26 ススムの居ない王都 後
金属同士がぶつかり合ったり擦れ合う音が響き渡る。
初等部の校庭では今選ばれた生徒だけの特別授業が行われている。有能な職業を持っていたり教師に才能を認められた生徒のみが受ける事ができるいわば選ばられた者だけの授業。
魔法職の生徒には、魔法の教師がマンツーマンで指導をし、近接戦の職業には剣や槍、盾、ハンマーと言った武器を持った教師がマンツーマンで教えている。
だがその中生徒の中でも一際目立つ集団となっている場所がある。
エリナ・フォード。
エリナの周りには魔法が使える教師が3人、近接戦の教師が3人と言った具合に生徒一人に対して複数人の教師での指導がされている。
「流石『勇者』なだけはありますね。既に実力は中等部でも負ける事はない程のポテンシャルを持っていますね」
「ですね。特に近接戦では『身体強化』や『剣術』と言ったスキルも持っているおかげか10歳でC級冒険者並の強さですね」
目の前の教師と『身体強化』を使いながら剣を交えているため、聴覚も強化されエリナのクラスの担任と今やる事のない魔法職の先生の会話が聞こえてくる。
普通、近接職と魔法職の2つを同時に教えられることなど無いが、『勇者』のクラスに限っては別なのだそうだ。勇者は唯一と言っていいほど魔法と近接の両方を兼ね揃えた職業で魔術の才と近接の才、両方とも伸ばしていく方針だと教師からは聞かされた。
明らかに手を抜いている相手の教師の剣を跳ね上げ懐へと潜り込むとさすがに手を抜けないとわかったのか教師の顔が真剣な物へと変わってゆく。ここで教鞭をしている先生だっていくら初等科だろうと皆優秀な人だ、そんな大人相手に手抜きをさせない剣劇を10歳の女の子が行っている。その光景はいかに『勇者』という物のポテンシャルが高いかを示しているかの様だった。
でも、いくら凄いスキルを持っていると言ってもまだ子供、本格的に戦い方を学び始めたのはつい最近だ。そんな者に教師が押されることは無い。
「まだまだ、攻撃が荒いですよ!」
「キャッ……」
私の剣劇の隙間を狙って教師の攻撃が当たり持っている訓練用の剣が弾かれた。
「ですがその意気込みはいいです。その調子で前に出るんですよ」
「……はい」
教師相手にそこそこの攻防戦をして見せたというのにエリナはあまり嬉しそうではなかった。
するとその後継を見ていた他の生徒たちから次第に拍手が起こる。
「すごいですわ!」
「エリナ様はやっぱり強いんですね!」
「カッコいいな~!」
そう言った賛美が贈られるがエリナは―――
「……どうも」
それだけ言うと弾かれた剣を拾いに行く。正直、このクラスの人達はエリナは好きではなかった。ススムが居なくなると同時にまるで彼が居なかったかのように扱い、さげすんだ発言をする。そんな人達にどうして好意が持てるというのだろうか……。
ちらっと視界の隅にグレイ・レイガストの姿が見えた。
(あの人が……あの人さえいなければススム君は……!)
そんな考えが一瞬頭をよぎるがその邪念を振り払って剣のもとへと歩みを進め掴み取る。
もしそんな事をエリナがしてしまったら間違いなくフォード家はまずい立場になるのはわかりきっている。フォード家の貴族として耐えるのだとエリナは自分に言い聞かせる。
「やぁ、エリナはやっぱりすごいんだね! 『剣聖』の僕ですら勝てるか分からないよ!」
いつの間にかに近くに来ていたアキスト・メアリスがエリナに話しかける。
「……そんな別に……」
エリナはアキストが苦手である。どうにも彼の黒が入った髪はススムを連想させ心のどこかでススムのような人なのではないか?と考えてしまう自分が居た。
(そんなわけがない、ススム君に変わりなんて居るわけがない! 私が求めているのはススム君なのだ! )
そう自分に言い聞かせる。
「えっと……もう戻っていいですか?」
アキストの前ではエリナは少し動揺した感じで話してしまう。だが自己中心的に生きているアキストにはその行動が自分への好意から来る羞恥だと勘違いさせてしまうのだ。
「エリナ、今度一緒に商店街にでも行かないかい? 最近新しく宝石店ができたみたいなんだ。そこにでも――――」
「すいません。私……訓練があるので……」
アキストの話を遮るようにエリナは教師のもとへと早歩きで戻って行った。
普通ならその『すみません』はあなたとは商店街には行きません。と言った風に解釈するだろう。だが自己中のアキストには―――
「恥ずかしがり屋なんだね……エリナは」
自分ともっと話をしていたいが教師に呼ばれているので戻らなければいけません、といった風に解釈をされるのであった。
「いいさ……もっと時間をかけて少しずつ僕の物にしてあげるよ……」
アキストは10歳とは思えない歪んだ笑顔で舌なめずりする。まるで獲物を狙った獣のように。
〇
特別授業を終えた私とリナリーは二人人で商業区を歩いていた。
目的は商業区にある冒険者ギルドへと向かう事である。
日が傾き始める中、せわしなく大通りを商人や貴族の馬車、人々が行き来している。そんな大通りを進み商業区の中間にそのギルドはある。
ここは平民が多く利用するギルドである。普段なら私もリナリーもこのギルドの来ることはない。いつもなら貴族街の中にある貴族用のギルドを利用するからだ。
けど、そこではダメだったのだ……ここでなら……。
木でできた扉を開くと中はまさにお祭り騒ぎ、という言葉を使うのが相応しいと思う。
冒険から帰って来た冒険者が魔石の監禁の為、カウンターに集まり、隣のテーブルが並べられているところでは大男や苦境な戦士たちが酒によって宴会となっている。
椅子の壊れる音、冒険者同士の喧嘩の騒音、パーティが始めた酒の乾杯の声。
それらが混ざり合ったこの空間は貴族として育てられた私とリナリーには信じられない空間である。
「凄いわね……なんていうか……凄いわね……」
「そ、そうだね……」
けど、この程度で怖気づいてはいられない。
人の波をくぐり抜け、私はカウンターへとたどり着く。そこには書類整理をしている受付のエルフの女性がいた。人とは全く違った美を醸し出している彼女の姿に一瞬ボーッとしてしまった。
「えっと、何か御用ですか?」
受付に立っているのに話そうとしない私にエルフの女性が話しかける。
「あ……えっと、人探しをしてほしくて」
「ご依頼の方ですね、でしたらこちらの書類に記入をお願いします」
出された書類には依頼内容や報酬金額などの設定に関して記入する欄がある。
「エリナ、私が記入しておくわ」
リナリーが書類を受け取ってカウンターで記入を始めた。
「それで人探し、つまり捜索願の依頼ですね」
「あ、はい。平民の男の子なんですけど……」
貴族用のギルドでは平民の子供を探す依頼は受理されなかった。そんな人探し、しかも平民の男の子を探してくれる冒険者はあそこには居ない。でもここなら金銭さえ用意すればどんな要件も依頼として受理される。それに貴族ギルドよりもこっちのギルドの方が多くの冒険者が活用しているから多くの人の目にも止まるだろう。
「では特徴を教えていただけますか?」
「えっと、歳は私と同じ10歳で……王立騎士学校に通っていて……それと髪が黒色なんです」
「黒……?」
髪が黒、と聞いた受付嬢の女性エルフの顔が接客の笑顔ではなくなる。
「はい、名前は、『ススム』って……言う……んで……すけど」
ススム。
その名を発した瞬間、先ほどまでお祭り騒ぎだったはずの騒音が消え去った。背後を振り向くと周りの冒険者がこちらを見ている。リナリーもその異様な事態に手を止めて警戒している。
一人の屈強な体をした男性が席から立ち上がりこちらへと歩み寄る。
「お嬢さん方、今ススムって言わなかったかい?」
「そうですけど……ススム君を知ってるんですか?」
「知らない筈がないだろう、ここにいる冒険者はほとんどススムの坊主の事を知っているぜ」
いったいなぜススム君の事を知っているのだろう?
「んで、ススムの捜索をしようとしているあんたらはアイツとどんな関係だ?」
「私たちはフォード家の娘です」
「フォード?」
パンっと手を合わせる音が響く。
「あぁ、ススム君がお世話になってるって言ってた娘さんですか!?」
受付のエルフさんがそう言った。どうやらこの女性もススム君を知っているらしい。
「彼、ここ最近ずっとギルドに顔を出してなくって……彼に何かあったんですか?」
〇
ススム君が事件に巻き込まれ、現在行栄不明になっている事を受付のお姉さんに伝えた。どうやらススム君の現状について知りたかった人は多いらしく、私とリナリーが説明をしていると周りには多くの冒険者の人達が集まっていた。
「そう……彼はそんな事になっていたのね……」
説明をするとエルフの受付嬢、ニアさんがそうボソッとこぼす。
「くそっ、ススムの野郎……俺達を頼ってくれてもよかったじゃねえか……」
「馬鹿、そうしてたらお前まで貴族に狙われることになんだぞ! そうならないようにススムは誰にを頼らず出て行ったんだろ!」
「でもよぉ……アイツまだ10歳だぜ!?」
「んなこたぁわかってるよ」
ススムがどんな事になっていたのかを知った冒険者たちの間では討論が始まっていた。この人達はススム君の事をこんなにも心配していたのか……でもどうして彼とそれほどの仲に……。
「すいませんが、あなた方はススムとどういった関係なんですか!?」
しびれを切らしたリナリーが周りの冒険者に問う。
「どういったって……フォードのお嬢さんなら知らないわけないでしょう?」
「……? いったい何の事を言っているんですか?」
「何って……ススムはここ4年、毎日ギルドに来て店の手伝いなんかの依頼の仕事をしてたんだぜ? 顔見知りにもなるだろうよ」
「……はい?」
ススム君が仕事をしていた? いったい何の事を言っているのか……。隣のリナリーを見てもどうやら彼女も理解ができていない様子で困惑していた。
混乱する私達の前にニアさんが一歩前へ出てくる。
「フォード家当主のフレイド様のご紹介で、仕事を斡旋するように言われておりましたので……彼は4年ほどこのギルドに毎日顔を出していたんですよ? なんでも『学費を稼ぐ為に』とススム君は言っていました……ご存じなかったのですか?」
〇
「いったいどういう事なんですか! お父様!!」
リナリーがフレイド伯父様に詰め寄る。ギルドで話を聞いた後すぐにフォード邸に戻って来た私達は執事の方の制止を振り切り伯父様の執務室に押し入っていた。
「何の話だ?」
「先ほどギルドにススムの捜索依頼を出しに行った時、彼が仕事をして日銭を稼いでいた、という話を聞きました。しかもギルドに仕事を斡旋するように言ったのはお父様だと……いったいこれはどういう事なのですか!?」
「そうです伯父様、なんでススム君がそのような事をしていたのですか?」
話の主旨を理解したのか伯父様は執務の書類から手を放し落ち込むように頭を抱えた。
「そうか……知ってしまったのか……」
「お父様!」
「伯父様!」
「彼からは言わないようにお願いされていたのだが、知ってしまったのなら……仕方ない」
そういうと伯父様は1枚の書類を机から取り出して私達に手渡してきた。これを読め、という事なのだろうか。
私は内容を確認していく。が、そこには信じられない事が書いてあった。
「生徒、ススムの授業料に関してフォード家からの援助の金銭を受け取らないものとする!?」
「お、お父様! これは何ですか!?」
「学園からの通知でな、学園の授業料は親、または保護者が負担しろ……とな。孤児であるススムはその保護者はタタカ村にいらっしゃるマーサという女性だ。だが彼女にその学費を払えるわけではなく……フォード家からの、私からの援助を受けつけない。つまり学園はススム君を退学にさせようとしたんだ」
伯父様がおっしゃった事実は私の想像を超える物だった。
「なんで……だって入学の時はこんな事言ってこなかったのに……」
「この書類は彼が『神託』を受けた後に届いたものだ。学園はきっと彼を卒業させたくは無かったのだろう……私も取り消すように学園に問い合わせたのだが取り合ってくれなかった……」
「じゃぁ……ススム君は入学してから今までずっと学園に通い続けるためのお金を自分で稼いでいたんですか?」
伯父様は静かにうなずいた。
「それから先日フロストから返信が届いた。やはりタタカ村にはススムは戻っていないそうだ……」
もしかしたらススム君はタタカ村に戻っているかもしれない、王都の外で身を寄せることができる場所なんて彼にはあそこしかないだろうから、けどだがその最後の望みも絶たれてしまった。
「フロストも彼の捜索を手伝ってくれる。見つかったら知らせてくれるそうだ。二人とも……ギルドの捜索依頼の件は私がやっておこう。もう下がりなさい」
「「……はい」」
伯父様の執務室を出た後、リナリーと二人で中庭の腰掛けに座っていた。
でも彼女との間に会話は無い。きっとリナリーも同じことを思っているのだろう……。
(ずっと一緒に居たのに、自分はそんな事にも気が付けなかったのか……)
何てことだろう……彼はそんな生活を4年も続けていたのか……。
思い返せば思い当たる節がある。用事があると言っては私達の誘いを断る事は多々あった。でも週に一回は一緒に町へと出かけていた。きっと仕事で時間が取れない事を隠すために1週間に一回は時間を作ってくれていたのだ。
彼がどんな生活をしていたのか想像するだけで胸が痛くなる。
朝早く起きて早朝の仕事をし、学校へと向かって勉学、学校が終わったら夜遅くまで仕事をして寮へと帰る。そんな生活を4年もススム君は続けていたのだ。
ススム君の生活の中には彼の為の時間は存在していなかった。6歳にしてススム君は自分の時間を捨ててまで私達と共にいるために生きていた。
なぜそんな事になってしまったのか……理由は多分私のせいだ……。
タタカ村で彼に『一緒に来てほしい』と彼に言ったせいだ……私のわがまま、彼と離れたくなというわがままが彼の時間を奪い、人生を狂わせ、命を狙われる事態を招いてしまった……。
もし、私があの時わがままを言わなかったら彼は今でもタタカ村に居てくれただろうか……。
そう考えた時、涙がボロボロと零れ落ちていく。
「ねぇリナリー……もしかして私はススム君と一緒に居ない方がいいのかな……彼はその方が幸せになれるのかな……だったら、もうススム君を探そうとなんてしちゃいけないのかな……」
「エリナ……」
「私、あの日ススム君に酷い事を言っちゃった……謝りたいけど……合ったらもっと彼が不幸になるんじゃないかな……だったら」
バチン!
頬に痛みが走る。頬をぶったリナリーも私と同じように泣いていた。
「リ、ナリー……」
「あなたが迎えに行かなくて誰がいくのよ!!」
「迎えに……?」
「確かにススムの人生は狂ってしまったわ、でもあなたはそれで諦めるの!? ススムの隣にいる事を諦めるの!? 私は嫌だわ!! このまま別れたままだなんて許せないわ! 今度こそ、彼を傍に置いて見せる、何が来ようとも、どんな困難があろうとも、それを跳ね除ける力を手にして何が何でも彼を手の届くところに置いてみせる!!」
それは私が初めて見るリナリーの激情した姿だった。彼女はそれぐらいススムの事を思っているのだ。貴族とか、家とか、関係なく本気の”女”がそこにいた。
「私はどんな事をしようとも3人で過ごしたあの日常を取り戻して見せるわ!! あなたはどうなのエリナ!!」
「私は……私は……」
彼の事を思い出す。川で見つけた男の子、それから彼と会わない日は1日だって無かった……。彼の笑顔が私の笑顔になり、彼の勇気が私の勇気だった。そう、私はもう一人ではいられない……ススム君が居てこそエリナ・フォードなのだ。
依存……そうこれは依存だ。
彼とつないだ手のぬくもり、彼と歩いた村の道、あれを思い出で終わらせたくなんてない!
それは私の『日常』でなければならないのだ!!
「私も、彼を迎えに行く……」
「エリナ…」
「私もススム君が傍にいてほしい、一緒にいてほしい!! だから私も迎えに行く!!」
「うん、うん! うん!!」
「だからリナリー、力を貸してくれる?」
「もちろんよエリナ。私達で彼を探しましょう!!」
私はリナリーと抱き合った。そこには貴族のご令嬢なんて堅苦しい者はいなく、ただのわがままで駄々をごねたような女の子が二人泣きながら抱き合っていた。
どれだけ時間がかかるか分からない……けど私は『勇者』だ。なんだってできるはず。世界中を探してでも彼を見つけてみせる。そしてその時こそ彼を守るだけの力を手にしなければ。
この思いは愛であり、好きであり、家族愛でもある。ただもう一度彼のいる日常を送りたい。
ただそれだけの願い。
エリナ視点での話でした。
さて、ススムの話に戻ります。彼はアークによってどんな成長をするのか……てかどうしようかな……。
今迷っているのがリナリーのスタイルでして……エリナはスタイルの良い体系にするつもりですがリナリーはどうしたものかと……。10歳になったころに少し触れてますがリナリーは大きめにしようかな? でも従妹で差があるのも……あれ案外いいかも?
とゆうわけで次回は登場人物の設定などをまとめようと思います!




