3 タタカ村での日々(1)
窓の隙間から太陽が差しそれがまぶたにかかる事でススムの意識が覚醒する。ベットから起きるとどこからか香ばしい香りが漂っているのに気がつく。マーサの準備する朝ごはんの匂いはススムを空腹にさせ意識を更にハッキリとさせてくれた。
ススムは近くの棚から自分の服を取り出し今来ている寝巻きと着替た。
どうやらマーサは裁縫が得意なようで古着からあっという間にススムにあった着衣を作ってみせた。しかもその事に驚いたススムに味をしめたらしく気がつくとススムの服のレパートリーが増え続けていた。
少し申し訳ない気もするが本人が「あたしが好きでやってんのさ。ンガッハッハー!」と笑いながら言われては何も言えなくなる。
ススムにはやる事があるので駆け足で扉を開きマーサのところへと向かう。
「おはようマーサさん!」
「おはようさん。飯はできてるからちゃっちゃと食べちゃいな。」
マーサさんはちょっと無愛想な返事返事をするがとっても面倒見がいい人なのだ。それがここ最近でわかった。
もうタタカ村に来てから3ヶ月が過ぎている。
異世界転生してから、というより川でエリナに助けられた後俺は記憶喪失の孤児という形でマーサさんの家で御厄介になっていた。これは異世界から来てこの世界の知識が全く無く頼りになる人もいないススムにはとてもありがたい話だったため素直に従わせてもらった。
「ご馳走さまー! じゃ僕水汲みに行ってくるよ!」
「そうかい、ならあたしは次のを終わらせちまおうかね」
そう言ったマーサは机の下から布を取り出す。どうやら朝ご飯をゆっくりと食べながら服を作るようだ。
(帰ったらまたレパートリーが増えていそうだ……)
ススムは小さい樽を持ち外へと出かけていった。水汲みはススムの朝ごはん後の日課となっている。
それ以外にもマーサの手伝いをしようとしたのだが「ガキは水汲みだけやって遊んでりゃいいんだ」と言われて手伝わせてもらえない。
「おーススム! 今度うちの収穫手伝ってくれよ!」
「おはようございます。わかりましたいつでも手伝います!」
「ありがとよ。水汲み行くんだろ? 邪魔して悪かったな」
「大丈夫です。それじゃ!」
水汲みに行く途中ではいろんな人に話をかけられる。
村に来たばかりはまだよそ者のガキとゆう感じがあったが異世界高校生のコミュニケーションを駆使して結構簡単に打ち解ける事ができ今では家ごとの仕事の手伝いをさせてもらっている。
だがあまりにうまくコミュニケーションをとりすぎたせいで俺の4歳という年齢を考えない仕事がたまに来てしまう。
「もっと子供っぽく振る舞ったほうがいいな……」
しかし子供の振りは意外にも難しい……。
水汲みを終えたススムは川のほとりにある腰をかけるには丁度いい岩に座ってマーサの家から持ってきた本を読み始めた。別に水汲みは急いでいる訳ではないのでよくこうやって本を読む。
読んでから数分たったころ後ろから足音が聞こえてきた。
「あー! またおしごとさぼってる!」
「エリナか……」
後ろからエリナの声が聞こえ振り返るとススムと同じように水汲みにきたであろう樽を持ったエリナがいた。だがこう本を読んでいると大抵エリナが怒ってくる。
「さぼっている訳じゃないよ。本を読んでるだけさ」
「それがさぼりなの!」
そう言って頬を膨らませる仕草をとる。可愛い奴だ……。
「ごめんね?もうちょっと読んだら帰るからさ。」
「も~~」
そう言って彼女はススムの隣に腰掛ける。どうやらススムが読み終わるまで横にいるつもりのようだ。
(こうやって座っているのはさぼることにはならないのだらうか……)
「水汲みしなくていいの? そうしてるとエリナもさぼってるよ」
「エリナはススムくんのかんしをしてるからさぼってるわけじゃありませーん!」
どうやら彼女の業務内にススムの行動監視も入っているらしい。
「ススムくんはもうほんがよめるんだね。すごいよー」
ススムが読んでいる本に興味を示したのか唐突に話題をふってきた。
「まあ読むことは難しくはなかったよ。言語が同じ日本語だからマーサさんに発音ごとの文字を教えてもらったら簡単だったしそれもローマ字みたく母音と子音の組み合わせだし。あっ、でも名詞ごとに文字があるのは覚えるの大変そうだよ。それでもこうやって本を読んで……」
ハッと気がつくと横で首をかしげているエリサ。
しまった……。
「えっとね……頑張ったんだよ」
「ススムくんはたまにへんなこというね」
ついつい4歳のエリナ相手に大人と話すみたく語り掛けてしかけてしまう。エリンはススムが妙な事を言っているとしか受け取っていないようだが、大人の前ではこの癖はしてはいけない。
キョトンとしているエリナの頭を撫でる。
「エリナは頭が悪い訳じゃないからちゃんと勉強すれば本だって読めるさ。」
中身が高校生の俺からしたらエリナは可愛い子供なのでついつい頭を撫でてしまう、がこの癖に関してはエリナの怒りに触れないらしい。むしろ喜ぶように先ほどまで膨れていた頬はだらんと下がりにやけてる。
「えへへ、そうかな~できるかな~///」
「きっとできるさ。エリサなら」
こんな風にエリナとゆったりと日々が過ぎて行く。
思えば高校生になってから学校かバイトか勉強の毎日だったからこうやってのんびりと過ごすのは何年ぶりだろう。
命の恩人であり、友達であり、俺に心の休息をくれたエリナ。
住む場所をくれ、世話を焼き、心配してくれるマーサ。
そんな二人は既にススムの大切な人になっていた。いつまで続くかわからないがこんな日々が続いたら幸せ……かもしれない。
できればススムをこのまま幸せにしてあげたい!!!
そう思ってしまいましたが……それではつまらないですよね……。
もう少し平穏な日々が続きます。