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5 川のほとりににて

 王立騎士学校へと行くことをマーサさんへと話すと意外にも反対が起こらなかった。マーサさんいわく「いつまでも親元にいる男なんざつまらないさね。ただどうせやるなら思いっきりやんな!」と笑いながら認めてくれた。


 (まったく……マーサさんには頭が上がらないな。)


 学校へと行くのが三か月後に近づいていた。


           〇

 

 俺は川のほとりへと足を進めていた。夜に月明かりが足元を照らしだしてくれるおかげで転ぶことはない。暗闇の向こう側から水の流れる音が小さくはあるが聞こえる。


 目的の場所にたどり着くとそこは夜なのに明るく照らされていた。どうやら小さな微精霊が集まって明かり作っているみたいで足元の岩や石につまずくことはないだろう。


 「ここか……。」


 この川のほとりは俺の全てが再び始まった場所らしい。村から少し離れた場所にあるこの川は木々が開けた村とは違い雑木林を進んだ先にある。

 

 約二年前、この場所に倒れていた俺をエリナが助けてくれたおかげでここでの生活がある。


上流に目を向けると暗闇の中から清流が流れ続ける。きっとこの流れをたどって行くとこの異世界でのススムの体。この肉体がもともといた家族や町があるのだろうか。


 だが俺は過去を探るのではなく未来の可能性を増やす事を選んだ。もとより俺にはそこでの記憶も感傷もない。それに唯一俺にはやらなければならないことがある。


 「ススム君もここに来てたんだね」


 後ろから声が聞え振り向くとそこにエリナが立っていた。


 「なんでエリナもここに?」

 「たぶんススム君と同じ理由だと思うよ。」


 そう言ったエリナは俺の横に並び立ち薄く照らされた川を見眺める。

 

 エリナと会ったばかりのころの幼さが薄まり今のエリナには女の子らしさがある。赤茶の背中まで伸びた髪が光に照らし出される姿は幻想的に思えた。


 「こんな夜に家から出るとフロストさんたちに心配されるよ?」

 「大丈夫。ススム君のところに行ってくるって言ってあるから。」


 フロストさん……。いくら俺が歳に似合わないような行動をして大人びているからって信用しすぎなのではないだろうか?


 「ここら辺は弱いとはいえ魔物だってたまに出るんだからもうちょっと躊躇してもいいんじゃ……」

 「ススム君がいれば大丈夫だよ!」


 父親といい娘といい6歳の子供に期待し過ぎだ。


 「それにね……。」


 エリナが俺の右手をつかんでくる。


 「ススム君、なんか見てないとどっかに行っちゃいそうな気がして……。」


 どうやら俺が川の上流の方を見ていたのを見られていたみたいだ。それを俺が元の場所へと行ってしまうのではないかと心配したのかエリナの表情から不安が伝わる。


 「心配しないで、たとえ僕がいなくなっても必ずエリナの前に戻って来るから。」


エリナはまだ信じきれていないようでこちらを強く見つめる。


 「本当に?絶対?」

 「あぁ、絶対に。」


こちらも強く見つめ返す。やるべき事を終えるまではエリナが拒絶しない限り離れるつもりはない。


 その言葉を聞いたエリナは手を強く握ることで信じたとゆうことを俺に返事してくれる。


 「ススム君はさ、学校を卒業したらどんな事をするの?」

 「もうすぐ入学するのにもう卒業の事を考えているのか。」

 「だってススム君学校は将来の選択肢の幅を広げる場所だって言ったから……。」


 確かそんなことを前に言った気がする。6歳の子供に可能性を広げると言ってもわからないだろうに。


 「うーん、僕は今のところは無いかな。天啓でどんな内容になるか次第だし。」

 「私はね、一つだけ決めてるんだ。」

 「決めてる?」


 そう聞きながら横のエリナの顔を見ると高らかに空を見上げここではないどこかを見ているようだった。


 「うん。お花屋さんもしてみたいし、パン屋さんもなってみたい。王女さまみたく豪華な暮らしもしてみたいけど冒険者になって世界中も旅してみたいんだ。」

 「なんだよ。いっぱいあるじゃん。」

 「けどね、決めてるのは何になるのかじゃなくてね」


 エリナの頬の頬が赤みがかっていく。


 「誰といるのかを決めてるんだ!」


 エリナはそう言って俺に笑いかける。彼女とつなぐ手がよりいっそう強く握られた。


 エリナはこう言ってくれる。


だがこれに答えることはしてはいけない。


彼女はまだ外の世界を見ていない。もっと色々な人と出会って色々な経験をしていってほしい。そのうえでエリナが俺を選んでくれれば嬉しいが今のこの選択には答えてはいけない気がする。


 「そっか……。ならいっぱい勉強して何にでもなれるようにならないとね!」

 「う~……勉強嫌い……。」


 俺はエリナに命を助けてもらった恩がある。家族の温かさを教えてもらった恩がある。俺はこの世界でただただ幸せになれればいいのだ。だが、エリナへの恩を返さなければ俺はその幸せを感じる事ができないと思う。

 

 エリナはそんな温情をかけたなどと思ってすらいないだろうがこの二年で彼女は俺が元いた世界で得られなかったものを沢山くれた。それを心の底から返したいと思っている。


 まずは俺が一緒に学校に行くことでその恩を返そう。


 三か月後。俺たちはタタカ村を出ていく。


 

エリナ可愛い……。


さぁやっと異世界らしい事が始まりますよ!たぶん……。

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