24 アークとの出会い
「……は?」
意味が解らない……何をこいつは言っている? アーク? それに……日本人?
「おいおい、なに固まってんだよ。えーっと、我道……くん? ボーっとしちまって!」
「ご、ごめんなさい……言っている意味が……理解できなくて」
「ま、そりゃぁそうだろうな」
自称アークと名乗る男はガハハと笑いながら自然にススムの傍に腰掛ける。
「う~ん、何から話したもんかな……んじゃこの世界での肩書から、俺の名はアーク。多分英雄とか伝説のとか言われてるんじゃないか? 」
そう、まずそれが意味が分からない。だってその人物は―――
「あなたのその話を信じるなら……その……あなたは400歳を超えている事になりますよ?」
「あぁそのとうり! だいたい俺は500歳ぐらいだぜ!?」
本当にこいつは何を言っているんだろう……。
英雄アークは実在していた人物、だけどもそれは400年前の話だ。
たしかにハイエルフや妖精種はもっと長生きをするが人種がそんなに長命なはずはない……外見は三十代の男。まだまだ若さが見えている目の前の男に500歳だと言われても全く信じられない。
「まぁ。あれだ。いろいろ一言では言えない事情があるんだよ……」
「それにどうして僕が日本人って……」
「そりゃ、ステータスにそんな名前を出してりゃ日本人は普通気が付く。そうだろ? 我道ススム」
そう言われて合点がいってしまった。
ススムのステータスを『鑑定』によって見た場合、我道 ススム と日本にいた時の名前がそのままの状態になっているのだ。そんなもの元日本人の人間からすれば丸分かりである。
本来、『鑑定』スキルによるステータスの看破の内容はオン、オフができる。名前やレベルを隠したり能力値だけ出したり、と言ったように変更することができる。だが……それができるようになるのは5レベルに到達したものだけだ。レベルが上がらないススムは自身の不憫なステータスを隠す事もできないのだ。
「僕の名前でわかるって事は―――」
「そ! 俺も日本人なのさ」
よく考えればあり得る可能性だったのだ。自分と同じような境遇の人いてもおかしくはない。
「僕以外にもこの世界に来ていた人がいたんですね!」
「他にも合った事はあるぞ。地表にいたのは最初の100年だけだったけど、その間に二人のあっちの人間に合ったな」
「へー、結構来てるんですね。。いつか僕も合え…………ちょっと待ってください! 最初の100年は地表にいたって、まさか400年間ずっとこのダンジョンにいたんですか!?」
「あぁそうだ。人に合ったのはダンジョンに潜っていらいで久しぶりだから嬉しいよ!」
正直、スケールが大きすぎて想像がつかない……。
「このダンジョンは俺が駆け出しの頃に自分を鍛えた場所でな。下の階層には森や湖があって多種多様な生態系があるんだ。そこで植物や魚が採れるから生きていくことはできる場所なんだ」
アークが言った内容はススムが持っている本の内容と同じ物だった。それが更に目の前の人物が伝説の人物である確証を高めていく。
「ほ……本当にあのアーク、なんですか?」
「そうだ。”あの”アークだぜ?」
そう言ってアークはススムに笑ってみせた。
「それにアークが元日本人だと……?」
「そのとうり」
あまりにも唐突な情報にススムは顎に手をやり考え込んでしまった。
「にしても、お前も不憫な人生だな。その年でこっちの世界に来ちまうなんて……」
? いったい何の事を言っているのだろうか?
ススムは自分の外見年齢の話をしているのだろうかと思う。
「あ、いえ。僕こっちの世界に来る前は18歳ですよ」
「は!? 18? ってことはお前転生者か? 転移者じゃなくて?」
「そうだと思いますよ。気が付いたら4歳の少年でしたし」
「4歳からの記憶しかないのか?」
「えぇ、何かおかしいんですか?」
アークは俯き考えこむと話を始めた。
「転移者ってのは元の世界の姿のままにこっちに来る、俺みたいにな。んで、転移者の日本人はみんな黒髪だ。んで転生者ってのは赤ん坊の状態でこの世界に生まれ出るんだ。その場合体はこの世界の人間の物で髪が黒くなる事はない……」
「それじゃ僕って……」
転移者のように黒い髪を持っているが、転生者のようにこの世界の幼い体も持ち合わせている。今のススムの顔つきは前の世界での昔の物と全く異なっている。だが、記憶は赤ん坊からではなく4歳からであった。
「どっち……でもないし、どっちでもあるのか?」
だがその問いに答えはかえって来ない。アークは一人真剣な表情で考え込んでいた。
「あの……聞いてますか?」
「……」
返事は帰ってこない。よく見ると口は小さく動いていて何かをブツブツとつぶやいていた。
「レベル上昇不可か……いや、そんな事……でも実際にあるしな……だがなぜこのタイミングで……もしかしてこれは……」
ばっと顔を上げたアークと目があう。
「なぁ、お前はなんでこのダンジョンに来た?」
「……えっと、言わなきゃダメですか?」
「教えてほしい。それによって俺がするべき事が決まるかもしれない」
ススムは迷う、自らの状態をおそらく『鑑定』スキルによって見破られているこの状況で目的を教えるメリットは一切感じられない。だが……何故か彼には話さなければいけない気がする。何故かはわからないがここでいうのが当たり前かの用にも感じられた。
「”力”です。僕は大切な物を守る力と自分自身の道を開くためにこのダンジョンに来ました」
そのこと答えを聞いたアークの表情が先ほどまでの優し気な笑顔からまるで悪ガキのような悪そうな笑みを浮かべた。その顔をみて直感的にこっちの方がこの人の本性だと思う。
「そうか……そうかそうか!! そういう事か! 俺はこの為に此処にいたのだな! アハハハハ、しかも相手は同じ日本人か! これは傑作だ、いいさその導に従ってやるよ!」
急に上を見上げながら額に手を当てて高らかに笑うアーク。口ぶりからして誰からかススムがこのダンジョンに来ることを教えられていたようにも感じられる。でが、そんな事はありえない。ススム自身がこの選択をしてからこの計画は誰にも話してはいない筈だ。
「我道ススム君、君の今までの過去を聞かせてくれないかい? 知りたいんだ、なんで君がそこまでして力を求めるのかを……」
〇
すっかりたき火の木は燃え朽ちて光源は炎から洞窟の鉱石の発行へと切り替わる。
ススムはこれまで起こった事についてすべてをアークに話していた先ほどと同じようにどんなメリットがあるかもわからないのにススムはアークに伝えてしまう。
まるでそうしなければいけに様な気さえするようだった。
「なるほどな……要するにお前さんは女の為ってわけか!」
「まぁ、まとめるとそうなりますね」
「いいじゃねえか、いいじゃねえか!! 女の為、自分の為、大いに結構!」
アークはススムの話を聞いてどこか嬉しそうにも見えた。
「よし決めた。我道 ススム、俺がお前を鍛えてやろう」
「……へ?]
唐突な提案に変な声が出てしまう。
「鍛えるって、アークさんが直接僕を鍛えるんですか?」
「俺以外に誰がいるよ。それにだな――」
アークはたき火に刺さっていた既に火が通り過ぎて黒く焦げてしまった魔物の肉を拾い上げる。
「お前の話に出てきた魔物の肉を使っての強化方法。それは体にかかる負荷によって筋肉の増加量は増えるんだろ? だったら俺自身の力が負荷になればお前の肉体も理論上は俺と同等の筋力を持つことになるだろう」
「確かにそれは……魅力的な提案ですね」
だが出来過ぎた話だ。
たまたまこのダンジョンに来たススムがたまたま生きていたアークに出会って力を求めているススムにアークが協力をしてくれる。偶然……それで片付けてしまうには不可解な事が多い。
アークはどうやら原因を知っているようだが教えてくるような雰囲気ではない。
ススムは迷う。この選択は自分の選んだものだった。だがここでアークの教えを請えば他人の思惑が介入するような気がするのだ。でも千載一遇のチャンスなのも確か、英雄とまで言われた男が自分に指導を付けてくれるのだと言う。
「なぜ、僕の事を鍛えようとしてくれるのですか? 何かに僕を利用したいんですか?」
こんなことを聞いても「はいそうです」と答える人がいるわけが、
「あったりまえだろう!? お前にしてほしい事があって利用するためにお前を鍛えたいのさ」
「なっ……!?」
驚きすぎて言葉が出ない。
まさかド直球で本音を言ってくるとは思わなかった。
「で? どうするよ。お前と俺にメリットがある話だぜ? 俺はお前を利用してお前は俺を利用する。悪くないだろ?」
何の悪びれもなくその男は言ってのけた。バカなんだろうかこの男は……そんなに欲望丸出しで話すなんて交渉にすらならない。
「どうせ俺の事めっちゃ疑ってんだろ? いいさ別に、言えない事もあって自分でも怪しい人間だってわかってるさ。でもな俺は小細工で人を騙す様な手段は気に食わねぇんだ。それぐらいならいっその事本音を言っちまったほうがいい!」
でも……そんな男のありかたに憧れているススムが居た。
この人はきっと自分にできなかった生き方を押し通して生きているのだろう。効率や最善手ではなく自分がやりたいように選択を取るその姿に。
その時ススムは雷に打たれたような衝撃に見舞われた。そう、この人の有りかたこそが自分が求めていた人としてのありかたなのではないかと……。
自分がやりたいように手段を選び、それをするだけの力を持ち合わせている。
このアークはある意味で自由人なのだ。
なら、教えを受けるのには申し分ないだろう。
「そうですね……その話ぜひお願いします! アークさん」
「おっし来た! これからビシビシ鍛えるからな! ……ところでそのアークさんってのはやめないか? なんか背中がかゆくなりそうだ」
「えっと……そうですかね?」
「それにお前18だったんだろ? 俺の前じゃ”僕”とか使わなくてもいいんだぜ」
「いや~、それがこの敬語の口調は治りそうもなくって……6年近くほぼすべてが敬語でしたから」
思い返せばエリナの前以外では全て敬語を使っていた気がする。
「わかったわかった、でもせめて”俺”って言ってくれ。なんか中身が18歳って事を忘れちまいそうにいなりそうだから」
「は、はい、わかりました。僕……じゃなくて俺はそうしま―――っ!!」
そう言いかけた時、全身に激痛が走る。足のつま先から頭のてっぺんまで激しい痛覚、その現象はススムのよく知っている痛みである。そう、魔物の肉による筋肉の圧縮が始まったのだ。
トカゲの魔物の肉を喰らってからもう既に三時間が経過していて、アークと話しているうちにその時間が来てしまっていた。
痛みからススムはその場に倒れこんでしまう。
「へぇ、それがお前が言ってた”強化”ってやつの副作用なのか……随分と苦しそうだな」
さすがは英雄と言ったところなのか、アークは10歳の子供が激痛で悶え苦しんでいるのに眉一つ動かさずただその姿を観察するように眺めていた。
「こんな事を今まで何回も行ってんのかよ……こいつ頭いかれてんじゃないか?」
三十分程その圧縮が続いたころだろうか、ようやく痛みが治まり会話をするだけの余力が生まれてきた。
「……すいませんね……これが俺の強くなる方法なもんで」
「構わないさ。にしてもお前のその精神には驚かされたよ」
「精神?」
「心ってことさ。どうしてそこまでの事を耐える事ができる」
「どうしてって言われても―――」
理由を聞かれても困ってしまう。
「そうしなきゃ強くなれないから……」
そのためだったら何でもやると決めたのだ。だからエリナやリナリー、王都の人達と離れてまでこのダンジョンに来たのだ。
「幼馴染の女の子の為に力を求めるのか?」
「えぇ、そうです」
「だがその子は勇者のクラスなんだろ。ほっといても誰にも負けないほどに強くなる。そんな彼女の”力”になるのか? 違うだろ、お前はただ彼女傍の居心地が良くてそこに居たかっただけだ。力を求める理由を他人に求めるな」
真剣な口調でアークが言う。まるでそれは彼自身が知っている失敗談を警告されているような気にさせられた。
「このまま力を付けてその子の隣に入れるだけの力量を手に入れたとしよう。それで? お前はそれで満足か? 断言しよう、その時お前は自身の成長を捨てる事になる。その名の通り”進む”事しかしなかったお前が停滞した時、それこそ本当の意味で”死”を思い知ることになるぞ」
「なら俺は何を求めれば? 何を目指せばいいんですか!?」
せっかく手に入れたススムの動機を全否定され口調が荒くなったしまう。
「そんなの簡単さ。 『世界最強』 を目指せばいい」
「…………はぁ?」
「男なら目標や野望を一つに絞るな! 守りたい女を庇い、欲しい名声を手に入れ、財を手にする。世界最強ってのは……言い換えればやりたい放題ってことなんだよ」
出された代案があまりにも大ざっぱ過ぎてススムは驚きが隠せない。この人本当に英雄なのだろうか……
「何言ってるんですか。俺はそういう強引な方法じゃなくて―――」
「バーカ。お前の言ってる『やりたいようにやる』ってのはこういう事なんだよ。欲を叶える力を手にする、力ってのは単に力量だけじゃないぜ? 金だって立派な力、権力だって力、そう言ったもの全てを持った物が『世界最強』なのさ!」
スケールの大きすぎる話だがよく考えればそうかもしれない。
金があれば学園の費用を稼ごうと仕事なんてしなくてもよかった。
権力があれば学園の嫌がらせや、グレイによる事件だって起きなかったかもしれない。
力があれば金と名声、その二つも手に入れエリナの隣にだって立てる。
「へぇ、いい顔をするじゃねぇかススム。男の顔してるぜ」
「なれますかね……俺に」
「方法もあって、そのための道具と人材もいる。あとはお前の心意気だけだ! 男だったらなってみせろ、世界最強に!!」
実際に世界最強になれるかなんてわからない。でもやりたい事をやれるてのはとても面白そうだ。
「望むところです!」
正直手直しをするつもりです。なので少々内容が変わるかも……?
ほい、アークの登場です。彼の日本人としての本名はおいおいに。ここまでがススムの成長期です。次回はエリナとリナリーの話しを挟んでから『青年期』のスタートです。




