28 VSアーク 後編
22話に割り込みで消えてしまっていた話を入れました。これで{?}となっていた話はつじつまが合うはずです。
神断流の上級、『雷虎』。
自身の中にある気を爆発させるように増大させそれを体内に留める事によって一時的な身体強化をする技。ただの強化ではなくありとあらゆる魔術的防壁や結界をも貫く事ができる、アークいわく体一つで世界の書き換えすら可能な魔法を上回る秘儀である。
アークが一瞬にして接近しススムを蹴り上げる。ススムはそれを迎え撃つように腕を構え防ぐが……。
「っつ!」
あまりにも強すぎる力にススムの体は跳ね上げられ天井に叩きつけられるが勢いはそれで止まらない。天井を砕き、貫いたススムは再び硬い岩壁に叩きつけられた。100階層の天井を貫いたという事はススムは99階層の天井の岩壁まで吹き飛ばされていた。
「ガハッ」
背中を強く打ち付けられたせいで息を吐き出す。途絶えそうになる意識の中、崩れる100と99の間の層の岩塊の隙間からススムを打ち上げた張本人と目が合う。その目はまるで「次はお前の番だ」と言っているように感じられる。
「スゥゥ」
意識を取り戻したススムは息を吸い込み全身の気を増大させた。爆発するように増大する気を体内に無理やり押し込めることでススムの体からもアークと同じように電撃が走り始めた。
(『雷虎』!!)
同じく『雷虎』を発動させたススムは99階層の天井を足場に下に向けて蹴り飛ぶ。豪速でアークに向かって拳を振り下ろすが、『花』の型に移ったアークに腕を捕まれ流れる動きで地面に叩きつけられた。
下方に向けた勢いを全て背中に受けたススムだったが『雷虎』を発動させているススムにはダメージはほぼない。すぐさま体制を立て直し距離をとる。
が、アークが腕を付き出し拳を握ると後方へ下がるススムは見えない腕によって捕まえられ空中に制止した。
(くそ、こんな距離まで届くのか!?)
空中に止まったススムの体はアークが見えない糸を引くように引っ張るとそれに合わせるように引き寄せられた。
すぐに後退を諦めたススムは瞬時に迎撃に移る。『雷虎』を解いたススムはアークの拳を『花』によって逸らし完全に懐に潜り込んだ。『雷虎』は気を体内に留めるせいで気の感知能力は失う、そのため防御の面では気を放出した状態の方が強いのだ。
再び『雷虎』を発動させたススムは両腕による突きを放った。
先ほどのススムと同じように吹き飛ばされたアークはダンジョンの壁に叩きつけられ体は岩壁に埋まる。
「限界……か……」
体から放出される電撃が収まり『雷虎』が解除された。
「ハァ、ハァ……」
先ほどまで乱れてすらいなかった呼吸が今では肩を揺らすほどに変わっていた。『雷虎』は瞬間的に圧倒的な強化をする事ができるがその反面膨張する気を体内に押しとどめることで全身の体力を一気に持っていかれるのである。今現在ススムが発動できる時間は10秒程度。だがめり込んだ壁から何事も無かったかのようにケロッとアークは這い出る、その体からはススムより先に発動させたはずの『雷虎』の稲妻が未だに放出され続けていた。
「実力が違うと思ってたけどここまで力の差があるのかよ……」
「まぁな。『雷虎』は気の制御力によってその持続時間も変わる。お前は気の出力は俺とタメ張るかもしれないが制御はまだまだだな」
「それにさっきの『火花』、師匠のはあんな距離まで届くんですか?」
「あぁ、あれな。あれも同じさ、制御さえできれば10メートルは届くぞ」
「ハハ……やっぱり化け物だ……」
『火花』、先ほどススムの体を引き寄せたアークの技。気を飛ばして体外にある物体に力場を与えるという物理法則を無視したかのような無茶苦茶な技だ。雷虎はまだ自身の体の中て起きている事だから理解はできずとも感じる事はできる。でも物体に力場を与えて動かすなんてサイコキネシスの真似事は理解も感じ取る事も至難の業だ……。
(『雷虎』は10秒、『火花』は2メートル。それが俺の今できる限界だ。それに比べると向こうとの差は圧倒的に感じるな……)
やはり出力は抑えても技の錬度が段違いである。ススムには師であるアークを超える想像が全く思いつかない。
(どうする……ここは長期戦に持ち込んで『花』で時間稼ぎを、いやそれでは何の解決にもならない。ならもう一度『雷虎』を発動させて一気に決めるか? でも持続時間は向こうの方が圧倒的に上、こちらには打てる手が無い……)
ぐるぐるとススムの頭の中で迷走が始まっていた。そんな動揺がアークに伝わったのか『雷虎』を止めると――
「ススム、何か勘違いしてねぇか?」
「……勘違いですか……?」
「これは……『試験』なんだぜ!?」
アークの言葉にハッっと気が付く。
そうだこれは試験なのだ、一個一個の技で勝てないのは当たり前である。そんなものはやる前から解りきっている事。
『試験』そうこれが免許皆伝の試験なら俺が師であるアークに示すべきは師匠の技ではなくて……自分の技なのだ。
「すいません師匠。見苦しい所を見せて……では行かせてもらいます」
「おう、『今度はお前の番だ』」
『お前の番』、先ほどの『雷虎」と『火花』は師匠が自ら作り出した神断流の技。その頂と同じ場所をを目指すならば自分の可能性を師に見せなければ……。
深く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐いて行く。その過程で自分の中にある気の流れを確認した。『雷虎』によって未だに気は乱れているが”あの技”をするには十分だろう。
最初と同じように構え直したススムは再び豪速でアークに飛びかかる。向こうの型は『花』、防御に集中したアークの守りはそう簡単には突破することはできないだろう。だがススムはそこに真正面から突っ込む。
ススムの拳がアークの腕によって逸らされそうになる瞬間―――
バチン
鈍い音と共に跳ね上げられたのはアークの腕だった。怪訝な顔をしたアークは続く二撃目を同じように『花』で受け流そうとするが――
バチン
今度は弾かれるように『花』を崩される。
ススムは地面を強く踏みつけて力を貯めていた。それに対応しようとするアークだったが――
(っ!? 腕が動かない!?)
まるで麻痺したように痺れた腕はアークの動作をワンテンポ遅くしたのだ。
拳を向けるススムとアークの視線が重なる。
来いよ、お前の『技』見せてみろ!!
はい……いきます!!
ただ単なるアイコンタクト、それには四年半の彼らの時間が全て入っている。
ススムが振りぬいた拳はアークの胸の部分に直撃する。だが、今までのように後方に吹き飛ばしたり、彼の体を粉々に砕くといった派手な現象は起こらなかった。だが――
「ゴフッ……」
突然アークが口から血を流し始める。
「……っ、はぁ、はぁ」
ススムはただ一撃しただけなに肩を使って息をするほどに疲労していた。
「はぁ、はぁ……どう、ですか。俺の『技』」
口からでた血をふき取るアーク。だがその吐血のみでアークの方には目立ったダメージなどは見受けられない。
ススムはもう既に出せる技は出しきっていた。今の技は『虎花』、師匠のような『技』ではなく全く新しい『型』、『虎』の攻撃のインパクトを『花』によって流れを操作し相手の体内に直接伝える事ができるのだ。防御においても触れる物に少量の気の爆発をぶつける事で触れることなく弾くことが可能になる。
外力的な『虎』の攻撃の力を『花』でコントロールする。まだ完成した『型』とは言えないが師匠に一発は入れることができた、どうだ……?
血を拭ったアークはニヤリと笑う。
「合格だ!」
合格、その言葉をきいたススムはその場にへなへなと座り込んでしまった。
「たは~、マジで死ぬかと思った……師匠あの『雷虎』は本気で殺す気だったでしょう!?」
「そりゃ本気だったさ。あの攻撃に耐えられないようじゃお前はその程度だったって事だよ」
ぶち抜かれた天井からは今も大きめの岩塊が落下し、あたりの地面はえぐられ、そこらかしこにこの戦いの爪痕が残っていた。
「それにしてもススム、あの技なんだ? 腕が弾かれたかと思ったら今度は直接体内に衝撃が来やがったぞ?」
「技って言うより『型』ですかな、『虎』と『花』を合わせた『虎花』って名前付けました」
「『虎花』って……まんまかよ。安直だな」
「だってそれ以外思いつかなかったんですもん」
つい先ほどまで殺し合いをしていた二人とは思えない程に和んだ空気がそこにあった。
「それで師匠、俺が勝ったってことは……」
「あぁ、俺はもうすぐ死ぬ。だって俺は”ダンジョンボス”だからな」
「……そうですか」
「あれ? ここはもっと驚くところじゃない!? ボスだよボス、人の俺がダンジョンボスだぜ?」
確かに普通の人が聞いたなら驚くだろう。ダンジョンのボスは魔物がなるもので人などがなれるものではない。だがススムは驚く事はなく「もうすぐ死ぬ」の方が大きかった。
「だって師匠このダンジョンの魔物に襲われないじゃないですか!? それに絶対に『アビス』から出ようとしないし、最後の試験の場所が最下層だし、もしかしたら……とは思ってましたよ」
「なんだよ、もうちょっと驚くかと思ったのによ……」
ふてくされたように座りこむアークは死が迫っている人とは思えない程に落ち着いていた。
「どうしても……死ぬのですか?」
「あぁ、この部屋でどんな形であれ俺はお前に勝利を認めた。お前の勝利条件は『神断流』の可能性を俺に示す事。そしてお前はそれを俺に見せた、んで俺がそれを認めた」
「そうですか……」
始める前は実感は無かったが本人の口からこう言われては信じるしかない。四年半共に過ごした相手が居なくなることについてススムは何も思わないわけではない。
「そう辛気臭くなるなって……お前には感謝してるんだぜ? こうやって俺の400年は無駄ではなかったこ事を証明してくれたんだからな。それについにお前は俺を”終わらせてくれた”、感謝しかねぇよ」
「こちらこそ感謝してますよ師匠、無能だった俺をここまで鍛えてくれたんです」
「「……プッ、アッハハハハハ」」
地面に座りながら大笑いする弟子と師。お互いに「らしくない事を言ってしまった」と言いながら笑いこげる。
「やめだやめだ! 湿っぽいのは嫌いなんだ」
「ですね……それでですね師匠、教えてくれるんですよね?」
先程とは違い真剣な雰囲気となる。
「あぁ、その約束だったな。『この世界の全て』を教える約束だったな」
「ええ、そうです」
いつもはぐらかされていたがずっと知りたかった。
なぜアークはこんなダンジョンに400年もダンジョンボスをしていたのか。
なぜ異世界から人がこっちに来るのか。
なぜ俺がレベル上昇不可なんてスキルがあるのか。
アークは全部知っていると言った。が、それをいままで教えてくれる事は無かった。その疑問をついに知る事ができるのだ!
「っと思ったけどやっぱやめるわ!」
「はぁぁ?」
思わず師に向かって「はぁ?」なんて言葉を使ってしまうほどススムは内心ご立腹であった。
「そりゃないでしょうよ!」
「すまんすまん、ついさっき『お告げ』が来てな、ススムには私が伝えます、だってさ」
「お告げ? 何ですかそれ……誰から告げられるって言うんですか」
アークは指を上に向け――
「そりゃ神様でしょ」
「なんだそりゃ……」
「とゆう訳でお前に伝える分の時間が浮いて俺が消えるまで時間ができちまった!」
「なんかシリアスな展開を師匠って無視しますね……」
そういえばこんな人だったとススムは改めて思い出してた。
「本当にその『神』って人から教えてもらえるんですか? そもそもこんな人のいない場所でどうやって、それにどうやって師匠にそのことを伝えたっていうんですか?」
「大丈夫だ大丈夫だ、俺を信じろって。あの人はちゃんと約束は守るし信用できるから」
ススムをなだめるように諭すアークは勢い余って立ち上がったススムを座るように手でジェスチャする。それに従うように渋々ススムも座りアークの話を聞く。
「わかりましたよ……師匠を信じます」
「そりゃどうも。そうだな……せっかくだし日本の話しでもしようぜ!」
「日本ですか?」
四年半も一緒にいたが同じ故郷である日本については全く話したことが無い二人だった。いつも特訓や強化方法と言った戦闘面の話ししかしてこなかったのである。
「俺は23の時にこっちに来たんだ。普通のサラリマンでな、会社入って一年目の時だったよ」
「サラリーマン……」
日本独自の言葉を聞いて懐かしさを感じていた。
「なぁ……いろいろと話そうぜ」
「そうですね」
アークを見るとそこには毅然とした態度をとったいつもの明るいアークはおらず、昔を思いだすように瞳は遥か過去を向いていた。その瞬間ススムは初めてアークに日本人のような”普通”の人間を感じた。
「最後ぐらいこうやって話すのもいいかもしれませんね」
自らの過去、相手の過去、互いの経験、それらを交わし話し合う。
この時間はススムが久しぶりに我道 ススムになっていてまるで海外で出会った日本人のように互いが日本の事を懐かしんでいた。
あと何分、いや何秒あるか分からないがこの時間はとても楽しい物だった。腹を割って嘘偽りなくすべてを教え合う男同士の会話。それはススムにとって初めての経験であった。
でもススムは気が付き始めていたのだ。アークの体から光の粒子が飛び出し消えていくのを……。
段々と薄くなるその体を見ると別れの時が近づいているのだと昔話から現実に引き戻される。
「おっと、もう時間切れかよ……」
「師匠……」
「そんな困った顔すんなよ、そうだこの奥にある俺の装備や持ち物なんかを持って行っていいぞ」
そう言ってアークは自分の後方にいつの間にか現れ空いている扉を示した。するとさっと立ち上がったアークは自らの手を確認し自分の終りを実感しているようだった。
「長かったな……技能や能力で老化が止まって最初は嬉しかったけど自分の子供が自分より老いて死んでいくのは流石に辛かった。終わらせるために戦ったけど結局勝てなくてこんな”穴”で400年も生き延びちまって……いつ、誰が来るのかも分からないってのによ、がむしゃらに技を磨いてな。バカみたいだよな俺……」
「し……」
声をかける事ができなかった。400年、たった一人でこんな場所にいた苦しみや長命の悲しみは自分なんかの言葉や価値観で語ってはいけないとススムは思ったのだ。
「けどな、お前が来てくれて本当によかったよ。そのおかげで俺は役目を終える事ができた。自分勝手化もしれないけどお前には俺がやろうとしていた事を引き継いでほしいんだ」
「やろうとしていた事……それが初めて会った時に言っていた俺を利用する事ですか?」
「あぁ。もちろんお前のやりたい事や、守りたい人がいるのは知っている。でもそれでも頼みたい」
師匠にこれほどまでに真剣に物事を言われるのは初めてだった。自分が知っている中ではいつもへらへらと笑っているが彼の実力と志だけは評価して尊敬していた。そんな彼ができなかった事が自分にできるだろうか、そんな不安がススムの中にはあった。けれども――
「わかりました。やってやりますよ!」
師からの最後の願い、それぐらい叶えられなかったら、
「それぐらいできなかったら『世界最強』になんてなれませんからね!」
それはアークに言われた目標、自分がやりたい事を全てやるために目指した冗談のような目標。つまりススムはこう言いたいのだ。「世界最強になったら師匠の頼みの一つ増えた所で問題はない」と。
「ふっ……そうか」
アークは小さく笑う事でススムの言わんとしている事を理解したようだった。すると足音から大粒の光の粒となってだんだんアークが消えて行った。
「それじゃ、じゃあな。俺の最後にして『最強』の弟子」
涙を流すことは無い。それはこの場ではもう不要なものであるからだ。力一杯足を揃え深々と腰を90度曲げてお辞儀をした。
「本当に……」
スゥー
全力で息を吸う。そして渾身の力で自分の感謝を伝えるのだ。
「ありがとうございました!!!」
「おう……達者でな」
小さく聴こえた声に反応して顔を上げるがそこに師の姿はもう無かった。
だがススムは再び頭を下げる。
「ありがとう……ございました……」
師匠との闘い、そして別れ。
実際400年も生きるってなったら人間ってどうなっちゃうんでしょうね?
次回、ペット登場?
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