30 真実
『まずこの世界の説明から、この世界は私が創造しました』
いきなり予想を超える説明にススムは硬直してしまう。
「えっと、世界を七日間で創るみたいなことですか?」
『はいそうです。その認識で間違っていいません』
「……まるで神様ですね」
『神様ですよ!?』
神にしては全知全能さが感じられずまるで年下の女の子とでも話している気分にさせらていていた。
「そういえばあなたは女神ですか? それとも男神?」
『私には雌雄の区別はありません、ですがあなたと話す時は精神構造をどちらかに寄せた方がよさそうだ。男性がいいか!? それとも女性?』
男性の声色と女性の声色二つを使い分けている。声の音程を変えているというより全くの別人に聞こえた。
「……じゃ女性で」
『へ~、あなたもやっぱり女が好きなのね』
まるで見透かしたような声に少しイラッときたススム。
「そういったくだらない事言うならもう行きますね、行くぞシロ」
「キュイ!」
『待って待って! ごめんなさい、ごめんなさい』
ダンジョンを出ようとするススムを必死に止めるようにあっさりと神は謝罪した。先ほども言っていたがよほどダンジョンの外には出てほしくないみたいだった。
「それで話の続きは?」
『え!? あっ、そうね。それで大昔に私がこの世界を創造したのけれどある時世界に”滅び”がやって来たの』
「”滅び”?」
『ええ、世界には必ずその世界の生き物を破壊する”滅び”が存在します。あなたの世界だと厄災とか天災とか言われている物です。ですがこの世界での”滅び”の形は別です」
「もしかして”魔王”……とか」
『はい。”滅び”は魔王という形を成してこの世界の蹂躙を始めました。ですから私はこの世界を守るため――』
「アーク師匠を召喚した……」
魔王の事なら様々な本に載っている。なにせアークがその魔王を倒すことで英雄となる大きな要因となったからだ。
「なら俺がこの世界に呼ばれたのも魔王を倒すためですか?」
『いいえ違います。あなたに倒して欲しいのは魔王を倒した『六天』の一人、妖精族のリリスです』
……話が分からない。
「俺が倒すのは魔王ではなくその魔王を倒した英雄の一人ですか!?」
『六天』のことなら『六天の歴』によってよく知っている。
妖精族のリリス。
魔法とは違った精霊術を操り強大な奇跡をも起こしたと言われる妖精。魔王から世界を守るためにアークと共に旅をした『六天』。
『彼女は英雄などではありません……魔王を倒したその後、魔王の力を取り込み私の神核を奪ったのです』
「神核……ですか?」
『神核とは私が神としての行いをするための力その物、この世界の理にすら干渉することができます。彼女はそれを狙う為に『六天』の一員となり魔王の力を手に入れ私の神核に手をかけました』
「それを他の『六天』は……」
『もちろんリリスを止める為に彼女と戦おうとしました……が、リーダーであるアークは責任を感じ一人で彼女と戦いに向かいました』
たまにアークは『六天』の話を少しだけしてくれた。仲間のハイエルフが恐ろしかっただの獣人の友人と技を競っただの懐かしそうに話すことがあったが……今思えば妖精族のリリスの話は聞いたことが無い、それが『神』の話しを裏付ける事となっていた。
「それで師匠は……」
『アークは負けました』
あの師が負けた。
その言葉は信じられなかったがあの試験の最中に言っていたアークが敵わなかった存在、それこそがリリスだったのだ。
『彼は命からがら逃げ延びましたがその時彼の体には呪いがかかっていて処置しないと死ぬ運命でしたが、死をさとった彼は近場に合った自身の修行の場であるアビス、このダンジョンに逃げ込み私が残された力を使って彼を強制的にダンジョンボスにしました。呪いは人でなければ発動しません。ダンジョンの魔物と認識されたアークは呪いによって死ぬ事はありませんでしたが……』
『神』が言いよどむ。、無理もない。
「ダンジョンから出られなくなり俺が来るまでの400年間ずっと死ぬ事もできずに待ち続けたのか」
『はい……私があの時ダンジョンボスにしてしまったせいで……彼には本当に申し訳ない事をしたと思っています。彼に彼の子孫の事を伝えたときは……本当に……申し訳にないと……』
アークはこのダンジョンの中で自分の子孫が老い、死んでいくのを聞いていた。「自分の子供が自分より老いて死んでいくのは流石に辛かった」そう言った師匠の顔は未だにススムの頭から離れない。
「そうか、師匠の引き継いでほしい事はこの事か」
無念で一杯だったろう。後悔で押しつぶされそうだったろう。
ダンジョンから出る事のできない400年間の憤りをススムは受け取ったのだ。
『神断流』の名前の意味が分かった気がした。きっとこの『神』を断つのではなく、自分のかつての仲間であり偽りの神となったリリスを”断つ”ための『神断流』なのだ。
自分の拳が重くなったように感じた。
「それにしても俺がこのダンジョンに来たのは偶々だったんですよ? もし俺が来なかったらどうするつもりだったんですか」
大切な事なのに随分と運の要素が強い事であった。このもし他のダンジョンにでも行こうとしていたらススムはアークと出会う事は無かったのだ。
『かなり賭けの要素は大きくなりましたがあなたがここへ導く為に何もしていないわけではありませんよ』
「いやだって俺がこのダンジョンを知らなかったら――」
『王立図書館の司書からここのダンジョンについての事が記載された本をもらいましたよね』
「っ!」
『そもそも勇者であるエリナとあなたがなぜ同じ村で育ったのか、それも偶然だと思いますか?』
確かに偶然にしては出来過ぎている。ススムが別の村にでも拾われていたらエリナに出会う事は無かった、エリナと共に王都に向かわなければ王立図書館であの本をもらう事はなかった。
「まさかあなたが全て仕組んだ事ですか?」
『いいえ、私は今大半の力を失っています。そんな私にできるのはせいぜいきっかけを作る程度の事、そこからあなたがどう動くかは予測もできませんでした。ですから賭けの要素が多くなったと言ったんです』
「なるほど……」
確かに自分でも思い切った行動に出たと思い返す事もある。あの時の感情が『神』によって干渉されていたのだとすればそうなのではないかと思う瞬間がいくつかあった。
「だとするとなぜ俺の神託はなぜ成長しないのですか? 『神託』というぐらいだから神が――」
そこまで言ってようやく気が付いた。そう今判明している『神』は一人ではない。
『気が付いたようですね。そうです、あなたに降りかかって来た災難や困難はすべて彼女、リリスによるものです』
神の力を手に入れているのであれば神託を操る事だって可能なはず。神だったら何でもありなのだ。
『彼女はあなたの存在に気が付いています。私は最初わざと召喚を不完全な物としてこの世界の人間として成立させつつ魂はあなた本来の人間として転生させました。最初は召喚に気づかれあなたを川に流され殺されそうになりましたがエリナがいるタタカ村に流れつくように何とか運命を捻じ曲げましたよ……それでも可能性は低かったですが奇跡的にあなたはエリナの元へたどり着いた』
「そうだったんですか……」
自分が初めて見つかったとき川で流されていて死にかけていた。実際、ススムとして意識があるのはその騒動が収まった後だからあまりピンと来ないが俺は少なくともこの世界に来た直後に殺されかけている。もしかしたら王都でのグレイの事件もリリスの仕業かもしれない……。
『ですが不完全な召喚のおかげであなたの姿、というか存在は向こうからは感知しにくいはずです。彼女は今やこの世界の支配者、あなたを私が完全に召喚していたらそれは異分子として感知されますが不完全に召喚する事でこの世界の存在でありつつ私の召喚者として存在しているのです……まぁそのせいで私の力があなたに効果しにくいのですけどね』
アークがススムの召喚の形で驚いていたのはこの事だったのだろう。転生でも転移でもない不完全な召喚、それをアークは『神』の仕業だと見抜いていたのだ。
「つまり向こうから見えずらい……と」
『そのとうりです』
「俺にもリリスと戦う理由ができたわけか……」
自分に戦う意志が無くても『神』が召喚したというだけで川に流して殺そうとする奴だ、それを止めるには本人を止めるしかない。
ジジ、ジジ
『神』との会話に雑音のようなものが混じり始めた。
『ごめんなさい……四年半貯めた力が尽きそうです……ダメですね、こうやって通信するので精いっぱいみたいで……』
「まってください! えっと……えっと……」
ススムにはまだ聞きたいことが沢山あった。時間が無いとなれば優先順位が一番高い物から聞くべきだ。
「具体的に俺は何をすれば!」
リリスを倒す。目的は判明したが方法がまだ不明であった。
『それは……アークが……教えて』
「師匠が?」
師であるアークが方法を教えてくれている。その時ススムはニヤリと笑った。そんなもの一つしかないからだ。
世界最強、つまり強くなれという事だ。
『くれぐれ……も、そのクリス……ドラゴンを……大切に……』
「シロの事ですね」
『その子は……会話に……必要……』
ついにノイズが大きくなり声が聞えなくなってきた。
『ここから……出ると……彼女が……いま……す。でも……それ…虚像なの……』
「彼女……まさか……」
『神』はことごとくススムがダンジョンの外に出ないように言い聞かせていた。つまり外に出させたくない事情があるのだ……。
「外にリリスがいるんですか……?」
『はい……また……力……たまる……連絡…する。』
ジジジジ
ノイズの音だらけになった時、一言「頑張って」と聞こえた気がした。
ススムはその場で硬直していた。告げられた真実が予想をはるかに上回っていた。
かつてススム座った場所に同じように腰掛ける。
頭の上にいたシロを向かい合うように持ち上げた。
「とりあえず……状況の整理をしようか」
「キュイ?」
〇
10分程その場に座ってススムは与えられた真実を整理していた。
外にはアークの敵であるリリスが待ち受けていると言っていた。だがそれは『虚構』、本体ではなく自身を外に投影しているのだろうからちょっとぐらい時間がかかっても別に構わないだろ。
アークの意志はわかった、『神』の事情も理解した、自分の神託の理由も判明した。
でもそこまでして神核を奪ったリリスを倒さなければいけないのだろうか……実際400年間人類に反抗しているわけでもないし世界は十分回っている。
本当に倒す必要があるのか?
師の意志は継ぎたい、『神』の無念も晴らしたい、けど本当に自分がリリスと倒さなければ……。
「キュイ! キュイ!」
パタパタと羽を動かしてススムに何かを伝えたいようであるシロ。
「どうしたシロ?」
「キュキュイ!」
ススムの腕を引っ張るように外へ通じる道に入っていく。
まるで「考える前に行動を!」と言っているようだった。
「……ふふ、ありがとなシロ」
「キュイ?」
自分は何をしていたのだろうか……。
「そうだよな! まずは本人に聞いてみよう、せっかくご丁寧に来てるんだ。リリスの言い分を聞いてから考えよう」
「キュイ!」
再びススムの頭に乗るシロ。
外に出る事を決心したススムは四年半前通った道を戻る。思えば四年半一度も外には出なかった。このダンジョンの外にはススムに襲い掛かる恐怖がある、困難がある、だがもうそれを恐れるススムではない。その困難を超える為にアークの元で鍛えたのだ。
上りの道を進むと太陽の光が体に当たる。ダンジョン内の鉱物の光と違って熱を感じる太陽の光は心の中まで温まる気がした。
「さぁ、外に出るぞシロ!」
「キュイー!」
木の洞から足を踏み出したススムは目いっぱいの太陽の光を浴びた。四年半前とあたりの光景は全く変わらず密林が広がっていた。
ダンジョンの中には無い風が吹き木々を揺らす。木の葉が擦れる音は無音と魔物の声しかないのにダンジョンでは決して聞けなかった音色である。
「キュイ!キュイ!」
上で楽しそうにシロが跳ねる。どうやらダンジョンの外はシロのお気に召したようだった。
「楽しいか?」
「キュイ!」
ただ外に出ただけでここまで喜ぶなら世界と言う物をシロに見せてあげたくなる。
でもそれは後にお預けだ。
「さてっと……いるんだろ! 出て来いよ!」
大きく叫んだ声は密林の中に消えて行った。すろと前方に木々からちらりと光源が近づいて来た。
全身がかすかな発光をしているその姿は普通の人間の物ではなかった。背中からは妖精族の象徴と言える羽が生えており体は宙に浮いている。白く透き通った肌はそれそのものが光を反射しているのかと思うほど輝いて見えた。
「どうも初めましてススムさん」
意外にも礼儀正しくその者は頭を下げる。
「こちらこそ初めましてリリスさん」
ススムも同じように頭を下げる。
「あぁ、やはりあの元『神』から話を聞いたのですね」
ニッコリと笑うリリス。
だがススムには分かったこの目の前にいる妖精族は内面では全く笑っていない事を。
誤字脱字を見つけ次第直します!
いろいろな真実です。ちなみにススムに語り掛けた神を『神』と表記しています。
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