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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
3章 青年期

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38 ニアとのデート 中編

「おぉっと! 凄まじい…魔法? スキ…ル……な、謎の技によってエルド選手が吹き飛ばされました!!」


 一瞬殺してしまったかとも思ったがエルドの気はしっかり感じ取る事ができた。


 数秒遅れで解説者の実況が入る。会場の誰も何が起きたか理解できていない中ススムは闘技場を後にした。控室に向かう通路に入る前に観覧席にいるニアへと視線を向けると観客の中で一人だけパチパチと手を叩いて盛り上がっていた。片手を上げて合図を送り控室に戻る。


 通路に入り部屋に入る時、スタッフから声をかけられ一つの小瓶を渡された。


 「一応規則ですので回復のポーションを……」


 確かに互いに傷つけあう試合を連続でしようものなら死人が出てしまう。次の試合への回復のためのポーションであった。


 だが一切怪我をしていないススムには無用な物である。


 (これ売ったらどれくらいになるかな……)


 そんな事を考えながら大会は二回戦へと進んで行った。


 進行役の大きな声が再び響くが控室にはススムを含めて三人しかおらず誰も何も発しない静かな時間だけが過ぎて行った。


 16人で始まったトーナメントだから4回勝てば優勝。つまり三回戦の準決勝でさっさと負けて三位決定戦を棄権すれば賞金をもらうことができる。


 「次の方、準備お願いします」


 呼ばれた者が控室から去って行く。試合の速さ事態は一回戦とあまり変わらないが人数その物が少ないためもうすぐススムの番である。


 すると会場の方から大きな歓声が上がった。どうやらまた『剣聖』が活躍しているようでスタッフが直ぐに次の者を呼びに来た。それだけ早く試合を終わらせたという事でありそれはさらにススムの興味をが湧く話である。


 三人目が呼ばれてしばらくするとついにススムの番が来る。


 「次の方、準備お願いします」


 呼ばれたススムは先程と同じ道を歩いて会場に向かうがその道にある人物が壁にもたれかかるように立っていた。その顔は王都に来た昨日、エリナの横にいた顔である。


 「やぁ、君が一回戦で対戦相手を一瞬で倒したガド―って人かい?」

 「『剣聖』……」


 ススムの興味が湧いた人物、エリナとリナリーのパティーメンバーでありエリナの恋人……かもしれない人物がそこにいた。


 「もし君が第二試合を勝ったら僕と勝負することになるんだよね」

 「へぇ、そうなんですか」


 ススムにとって対戦相手が誰とかは全く考えていなかった。あくまでも四位の賞金が目当てで『剣聖』はただの興味に過ぎない。準決勝までに当たらなければ決勝の一戦だけでも見ておこうと思った程度である。


 「最近僕と張りあえるのがエリナぐらいしかいなくってね。退屈してたんだよ……せっかくだから本気で勝負しよう」

 「本気……ですか」


 本気を出したら多分この闘技場が大変なことになると思われるので指輪を付けた状態の本気での戦いをするわけだ。


 (というか……今エリナの事を呼び捨てにしなかったかこいつ……いや付き合っているなら普通の事か……)


 「いいですよ。私も『剣聖』様の実力が知りたかったので」

 「よし! 久々に楽しい試合になりそうだ!」


 どうせ自分から負ける試合だったのだ。少しぐらい楽しんでもいいだろう。


 どうやら前の組が終わったらしくススムの番が来て闘技場へと進んで行く。


 「ところでその仮面、なんでそんなの付けているんだい?」


 するとアキストが素朴な疑問をススムにぶつけてきた。まさか正体を隠すためと言う訳にもいかないので――


 「趣味です」


 我ながら可笑しな答えになったしまったと思いながらそう言ってススムは二回戦の闘技場へと入って行った。


 ススムが闘技場に入ると先ほどと違い場の雰囲気が少し重くなる。歓声こそあるが一回戦を瞬間で終わらせたことが未だ観客の頭から離れないのである。


 「お待たせしました。二回戦第四試合――選手の入場です」


 高々に進行役が場を盛り上げる為に叫ぶとつられて観客も声を出す。


 オォォォォォ!!


 ちらりとニアの方を見るといつの間にかに買っていた昼食がわりのパンに野菜をサンドしたおいしそうな物を食べてた。シロはというと未だがっちりニアの腕にホールドされ続け身動きができないようだった。


 (早く終わらせてシロを迎えに行ってあげよう……)


 舞台に立つと対戦相手も向こう側から姿を表す。


 「Bランクにしてクラスは『格闘家』。冒険者ミカルドー!」


 そう呼ばれた相手は先程の相手と違って武器の一切を所持していなかった。つまり今のススムと同じ状態である。


 「Fランクにしてクラスは『戦士』。冒険者ガドー!」


 二回戦にして既にススムの肩書を笑う者はいなかった。


 「お前も格闘技を使うらしいな」


 筋骨隆々のミカルドと呼ばれる冒険者はススムの姿を見ると嬉しそうににやける、それはまるで圧倒的強者が久々の遊び相手を見つけたかのような楽しそうな笑みだった。


 「このような場で技を競いあえるとは思いもしなかったぞ」

 「はぁ……まぁよろしくお願いします」


 ススムの一回戦の戦いを聞いたのかすごくキラキラした目を向けて来ていた。そんな相手には悪いにだが技を比べる気はススムには無い。


 (今度はなるべく静かに倒そう……)


 「では試合を始めます」


 準備の声が聞こえるとミカルドは自らの格闘技の構えに移った。Bクラスの冒険者ともなれば通常の人が別の実力を持っている。その気迫は先程の男よりも一段上である事が分かった。


 「試合はじめ!」


 開始の合図と同時に一瞬にして接近したのはススムの方だった。対応できない速度で目の前に来たススムは相手の喉元に一撃を入れた。だが先程とは違いミカルドは吹き飛ばされる事はなく、またダメージを負った様子も無かった。何事も無かったようにエルドはススムに向かって拳をふるう。


 目の前にいるはずのススムにその拳は当たる事なくそらされ、続く連撃もことごとく『花』によって逸らされていく。しっかりと腰の据わった一撃も容易に逸らされた事でミカルドは驚愕している。大きく空振りした後で生じた隙、本来そこに攻撃を挟むのが戦いという物なのだがススムは何もせずただミカルドの攻撃を防ぐことしかしない。


 「ミカルドが連撃を仕掛ける、仕掛ける! ガドー選手はこの猛攻に防戦一方か!!」


 まるでススムが余裕なくエルドの攻撃をかわし、防いでいるように見える観客達と進行役、だがその考えは次第に反対の物へと変わっていった。


 何故かエルドの顔がどんどん真っ青に変わっていくのである。明らかに拳の速度と連撃が遅くなりやがて攻撃をやめて自らの首元を抑えもがき苦しみ始めた。


 「な、何が……起こっているんでしょうか!? エルド選手が苦しみもがいています」

 「……」


 そのもがき苦しむ姿をススムはただ傍で立って見ているだけだった。


 最初の一撃、あれは喉元に向かって気の一撃を送りわざと筋肉の硬直を起こし気管を閉じて呼吸ができないようにしたのである。この状態になったら一度落ち着いて自分の力を抜く必要があるのだがパニックに陥った者はさらにその硬直を締め付け自ら首を絞めることとなるのだ。


 やがてミカルドが降参の合図を出す。


 ススムは再び喉元に一撃入れて気の流れを正してやるとそれによって呼吸ができるようになったミカルドは息を吸う事に必死になっていた。


 「カハァ、ハァ……」

 「すまないとは思ってますよ」


 ススムには普通の冒険者と戦う際の力のコントロールがまだ上手くいってなかった。誤って殺す事はしたくないのでできうる限りの簡単な無力化の方法をしたまでであった。だがその光景は息ができずもがき苦しむ相手を横でただ見ているという非情な光景を観客に見せる事となり熱い戦いとはかけ離れた試合となっていた。


 再び静寂に包まれた会場の中、進行役のジャッジを待たずにススムは舞台から去っていく。


 ニアの方に目を向けるとまた一人だけパチパチと喜んでいた。流石『六天』といったところだろうか、ススムの攻撃を捉え、理解し、楽しむ余裕さえあるようだ。


 控室に入る前に二個目の回復用のポーションを渡される。またダメージは負っていないのでそのまま懐のポーチに入れる事となった。


 何事も無かったように五体満足で控室戻ると準決勝待ちをしている選手とススムの二人だけであった。最初は8人もいた部屋に既に二人だけ。それは部屋自体が重く寒く、暗く感じていた。


 「おめぇさん、Fランクでここまで勝ち上がるなんてすげえじゃねえか」


 急にもう片方の準決勝待ちの選手がススムに話しかける。よく見ると体のあちこちのまだ戦いの傷跡が残っていた。回復のポーションと言っても瞬間的に回復できるわけではない。回復するまでに多少の時間を必要とするのだ。


 そこでススムはようやく気が付いたのだ。この人物が自分の知り合いである事に。


 昔毎日ギルドに行っていた時、ススムに話しかけそれなりに知り合いになった冒険者の男性である。その日の晩飯を奢ってくれたり仕事の紹介をしてくれたりとニア程ではないがそれなりに関わりがあった人物である。


 「え、ええ。運よくここまで来れましたよ」

 「運よくねぇ……お前さんの次の相手はあの『剣聖』なんだろ?」


 世話焼きの性格は変わっていないようでFランクのガドーの事を気にかけてくれているようだった。 


 「そうらしいですね……あの方って強いんですか?」

 「なるほどな。『剣聖』様を知らないって事は最近王都に来たんだな」

 「ええ、つい先日に王都に来たばかりですよ」

 「『剣聖』様はな、ランクこそまだBだが、すでに実力はAをクラスだ。それに多種多様な剣技、魔剣を使いこなしていつかSランクに届くのは確実とまで言われているぜ」

 「Sランク……」


 かつて『アビス』にて戦っていた魔物のランクがSランクだとニアからは聞いている。だとするとあの魔物と同程度の実力を持っている事になるのか……。


 「面白そうですね……」

 「何笑ってんだよ…相手はあの『剣聖』だぜ?」


 笑っている事を指摘されススムは直ぐに表情を元に戻す。つい強いかもしれない相手と戦うと思うと”楽しい”と感じてしまうアークから伝染したススムの悪い癖である。


 「お前さんは賞金狙いって感じじゃなさそうだな。なんか他の奴とこの大会に賭ける物が違う気がするよ」

 

 思いっきり賞金狙いで飛び入り参加したわけだが、彼の話のトーンは重く感じるものがあり何か事情がありそうだった。


 「貴方は、その、賞金狙いなんですか?」

 「俺だけじゃねぇよ。本来この大会に参加しようとしてた奴ら全員さ」


 大会に参加した時に言っていたスタッフが『剣聖』が参加を表明した時から棄権する者が続出したとか……それでスムーズにススムが大会に参加できたわけだが……。


 「ここ数年で俺ら平民冒険者の仕事は激変しちまったのさ……。手ごろな依頼は全て貴族の方に持って行かれ、こっちに回って来るのは危険で報酬も良くない仕事ばっかり。これじゃ俺らの身が持たねえし新人冒険者も育ちゃしない。そんな中でいい金を稼ぐ大会が開催されたってのに貴族さまはこんな大会にもでやがる……」

 「なんでそんな事に……ギルドは権力とは関係ないはずでは」

 「表向きはな。だが相手が第二王子だと話は別だ」


 第二王子、荒っぽい行動で有名だが冒険者との繋がりが強く力でこの国を手に入れようとしている人物。実の妹であるあのリーシャ王女を暗殺しようとしたかもしれない人物でもある。


 第二王子の名が出された時、ススムはなんとなく話の流れが見えた。


 つまり第二王子は貴族出の冒険者においしい依頼を与えてその家に取り入ろうとしているわけだ。そして危ない依頼は全て平民に押し付ける……といった話だろう。彼のような平民の冒険者は危険な仕事をこなすかこの大会のように別の金策を考えなければいけないのだ。


 すると闘技場の方からまた大きな歓声が上がっていた。


 「お……今度は俺の番だ。お前さんとは決勝で会ってみたかったな」

 「ですね。私は次の試合で負けますし」

 「なんだ? さっきの威勢はどうしたよ」


 最初から準決勝で負けると決めている事だ。最後の試合で少しだけでも『剣聖』の実力が知れればススムとしてはエリナを傍で守る人が強ければ安心できるからだ。


 「いえ別に。さ、頑張ってくださいね。応援してますよ」

 「応援って…ハハハ、仮面まで付けて変なやつだな。おう!頑張ってくるわ!」


 ススムに別れを告げてその知り合いの冒険者は試合へと通路を進んで行った。昔少しでもお世話になった事があるので彼の応援に行きたいがススムにはススムの試合がある。


 実力で負けるつもりはないが万が一という場合もあるのでススムは体のストレッチを始めていった。体の調子を調査するように伸ばすと会場が歓声で一杯となっていた。自分の試合に集中したいススムだったがどうしても彼の事が気になるので気を巡らせて感知に移る。


 が、その感知を莫大な力場によって乱されて何も捉えることが出来なかった。まるでアーク師匠が放つような気の力場。その正体など一人しかいない。


 「ニア姉さんか……」


 彼女によって大きく乱された気の感知はまともに機能しなかった。改めて再開した時もいきなりこの気の渦にのみこまれていいたわけで、彼女はわざとオーラを放出していた。まるでそれを検知できる人物を探しているかのように……。


 感知による試合の動向を知る事は諦めたススムは再びストレッチへと移る。 

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