47 王と三人
少し遅れました。
「おぉ……凄い」
「キュイ……」
豪華絢爛な馬車に揺られ王城の強固な城門をくぐる時、魔道具の起動音と共に轟々と音を立てながら閉まる門にススムは感嘆の言葉にならない音を口から出す。いつでもどこでも、異世界だろうと、大きくて動くものは男心をくすぐる物だ。
「フフフ♪ ススム君も男の子なのね」
「いや~、こんな大仕掛けの物を見たのは初めてなもんで!」
「キュイ! キュイ!」
何故かはわからないが頭上のシロも興奮気味である。ススムの感情の高ぶりに合わせているのか、それともこの男心を理解しているのか。
城門をくぐってから少し馬車を走らせた所で馬足が止められた。緩やかに走っていた馬車の扉が開かれると一人の男性が礼を尽くした姿勢でこちらを待っていた。
「ニア様、お待ちしておりました。せっかくお越しいただいて申し訳ありません、本来ならば賓客として少し腰を下ろしていただくのですが王が急を要すとの事でして……」
「構いません。私も王と無駄な茶を飲むつもりはありませんので」
そのニアの口から王に対する不敬ともとられる言葉が発せられると周りに待機している鎧を来た騎士達の槍と剣を握る拳に力が入れられた。その騎士達の反動は妥当な物である。王城にいる騎士は全て王に仕える近衛兵、その王都の茶会の時間を『無駄』と言われては黙ってはいられないだろう。
だが彼女に向けて反抗的な声を上げる者、上げられる者は誰一人としていなかった。
馬車から降りる可憐な姿は関係ない、風になびくブロンドの髪もまた関係ない、ニアの美貌など関係ない。
ニアから発せられる威圧感が反抗を許さないのだ。
この場の誰も感じた事のない感覚…ただ力が強い者が発する圧ではない、その遥か上の頂に至った者だけが発する事を許させる覇道の圧。まるで彼女の歩みはこの世の”覇者”でも歩いているかの如く感じられた。
ただ案内者の後を追っているだけなのにその場の全員の美貌からの視線と生命としての服従心を惹き付ける。
「姉さん……かっこいい」
「キュイ…」
ススムも王城に向かう道すがらニアの雰囲気の変化を感じ取っていた。それは話す言葉や動作、表情はいつものままだが明らかに彼女の中でスイッチが入っている。
そう、今の彼女は温厚で優しいエルフの姉、ニアではなく――。
ハイエルフの『六天』、フィルニア・エル・クラリスなのだ。
だが、そんなニアに臆する事無く横を歩む者が一人だけいる。その彼もまた力という世界において超越の頂に辿りつかんとする者。
「ニア姉さん、なんか今日は違いますね」
「あらガドー君、本来の私は”こっち”よ」
それは当たり前の話しだ。いくら力を手にした者は誰でもある種の凄みを持つ。今までは普通の日常生活を送る為に抑えていたわけだ。
「それに抑えているのは君もでしょ? せっかくの王様との謁見なんだから気合を入れていきましょ」
「う~ん……それもそうですね。よっしゃ! 気合を入れていくか!」
屈強な者を集め、王を守るはずの騎士が指一つ動かす事もできない。それもそのはずこの城にいるすべての兵を集めても、いや、この国すべての力を集めても太刀打ちできない”力”の塊が二つ、目の前を歩いているのだから。
〇
案内人に連れられ一際大きな扉の前までやって来た。見た目からでもわかる通りに派手な見た目の扉はその先にどんな人物が居るかは一目瞭然であった。
「この先にて王がお待ちです……が…あの…」
「「?」」
怯え切った様子の案内人が何かを伝えたがっている。
「お、王の…御前では……お、お連れ様の……か、仮面は……い、いえ何でもありません」
「あぁ、そういう事ですか」
ススムは解放していた威圧を抑え、いつもの感覚に戻す。
「この面を外せない事情があるんです。すみません……王様が信用にたる人物だと分かればちゃんと外しますよ」
「あ、ありがとうございます!!」
ススムも久々の圧の解放だった為に忘れていたがこれを後ろから浴び続けたこの人は生きた心地がしなかったであろう。ニア姉さんの方は気にする事なく圧の放出は続けているが……。
「それでは……」
その男がゆっくりと扉を開く事でその先に鎮座している人物がススムとニアの両名の視界に入る。
それはこの国、セントリア王国の王にして最高権力者。
ガルベン・ド・セントリア―――
王様と言うなら裕福な暮らしで肥えているのかと思っていたが意外に普通の体形をしている。頭にかぶられた王冠はこの王国の栄光を象徴しているように光輝き、その眼を見ればこの王がその場に座っている理由が少し分かった気がした。
それにもう一つ大きく他の人物と異なる点があった。灰色の髪、つまり黒色の因子を持つ証拠。あのアーク師匠の血を受け継いでいるのだ。
(あの王様……物語とかであるようなおバカの王様って訳じゃなさそうだ)
王の座っている場は二段ほど上がっているのでその前まで赴く。いつか元の世界で見たドラマのように片膝をつこうかとも思ったがニアが全くそういった素振りをする様子が無いようなので隣にいるススムもつられて王の前で立ったまま、という不敬にあたる行為を取る。
「おぉ、よくぞ来てくれた。『六天』のフィルニア・エル・クラリス様! 待ちわびていた!」
「どうも、ガルベン様。最後に会ったのは10歳の誕生会以来ですかね」
「いや、12だフィルニア殿」
異例とも言える王からの発言、そしてそれに対していつもの営業のような対応のニア。
「やはり昔会った時と姿が変わっていないようだな」
「私はエルフですので。そういう王様はご立派になりましたね」
「ハッハッハ、フィルニア殿にしてみれば我も赤子のようなものか」
長命なエルフ、その中でも永遠の時を生きる事もできるハイエルフのニアは少なくとも500年は生きているのだ。このような会話になるのも必然と言えるのだろう。
「本来ならば久しい出会いに宴を開きもてなすのだが、それはまた今度の機会にしよう。今回お呼びしたのは古き盟約に基づき貴方に力をお借りしたいと思ったのだ」
「私もそうしてくださるとありがたいです。貴族特有の長い話は苦手ですので」
「さっそく本題、っと行く前にフィルニア殿に会わせたい者がいるのですが呼んでも構わないか?」
「……どうぞ」
「三人を呼べ」
王のその言葉と共に広面の隅に控えていた従者が下がっていく。これによって広間はススムとニア、王の三人だけとなっていた。
だがこれはどう考えてもおかしい。いくらニア姉さんが強いと言っても近衛兵一人、護衛の一人も付けづに人と王が会っているなどありえない事である。
(つまり、そのありえない事をしてまでこの場を作る必要があるって事は――)
広間の大扉が開かれ呼ばれたであろう三人が入室し、そのままその三人はススム達のよりも上の段へと居上がり王様の隣へと並び立った。
(うわっ! そうだ…ヤバイ……)
そこでようやくススムは気が付いたのだ。自分がその”三人”と面識があり、そして自分の秘密にたどり着く可能性がある人物だという事に……。
「この者達がフィルニア殿に紹介したい、我が息子達と娘だ」
男性二人と女性一人のが同時に一歩前に出るとその中で一番身長が高い男性が軽くお辞儀をすると口を開く。
「お初にお目にかかります。セントリア王国第一王子、アラン・ド・セントリアです。以後お見知りおきを」
「どうも」
この国で一番次の王位に近い人物に頭を下げられているというのに『どうも』の三文字で済ませるニアにススムは流石と思わざるをえなかった。
アラン王子が頭を上げた時、彼の視線が一瞬ススムに向けられる。その瞬間服の隙間に隠れているシロがビクッと動いたのを感じた。
(この感じ……『運命』を感じ取ったシロの緊張に似ている。だけども俺はなにも感じ取っていない。これは……どういうことだ?)
シロが『運命』を感じ取ったのならばアラン王子はリリスか『神』の干渉を受けている事になるが、どうも今まで感じたあの感じがススムには届いてない。だがシロが緊張したのはアラン王子が一瞥した一瞬だけだが何かを感じ取ったのは確かてある。
(アラン王子……要注意人物である事は確実だな)
アラン王子の隣にいるもう一人の男が名乗る。
「俺は第二王子のグストフ・ド・セントリアだ!」
「……」
高圧的に名乗ったグストフ王子、それに対して軽い会釈で返すニア。だがそういう態度をとる気持ちは分からなくない。ニアが務めているギルドが閑散としている原因はこの男にあるのだから何かしら複雑な気持ちを彼に対して持っているのだろう。
そして最後の人物、二人の王子と王を挟んで立っていた女性が自分のスカートを少し掴み上げ、第二王子とは真逆の礼を尽くしたお辞儀をした。
「初めましてフィルニア様。私はセントリア王国第三王女、リーシャ・ド・セントリアと申します」
(やっぱりか……)
そう、リーシャ王女。ススムがタタカ村から王都に向かう途中、野盗に襲われていたところを助けた女性である。唯一、”黒髪”の状態で出会い、そして自らを『ガドー』と名乗ってしまった人物でもある。もし自分がガドーだと分かれば髪の色の違いから疑いをかけられるに違いない。だったらここは目立つことはせずニアの付き人を演じるしかない。
「どうも初めましてリーシャ王女様。お噂はかねがね」
「いえいえ、フィルニア様の伝説に比べれば……」
リーシャ王女の噂は確かに良い物ばかりだ。道行く老婆の手助けをした、とか、平民の少年に対して怒る事なく無礼を許した、などの噂はススムも宿屋の娘、ラナから聞いた事はある。
前者の二人との対応の違いからか明らかに第二王子のグストフ王子が不機嫌となる。だが王族である彼がこれ以上言葉を発する事ができないのはニアの『六天』としての伝説が圧倒的な物であるのが大きいだろう。
「それで? 自分の子に紹介する目的で私を呼んだ……って訳ではないのでしょう?」
「それは勿論。実は先日、隣国のジリア連合獣国から我が王国に対して宣戦布告が伝えられた」
「……」
王が放った言葉、それはつまり獣人が住むジリア連合国との全面戦争を意味していた。そんなとてつもないニュースにその場にいる誰も騒ぐ事はしない。ススムは仮面の下で多少は驚愕の表情をしているが、ニアと王、そして王子と王女は微動だにしなかった。
流石にニアはこの事は知らなかったはずだが冷静に王に問う。
「つまり私に戦争の手助けをしろ……という事ですか、王様?」
「端的に言えばそういう事だな」
「……」
盟約、ニアはそう言った。それに基づいた会話なのだろう、彼女がどんな”約”を交わしたのか分からないが重要な事ははっきりしている。
要望か、命令か。
「私がこの国に手を貸すのは人の手で解決できない災害のみ、と盟約にはあるはずですが」
「それは承知しておる。だが、我が国としても此度の宣戦布告、不明な点が多すぎるのだ。まずジリアの開戦の理由が全く不明なのだ」
「父上、それは先程も申し上げた通りでしょう」
第二王子のグストフがニアと王の会話に割って入る。
「かの国の獣人どもに知性など無いのです! 所詮は獣と変わらないのですよ」
「グスタフ……だとしても理由はあるはず、ここまで前兆もない宣言、何者かが裏で画策しているはずだ」
グストフの言葉に冷静な言葉を挟んだのは第一王子のアラン。リーシャ王女も言っていたが頭が切れるというのは本当らしい。
「フィルニア殿、セントリア王国としては今回の戦争はできれば回避したい。だが戦争まで時間が無い、我々は今すぐにでも貴族を集めて対応しなければならないのだ。もちろん戦争回避の為に動く、だがもしもの時は……」
フィルニア・エル・クラリスの力で戦争を終わらせてほしい。そういう話なのだろう。
「王の私は貴族達と準備を決めなければならない。そこでこの子達には回避の為に動いてもらうのだ」
どうりでこの場に王子達を同席させているはずである。
「それで……フィルニア殿。引き受けてくれるか?」
そう問われたニアは顎に手を付け考えに浸る。しばらくすると答えが出たのかニアが王に答えを出した。
「そうですね。戦争になって我が家を失うのは嫌ですし……いいでしょう」
「おぉ! 引き受けてくれるか!」
「ですが―――」
王の感激を遮るようにニアが言葉を挟む。
「私ではなく、この者が戦争回避をしてみせましょう」」
ニアはススムへと指を向けていた。
「ちょ…姉さん?」
「『六天』のアークの一番弟子、ガドーがね」
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