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2 出会い

 途切れ途切れの意識の中、うっすらと人の声が聞こえてくる。


 「あとはあたしが……だか……お帰りに」

 「……う、うん」


 女性の声だ。でもそれを確認しようにも意識が続かない。


 ああ、ダメだ。また意識が……遠く……。


           〇


 それから幾らか時間が経ったころ、ようやく意識が繋がり目を開けることができた。横になりながら右足、左足と体が正常に動いていくのが確認できた。腕も指も動く、あのスピードの車に轢かれて五体満足、意識もしっかりあり目も開く。


 「今日は……何日だ」


 声の確認と共に体をベットから起こす。それにしてもこの布団は重いな。病院の布団はこんなにも力がいるのか。

 すると俺の返って来るはずのない独り言に返事が飛んできた。


 「今日は春の5回目の火の日さ」


 声の方へ顔を向けるとそこには扉を開けて部屋に入ってきた一人のお婆さんがいる。よく見るとナースの服装でもなければ医者の装いでもない。ただのお年を召した女性がこっちに歩み寄る。それにこの部屋も木造で作られていて、土壁のボロボロさにはけが人がいるにはあまり良くない環境に見える。


 つまりここは病院じゃない。


 「あの……あなたは? それにここはどこなんですか?」

 「誰だって質問はあたしがしたいんだがね。まぁいいさ、あたしはマーサ。タタカ村のマーサさ。ここはタタカ村。あんたが倒れているのが見つかってうちに運ばれたのさ」


 マーサ、その名前とその見た目から日本人ではないとわかる。それにしても随分と日本語が上手い。


 「僕は我童 ススム。ススムと呼んでください。マーサさん、倒れていたところを助けていただきありがとうございます」


 何がどうなっているのかわからないが、どうやら俺はこのマーサさんのおかげでここに居るみたいだからとりあえずお礼を言っておこう。


 「なあに気にしなくていいよ」


 そう言うとベットの横にあった椅子にゆっくりと腰をかける。


 「それにしてもその歳にしては丁寧な言葉だね。もしかして貴族様の子供なのかい? 」


  何を言っているのだろうか。


  高校生にもなれば敬語ぐらい使えるしましてや貴族とか意味不明だ。


 「あんた4歳くらいだろう?いったいどこの者なんだい? 」

 「4歳⁉︎ 」


 そう言われて自分の姿を確認する。


 小さい、全部小さい。


 体が全身小さくなっている!


 慌てて立ち上がり近くにあった手鏡で確認するとそこには本当に4歳児程に見える少年が映っている。しかも髪は黒髪だが俺の幼少期の姿とは違いハーフのような造形をしていた。


 「何が、どうなっているんだ……」


                   〇


 そのあと混乱する俺をマーサさんがベットに連れ戻し、いろいろと説明をしてくれた。どうやら俺はこのタタカ村近くにある川の岸にいたらしい。息はしていたが三日間眠り続けていたらしくマーサさんも心配していたそうだ。川の上流は複雑になっていて国境を超えているらしく俺がどこから流れて来たのかわからないみたいで身元の確認は困難と言われた。


 そんなマーサさんの話を聞いていて俺は一つの可能性を思い出す。死んだかもしれない事故、小さくなり別人の体、まさかとは思うが……。


 「もしかしてマーサさん、魔法ってあったりします?」

 「当たり前じゃないかい、そんな事も忘れちまったのかい……」


 やっぱり、これは異世界転生なんだ。


 いや、何を馬鹿な事を考えている。でも体が別人、そして子供になっている事が説明できない。


 それに高校の友達に貸してもらった小説に展開が似ている。若返った肉体、知らない地名や国、そして魔法の存在。俺は異世界で第2の生を始めたらしい。


 だがまだ油断はできない。テンプレの異世界転生のままとは限らないからな・・・ゆっくりと情報を集めていこう。


 それにマーサさんは俺が記憶をなくしていると思っているだろう。騙すのは心苦しいが円滑に話を進めるために俺は記憶喪失という話にしておこう。


  「こんにちは~! 」


 しばらくマーサさんと現状の確認をしていた時、明るく幼げな声が奥の方から聞こえて来た。その声と共にとたとたと木の床を踏み歩く音が聞こえてくる。


  「ススム、あんたを川で見つけてくれた子が来たよ」


 そうマーサさんが教えてくれる。


 先ほどマーサさんが入ってきた扉が開かれるとそこに赤茶色の髪をした女の子が立っていた。その子はとても可愛いらしい顔をしている。そんな子が俺が起きていたのが嬉しかったのか目が合うと満面の笑みを浮かべて駆け寄って来た。


 「よかったー! おきたんだ! ずーっとしんぱいしてたんだよ?」


 そう言って俺の手を握った彼女は嬉しそうに手を握ってくれる。


 「あたしエリナっていうの! くろかみくんきみのおなまえおしえて⁉︎ 」


 自らをエリナと呼ぶ少女は興味深々で顔を近づけてくる。ち、近い……。


  それにしても黒髪くんとは俺の事だろうか、黒髪が珍しいからそう名前をつけたのか?


 「えっと、おれ……僕はススムって言うんだ」


 咄嗟に子供らしい言葉に切り替える。


 「ススムくんね! ススムくん! ススムくん! 」


 よっぽど名前が知りたかったのか無邪気に俺の名前を呼び続ける。そんな様子をマーサさんは微笑ましく見守る。マーサさん……そろそろ止めてくれ。


 「あたしねおともだちがほしかったんだ!ススムくん4歳でしょ⁉︎あたしもなんだ!よろしくね!」


  元気いっぱいにそう話しかけるエリナにつられてしまう。


 「よ、よろしく」


  それがススムとエリナとの出会いだった。この出会いが後にススムの人生を大きく変化させてしまうとは、今は誰も気がつかない。

なるべく間が開かないように更新していきたいと思ってます。

感想など良ければよろしくお願いします。

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