48 ハズレの陣営
投稿が遅れました。すいません……
ススムは誰もいない荒野を一人爆速で駆けていた。
ひと足地面に触れるたびにその体はさらに加速され、ススムは今、呪いの指輪をつけている状態の最高速度をたたき出している。
だがその足を地面に落とし、地表を削りながらいったんススムは足を止める。自分が現在どの位置にいるのかの確認のためアイテムボックスから先ほど受け取ったばかりのセントリア王国周辺を含めた大まかな地図の目を通す。
「えっと……あの山が多分これだから、もう少し北東かな」
セントリア王国よりも北東に位置するジリア連合。
そこへむかうススムは王都を駆け出て二時間が経過したが既に国境付近の町に到着しそうな勢いであった。
「キュイ! キュイ!」
「どうした、シロ?」
ススムが止まったことで服のすきまから這い出ていつもの頭上に上ったシロがとある方向を指し示す。そちらの地平線にはかすかに人工物が並んでいるように見える。それはジリア王国に最も近い街。つまりあの街の越えれば――
「あの向こうがジリアか!」
「キュイ!」
「ありがとな、シロ」
地図を懐にしまい、シロが再びふくのすきまへと入ることによってススムはまた常人では考えられない速度で走り始める。
「それにしても厄介なことに巻き込まれたな……俺、これに全く関係ないと思うんだけどな」
そう。ススムは今までにない速度で走っているが特別焦っているわけではない。なにせジリアへ向かう理由など本来ススムには全く関係ないはずなのだ。
○
~三時間前~
「ちょ…姉さん?」
「『六天』のアークの一番弟子、ガドーがね」
そのニアの衝撃告白によってその場の空気が一瞬止まる。
「な、なにを言っているのだニア殿。英雄『アーク』は数百年前の人物だろう? そんな昔の人物の弟子が今の時代まで生き残っているはずがないだろうに」
王の言い分がもっともなものであることはこの場にいる誰でもが理解している。それはニアも同じく理解していることだ。
「あら、現に『六天』の一人である私は生きているのだけど」
「フィルニア殿はエルフだからであろう! その者はどう見たって人間にしか見えないが?」
「まぁ普通はそう見えるし感じるでしょうね。でもこの子は正真正銘彼の弟子なのよ」
そう太鼓判を押すニアの言葉、そんじょそこらの人では隣にいる人物がかの伝説の英雄の弟子などの戯言は絶対に耳を貸す事も無い。だがそれが同じ六天の一員だった者のセリフならば話は別である。
「それとも六天である私の言っている事が嘘だとでも?」
「いや、それは……。そなたにはこの国建国時から何度も助力いただいていると王家には代々伝わっておる。もちろんそんなフィルニア殿の言う事ならば信じたいが……これは……」
「ですので、弟子である事と彼の力量の証明のためにガドー君に今回の事態の解決をさせてみてはいかかがですか?」
「……」
セントリア王はニアの提案に口を閉ざしてしばらく考え込む。
「もしその者が本当にあの『アーク』の弟子であるなら力を貸してくれることは大いに喜ばしいが……」
「得体のしれない男にそんな重要な役目を任せたくはないと?」
「フィルニア殿も我の立場が分からないわけではなかろう。もしそのガドー殿がただの男だった場合、責任を問われるのは我だぞ」
王の言い分もわかる。構図としてはニアがつれてきた正体不明の者に戦争回避を任せてくれと言わせているわけだ。その男がかつての英雄の弟子と言われても「はいそうですか」と首を縦に振るわけにもいかないのだろう。
「それを言われるなら私にも言い分はございます。そもそも私が助力するのは人の身で解決できない厄災などの物だったはず。他国との戦争などハイエルフである私には本来関係のない話ではないでしょうか?」
「それは……そうだが……」
「そこで! このガドー君任せてほしいんですよ。安心してください彼の実力は私が保証しますよ」
「あぁ、思い出した! 父上」
唐突に第二王子グストフが声を上げススムへと指を指す。
「この男、確かあの『剣聖』であるアキスト・メアリスに勝ったとかで名を上げている『白銀』です!」
ギルドと強くつながっている第二王子には冒険者ガドーの名は届いていたようでその事を思い出したグストフは唐突に声を上げたようだった。
「なんと……あの『剣聖』を……」
「それにもし彼が戦争回避に失敗して場合には盟約にはありませんが私が前線で戦う事をお約束いたします」
「……わかった。そこまで言われるなら信じてみよう」
「父上!私は反対です」
そう声を上げたのは第一王子アラン。
「いくら『六天』の紹介だからとてこのような者一人に任せることはいけません! もし事態がこれ以上悪化したらどうするのですか」
「先ほども言っていたなアラン。お前は戦争を回避させるのではなくこれを口実にジリア連合に攻め入るべきだと」
「はい。たとえ原因が不明だとしても我が国が宣戦布告されたことは事実です。ここで受け身に転じては我が国の名が軽くみられる事となります!」
そうアラン王子は王を説得している。傍から見れば普通に説得しているようにしか見えなかったがあらゆることに敏感になったススムの五感には確かに感じ取ることができていた。
(アラン王子の心拍と発汗量が少し上がった……? なぜかは分からないが戦争回避の方向にはもっていきたくないみたいだな)
「だがなアランよ。もしもの時はフィルニア殿が戦ってくださるのだぞ。彼女がいるかいないかの我が国の軍の消耗率に比べたらそのような評判など小さいことではないか?」
「確かに……それはそうですが……」
「決めたぞフィルニア殿。そなたの提案を受けよう」
「ありがとうございます」
だが結局は王の意向には逆らえないようでしぶしぶ了承する形でアラン王子は下がる。
「それでだ。戦争回避のために動くとなるとその為の部隊という物を作らねばならない。それが例え一人だとしてもな」
なんとなくだが王の言わんとしていることはススムにも理解はできた。前の世界でいうところのお役所仕事の様な物なのだろう。たとえどんな小さな事でさえそれに対する報告書と監督役や必要になるのはどこの世界でも同じなのだろう。
「つまり今この戦争に対して大まかに三つの組織を作ることになる。もしものための軍備を整える軍部を統括する組織、戦争中の国の運営を統括する組織、そして戦争を回避するための交渉などを行う組織。問題はその組織の代表を誰にする、なのだが……」
「私は運営の組織の代表をいたします」
いち早く物事を理解したアラン王子が名乗りを上げる。
「っ! なら俺は軍をもらおう!」
次に声を上げたのはグストフ王子。そして必然的に回避の組織は――
「なら最後の組織、回避の代表はリーシャ…お前となるが、構わないか?」
「……」
「リーシャ?」
王の再度の問いかけにもリーシャ王女が反応を示す事はない。その視線は先程がススムただ一人に向けられているからだ。
「リーシャ! 父上が問いかているであろう。答えよ!」
長男であるアラン王子の一括によってリーシャはようやく王に問われている事実に気づく。
「す、すいません。お父様…」
「よい、リーシャ。それで、お前が回避の組織の代表…でよいな?」
「え…いや、でも…」
リーシャは王の問いに口ごもってしまう。いや、誰だってここで首を縦に振りたくはない。組織の代表…つまりこれは最終的な責任の所在である。
まず1番の安パイは戦争時の国運営。
これは大きな不足の事態でも起きない限り平穏な今の状態が続くだろう。それに戦争になればそれに応じた経済が回る。聡明な者なら着実にプラスだろう。
次に戦争の為の軍。
ジリア連合の戦力がいかほどの物だろうと恐らくニアがいる時点で勝利しかない。この場合に努力するのはニアが殲滅するまでの間にどれだけ被害を抑えられるか。上手くいけば評判は大きくプラスになる。
ハズレくじは回避の組織だ。
まず、ジリアが戦線布告している時点でこの働きは難しい。更に原因が不明ともなると難易度は更に跳ね上がる。例えどんな不可能な事だろうと回避する為に動き、失敗する、という事実は残るのだ。成功時の評判も戦争という緊急事態がまだ発生していないのもあってそれ程大きくない。メリットよりデメリットの方が多い。
「リーシャ、ハッキリ言うのだ」
「……」
再度、王からの問いが投げかけられるがリーシャは王の反対側にいる兄二人からの反論を許さない視線に威圧され自分の意思を発言することが出来ないようだった。
兄二人に威圧されている妹。普通の心優しい男性なら彼女を助けて本当の意味での『話し合い』で代表を決めさせてあげるべきなのだろうがこの構図はススムにとっても都合が良い物であった。
「リーシャ様、私の事を覚えていらっしゃいますでしょうか?」
いままで沈黙を保っていたススムは自ら仮面を外し、その素顔を王とそ子供たちに晒す。初めてススムの素顔を見たであろう王と王子二人は特に何も反応を示さないが、たった一度、けれど印象的な遭遇をしたリーシャはその顔を忘れる事は無い。たとえ”髪”の色が異なっていたとしても――
「その顔……やはり貴方は……」
「はい。”あの”時、王都への街道でお会いしたガドーです」
ススムはリーシャから言われる前に本人であることの証拠を自ら晒した。そして少し含んだ言い方をしたのでその街道で何が起きていたかを知っている事もこれで理解してもらえたであろう。
「リーシャよ。この者を知っておるのか?」
「え、ええ。以前一度お会いしたことが……」
今リーシャの中では次に出す言葉を考えているはずだ。ここでススムの髪色の違いを指摘すれば知り合いでない可能性を元に、はずれくじを逃れる口実にはできる。だが、リーシャはこの場の王族の中で唯一、目の前でススムの戦闘を目の当たりにしている。
この賭けにリーシャは乗ってくれるだろうか。
是が非でも安パイを狙うか。それとも目の前の冒険者ガドーを信じるか。
「……決めました。私はジリア連合との戦争回避の為に行動させていただきます」
リーシャの宣言ともとれる言が広間に響く。
「わかった。リーシャよ、難しいとは思うが頑張ってみなさい。出来る限りの支援は惜しまん」
「ありがとうございます、お父様」
既に軍の指揮権はグストフに、財政管理はアランに一任されている状況での支援などたかが知れているだろう。増援なし、経済支援もなし、たとえ王の特権を行使したとしてもジリア連合内ではそのような特権無いに等しい。
「それでは直ぐにでも私はガドーさんとこの件についての協議に」
「あぁ、フィルニア殿もそれで構わないか?」
「ええ、リーシャ様。ガドー君をよろしくお願いします」
「はい……それではえっと…ガドーさん? ついてきていただけますか?」
ススムは軽く頷くとスタスタと歩くリーシャの後とついて行き、広場を後にした。
〇
王城の中をリーシャと御付きのメイドの後を付いて歩いて行く。王女とメイドは今後の対応についての簡単な打ち合わせをしながらどこかへと向かっているようだがガドー、もといススムとの会話は王との謁見後一切無い。
時折こちらをチラチラとリーシャが振り向くが声を掛けづらいのか、それとも掛ける言葉が見つからないのか。
「ではこちらで詳しい事をお話ししましょうか」
「かしこまりました」
メイドが開いたドアを軽く会釈しながら入室した時、ススムは明らかにその部屋に違和感を感じた。周りの雑音、廊下を行き来する人の足音、外から聞こえる人の声、そう言った音響が変わったのだ。だが聞こえなくなったわけでもない、ただまるで生の音から何かの中継器を通したように波長の変化を感じ取ったのだ。
(これは……防音の結界か……?)
まさか心優しいリーシャ王女が今ここで外に音が漏れてはまずい事をするとは思えないが……。
「単刀直入に聞きます」
振り返るとリーシャ王女とメイドが共に並び立つ。
「はい。何でしょうか」
「貴方は……
四年前、この王都から姿を消したススムさんですか?」
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