49 微かな疑い
リーシャの口から発せられた冒険者ガドーの正体がススムではないかという発言。もしかしてという可能性はあったがリーシャはそこを見逃す事はなかった。
「リーシャ様、あの日、あの時も私は言いましたがススムという少年の事は存じ上げません」
「あの日の会話を知っているということはやはり貴方は私を助けてくださったガドーさんですね」
ススムが振り向くと王女とその御付きのメイドが深々と頭を下げていた。
「あの時のご助力、本当にありがとうございました」
「リ、リーシャ様! 私は当然の事をしたまでです、頭をお上げください!」
ススムにとって虐げられたり、罵倒される事は今までの人生で幾度も経験してきたので慣れたが、こうやって誠心誠意の感謝を向けられた経験は少なく、対応に困るススムである。
「あの時、周りの者達からは王都外の他の領主への直接の謁見を反対されていたのです。私に付いてくれる近衛兵も数少なく、唯一の希望である『勇者』エリナさんも一緒に居ない状況で王都から出るのは自殺行為だと……」
「けど、あなたは王都を出た」
「はい。王都に居る貴族のほとんどはアラン兄様とグストフ兄様の派閥、私に残されているのはもう現時点で王都に居ない貴族の方ぐらいしか……」
どれだけの支持、つまり貴族を従えているかで決まる次の王。そんな兄弟たちの中で行われている王位継承の争いの真っただ中にいるのがこのリーシャ王女なのだ。
「結果、まともな交渉もできずおめおめと帰って来た私は襲撃に会いました。あの時あなたが助けてくれなければ今頃は――」
そこから先の言葉は王女は発する事は無かった。蝶よ花よと育てられ優しい心を持つ14歳女の子が突然兄弟たちと争い、そして命を狙われた。そんな経験、本来はあってはならない。
リーシャ王女の方が少し震える。
フォード家、つまりフレイド様が彼女の派閥に付いたのも理解できる。彼女は無垢なまでに純粋なのだろう。人を裏切る事を知らない、そんな人だからこそフレイド様、エリナ達は力を貸しているのかもしれない。
「でもそんな貴方がまさかあの伝説の英雄アーク様のお弟子様だなんて……」
「まぁ……信じてくださいって言う方が無理なのは理解してますよ」
「信じていますよ。私はあの時の戦いを目の前で見ましたから」
「アハハ、それは……どうも」
「その恩人を疑うようで心苦しいのですが……なぜ私と初めて出会った時と『髪の色』が異なるのでしょうか」
「それは……」
リーシャ王女はやはりそこをついて来た。
彼女と初めて出会った時、ススムは『黒色の髪』を曝け出していたのだ。そもそも、リーシャ王女から自身の特徴が出回っていると聞かされたのだからこればっかりは運が無かったとしか言えない。
「あの時、黒髪である事を理由にガドーさんをススムさんではないかと思いました。ですが今、髪の色を変えてここに居ます。それは私に言われて王都での自身の素性を隠す為では? そしてそんな事をする人なんて当の本人である『ススムさん』以外にはいないと思いますが……」
髪の色を指摘した人物が髪色を変えていたら疑問を持つのは当然の事。さらに髪色を変えなければならない理由まであるのなら尚更である。
「それに先ほどの仮面は、貴方顔を知る人物と接触する時の為の物ですよね」
「……」
王都に帰ってからそれとなくあの時の事件については調べている。町に出回っている噂を大まかにまとめると『とある有名貴族の策略で一人の平民の黒髪の少年が犠牲となった』、とゆう事である。もしその犠牲となった少年が実は生きていて証拠と共に糾弾をすればその貴族は言い逃れはできないとも噂されている。
普段貴族の汚点となるような噂など回る事はありえないがそのような話が出るぐらい『あの貴族』はススムの事は探し続けたのだろう。
「フォードの二人娘、エリナさんとリナリーさんともススムさんを捜索する事に協力すると約束しました。あの時は『そうかもしれない』程度の疑惑でしたが…もしあ貴方がススムさんなら彼女達にも!」
彼女、リーシャ王女からしてみればススムという少年は公的に第一王子派閥の貴族、レイガスト家を糾弾しその地位を危うい物にできるチャンス。そしてこの必死に説得している様子、彼女は本気でエリナと自分の関係を元の物へと戻したいという心が伝わって来る。きっと彼女達から何か聞いたのだろう。だが――
「何度も言うようですが、私はススムではありません。リーシャ様、あの時私のギルドカードを確認して頂きましたよね」
今はまだ自らの素性を晒す時ではない。
「そ、それは……確かにそうですが」
ギルド職員が直接『鑑定』をすることで作られる身分証明書、偽造ができないわけでもないがその作成は規律と厳しいルールがあるギルド職員を買収する事は困難を極めるだろう。
「ですが偽造する事も無理ではありません! 何らかの方法で……例えばお金などで職員を買収すれば――」
「聞けばそのススムさん、当時は10歳程度の少年だったそうじゃないですか。そんな少年にギルドカードの偽造など本当にできるとお思いで?」
「……」
「それに今するべき事は違う。私がその『ススム』さんかどうかは関係ないはずだ」
「関係ない……ですか?」
「リーシャ王女、貴方は一刻も早くこの戦争回避させなければならない。そのためには一秒たりとも無駄にはできない筈だ。違いますか?」
「……おっしゃる通りです……」
しぶしぶ理解してくれた様子だが納得はしていない様子であるリーシャ王女、今のススムにとってあの『王立騎士学校』での事件は重要な事ではない。それよりも最優先するべき事が他にある。
強制的にする事となったとはいえ、戦争ともなればこの国にいる人々は全て無関係ではいられない。それはフォード家の人々にも言えることだろう。
「わかりました。”今は”そちらに専念させていただきましょう。『ガドーさん』」
「理解して頂けたようでなによりです。さっそくで申し訳ないのですが現時点で判明している事を教えていただけますか?」
〇
~ジリア国境付近~
豪速でジリアへと駆けるススム、その速度では地平線に見えたセントリア最北東に位置する町にも数分の内にたどり着くだろう。
「普段ならこの町に泊まって準備を整えてからジリアに入るのだろうけど……」
そんな事をしている時間などススムには無い。リーシャ王女いわく早くてあと2日の内にジリアの進軍が開始されるとの事だ。回避するのなら本当に一分一秒たりとも無駄にはできないのだ。
(町に入って通り抜けるのは……入るのと出るのとで二度検問を受けるのは面倒だ。けど回り込むのもそれもそれで時間がかかる)
だったら答えは一つ。
「しっかり掴まってろよシロ!」
「キュイ!!」
ススムの体から蒼色の放電がバリバリと放たれ彼の髪が所々白から黒色に変色、いや、元の色へと戻る。
「『雷虎』!」
一時的に身体能力を底上げする技を発動、もともと豪速たったススムが更に加速され一気に町の防壁へと接近する。弾丸の如く加速し、自身が町へと突っ込んでしまう少し手前で地面を強く蹴りこみ大きくその身を跳躍させたのだ。
「キュィィィィィ!」
頭上でシロの悲鳴が聞こえる中、ススムは町に降りることなく更に飛距離を伸ばし町の遥か後方へと着地を果たす。
そのまま止まることなくジリアへとススムは駆け出していた。
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