになっている。『神』によるものか、リリスによるものかはシロの様子を見れば判断できる。今回のようにシロが嫌悪感を出していないのは『神』による物だろう。


 「そうだな、ここで止まってても何も始まらないな!」

 「キュイ!」


 地図を懐にしまったススムは今まで進行していた方角とは異なる向きに転換し、シロの導く方へと駆け出す。


 そしてシロが指示していたであろう物は直ぐに視界に入る。樹海にギリギリ入っていない為、数キロ先までは見わたす事ができ、気による感知よりも先に目視にて目標を捉えることが出来ていた。


 「あれは……荷車か?」


 馬が繋がれた荷車が遥か前方に停車していた。ここは既にジリア領地内であることから獣人、それに荷車という事は商人である可能性もある。もしそうなら案内人としてこれ以上ない助っ人となる。


 「お手柄だシロ」

 「キュイ!」


 はたしてシロの手柄と言っていいのか分からないがとりあえず感謝を述べる事ができるのはこの子しかいない。


 ススムは荷車に接触するため接近を試みた。1キロ、800メートル、700、と接近していくがどうも様子がおかしい事に気が付く。周りを護衛しているであろう冒険者らしき人物が並び立ち武器を構えているのだ。


 そしてギリギリ気の感知が届く範囲に入る事によってその場の情報がススムへと伝わる。


 荷馬車の周りには5人の生命反応、がたいから全員が男性である事が分かる。それと相対するように一つの反応。ちょうどススムからは外にいる冒険者が遮るように並んでいるので目視で捉える事は出来ない。そして荷馬車に固まるように反応が多数……。


 「これは乗り合いの馬車に襲撃を仕掛けている最中か?」


 よくよく感知すると荷馬車の後方にも弱々しい反応がある。命の灯が消えかけている反応がいくつかある事から襲撃者は既に何名か襲い、その手で命を奪っているのだろう。


 「それにしても……どっかで見たことがあるような光景だな……シロ、お前はもしかしてこういう状況を狙って俺に伝えているのか?」

 「キュイ?」


 シロにリーシャ王女の時の事を言ったのだがとぼけたような声を上げる。


 「わかったよ。助ければいいんだろ?」


 力強く跳躍したススムはちょうどにらみ合いをしている冒険者と襲撃者の間に降り立った。その様子はまるで空から大型の魔物でも落下してきたかのような土煙を起こし双方の戦闘の緊張を一瞬だが刈り取る。その一瞬を狙いススムは声を荒げて咆える。


 「双方剣を納めろ!」


 土煙が収まり、ようやくその場の状況がススムにも良くわかる。剣を抜きこちらに構えている冒険者5人組は困惑した様子だが意外な事があった。その頭に獣人の証である獣耳が付いておらず明らかに人間の外見をしていた。


 その反対、襲撃者側は考えていた通り獣人である。ただこちらも意外なのは歳がススムと同じほどの女の子である事だった。胸当てとガントレットを付け、短剣を逆手持ちで構え明らかにこちらに敵意を向ける。獣人である事の証拠である獣耳の周りの毛も逆立ち、臨戦態勢を取っていた。


 「な、何だお前」

 

 冒険者の内一人がススムへ問いかける。


 「俺は冒険者ガドー。とある目的があったジリアに来た」

 「ガドー? 聞いたことない名前だ……」


 王都で広まって来たガドーの二つ名『白銀』もまだここまで辺境な土地には届いてはいないようだ。


 「と、とにかくお前も人間で冒険者なら俺らに加勢しろ! こっちはいきなり襲われて仲間をもう3人もやられてんだ!」

 「なるほど……君はどうなんだ獣人の子、何故この者達を襲う!?」


 だがススムの問いに獣人の女性が答える事は無い。ただ短刀が更に硬く構えられるだけだった。


 「無駄だ! こいつには人の言葉は理解できないんだ!」

 

 理解できない、そう冒険者は言ったがススムにはそうは思えなかった。襲撃の理由を問いてから深く構え直したのだ、おそらくこちらの言葉は伝わっている。


 「とにかくいったん双方とも剣を下ろせ」

 「嫌に決まってんだろ! あいつが剣を下ろすまで俺らも下ろさないぞ!」

 「……」


 仲間を殺されてか興奮状態の冒険者に比べて獣人の方は恐ろしいぐらいに冷静である。だが静かな視線の中に激しい感情をススムは感じ取った。


 (仕掛けるつもりだな……)


 獣人が構えを解き、その手から短刀がするりと抜け落ちる。その瞬間、その場の者の意識は短刀へと吸い取られ地面へと落ちる――


 「……許さない」


 ボソッ、声が聞えた瞬間、獣人が武器を持たずにススムへと急速に迫る。


 懐から真っすぐ放たれた拳はススムへと放たれるが警戒を解くことは無かったススムには当たる事は無く拳は真正面から手で止められていた。


 その反応には流石に冷静だった獣人も驚いていた。


 「やめろ、とりあえず話を――」


 ススムの話が始まろうともお構いなしに獣人は次の攻撃に移る。止められた手を軸に空中で体をひねり蹴りを放つ、がそれもむなしくススムには届かない。


 (埒が明かないな)


 もはや会話もすることが出来ない相手にこれ以上時間を割く事は出来ない。


 「ごめんな、少しの間眠っていてくれ」


 更に追撃を仕掛けようとしていたところにススムの掌底による一撃が加えられ強制的に意識を刈り取る。


 だが意識を失う事を拒んだ獣人はススムの服を掴んででも拒み、ギリギリの意識を保っていた。いくら手加減したと言ってもススムが攻撃して立っていられた人間は初めてである。


 「妹……返…せ。人……間」


 その言葉を発するとさすがに耐えきれなかったようでドサリと力なく獣人の女の子は静かに倒れる。


 「やったのか? 凄いなあんた!」


 命の危機から救われた事を歓喜する声が後ろの冒険者たちから聞こえてくる中、ススムは彼女が最後に行った一言が引っかかっていた。


 (妹、返せ?)


 「すいません。どうして襲われたとか分かりますか?」

 「えっ、さ、さぁ…いきなりだったもんで俺らもわからねえよ。なぁお前ら」


 その言葉に同意するように周りの冒険者も首を縦に振る。


 「俺らはただ荷物を運んでいただけだ。襲われる覚えなんて……」


 荷物、冒険者はそう言った。


そう、荷馬車に乗っている者を”乗客”ではなく”荷物”と言ったのだ。それに先ほどから男の心音が早まっている。


 そもそもおかしい所がある。こいつらが言う通り荷馬車なら護衛の者はせいぜい3人、多くて5人。それ以上だと報酬が分散されすぎてまともな稼ぎにならない。それに先ほど男は言った。「三人やられた」と、つまりこいつらは元々8人組なわけだ。


 そして一番の疑問、馬車の持ち主である行商人、または運び屋の姿が見当たらない。


 ススムは冒険者たちの横を通り抜け馬車へと近づく。


 「お、おまッ」


 男が制止するよりも前に荷馬車にかかっていたいた幕を開く。


 「これは……」


 そこにいたのは手足を鎖でつながれ、ひどく怯え切った状態の獣人の女の子達だった。荷馬車に乗る程度の小さな牢に入れられている様子で見えるだけで少なくとも10人以上のススムと同程度の年齢、それ以下女の子だ。


 「ちっ、ばれちまったかよ。そうさ俺らは冒険者じゃねぇ、奴隷商人さ」

 「奴隷…ね」


 この世界では奴隷は違法ではない。重大な違法行為をした者、戦争に負けた国の者、いろいろな理由で奴隷となる者は多いが……。


 「普通こんな子供が奴隷になるのか?」

 「……これは無理やり連れて来たのさ。だからあの獣人の娘も襲って来たんだよ」


 力なく地面に倒れる襲撃者の女の子を指さす。


 「何か問題あるかよ、奴隷契約の『ギアス』さえかけちまえばこっちのもんさ。金にもなるしこういう獣人の娘は貴族様に好評なのさ。どうだ? 助けてくれた礼に一人好きなやつ連れていくか?」

 「これはやっちまったな……つまり――」


 助ける方を間違えたわけだ。


 「黙っていてくれさえすればいいさ。何なら金でもいいんだ――」

 「もういい、何もしゃべるな」


 横に居た男に抜き手による突きを放ち体を貫く。


 「へっ?」


 未だ自分が何をされたかわからない男、その身を貫いた手には心臓が掴み取られている。そしてたやすく握りつぶし中に溜まっていた血がはじけ飛ぶ。


 「お、お前ェ!」

 

 周りの仲間が剣を抜き態勢整える前に『雷虎』を発動させた一瞬の内にススムは3人の頭蓋を弾け飛ばし体が力なく倒れる。


 そして残った1人にの腹にその手を突き刺しその手は血肉を指し進み、男の脊柱を掴み取る。ススムの唯一のスキル、治療術LV1を発動させ出血によるショック死を許さない。


 「ゴハッ、なんなんだ……お前、俺らを助けてくれるんじゃ」

 「それ以上無駄な事で口を開くな。俺の聞く事だけ答えろ。この子たちをどこへ連れて行くつもりだった」

 「そ、それは……」


 口から血を流すが質問に答える事にためらっているようなので少しづつ拳を握っていき、人間が味わったことが無いであろう激痛が男を襲う。


 「ア゛ァァァァァ!! やめてくれ!!」


 ステータスという外的要因で強化されている冒険者はある程度の痛みや怪我には屈しない。だが人間が動く上で必要な臓器、神経は鍛えることは難しい。その中枢である神経が走る脊柱を潰されれば誰もが全身に後遺症が残るレベルのダメージを負う。


 「もう一度聞くぞ、どこへ連れて行くつもりだった」

 「国境付近の街道で落ち合う予定だったんだ! 相手は知らねぇ!」

 「そうか」


 腹から手を抜き出すと男は力なく地面へと倒れ震える手で未だ自らの腹に空いた穴の治療の為かポーチを探り始めた。回復薬でも探しているのだろうが脊柱を半壊させたせいで上手く手に力が入っておらずまともに腕を扱えていない。


 このまま出血で死ぬか、それとも奇跡的に効果の高い回復薬を飲み一命をとりとめるか。


 もうそんな事にススムは興味すらなく男に背中を見せ荷馬車の方へと歩みを進める。そんなススムの後方ではポーチから回復薬、ではなく一つの真っ赤に染まった剣を取り出していた。


 「クソが…仲間の敵だ」


 魔剣と呼ばれるよの魔力を帯びた剣はただ持つだけで持ち主に多種多様な力を貸す。この男が持っていたのは振るう事で中級火炎系魔法『フレイムショット』を放つ事ができる物だった。


 震える手で振り下ろさせた魔剣から放たれた火炎魔法は大きな火炎玉として後ろを向いているススムへと迫る、が唯一その男を見続けていた者がひとりいた。


 頭上のシロが放った熱線は魔剣から放たれた魔法など初めから無かったかのように掻き消し男の心臓を的確に焼き落とす。


 「化け物かよ……」


 死の直前、男がそう最後の言葉を言った。その死に際の言葉にススムは静かに返す。


 「他者を食い物にし、虐げて生きようとするぐらいなら化け物の方がマシさ」

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