41 再会
スタスタとエリナがこちらに歩みを進めてく来る。その状況にススムは体が固まって動くことが出来ない。
だが今のススムは髪は白色にそして仮面まで付けていて、『鑑定スキル』すら無効化している…ばれるはずがない…はずがないのだ。
そんなススムの心配は杞憂であった。エリナは変装したススムに気が付くことなく横を通り抜けていく。そんなエリナに続くようにもう一人、リナリーが居た。二人はススムを通り抜け先ほどまで対応していたニアの前にたどり着く。
「こんにちは、お久しぶりですニアさん」
「お、お久しぶりです……エリナ様、リナリー様」
突然の来訪にニアも驚愕しているようで言葉がぶれる。
バンっとリナリーがカウンターを叩く、どうやら彼女たちはいらだった様子であった。
「単刀直入に聞くわ。ニアさん、貴方ススムに会ったわね」
にこやかに接客しているニアさんの眉毛が一瞬ピクリと動く。
「先日私の父、フレイドがススムと会ったそうです。そして王都中の黒髪の人の情報を集めた所このギルドで黒髪の男性が目撃されています」
リナリーの前に割り込むようにエリナも前に一歩出る。
「ススム君に会ったんですか?」
その声はすがるような願いの籠った声であった。
どうやらフレイド様はエリナとリナリー様に先日の事を話したらしい。だがあれは一昨日の事だ。それに黒髪を晒したのはせいぜい二回だけ……そんな状態で探り当てたとは流石フォード家と言った所だろう。
ちらっとニア姉さんがこちらを一瞥するとニコリ悪だくみをするように微笑む。
「ええ、ススム君に会いましたよ」
(なっ、何を言って!――)
「「ほ、本当に!?」」
エリナとリナリー様は互いに手を握り合ってその場で喜び始める。今のススムの角度からは見えにくいがエリナの瞳にはうっすらと涙がにじんでいた。その光景を見ていたススムは今すぐにでもこの仮面を取り、指輪を外して正体を伝えたい衝動に駆られる。だがそれはできないのだ、ススムは今指名手配されている身、そんな状態でフォード家の庇護下に入る事はレイガスト家、そしてその上にいる第一王子との明確な敵対と捉えられるだろう。
リリスの事もある……彼女は今ススムの事を感知できないが正体を晒し人前に出る事は彼女の耳にも入るはず……。
ススムは伸ばしかけた腕を下ろす。そんな光景を見ていたニアはススムの意図を察した。
「今直ぐにススム君に会いたいんです! 彼はどこにいるんですか!?」
「申し訳ありません。それはお答えすることが出来ないんです」
「……えっ?」
念願の相手に会えると期待していた途端にバッサリと可能性が断たれる。
「こ、答えられないってどういう事!」
再度カウンターを叩きリナリー様が声を荒げる。
「彼に誰にも言わないでくれと頼まれていますので」
「それは…私達フォード家にもですか」
「……はい。”誰にも”です。それにフォードだからこそ伝えられない事もあるのではないかと……」
「「……」」
その時エリナとリナリーの二人の頭にはススムの手配書が頭をよぎる。確かに心優しい彼ならフォードを巻き込みたくないと考えるだろうと、そもそも彼はフォードを巻き込まない為にあの日王都から出て行ったのだと。
「でも…それでも……私は知りたいんです」
弱々しいエリナの声が聞こえる。
四年半、彼女は『勇者』としての力を育ててつい最近王都から出てススム君を探す事ができ始めた途端の彼の帰還。こんなチャンスが目の前にあるというのに諦める事は出来ない。
ニアのススムへと視線を送り少し頷く。
おそらく「ここは私が対応するから」と言いたいのだろう。その合図を受け取ったススムはエリナ達に踵を返すようにギルドの出口へと歩みを進める。
彼女達から逃げるように去る現状に罪悪感が生まれるがこればかりは仕方ない事……仕方ない事だ。
だが、出ようとするときまた一人ギルドの中に入って来ていた。その要容姿は見覚えがある人だった。エリナとリナリーが居るのだから”彼”もいるのは当たり前と言っていいのだろう。
「キ、貴様は……」
「アキストさん」
ススム、今は冒険者ガドーの姿を見つけたアキストは肩をわなわなと震わせながらこちらを指さす。
「貴様! 昨日はよくも――」
その先のセリフを放つ事はプライドの高いアキストにはできなかった。「よくも僕を負かしてくれた」などと人がいる前ではいう事は出来ない。それに試合には勝っているが勝負には負けている、そんな状態は更にアキストのプライドを傷つけていた。
「アキストさん、昨日はどうも」
そんなススムの挨拶はアキストの感情を逆撫でする。
「くっ……」
アキストが腰に掛けた魔剣に手をかける…今のススムは何も武具を装備すらしていない所を見た彼は勝算があると踏んだのだろうか……。
「あの……そこを通りたいのですが」
「貴様がぁ! ぼ、僕の…『剣聖』の…!」
もはやススムの声は彼に届いていない。これは軽く一撃入れて鎮める方が穏便に済むかもしれない――
「アキストさん!! 何をしているのですか!!」
後方からリナリー様の叱咤が飛んで来る。その声にはアキストは反応を示し魔剣の柄を握る力が少し弱まる。
「リナリー様…これは、いやこいつが」
「どう見ても行きずりの冒険者に切りかかろうとしているとしか見えませんが!」
「くっ……」
リナリー様の力ある言葉にアキストも魔剣から手を放す。
「すいません、私の仲間がご迷惑をかけました」
昔の常に偉そうだったリナリー様はすっかり大人の対応ができるようになっておりそれが彼女の美貌と合わさっていっそう華麗に見えた。
謝罪のお辞儀から頭を上げたリナリー様が真っすぐススムの仮面を見つめる。その力強く真っすぐな眼差しはどんな変装や隠密スキルを使用したところで隠し通せる自信がなくなって来る。
ススムは顔をそむけてしまう。
「いえ……アキストさ、様とは色々ありましたので……」
その時自分の声色でばれてしまうのではかとも思ったがこの数年でススムは声変わりしている。昔の声色も残ってはいるがそうそうばれる事はない……はず……。
「もしかしてあなたが王都で噂になっている『剣聖』を倒した冒険者ガドーですか?」
「……はい?」
(驚いた。もうそんなに噂が広まっているのか)
おそらく彼女達が町中の黒髪の少年の情報を集める時、一緒に耳に入ったのだろう。白い紙に仮面、そんな恰好をしていれば人目を引くのも当然である。昨日の大会でそれなりに広まってしまったのかもしれない。
「リナリー様! 僕は負けたわけじゃ――」
「アキストさん。貴方がこの方に手も足も出なかったそうですね。勝てなかったのなら潔く負けを認めなさい」
「っ……」
リナリー様の一喝でアキストは諦めてギルドから出て行ってしまった。
それにつられてススムは今すぐにでもこの場を離れたい衝動に駆られる。このままだときっと彼女も――
「リナリー、どうしたの?」
その声にススムの拳が握られる。顔をゆっくり向けるとこちらのすぐ前に居るエリナが視界に入る。
四年半ぶりにまともに目にする彼女の姿。それは一言『美しい』としか言えない美貌であった。美人の母、アイシャさんに似て来て誰もが振り返る美しさを放っている。赤茶の髪をなびかせながらこちらに歩いてくる姿にススムは見とれてしまう。
「……?」
じっと見つめるススムに首をかしげて疑問を浮かべるエリナ。
「キュイ!!」
頭上のシロが叫び頭を叩く事で現実に引き戻される。
「……す、すいません。用があるので…失礼します」
ススムは逃げるようにその場から去って行くのであった。
〇
「ねぇ、今の人って……」
「あぁ、あの人が『ガド―』さんだって」
「へぇ……あの人があの『剣聖』を負かした……」
「それよりも私たちはススムのことでしょ!」
「そ、そうだね……」
なぜだろう、彼に似ている気がする。でも髪の色が違うし……冒険者は偽名を使えないはず。それにススム君のステータスで『剣聖』に勝つことなんてできるはずがない。
でも――
「ススム君を思い出すな……」
キタキターーーー! 始まりましたぜ……
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