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努力戦士 〜彼女の為に俺は身一つで最強へと辿り着く〜  作者: ペペロンp
2章 成長期

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25 ススムの居ない王都 前

  ススムが王都を去ってから既に一か月が過ぎていた。


  私、リナリーはまだ彼のいない日常に慣れないでいる。昼に合う事もなく、会話も無し。打ち解けて会話のできる人が一人減った……その現実は日々を過ごすほどに実感していく。


  授業中の教室。今その場には空席の机が未だにある。振り返れば彼がそこのいるのではないかと錯覚してしまうがその椅子には誰の座ってなどいない。


  ゴーン、ゴーン


  時間を告げる鐘が学園に響き渡り午前の授業が終わる。昼食の時間だ。


  私は従妹のもとへと歩み寄る。


  「エリナ、行く?」

  「……うん、行く」


  最近になって私たちの会話はめっきり減ってしまった。原因などわかりきっている。


  エリナと共にいつもススムと昼食をとっていたあのベンチへと向かう。


  「やぁ、二人とも僕もご一緒してもいいかい?」  

  「メアリスさん……」


  教室を出ようとした時、一人の少年に呼び止められる。


  アキスト・メアリス、辺境の領地で見つかった『剣聖』の職業を持つ少年。彼がエリナとパーティを組む事になっている人。彼はまるでススムと入れ替わるかのようにこの学園にやって来たのだ。


  「リナリー様……メアリスではなくアキストとお呼びください。私達はこれから長い付き合いになって行くのですから」

  「申し訳ありません、私にはその気がありませんので。失礼します、メアリスさん」


  正直この男は苦手だ。辺境伯のメアリス家の三男でそれなりの地位を持っていて、顔の造形もはっきり言って美形だと思う。


  だが、あからさまにエリナを狙っているのだ。


  エリナの美貌に惹かれたのか、それとも彼女の『勇者』としての能力を狙っているのか……いずれにしてもアキスト・メアリスという男はススムが居なくなった今、エリナに急速に近づいている。


  最近だと少しでも私がエリナから離れるとすぐに近寄って来る、でも今のエリナにはそんな男を近づけるわけにはいかない理由がある。


  「そう言わないでくださいよ。僕はエリナさんやリナリー様とお話しができればなと思って……そうだ! 彼の事を教えてください。僕がここに来る前に居たっていう平民の話し」


  ススムの事を話題に出されたエリナの足が止まる。


  「あの空白の席の死んだって奴、そいつの話を聞かせてくださいよ」


  アキストは何の悪気もなく一つ空白の席を指さした、この男はこういう人の不幸を平気で話のネタにするような男。


  「あなた! 彼の話を茶会のつまみにするつもりなの!!」

  

  私は思わずアキストの胸倉を掴み睨みつける。この男は酷い完璧な貴族主義の人で平民の事など本当になんとも思っててすらいない。だがアキストは自分が何をしたのか分からないようでただ普通に焦っているだけだった。


  「な、何をたかだか平民ごときの為にそこまで感情を揺さぶるのですか!?」

  「たかだか……ですって……」


  たかだか? 


  彼は私にとって絵本の中に出てくるような英雄だった。


  何も特別な力だって持ってない。地位だってない。けど彼は自分に無いそれに興味すらなかった。ただただエリナと居る、それだけで十分と言っていた彼の有り方、貴族の地位や金目当てに寄って来る人が多い私にとってそれはとってもまぶしく見え、羨ましく思えた。


  子供だけど子供じゃないような安心感を一緒にいて感じさせてくれる。エリナがあそこまで依存するのもわかる気がする。幼かった私にとって彼という存在は唯一、貴族としてのリナリーでなく、ただのリナリーでいられた気がするのだ。


  「そのススムって奴は漆黒の髪をしていたそうですが……真っ黒の髪の人間なんているわけがないでしょうに。それに比べて僕の髪は灰色ですよ。正真正銘、あの英雄の血を受け継いでいる証です!」


  確かに彼の髪は黒色が混じっている。だが灰色と呼べるほど黒は入ってはいないように見える。どちらかというとスカイグレーのような白が強い色。


  髪に黒色の色素を持っている人はあの英雄『アーク』の血を受け継いでいると呼ばれる。実際、アキストの評判は良い物だ。黒を持っている子が剣聖。それは王都中に広がって噂となっている。


  それが更にこの男の事を嫌っている理由でもあるのだ。


  王都に時折姿を見せていた黒髪の少年、その噂は段々とこのアキスト・メアリスに移り変わっていっている……その移り変わりはまるでこの王都の人の頭からススムという人間そのものが無かった物のにされているようで嫌気がさす。


  「あなたが彼の価値を語らないで」


  だがススムに関しては黒色の色素が混じっているのではなく、黒そのもの。そんなのはアークと同じ血を意味しているのだ。実子でなければそんな事は無理、アークは400年前の人物だからこそススムはアークのような英雄になるのではないかと期待したのだ……。


  期待してしまったのだ……。


  その時、ススムを侮辱した事に激情しそうなリナリーを止めるように目の前にエリナが踊り出た。エリナも彼の黒が入った髪はどうしてもススムを思い出してしまうためアキストの事を苦手としている。そのため目頭に向けることは無いが目をそらしたまま――――


  「……ススム君は……生きてます。きっと帰って来ます……」


  そういうとエリナは一人で先に行ってしまう。


  「まってエリナ!」


  その後を追うように私も教室を出て行った。


  一見、嫌われているとしか見えないやり取りだったが、一人教室に残されたアキストは―――


  (エリナは僕の事を庇ってくれたのか! 彼女が僕の物になる日も近いかもな……)


  一人、自己中心的な考えで幻想に浸っていた。


  そう、異常なまでに……自己中心に……



          〇


  「エリナ大丈夫? アイツとこれからパーティを組むんでしょ?」


  曇りで日航が当たる事のないベンチに座って昼食を取るはずが、先ほどのやり取りはまだ私の中では解消できていない。


  「どうやら、私もそのパーティに入る事になるみたいだけど……エリナはあんな奴許せる? もし嫌ならお父様に話してみるわよ?」

  「……大丈夫だよ……私、気にしてないから……」

  「気にしてないって……アイツ、ススムの事を馬鹿にしたのよ!?」

  「…………いいの……リナリー……心配しなくていいから……」


  あの事件以来ススムの話しになるとこの調子である。今ではあそこまで嫌がっていた『剣聖』とのパーティを嫌がることすらしなくなってしまった……。


  「……」

  「……」


  このススムに関しての会話はこのようにいつも何も解決することなく終わってしまう。


  沈黙の中、手元にある弁当のおかずを口に運ぶ作業だけが行われていた。


  エリナも馬鹿じゃない、きっと解ってしまったのだろう……彼が王都を出て行ってしまって理由を。


  あの日、家に来た騎士の知らせを聞いてススムが生きていると知ったときは安心した、だが彼は何日経とうとも戻って来る事はない事を察してしまったのだ。


  この事件は元々レイガスト家がフォード家を陥れようとしてススムが巻き込まれた形になっている。だがいくら証拠や証言を集めてもレイガストを糾弾することは難しい、そう、”生き証人兼被害者”であるススムが居ない限り難しい。だが、レイガストの立場を悪くする人物をそうやすやすと証言台に立たせるはずがない、きっとあるゆる手を使ってススムの命を狙おうとするはず……。


  彼はもし王都に帰っても貴族に命を狙われ続ける立場なのだ。そんな彼がのこのこと王都に帰って来る筈がない……。


  結局、公の場でレイガスト家を糾弾する事ができなかったためススムを殺そうとした張本人のグレイやその取り巻きは変わらず学園に通い続けている。


  でも、本当に悪かったのはレイガスト家だけだろうか……。


  他の人やエリナさえも去らない真実、ススム本人に口止めをされたあの校舎裏での事、ススムが日常的にイジメという名のリンチを受けていた真実。


  あのリンチは事件の前から行われていた。平民の男の子にあそこまでのリンチをする理由など簡単に思いつく。


  きっと私やエリナだ。


  学園で常に彼を隣に置いていた故に彼は狙われてしまったのだ。


  もし、自分が何の力も持っていないただの男の子に過度な期待を寄せ、傍に置きたいなどと思わなかったらあの事件だって起きなかっただろう……。


  彼の背中に憧れた、その有り方に焦がれた、その彼を近くに置いてエリナに向けるような笑顔を私にも向けてほしいと思ってしまった。


  けどもその代償に彼は傷つき、我が家の名を守るため私の魔法をその身に受けた。


  あの血まみれの部屋の光景がまだ頭から離れない……。


  きっと他の貴族がこの惨状を知ったらこう言うだろう。


  『フォードは傍使いの少年を身代わりにして家の威厳を守った、あぁなんて貴族らしい平民の使い方なのか!』


  と……。


  フォードは結果として一人の男の子の人生をめちゃくちゃにしてしまったのだ、自衛の力も無い男の子に過度な期待と責任を乗せてしまった。自分もその片棒を担いでいたのだ。


  もしススムにもう一度会えるなら謝りたい。いや、謝らなければいけないのだ。


  そして許されるならこう言いたい……もう自分達と同じ志など求めない、ただ傍にいてくれればいいのだと。

  

  彼は力も権力だって無いのにその小さな体で私達の希望に必死に答えようとしてくれた。今度はそんな事にならないようにしなければ。


  ふと、自分のススムに対する思いを考えた。私は彼の事が好き……なのだろうか? 


  分からない、けれども彼を独り占めしたいわけでもない、エリナの横に彼が居てくれるだけでもいい。


  それにはエリナの為にも彼にもう一度会わなければ。


  彼が王都に来れないのならこっちから迎えに行けばいい、レイガスト家の暗躍など跳ね飛ばせるほどに強くなればいいのだ! こんなのが彼との別れ方になるなんて容認できない。


  中等部からは『職業』ごとに学科が分かれて専門的な勉学ができるようになる。そこで冒険者としての力を学べば高等部で本格的に冒険者として王国だけでなく、世界中を回れるのを許される。それまでに彼を守れるだけの力を手にすれば……。


  「待ってなさい……ススム」


  

 更新が遅れました……


 今回はリナリーの視点です。次回はエリナ視点。


 よろしければブクマと評価よろしくお願いします。

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