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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
3章 青年期

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27 VSアーク 前編

 地下に広がる大迷宮、名を『アビス』という。


 かつて、英雄『アーク』が己を鍛える為にもぐったとされているこのダンジョン。だがそんな事実を知るものは今の時代にはすでに皆無。この場を訪れる者はここ数百年で一人もいない。


 100層にも及ぶ階層で構成されたこの迷宮、ダンジョンには多種多様な魔物が生息し下へ下るほどにその強さは比例して強大なものとなってゆく。また、階層ごとにその様子も大きく異なり湖が大半を占める階層や大きな木々が生い茂った場も存在し、灼熱地獄の如く燃え盛る階もある。


 通常、このダンジョンを攻略するのであれば出入り口や階層のどこかにキャンプよりも大きなキャラバンほどの避難所でも作りながらでなければ到底下層に届くことなどできはしない。


 まさに奈落、アビスの名を持つにふさわしいその迷宮。


 そんなダンジョンの90階層、まるで地上のような環境となっているこの階層は比較的魔物が出難くく、また食べることのできる植物を多く群生している。そんな階層の奥深く……。


 少し木々が開けた場に一人の男の姿があった。


 その男の拳が空を切る、次に足、また拳。自らに染み付いた『型』を確かめるように一挙手一挙動に気を配りながら自らの拳で空を切る。一旦動きを止め再度自分の集中力を高める。


 ひと時の静寂の後男の体がぶれる。すさまじい速さで繰り出される連撃は振るわれる拳や足によって生まれる空を切る音でその錬度が伺われた。だが音とは反対に地面の砂や土はまったく舞い上がることはない。


 だが連劇の最後の一振り、振り抜かれた拳によって周りの砂塵がふわりと浮かび上がった。


 「……チッ、まだまだだな」


 先ほどの凄まじい舞踊に納得がいかなかったのか不満を述べた男はその場から立ち去るように歩みを進めた。


 森を抜けたダンジョンの壁にあいた一つの穴、そこを進んだ所にある洞窟。袋小路になっているだけの小さな洞穴だがそこはこの男が寝泊まりをするために利用している場所である。


 「師匠! ただいま戻りました!」


 帰還の報告を大きく放つが返答が帰ってこない。どうやら師匠は出かけているようで部屋の明かりもついていない。


 壁にかけてある魔石に手をかざし微弱な魔力を通すと魔石は輝きだす。その光に連動するように部屋の壁に取り付けられた光源用の魔石も輝く。


 ここは90層にある隠れ家。隠れ家といっても寝ておきるだけの簡易的な作りをしていて部屋にあるものなんてこのダンジョン産がほとんどである。毛皮に骨、牙に鱗。そういった道具を使って作られた道具は一般的な部屋と違って物々しい雰囲気をかもし出す。


 すると物々しい部屋に似会わないただの木でできたテーブルに一枚の羊皮紙が乗っているのに気がつきその内容に目を通す。


 「最下層まで来い……ね」


 ただ一言だけ書かれたその羊皮紙。一言だけだがこの言葉はとても大切な意味を含めているのだ。


 「まだ四年半なんだけどな……まさか本気なのか師匠」


 そうつぶやくと部屋にあった最低限の物資と装備を持って隠れ家えを飛び出す。


 そう、この男こそ四年半前、王都から命からがら逃げ延びたススムであった。


             〇


 100層。そこには今まであった階層とはまったく異なった構造がある。


 ただの部屋ひとつ。


 ダンジョンの最下層にはダンジョンボスの部屋があり、もちろんこの『アビス』にもそれは存在する。


 師匠であるアークが「最下層」といったからにはここしかない。


 何の絵や彫刻も彫られてない大きな石の扉を開けると目の前は大きな部屋だった。周りは岸壁で囲まれたドーム状の部屋、まさにボスの部屋にふさわしいといえる。


 だが部屋にいたのはダンジョンボスの魔物……ではなく――


 「よぉススム。ようやく来たか!」

 「せめて前もって言っておいてくださいよ」


 ススムをこの四年半鍛え続けた師、アークであった。


 「それで師匠、本気ですか? まだ四年半しかたってませんが……」

 「あぁ、本気だからこそここに読んだのさ」


 アークは普段常に笑っている、いや笑顔を作り続けている。そのため表情から感情が読み取りづらいのだがこの四年半ずっと寝食をともにしてきたススムだからこそわかるものがある。


 いつものように笑顔で笑っている、だが目が本気のそれだ。


 「ダンジョン攻略兼『神断流』の免許皆伝の試験だ」

 「本気の師匠と戦えと? 無理がありますよ。だって師匠化け物見たく強いじゃないですか」

 「わかってるよ。お前の身体能力に合わせて肉体の出力は抑えてやる」


 アークは準備運動の動きを始める。屈伸や背伸び、そういった動作はまるで日本の体育のように思い返される。


 「って言ったって神断流の開祖と戦うのは……」

 「びびるな、びびるな。それにな、俺が化け物だとしたらお前は怪物だよ」


 怪物。そうよくアークには言われた。


 「たった四年半でそこまで上り詰めるとか……お前本当に人間かよ?」

 「師匠にだけは言われたくありませんね」


 こういった会話はこの師弟関係では日常的に行われている。ただ両者とも自らの肉体に調子を確かめるように体を伸ばす。


 「師匠……なんか湿っぽい言葉でも言ったほうがいいですかね?」

 「やめてくれ! 俺はそういうのが嫌いなんだ!」

 「ハハ、そういうと思ってましたよ」


 今から行おうとしている事の前に交わす言葉にはまったく似合わないであろうがこの二人にはただの言葉など必要ない。アークははるか昔に、ススムは転生する前から二人とも人間としての一線を越えてしまっている。


「魔法、スキルなし! 勝敗は――」


「どちらかが死ぬまで……でしょう?」


 殺し合いを行う二人にはまったく見えない笑いあう二人。


「では、行かせてもらいます」

「あぁ、存分に力を示してみろ!」


 にらみ合いが始まる。こう改めて対峙してみると師であるアークの存在感の大きさにススムは少し恐怖新が生まれる。存在感の大きさは威圧感となりススムの肌にピリピリと彼から発されるオーラの強大さに晒されるがこんな事で怖気づいていては話にならない。


 弱気が混じり始めた自分の心を鼓舞するように師であるアークを睨み返す事によって憂いを断った。


 そう、これは試験なのだ。ススムがどこまで『神断流』を己の物としているかアークは図ろうとしている。ならば自分はただ前に出てそれを示すだけなのだ!

 

バゴッ、


 ススムは地面を強く蹴り飛ばす、足元の岩はクレータのようにへこみススムの姿が掻き消える。一瞬にしてアークの懐に入り込んだ。その勢いに乗せて思いっきり拳を振り抜く。


 アークに直撃した拳によって後方の岩や岩塊までもが吹き飛ぶ。今のススム身体の湯力によって引き起こされた衝撃波、全力でない攻撃でオリハルコンやミスリルと言った超硬化な金属を多く含んだダンジョンの床を割るほどの脚力、それは『無能』と呼ばれた少年とは思えない身体能力である。


 「本当に強くなったなあ、ダンジョンを構成する岩壁を破壊するって普通できないんだだぜ?」


だがそんな拳はアークによって軽々片手で止められていた。


「そんな攻撃を簡単に止めながら言われても……」

「言ったろ。出力はお前と同じにするって」


そう、これはただの闘いではない。『神断流』の免許皆伝の試験なのだ。


ススムは少しだけ後退すると改めて拳を構え直す。神断流、『虎』の型。攻撃に重きを置いた神断流の構え。


直線的な動きで素早く拳を繰り出すがアークに再び止められる。続いて懐に滑り込むように足をスライドさせながら肘で胴体を狙う、がそれももう片方の手で止められる。


『虎』では直線的な素早い一撃の攻撃を行うため攻撃の間に一瞬止まる動作がありそこで次の動作の溜めを行う。そのため動の瞬間轟音が鳴り響くが次には静がやって来る。隙がある攻撃だが隙を突いた攻撃さえ行わせない程の重い一撃を与えるそれが『虎』


ズドン、ズドン、ズドン


重い打撃音が続くが全くアークが怯む事はない。神断流のもう一つの型を使うことなく正面からススムの『虎』による攻撃を受け止めている。


 「凄いな、この威力だと90層代の魔物も楽勝だったろ」

 「ええ、難なく倒せるようにはなりましたっよ!」


 渾身の右ストレートを繰り出すがそれも届くことはなく正面から止められた。出力が同じはずなのにこうまで攻撃があっさりと止められるのはありえない。それもそのはず、アークはただ止めるのではなく片手だけで『虎』による攻撃をクッションのように和らげて止めているのだ。片手だけでだ。


 「やるようになったな。んじゃ今度はこっちからだ!」

 「っ!」


 今度はアークが神断流、『虎』の構えをとった。ススムは攻撃を止め防御の構え、もうひとつの神断流の型、『花』の型にシフトする。


 目にも留まらぬ速さで打ち抜かれるアークの拳、それをいなすように力のベクトルを変えそらす。続いて打ち込まれる攻撃も同じく流れる流線を描くようにいなす。


 『花』は虎と違って防御を主体に置いた型で、直線的な虎と対するように流線のような流れる動きである。


 アークの打ち込みをいなしながら反動で抜き手を繰り出す。だがそれは同じく『花』の型に移ったアークによってそらされる。交互に打ち合う『虎』の攻撃を『花』によって防御する。そんな攻防が繰り返される。


 (くっ、やっぱり一歩、いや二歩遠いか)


 均衡しているかのように見えた攻防はだんだんとススムが押される形で崩れていく。ススムはアークに「怪物」と言わせるほどの速さでこの神断流を会得していった。たった四年半で免許皆伝の試験を受けるほどにススムの学習と肉体の成長は早かったのだ。


 だが、いくら怪物と言われるほど早かろうが四年半と400年。その差は簡単には埋まらない。


 (一個一個の技の錬度があまりにも違う! 初級の攻防では絶対に勝てないな……)


 自分との実力差を実感したススムはすぐに別の攻撃に移る。近接の攻防を振りほどき下がったススムは地面を大きく踏みつけその力を足から腰、肩腕へと伝わり『虎』にて放つ。


 「ハッ!!」

  

 掛け声と共に振るうその拳は距離をとったことによりアークには届くはずがない。


 だが、アークの体に目に見えない衝撃が伝わり後方へと吹き飛ばされた。


 『虎』と『花』が初級だとすれば中級は『気』を使った技である。今の攻撃は気を拳に乗せ『虎』で打ち出した。


 気、魔力とは異なる体から生まれ出る気力。ススムの体からは溢れんばかりの気が満ちている。


 初めてまともな攻撃をくらったアークは受けた衝撃に比べて軽々と立ち上がる。


 「っ、良いぜススム、お前は『気』に関しては俺を超えるかもな」

 「ありがとうございます」

 「それじゃこっちも行くぜ!」


 アークも同じように気を纏う事により増した威圧感がススムの肌にビリビリと伝わる。改めて警戒を強めた瞬間アークの姿が消えた。次の瞬間ススムの顔面に蹴りが迫っていた。気力によって瞬間的に速度を上げた攻撃、先ほどまでの攻防とは一段上の威力と錬弩を示している。


 だがそんな爆発的な速度の蹴りをススムは予期していたかのように上体を後ろに反らし間一髪避ける。気は自身の身体能力を伸ばすだけでなく周りの自然感知力をも上昇させる。気力を使うと周りの事象がまるで自分の体のように敏感に感じることができるようになり視覚、聴覚と言った五感よりも鋭く世界を捉える。


 ススムはアークの蹴りが外れた所を狙って、後ろに反った勢いを利用し地面に手をつきながら回し蹴りするが、それも予期していたかのように後ろから迫る蹴りをアークは避けた。


 先ほどまでの攻防とは異なり互いの攻撃が当たる事はない。感知力が高くなった二人の拳と足は空を切り続ける。


 「やっぱり『気』に関しては俺と同等になりやがったな!」

 「それもこれも師匠の人間扱いしない修行のおかげですよ」

 「はっ、いいやがる。なら……」


 アークの体からバリバリと放電するように気力が目に見える形で放出され始めた。これが神断流における上級の証、アークはようやくこの試験における本気に入ったことの証明であった。


 ススムは更に警戒を強める。あの力は本気で相対しなければ死ぬ、師であるアークから向けられた本気の殺意がそう教える。


 「俺がこのダンジョンに入る前でもここまでできる奴はそういなかったぜ?」

 「いないわけじゃないんですか……」

 「おう、俺のパーティだった五人は少なくとも俺の全力に付いてこれたし、最強と言われた俺ですら敵わなかった存在だっているぜ?」

 「それは……恐ろしい話ですね」


 おそらく『六天』のメンバーの事だろう、今師に向けられている本気に対抗することができる存在が他に五人もいたことに驚きと尊敬が生まれるが……。


 師匠が負ける存在が居た? 今現在向けられる威圧感はまるで図る事の出来ない圧倒感がある、それすらも超える存在が居るのか……。


 「おいおい、なに笑ってんだよ」


 指摘され自分が笑みを浮かべていることに気が付く。いけないいけない、そんなとんでも存在に挑んでみたいと思うととっっっても楽しみだ。


 「戦闘狂かよ……お前は」

 「何言ってんですか、師匠のが移ったんですよ。血沸き肉躍る戦いがしたいっていう師匠の考えがね」

 「おっ? それは師匠に対しての侮辱か?」

 「事実でしょうに」

 「うるせぇ、そんな不敬な弟子には――」


 アークが腰を落とす事により足場の岩がひび割れていく。足腰の強さは即ち挙動の強さに比例する。つまりそれほどの攻撃が向かってくるのだ。


 「おしおきだな!」


 

 投稿が少し遅れました。


 こいつら本当に元日本人か……?


 よろしければブクマと評価をよろしくお願いします!

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